薩摩の子   作:キチガイの人

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 後日談回です。
 前話は感想荒れましたね。全部正論でしたが。
 ここまでが考えていた範囲です。次回からほのぼのしますかね。


 あと世界観の設定をば。早めに紹介しとけばよかったんですが、とりあえず5話前書きにも同じ文面を追加しておきます。

 世界観は現代日本。名家の大名家らしきものが自分の勢力圏を主張はしているが、あくまでもヤクザのシマ的な話なので、ちゃんと廃藩置県は達成している。自分たちの活動圏内を主張するための目安。なので名家の当主といっても、絶対的な権力を持っているわけではなく、あくまでも勢力圏のリーダー的立位置。忠誠心は各勢力によって異なる。
 ただ地方それぞれで影響力というものは持っており、殺人を揉み消す(または隠蔽)のようなことを行っている。しかし、そう簡単にはできないので、そうホイホイ人は殺せない。殺人は基本犯罪です。この世界の警察無能なので、自警団的なこともやってる。もちろん非合法である。


021.一番星を舐めるな

「……最近、起きたら口元デロッデロになってることが多々あるんだけど」

 

『『『………』』』

 

「多分、俺の唇をDNA鑑定したら別人のも出てくると思うんだけど」

 

『『『………』』』

 

「……アイが、内外問わず、俺から離れないんだけど。授業以外」

 

『『『………』』』

 

「どうすればいいですか……?」

 

『……指輪のサイズはちゃンと測ったかァ?』

 

「……そうですか(諦観)」

 

 

 いつものオンライン会議だが、今回に関しては空気が尋常じゃないくらいに重かった。咸は眉間に皺を寄せて沈黙し、兼定はため息をつきながら諦め、未来は何とも言い難い表情で遠くを眺める。

 

 アイとのキスの件から数日が経過したが、劇的に何かが変わったわけではなかった。俺と彼女の関係もいつも通りであり、あとは彼女の誕生日に俺が召し上がられる(意味深)だけである。

 しかし、何も変わらなかったか?と言えば、全然そうじゃない。

 

 まず、寝ている間に俺の唇が奪われるようになった。一度寝たふりをしてみたが、アイが寝静まっている間に貪っていることが発覚した。しかも、ほぼ毎日。

 次に、アイの依存度が上がった。学校では授業間の小休憩ですら教室に来てはベッタリであり、通学中も自宅でも俺の手を可能な限り握り続ける始末。俺との接触がない時はどうなるのか? 今の俺のLINEのように通知が止まらなくなるのだ。時報かな?

 最後に、俺の異性との接触が限りなく減った。前回のアレを見れば、もはや俺の方から自重するしかないだろう。

 

 

『……どう思いますか? 元凶の家族の未来君?』

 

『………………僕から謝罪以外の言葉が聞きたいと?』

 

 

 そうなるよなぁ。

 そんな感想しか出ないわなぁ。

 

 

『今回の件も、家正様もかなりお怒りでしたからね』

 

「は? 俺は当主殿に言ってないぞ」

 

『僕が報告した。身内の恥だけど、さすがにアレは度が過ぎている』

 

 

 ただ未来の表情は暗い。

 当主殿に報告はしたが、彼の満足いく結果は得られなかったようだ。

 

 

『まぁ、本来は当主殿に言うことでもないもンなァ。元許嫁が相手に抱き着いた。分家の養子がそれに錯乱した。結果、治まった。……傍から見ると痴話喧嘩のそれってだけで、当事者間で片付ける問題だろうってハナシだ』

 

「そこなんだよなぁ。マジでアイツ、『俺に抱き着いた』以外のことをやってねぇんだよ」

 

 

 当主が気にかけている、彼女が転生者である、過去のトラウマがある。以上のことは、島津勢力内でも、そんなに知れ渡っていることではない。むしろ気軽に公言していいものでもない。

 そうなると、今回の件は客観視すれば『男女間のトラブル』であり、そんなプライベートなことまで罰則を適用する程、宗家に権限などない。これが他勢力圏とのトラブルであれば違ってくるが、今回は完全に個人間の話だもんなぁ。

 何度も言っているが、島津はそこまで万能じゃない。

 

 

『えぇ、なので当主殿からは厳重注意をした、とだけ』

 

「うっわ、めっちゃ怒ってるやん」

 

 

 当主殿も個人的に協力するとアイに言ってたらしいが、処罰云々は島津の話になってくるので、それ以上何も手出しができなかったのだろう。個人の好き嫌いで勢力運営などできるはずもないからな。

 そんな彼が、あの温厚な彼が、厳重注意と言っているのだから、内心とても業腹なのだろうが。

 

 

『完全に島津舐められてるじゃねェか』

 

「何を今さら。あの女は『薩摩の地』の為に行動は起こすが、『島津』の為に動くような奴じゃない。忠誠心なんざハナから求めてないわ」

 

『僕らも一枚岩じゃないからねぇ。大隅……はまだ安定しているとしても、日向あたりはサイレントマジョリティーの代表格だもんね』

 

 

 サイレントマジョリティーとは物言わぬ群衆という意味である。

 積極的な発言はせず、多数に味方をする。ようするに、ぶりぶりざえもんだな。島津の勢力圏での防衛には参加するが、それ以外のことには非常に消極的なのである。

 

 

『……まァ、いい。あの女はいつか殺す。それでいいじゃねェか』

 

「………」

 

『おい、桜華。テメェまさか日和ってンじゃねェだろうなァ?』

 

『そういえば星野さんの姿が見当たりませんが、今日はどうされたんですか?』

 

 

 兼定の宣言に俺は同調することができなかった。

 確かに今回の件は許すことはできない。個人的にはめっちゃ殺したい。いやホントマジで、ここで泣き寝入りってのは島津として沽券に関わる。

 

