薩摩の子 作:キチガイの人
本作もかなり複雑化してきましたので、ここで一応状況の整理をします。とは言っても情勢などの難しいことなど、この二人のイチャイチャにはあまり関係ないので、主要人物の行動方針を今回のあとがきでザックリ解説を行います。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい」
「これはさすがに……誤魔化せませんよねぇ」
例のアルバイト帰り。
俺は咸所有の外車で自宅を目指していた。
しかし、心の中は『今日だけはめっちゃ家に帰りたくない』と『今回の件をどう同居人に誤魔化すか』を必死になって考えていた。しかし、どうあがいても解決策が見いだせず、刻一刻と自宅への距離が狭まるのみ。
最後には上二つの他に『どう弁明するか』を追加されている。
俺に心の余裕はなかった。
なので思わず後悔のみが口から念仏のように吐き出される。
「どないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよ」
「どうすることもできないかと」
助手席ではなく、珍しく俺の隣──後部座席に座る咸の視線は、俺の腹部に注がれていた。
どす黒い黒で染められた部分だ。服の色が明るめの色だったため、その黒いシミは余計に目立ってしまうだろう。もはや言い訳の余地はないと言わんばかりに。
今回は相手が一枚上手だったと言っておこう。
応急処置は既に終わり、あとは安静にするように言われている。
『あの、すみません』
『桜華様、どうされましたか?』
『この傷の部分、この際痛みとかどうでもいいので、瞬時にふさがりませんかね?』
『それは無理があろうかと思われます』
しかし、我が家には腹部への刃物の刺殺が死因の元人気アイドルの少女が同棲しているのである。
そして、俺の今の腹部はどうあがいても刺された跡がある。
詰んだわコレ。
なんてことだ、もう助からないゾ。
「……この時間、しまむらとかユニクロとか閉まってるよな? 咸、もうこの際お前の服でいいから貸してくれない?」
「別に貸すのは構いませんが、あなたへの治療の関係で今日は遅い時間です。彼女も察しがよい方です。既にあなたに何かあったのは確信していると思いますし、むしろ隠していたことがバレるほうが、後が大変になるかと」
「そう、だよなぁ……」
大人しくお叱りを受けるしかないか。
怒られるならまだマシだ。泣かれるのが一番マズい。
「土下座、するしかないか」
「それで済めばいいですけどね……」
項垂れる俺は、留置所に向かう護送車に乗っている気分だった。
咸がスマホを弄っていることに気づかず、俺は脳内で土下座のシュミレーションを行うのだった。
♦♦♦
「………」
「………」
家に戻るなり、俺はソファーに座らされていた。
対面には腕を組み、足を組む同棲相手が、目を細めて俺を見つめる。
「………」
泣かれるのが一番マズいと口にはした。
しかし、今の彼女は完全に怒っていた。無言の威圧で俺の言い訳する時間すら貰えず、ただひたすら言葉を発することなく俺を見据えているのだ。
ソファーに座らせたのは、一応俺を慮ってのことだろう。この怒り具合は、本当なら地べたに正座させられても不思議じゃないくらいには、この少女は怒っていたのだった。
こんな彼女は初めて見た。
だからこそ、この後どうなるのか皆目見当もつかない。
「オーカ」
「はい」
「みっちゃんから聞いたよ。LINEで。オーカが仕事で腹部を刺されたって。血がたくさん出たって。手当して命には問題はないけど、それをどう私に誤魔化すのか考えてたって」
全部どころか裏側の話もバレてるじゃん。
密告者も身近に居たんだが。
「何か反論はある?」
「ありません」
「そう……ところで、お腹は痛い?」
「全然全く大丈夫です」
「………」
「動くと痛いですが安静にしている場合は支障はほとんどありません。動作に関しても、歩くだけなら若干痛いな程度で済むと思います。治療した者曰く、数週間程度で完治するとのことでした。膿む可能性もあるので消毒は忘れずに、とのことで。はい」
俺とアイの間にある机に婚姻届が置かれたので、俺は早口で自身の症状を事細かに報告した。これ彼女の名前がすでに記載済なんですけど。
アイは顎に手を当てて思案する。腕を動かしたとき、ネックレスがしゃらりと綺麗な音を立てる。
「……通学の時は私が支えれば大丈夫かな? 寝てるときも私が抱きしめれば、傷の部分が擦れて痛いってことにはならないだろうし、消毒の方法とかもナデコちゃんに後で聞こう。私が全力でサポートするから心配しないでね。異論は?」
「そ、そこまでしなくても大丈夫だぞ? 腹刺されたことなんて一度や二度の話じゃないし」
「生で犯すよ」
「異論はありません」
これ口にしてないだけで、学校内でも離れないつもりだな?(名推理)
とうとう学校の教師陣から、俺とアイをまとめて『島津夫妻』と自然に言われたの忘れてないからな。しかも一教師が、じゃないぞ。学年主任からだ。
補足だが、ここまで噂されてもアイへの告白は止むことはなく、最近述べ150人斬りを達成したとのこと。告白した男子曰く、『NTRを目指したが、断られるのもこれはこれで良い』との事。業が深すぎないか?
