薩摩の子 作:キチガイの人
頑張って書いた話で低評価の嵐だったこともありますが、引き続き砂糖をバラ撒いて頑張ろうと思います。
失踪しようと思うより、とにかく6月灯回書きたいですし、プール開き回書きたいですし、サマーナイト花火大会回書きたいですし、紅葉回書きたいですし、体育大会回書きたいですし、文化祭回書きたいですし、定期考査回書きたいですし、クリスマス回書きたいですし、元旦回書きたいですし、バレンタインとホワイトデー回書きたいですし、以上の回を双子含めてもう一周書きたいですし。
……時間がもっと欲しいですね。
「えーと……ここだったかなぁ……あー、あったあった。おーい、こっちだぞー」
「オーカこの辺りって言ってたじゃん」
「悪い悪い。俺の記憶違いだったわ」
俺は〇〇家という墓の前に立ち、彼女が来るのを待った。元アイドルの美少女は、事前に買っていた花の束を抱えながら走ってくる。
その様子を横目に、俺は周囲を見渡して、近くの水場を確認する。思ったより近くにあったので、俺は癒えない腹部を摩りながら、内心ガッツポーズをした。
今俺たちがいるのは、県内の別の市にある墓地だ。ここには俺の母親の祖母の墓がある。俺も小さい頃に来たくらいで、墓石の場所すら覚えてなかったくらいだ。
彼女が到着したのを確認して、俺は墓石の状況を説明する。
「〇〇家の人間って、ウチの母親のばーちゃん……俺のひいばーちゃんだな、その人が最後だったから、血縁者もそんなに多くはないんよ。そのせいか、墓参りする人間も年々少なくなってな。ご覧のザマだ」
「確かに汚れているけど、花はちゃんと供えられてるんだね」
「そりゃ墓来るたびに花供えるのは当たり前だろ?」
「初めて知った……」
俺は彼女が驚く様子に、常識だろう?とため息をついた。
……後から調べてみたが、鹿児島は切花の消費量が日本一だった。どうやら他県は墓参りを頻繁にしないらしい。
花がない墓場など、あまりにも殺風景過ぎないだろうか? 大丈夫? 他の県の方々、ちゃんと供養できてる?
「というわけで墓石を掃除せにゃアカン」
「あそこの水場から掃除道具を持って来ればいいんだね?」
「ご名答。そんじゃ──」
俺は水場に向かおうとしたところ、ガシッと腕を掴まれた。そのままアイに連れられ、墓場の前にあるベンチに強制的に座らされた。
彼女は威圧的な微笑みを俺に見せる。
「お義母さんは、私に、掃除よろしくねって言ったんだよ? まだお腹痛いんだから、オーカはそこで指示お願いね?」
「そもそも俺の血族の墓なんだか──」
座っている以上、頭の位置がアイの方が高い。
俺の顔をガシッと掴んで、ノータイムで俺の唇にキスをした。瞬時に舌まで入れてくる職人技。
墓場という場所でキスをする男女。
しかも理由が理由だ。怒られないコレ?
「──ぷはっ。……そこで大人しくしててね?」
「……はい」
え?待って待って。
俺今女の子に「うるせー口だな」ってキスされた?
最近この娘強いんだけど。
キスのルール制定以降、やけに押しが強くなったんだけど。しかも、強い自分というものを演じているように見受けられるが、その演技が様になっているから、相対する俺が気圧される。
ドラマとかでも主演喰うレベルだったと、調べてた咸が言ってたな。そりゃ強いわ。
キスで黙らされた俺は、彼女の様子を眺める。
側から見ると掃除サボって、彼女に押し付けるクソ男にも見えなくもない。
「持って、来た、よ……っ!」
「無理すんなよ? そんぐらいなら待つから」
「大丈夫!」
水入りバケツと掃除用具を抱え、おぼつかない足取りで墓前へと到達する。昔は腹刺された程度唾つけときゃ治るの精神だったが、ここまで不便なことになるとは思いもしなかった。
今度からは腹だけは死守しよう。そこまで考えて、多分他の部位でも同じようなことになりそうなので、安全第一を目標に仕事に励もう。
安全どころか命も保証できないアットホームな職場だけど。
彼女はバケツの水を含ませたタワシで墓石をゴシゴシ磨いていく。このために私服は動きやすい長袖ジャージと、ハーフパンツの装備である。そう、言わずもがな俺の私服である。
ちなみにジャージの中は『天上天下唯我独尊』のTシャツだ。
俺の服だろうが、その外見の美しさだけは損なわれることはない。ホント美人って羨ましいよな。美人は美人なりの苦労があるんだろうけど。
「〜〜♩」
墓掃除しながら鼻歌をする人初めてみた。
