薩摩の子 作:キチガイの人
やっと、やっとこの話が出せました。
必要なピースを揃えることができました。
次回から元人気アイドルの挑戦が始まります。
「──えへへ、ナデコちゃんありがとう」
『撫子よ。まったく……』
オーカが友達と電話をするとき、今私が居るベランダで話をする。
それを真似て、夜も更けた時間帯に、私は友達のナデコちゃんと話をしていた。こうやって2度目の人生で友達と夜遅い時間に電話をするのは初めてだ。
内心ワクワクしていた。
「それに、あと少しで私とオーカは恋人になるんだぁ。楽しみだなぁ。恋人になったら、もっと私を愛してくれるのかなぁ?」
『今のままじゃ無理じゃないかしら』
「……やっぱりそうかな? オーカも恋愛が分からないって言ってたし、私もオーカより分かっているとは言えないけど、やっぱり難しいよね」
私の言葉に、すぐに返答は返ってこなかった。
何かを考えている様子で、少し時間が経ってから、ナデコちゃんの言葉が返される。
『……まぁ、貴女なら別にいっか。アイさん、どうしたら桜華が恋愛を知ることができるか、アドバイスをしてあげる。その代わり、私の
「あ、女同士の秘密ってやつだね。いいよ!」
少し待って頂戴、と電話の奥からガサゴソ音がする。
そして電子音が数回鳴って、ナデコちゃんは戻ってきた。
『気にしないで、ただの防諜対策よ』
「おぉ、本格的」
『アドバイスを一つあげる前に2つ質問するわ』
「どーんと来いっ」
彼女は上品に笑いながら、私に問いかける。
『生前、アイドルだった貴女への質問よ。アイドルとアイドルの間に生まれた子は、アイドルじゃないといけないと思う?』
「……難しい質問だね。どーだろ? 素質とか、あと本人の希望とかもあるだろうし、結局は本人次第じゃないかなぁ」
無理矢理アイドルにしてもね、と私は答えた。
そう、と彼女は頷いた。
『2つ目は、それと似たような質問よ』
「1つ目から難しい質問だったけど……」
ナデコちゃんは質問を口にした。
これが本命と言わんばかりに。
『島津と島津の間に生まれた子が──必ずしも島津たり得ると思う?』
彼女が誰のことを差して言っているのか、どうして私が答えやすい1つ目の質問をしたのか、流石の私でも理解することができた。
そうやって彼女が答えやすく質問してくれたのに、私は思わず心の内とは違う回答を述べた。
「……わ、分からないよ」
『その答えは悪くないわ。明言したくないわよね』
ナデコちゃんは私の答えを肯定してくれた。
『さて、アドバイスの話だったわね。今の桜華が『恋愛』を理解できない理由、よね? そんなの簡単よ。あの天性の嘘吐きが、自分の本質も理解できないのに、他人への恋愛感情なんて自覚できるはずがないわ』
「天性の噓吐き……って、どういうこと?」
『彼は貴女と同じ、噓つきってコト。そして、彼の方が
オーカが嘘つき。
その言葉に、私は自分自身の身体が震えるのを感じた。
思わずその場に蹲ってしまう。
「で、でも。オーカは、わ、私を守るって。愛してくれるって。そ、それが、噓……?」
『……あー、心配しないで。それはおそらく本心よ。彼の親愛の情は本物。裏を返せば、それしか本物がないくらいに。だから余計にややこしいのよ』
彼女の言葉に、私は落ち着きを取り戻した。
それを電話の奥でも理解したのか、彼女は話を再開する。
『単刀直入に言うわ。
島津に求められる武力と知識はセンスがカバーし、死生観や在り方を嘘で誤魔化す。
本来ならば肌に合わないはずの在り方を押し付けられ、自身もそうであれという洗脳に近い強迫観念によって、周囲の期待に応えられる島津家の人間という少年が誕生してしまったのだと、ナデコちゃんは吐き捨てるように語った。
不愉快だというように。
『貴女が前に言ってたでしょ? 嘘でも愛してると言えば、そのうち本当になるかもしれないって』
「……あ」
『それと同じよ。この狂った薩摩の地で、15年間自分を島津であれと騙し続け、本当の自分を殺して島津として在り続けた。嘘を本物にした稀有な存在。彼は私のことを人格破綻者と呼ぶけれど、彼も十分化け物よね』
