薩摩の子   作:キチガイの人

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 シリアス回です。
 書いてて私も心が壊れそうです。続きは早急に書きます。



『──もしテメェが星野を拒絶する、または別の女を愛する……そんなことになれば、今度こそ星野の心は壊れるぞ。修復不可能なレベルになァ』


019.心壊

 学校生活は新鮮なことばかりだ。

 ドラマなどで高校生役を演じたことはあれど、このように高校生活をするとは、生前の私には想像もつかないと思う。

 ただ、決められた台詞で演じるドラマとは違い、実際の高校生活はアドリブの毎日だ。テストとは違い、何が正解で、何が誤りなのか、誰も彼もが知らないのだ。

 

 

「──そうなんだ。それは知らなかったなぁ」

 

 

 それでも今日も私は嘘で人と接する。

 相手が望む回答を導き出し、かつ自分のキャラが崩れないように、相手にとって都合の良い人を演じる。そうすれば、私も相手も傷つくことはない。

 私はそれを日常的に、呼吸するように行う。生前何度もやった手法だ。年季が違う。

 

 私は嘘でしか人と接することができない。

 そんな生き方しか知らない。

 自分の子供にすら、最後の最後でしか本当のことを言えなかった女だ。

 

 それでも

 

 

『あなたは優しい人ですね。自分が傷つかないように嘘をつく方は多いですが、他人が傷つかないように噓をつく人間は少ないものです。苦労が多い人生(生前)だったでしょう。本当に、お疲れ様です』

 

 

 胡散臭い少年は労い、

 

 

『オレは噓ってのが大っ嫌いだ。単純に利己的に嘘つく奴も嫌いだが、本当に辛い時も嘘つく奴が居るのも事実だァ。……どうしようもねェとき、嘘つくンじゃねェぞ。テメェの言葉程度でオレは傷つかねェ』

 

 

 乱暴な少年は吐き捨て、

 

 

『嘘をつき続けるのって大変じゃない? 人生長いんだから、虚飾で舗装してもガタが来ちゃうんじゃない? 僕らの前では仮面を取りなよ。大丈夫、君が思っているほど、素顔を見せるのはそう怖いものじゃないのさ』

 

 

 のほほんとした少年は道を示した。

 

 オーカも言葉には出さないが、困ったように目を細めて笑うのだった。そして嘘を指摘することはない。嘘をつく私も『星野アイ』であり、そのすべてを許容するといった最愛の人だ。

 私の嘘なんかじゃ、彼という柱は揺るがない。

 

 そんな私も、最近は嘘の方向性が変わった。

 生前は全てひっくるめて『()』を皆に伝えたが、これを今すると本当に大変なことになる。どう大変なことになるかというと、『○○斬り』のカウントが嘘のように増えていくのだ。

 アイドル時代はファンレターで綴られた内容を、今世では面と向かって言われる。気持ちは嬉しいのだが、これをされると非常に困る。

 

 

『──隣のクラスの島津君って良くない?』

 

『今度ご飯誘ってみる?』

 

『彼女居るんだっけ? 今度聞いてみようかなー』

 

 

 これだ。()()()()()()()()()()()()()()

 本人は全くと言っていいほど気づいていないけど、私も高校生になって初めて、自分の最愛の人が想像以上に高嶺の花なのかに気づかされた。

 名家の島津家の有力者であり、綺麗で整った顔立ちに、細身ながらも筋肉質な肉体(確認済)、気だるげながらも鋭い眼光という、刺さる人には刺さる外見。成績も上の下と比較的高水準で、運動神経は学年でもトップクラスに位置する。社交的とは言わずとも、友好関係のある人にはとても優しく、とっても頼りになる高校生1年生。

 

 もう他人の告白を聞いている暇はないのだ。

 うかうかしていると誰かに取られちゃう。

 

 何とか最近は私とオーカで一緒に居る時間を無理やり作ってはみたが、それでも私と彼は恋人関係ではない。その予定ではあるけれども、確定事項だと安心できない。

 だから今日も今日とて、昼休み時間の短い時間でも、隣のクラスに突撃していく。

 

 

「……あれ? オー……島津君は?」

 

「彼なら先輩に呼ばれて旧校舎の方に行ったよ」

 

「先輩?」

 

「うん。物凄い美人さんだった」

 

 

 近くの女子生徒からの情報提供で彼の居場所は推測できたが、同時に不穏なワードが生まれた。美人さんということは……女の子なのかな?