それも俺が聞いたことのない曲だ。生前の持ち歌だろうか? そういやアイのアイドル時代って見たことないな。
今度見てみよう。
「……あっ」
「どっこいせっと」
掃除をすると意気込んだはいいが、さすがの低身長なアイは、墓石の上の部分までは届かない。
俺はベンチから腰を上げて、墓石に近づく。
彼女からタワシをひったくり、そのまま上部の部分のみを掃除する。もちろんアイの届かないところだけだ。それ以外を掃除しようものなら、また少女漫画のヒロインさせられる。
俺はアイへ、使ったタワシを返す。
「これぐらいは許してくれ」
「……ごめんね」
「いいってことよ」
俺は墓の近くに置いてあった例の花束を掴み、水場へ向かい鋏を使って、花のサイズを調整していく。本当はベンチに座って作業をしたかったが、鋏が防犯対策のためか水場に鎖を繋いで固定されている。
少々明るめで、墓に供えるのにベターな花を見繕ってもらったのだ。それを墓に備え付けの花瓶に入るサイズにカットし、ついでに余計な葉を間引いていく。
この方法は母親から教えてもらったものだ。
一般常識として覚えておけと。
揃えられた花々をまとめ、ゴミは近くのゴミの山があるので、そこに捨てる。俺と同じように裁断した破片や包む際の新聞紙が小さい山になっていた。後日、近くの寺の住職がまとめて燃やす。
無論、ビニールなどの燃えないゴミは持ち帰る。
墓前に戻ると、あの汚かった墓石は、以前の輝きを取り戻していた。きっと亡きひいばーちゃんも喜ぶことだろう。
顔知らんけど。
「おぉ、めっちゃ綺麗やん。ありがとな」
「オーカも花ありがとうね。……無理してない?」
「誰が毎日飯作ってると思うんだ。それに比べりゃ楽な仕事よ」
「うぅ……料理のレパートリー増やすよ」
カレーしか作れんもんな、この娘。
いや、彼女は器用なので、作ろうと思えばなんでも作れるとは思う。ただ二言目には「オーカの料理の方が美味しい」と口にするのだ。
頑張ってよ元シングルマザー。
新しい花を飾る。
流石に飾り方は我流だ。専門的なものは求めないでほしい。
「おっし、あとは線香供えてっと。ほら、火」
「……っと。供えるのここ?」
「そそ」
線香を供えて、合掌する。
これにて墓参りは終わりだ。
「──ふぅ、アイもお疲れ様。色々大変だったろ?」
「………」
「アイ?」
隣に立つ彼女からの反応はない。
ただひたすらに、○○家と刻まれた墓石を眺めていた。
「……生まれ変わる前の私のお墓も、こんな感じなのかな?」
「……まぁ、あるんじゃないか? さすがに無縁仏って扱いはしないだろうし。噂に聞く社長さんとかが色々手配してくれたんじゃないんかね」
「星野家ってお墓があって、私の遺骨が入ってて……一人ぼっちで」
「………」
俺は隣に居るアイを胸に抱き寄せる。
ダメだな、転生者に墓地は大変よろしくない。
「あれ? もしかしてお墓じゃなくて、銅像とか建ってたりしないかな?」
「それ逆に嫌じゃない?」
さてはこの娘、そんなに落ち込んでないな?
俺の心配を返してほしい。
抱き寄せたアイを離そうとしたが、既に彼女の手によってホールドされていた。彼女の方が一枚上手だったらしい。さすが精神年齢
「別にいっか。今の私が入るお墓は──1人じゃないもんね?」
「生まれ変わっても星野家の墓とか、どんだけ『星野』好きなんだよ」
「もうっ。私はオーカと同じお墓に入りたいのっ」
「……あー、そういう?」
あなたと一緒の墓に入りたい。
……いやこれ世間一般ではプロポーズだろ。やばい、顔の温度が下がらねぇ。
「……考えとくわ」
「ゆっくりでいいからね? まだまだ時間はあるから」
その時は、俺が先に死ぬのか、アイが先に死ぬのか。
遠い未来のことなど分からない。
ただ。
願わくば。
「さてと! 帰りますかぁ!?」
「あー、無理矢理話題変えた」
「せっかくだし外で飯食おうぜ。近くに美味しいラーメン屋があるらしい」
「炒飯つけてもいい?」
「餃子もあるぞ」
「おぉ! 早く行こう!」
俺たちは手をつなぎながら墓地を離れる。
──願わくば、遥か
「──ってな感じの墓参りだった」
『墓の前でもイチャつけるのマジ何なンだよ。ひいばーちゃんに謝れ』
【島津 桜華】
今作の主人公。墓石タイプがいいか納骨堂タイプがいいか3馬鹿に相談したところ、主人公のみ鳥葬をオススメされた。
【星野 アイ】
今作のヒロイン。島津家当主に相談したら主人公と同じ墓に確定で入れるとは思うが、国葬並みに大袈裟にされそうなので、流石に相談するのは止めている。