私も、貴女も、そして桜華も。みんな狂ってるわ。
ナデコちゃんはそう嗤った。
『そして本当なら、これからも島津で在り続けられた。──貴女が現れたせいで、本来彼に必要のない『恋愛』というものを自覚する必要があったから』
「わ、私のせいで、オーカが……?」
『私としてはそっちの方がいいと思うけれど。私が許嫁だったころは、別に愛を自覚しなくてもよかった。私もそれはそれでよかったし。けれども、星野アイという少女を本気で愛するのであれば、島津という仮面を外す必要がある』
最近、薩摩の者が彼を女々しい、島津に相応しくないと言う。当り前よ、そもそもが彼は島津の素質がないのだから。彼女はそうため息をついた。
まぁ、私も最近知ったのだけれどね、と付け加えて。
『私も貴女と出会う前──嗤いながら敵の首を無慈悲に切り落とす、ザ・島津な彼しか知らなかったからだけど。本来の彼は今のように、とても不器用で優しい性格なのでしょう。無意識に、本気で貴女を愛するのであれば、自身でも理解ができていない
「オーカ……」
私は今までずっとオーカに依存してきた。
オーカもそれに応えてくれていた。
……恋愛を自覚できない彼の裏を一切理解せずに。
『このままじゃ彼は恋愛を自覚できない。……貴女はどうしたい? このまま一緒に嘘をつき続ける? それとも──本当の愛を一緒に探したい?』
「……探したい」
『それじゃあ頑張りなさい。応援はしてあげる』
「ありがとう。……ところで、ナデコちゃんの望みって何なの?」
私はオーカと一緒に恋愛がしたい。
それと、彼女の望みと何が関係あるのだろう。
『私の望み? 私はね、今の薩摩を変えたいの』
「それと私とオーカの恋愛に、なんの関係があるの?」
『正確には、貴女が桜華の仮面を取り払って、本来の彼に戻してほしいってことね。私はそれに期待しているし、本来の彼という『駒』が欲しいの』
ナデコちゃんは上品に、残酷に嗤った。
『どれだけ強力なシステムであろうと、アップデートしなければ時代の流れに取り残されてしまう。今の蛮族が蛮族している薩摩は、既に時代の変化によって、その在り方を維持できないまでに歪んでいる。首級って何よ。時代錯誤も甚だしいわ』
それでも九州の一勢力として存続できる程の力だけはある。だから今まで変わらずとも良かった。島津ってのは本当に厄介な存在よね、と彼女は鼻を鳴らした。
『それは島津の上層部でも重々理解しているはずよ。だから先代島津家当主が隠居され、今の家正様が内部改革を進めている。それでも彼の当主としての在り方に『島津らしくない』と反発する者は少なからず居るのだけれど』
「家ちゃん、そんなに大変なんだ……」
『い、家ちゃん? ……とりあえず、私としてはその『島津らしくない桜華』が欲しいのよ。家正様だけじゃ足りない、かの
まぁ、そんな難しいことを考えるのは私だけで充分よ。
貴女は貴女の望みをかなえなさい、とナデコちゃんは激励する。
「ありがとう、私も頑張ってみるよ。オーカのことは、私に任せて」
『その意気よ』
「うん! ……ところで、ナデコちゃん」
『どうしたの?』
「オーカを本来の彼に戻すって……どうすればいいの?」
『……さ、さぁ?』
私とナデコちゃんの作戦会議は続く。
【島津 桜華】
今作の主人公。原作アクアのように『○○はこうあるべき』を無意識に行っていたことが発覚。本来島津に必要のないと思っていた『恋愛感情』を知るためにメッキが剝がれている。ちなみに親父殿は彼の異常性を知っていたが、島津の為に指摘はしない。ただ本来の彼に戻ることも、それはそれでいいと思っている。
【星野 アイ】
今作のヒロイン。転生者。主人公の異常性を指摘される。イチャイチャラブラブ生活の為に、彼のメッキを剥がすために尽力する。
【種子島 撫子】
種子島家の長女。人格破綻者。蛮族思考が横行する今の薩摩では、そのうち内部から崩壊するだろうと見越して、内部改革のために策を巡らす。しかし、その蛮族思考が他への抑止力にもなっているのは事実なので、そこをどう解決するか苦悩中。