 私はオーカと別の異性が話をしているところをあまり見たことがないので、誰のことなのか予想がつかない。それも先輩というのだから高学年の人なのだろう。ますます知らない。

 

 私は教室前の廊下を歩き、近くの旧校舎への渡り廊下へと入ろうとする。

 そこで、私はオーカと誰かが会話しているのが聞こえた。

 ……もしかして、私は詳しくないけどアルバイト関連なのかな。それだと邪魔しちゃ悪

 

 

 

 

 

『──いいじゃない。()()でしょ、私』

 

 

 

 

 

 いいな……ず……け……?

 その言葉を聞いた瞬間、私が認識する音が急に遠くなった。

 

 その言葉を一瞬脳が理解することを拒み、それでも脳は勝手に言葉を理解してしまい。視界が急にぼやけ始め、肺が酸素を取り入れる方法を忘れてしまう。先ほどから、手の震えが止まらず、もう片方の手で包み込んでも、その手すら震えているのだから止まることはない。

 今私が立っているのは、最後の砦でもある。自分の聞いた言葉が間違いであった可能性、私の誤認であった可能性に縋って、必死に足の筋肉で踏ん張っている状況だ。

 

 オーカから許嫁がいるって聞いたことがない。

 だから、いない。()()()()()()()

 

 そうだ、どうせ近くにオーカが近くに居るのだから、き、聞いてみよう。あの私の大好きな笑顔で「んなのが居るなら苦労しないわ」と、私をたしなめてくれるはずなのだ。

 私のいる場所は死角であり、話している二人の姿は見えない。

 

 そう、ここから渡り廊下に出て行けば。

 きっと私の聞き間違いが

 

 

 

 

 

 

 

 証明

 

 

 

 

 

 さ

 

 れ

 

 

 

 

 る。

 

 

 

 

 そこには、オーカを愛おしそうに抱きしめる女の子が居た。

 

 

 

 あ

 

 

 

 ああああ

 

 

 

 

 ああああああ  ああ

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

 

 

「──は? あ、アイ!? てめ、知ってて」

 

「あら? 今逢瀬の最中なの。邪魔しないでくれるかしら?」

 

 

 いや……いや、だ。

 

 

「──あははっ、ごめんね、オーカ。許嫁さんとのラブラブタイムを邪魔しちゃって」

 

「い、許嫁? お前何を言って──」

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

 

 

「……あー、そろそろ次の授業が始まっちゃうなぁ。オーカと許嫁さんは、まだまだお楽しみを続ける感じかな?」

 

「えぇ、そうよ。先生には、彼が授業に遅れると伝えてくれないかしら?」

 

「分かりました、先輩」

 

 

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

 

 

「じゃあね、オーカ。また……後……」

 

「お、おい! 待て、誤解だって──クソっ、離せっ」

 

 

 私は走る。

 走って。

 走って。

 走って。

 走って。

 

 屋上の、

 

 フェンスに

 

 背を預けて

 

 

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

「お゛ぉがぁっ、お゛ぉがぁっ……なんでっ!? どうじでぇっ!?」

 

「いやだよぉ……わだじ……お゛ぉがぁ、じゃないと……いやだよぉ……!」

 

「どらない゛でぇ……わだじ、がらぁ! お゛ぉがぁ、を、どらない゛でぇ、よおおおお……」

 

「うぞづがないがらぁっ、もう、うぞづがないがらぁっ! お゛ぉがぁのいうごど、な゛んでも、ぎぐがらぁ! ぞばに、ずっど、ぞばに、いでよぉ!」

 

「ずでない゛でぇっ! ずでない゛でぇ……!」

 

「ずでない゛でぇっ! ずでない゛でぇ!」

 

「ずで……な……い゛で……」

 

 

 私の中で

 

 

 何かが

 

 

 

 壊れ

 

 

 

 

 た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ、追いかけなくてもいいの?』

 

『……クソがぁっ! 言われなくてもなぁ!』

 

 

 

 




【島津 桜華】
 今作の主人公。とりあえず誤解を解くことを最優先で後を追う。あとクソアマは絶対ぶっ殺す。
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