 しかし、俺にはそれが容易に決行できない理由がある。

 それが咸の質問につながるのだ。

 

 

「……アイツは()()と買い物だ」

 

『アイちゃんに友達いたんだ。前まで仲のいい友達は居ないって話じゃなかった? 同じクラスの子と仲良くやれててよかったよ』

 

 

 

 

 

「……その、友達がっ! てめぇん姉貴なんだよぉ!」

 

『『『……はぁっっっ!?』』』

 

 

 

 

 

 俺の知らないところでアイと撫子が友達になってた。

 最初聞いたときは俺も何言ってんのか、まったくもって理解ができなかった。日ノ本の言葉をしゃべってほしいと思った。

 

 

『僕が言うのもアレだけど、あれ一番友達にしちゃいけないタイプの人間だよ!? 人間失格の代表格だけど!? え、ちょっと待って、混乱してきた。え? へぇっ!? じゃあ、あの人格破綻者は珍しく暗そうな顔で外出て行ったのってソレ!?』

 

『オマエちゃんと今回の元凶があの女って説明したンだろうなァ!?』

 

「したよ! めっちゃしたよ! でもアイん中じゃ『俺と絶対恋仲にならない、俺の幼少期を知っている、貴重な同世代の女の子』って認識なんだよ。俺も今この言葉口にして訳が分からないんだよ!?」

 

 

 今回の件。最大の被害者である彼女の視点から言うと、勝手に勘違いして暴走しちゃって俺に迷惑をかけたという認識らしい。いやいや、全部あの女が悪いんだよと再三口にはしたが、あのくらいの悪意ぐらいなら生前でもあったし……と言われた。芸能界どんだけ闇深いんだよ。

 

 そして俺の言った『幼少期を知る人物』。

 同世代の視点から聞きたかったとのことで、あろうことかアイの方から撫子に接近したそうだ。血繋がってないのに星野母並みの行動力である。

 今回入手した駒がわざわざ手元に来たのだ。最初は撫子もどう利用してやろうかと、策をめぐらせていたらしい。本当は。

 

 

 

 

『──桜華、助けなさい』

 

「いきなり電話してくんな殺すぞ」

 

『……助けて下さい』

 

「……敬語使うなよ気持ち悪いな」

 

『今、星野アイさんとお話してるのよ』

 

「はぁっ!? てめぇ、アイに手出したら承知しな──」

 

『しないわよ! 手出さないわよ! だから! 早く彼女を迎えに来なさい! もう貴方との惚気話で糖尿病になりそうなの! そろそろ口から砂糖が出るわ! うっ、気持ち悪くなってきた……』

 

「……は? え? 今どういう状況なの?」

 

『えぇ、今回の件は私が全面的に悪かったわ。認めるわ。馬鹿ップルに安易に手を出した私が悪かったわ……!』

 

 

 

 

 あの子絶対おかしいわよ!?と、今度は撫子が錯乱していた。

 個人的には自業自得だろと吐き捨てたくなったが、俺は薩摩の人格破綻者に精神攻撃を敢行している元人気アイドルという状況に、電話切った後も宇宙猫になってた。

 ……そうだよな、生前の殺人犯すらファンとして接した女だもんな。撫子は島津と星野アイを舐めていたが、俺たちは星野アイというメンタルお化けを舐めていたらしい。でも何度考えても、どうしてこうなったのか分からないんよ。

 

 じゃあ撫子がアイを拒めばいいと思うじゃん?

 俺も初めて知ったんだが、アイツ悪意に完全耐性はあるが、善意に対しては紙装甲ということが発覚した。しかも同世代の女の子から、なぜか無条件で慕ってくるのだ。どう接すれば良いのか分からず、渋々友達関係を続けているらしい。

 悪意への対処方法って、悪意を返す以外の方法もあるんだなと学んだ。

 

 

『……桜華、さっきからLINE通知が私のところにも聞こえてくるんですが、星野さんは無事なんですか?』

 

「あぁ、これ? アイの『今何してるの?』の時報通知と、撫子の惚気話SOS通知」

 

『オレ等の怒りはどこにぶつければいいンだよ』

 

『あの人格破綻者も血の通った人間だったんだね……えぇ……』

 

 

 だからアイの件しかココで相談してないじゃん。本当に始末するつもりなら、最初から話題に出してるんだよ。友達と○○したんだーって、アイに元気が戻りつつあるんだぞ。いくら元凶だろうが、こうなると私怨で殺れるか。

 ちゃんと裏で護衛(当主から派遣)もついているから、撫子も闇討ちはしないだろうけど。

 

 そこで、咸は気づいた。

 気づいてしまった。

 

 

『……ん? 今回の件はアイさんが危機的状況になりましたが』

 

「うん」

 

『最終的にマイナスを受けたのは桜華だけでは?』

 

「お気づきになりましたか」

 

 

 咸は額に手を当てて首を振り、兼定は突っ伏し、未来は頭を抱え。

 俺と──遠くにいる撫子は大きくため息をつくのだった。

 

 

 

 




【島津 桜華】
 今作の主人公。前回の件からヒロインからの束縛が激しくなった。

【星野 アイ】
 今作のヒロイン。転生者。主人公関連以外のメンタルが鬼並。無自覚に相手を魅了し、悪意を持つ者でも例外ではない。無自覚にアイドルやってる。今回の件で友達兼軍師を得る。

【種子島 撫子】
 種子島家の長女。人格破綻者。自身の策に溺れパンドラボックスを開く。とりあえず主人公のことが嫌いだが、惚気話を聞くたびにSOSを送る。でも無視される。逆恨みとしてアイの誕生日より前に主人公とアイをくっつけようと画策する。それすると惚気話が増えることに気づいていない。
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