「あとは……オーカ、汗かいてない?」
「え? まぁ、そりゃ仕事終わりだし、この怪我で風呂は入ってないが」
俺は口にしながら、終盤言葉が震えた。
彼女が何を言わんとするのか、自然と理解してしまったからだ。
「それじゃあ私がオーカの身体、洗ってあげるね。あ、私は服着たままだから安心して」
「安心できる要素がないんですが!? いや、いやいやいや。さすがに風呂くらいは自分で入るから! そこまでアイに迷惑かけら」
「今日、危険日なんだ」
「よろしくお願いいたします」
俺は即座に風呂へ入る準備を始めた。
♦♦♦
我が家の風呂はなぜか広い。
小温泉並……とまではいかないが、二人で暮らすには若干広めという意味だ。手すり等のバリアフリー完備なので、そういった入居者のターゲットもあったのかもしれない。
そして今回、それが生かされる場面となる。
今までは一人で入っていたので、広さを持て余していたのだ。
「オーカ、痒いところとかない?」
「………」
俺は返事をしない代わりに、右手でグッドサインを見せる。
良かったー、とアイは泡立った手で俺の髪を再度洗い始める。彼女の細い指が俺を頭皮を刺激し、妙に心地よい。加えて、物凄く恥ずかしい。
もちろん、負傷部位に当たらないように対策はしてある。
水流すよ、という言葉と共に、頭部の泡が洗い流される。
「次は身体だね……っ!?」
「……ん? どないした──」
顔の水滴を手で拭い、状況を確認すると、
いつも間にか正面に回り込んだアイが、俺の股間部位を凝視していた。
「「………」」
俺を刺した人間は、どうしてそのまま腹を掻っ捌かなかったのだろうか。
俺に苦しみを与えたいという意味なら、これ以上の精神攻撃は存在しないだろうな。俺は今、付き合ってもいない女性にタオル越しとはいえ股間をガン見されている。
「……えぇ、これ、へ? フルサイズじゃないの? ……うっわぁ、私、入るかなぁ……?」
殺してくれ。
俺、を、殺して、くれぇ……!
「……あの、アイさん」
「──ふぇっ!? あ、そ、そうだねっ!」
とりあえず居たたまれなくなったので、彼女身体の洗浄を促す。
我に返った少女は、無言で俺の体を洗う。心なしか視線はそのまま固定しているが。
この状況を説明したら、誰が信じてくれようか。
少なくとも、アイ本人が口にすれば、男子生徒の半数が廃人と化すだろう。既にディープキスの話をして十数名がいまだに再起不能になっているのに。
「……オーカ」
「何か問題でもあったか?」
「私、オーカが傷ついてほしくないよ。もう、危ないこと、してほしくないよ……」
彼女の悲痛な声に、俺はため息をつきながら答えるのだった。
「こればっかりはもう仕方ないわ。島津として、前線に出ないわけには」
「それは島津として、だよね? オーカ自身としてはどうなの? オーカは辛くないの?」
「……おれ、自身?」
「うん。オーカは、どうしたいの?」
「……俺……俺は……」
それ以降、彼女は無言で俺の身体を洗う。
彼女は背中側に回り、一生懸命洗っている状況。しかし、俺は先ほどの彼女の言葉が、なぜか脳裏から離れなかった。
現在の状況、行動方針の解説
【島津 桜華】
主人公。島津の生き方が性に合わないのに、島津を無意識に演じる異常者。情緒不安定なアイを考慮して、自身が恋愛を理解しないといけないと焦る。恋愛を自覚するには、自身の異常性を自覚しないといけない。「一個人として彼女を愛しているのか?」を理解する必要がある。
【星野 アイ】
ヒロイン。主人公に依存している少女。常時一緒にいないと不安になる。主人公と恋仲になることが最大の目標だが、主人公の異常性を自覚させないと、主人公が恋愛を自覚できないと知り、「島津としてではなく、個人としてどう思っているの?」を問う必要がある。
【3馬鹿、自称天才軍師】
上2人のサポートを惚気で糖尿病になる覚悟で行わないといけない。
【結論】
難しいことは考えずに、二人は既に相思相愛なので、さっさと「難しいことは考えず、一個人として相手を愛している」ことを自覚させないといけない。のに難しく考えている。