薩摩の子 作:キチガイの人
何と言おうと真面目です。
こんな人が身近に居れば、彼女の運命も少しは変わるんでしょうか?
自称進学校の進路希望調査は早い。
1年の最初期から行われるのだ。これは2年時のクラス配属にも影響しており、当学校は2年時に文理に分かれるのだ。それらの指標の第一段階が進路希望調査である。
「島津、今から旧校舎2階の空き教室に行け」
「どうしてですか?」
「そこで3組の進路希望の面談があるから」
「いやホントどうしてですか?」
俺1年2組ですよね?
3時限目の授業の最中、俺は国語担当教諭から、なぜか3組の面談先に行くように指示を受けた。何をどうしたら俺は別のクラスの面談に赴かなければならないのか。
そもそも俺の進路希望は既に終わっている。
しかし、国語の担当は多くを語らず。
情報として手に入れたのは『3組担任と学年主任からの要請』ということだけだ。益々意味が分からん。
持っていくものは特にないので早く行けと三度目の指示を受け、俺は皆の注目を集めながら、渋々目標地点へと赴いた。
旧校舎2階の空教室の前に立つと、何やら話し声は聞こえる。
「失礼しま──失礼しました」
「早い早い」
スライド式の扉を開いて、3組担当教諭(54歳男性既婚者)と学年1の美少女の姿を見て、俺は即座に扉を閉めた。もう嫌な予感しかしない。
しかし、3組担当教諭──山田先生が、それを見越していたのか、即座に扉を開き返して俺を招き入れる。3組の女子生徒の進路希望面談に、2組の男子生徒を呼ぶのだ。さすが自称進学校。何がしたいのかさっぱりだぜ。
俺はアイの隣に座り、二人で山田教諭と相対するように座る。
おそらく今回の元凶であろう一番星は、くっそニッコニコで楽しそうではあった。俺とは反応が真逆である。
「それでは面談を始める」
「山田先生、一つ質問いいですか?」
「何かね?」
「今回の面談って先生と、生徒と、生徒の親での3者面談ですよね? どうして彼女の両親を呼ばなかったんですか?」
俺の時だって母親が来たのだ。
星野母も、彼女への溺愛ぶりを考えると、最優先で来るとは思うんだけどな。
「一度来てはもらって、実際に面談はした。……しかし、壮絶に何も始まらなかったので、とりあえず君に来てもらうことにした」
「何をどうすれば他クラスの生徒を呼ぶ事態になるんですか? 俺絶対に関係ありませんよね?」
「ひとまずこれを見てほしい」
先生は一枚の紙を取り出して、俺はそれを右手で持ち上げる。
ちなみに、左手どころか左腕は既にアイによってホールドされている。自宅の時のように、上機嫌で俺の腕を抱きしめているのだ。
その様子を見て、先生は頭を抱えている。
紙には、俺も以前記入した『進路希望調査』が記載されていた。彼が俺に見せているのはアイが書いたものだろう。
俺の場合は適当に地元の大学を第一志望として記載した。他県の大学に行く選択肢もあったが、場所によっては別の問題が発生しかねないので、無難な回答ではあっただろう。俺の担任にも特に何も言われなかった。
彼女の志望大学ってどこだろう。一緒に住んでいるが、そんな話聞いたことがないしなぁ。
第三志望:1年2組出席番号⚪︎番の奥さん
第二志望:島津桜華の妻
第一志望:桜華のお嫁さん
「先生、腹痛の用事があるので失礼します」
「頼む、先生を見捨てないでくれ」
もはや懇願の領域だった。
教師側からしてみれば、このアホみたいな進路希望を正式な書類として保管しないといけないのだ。そりゃ必死にもなる。
俺としても一瞬意識が無くなりかけた。
これを出そうと思ったアイが物凄く心配になった。
「……彼女の母親は、何と?」
「『この希望に嘘偽りはなく、基本的に彼女の将来は島津君に一任して、本人もそれを了承しているので、彼に相談されてみては?』と言われた。……島津、彼女の両親って、もしかして、その、あれなのか?」
「それはないので安心してください」
山田教諭のニュアンスから、育児放棄の類を疑われていることは把握できた。そりゃ俺とアイを同じ家にブチ込んで、進路面は同棲相手に丸投げだもんな。客観的に見てヤバい家庭だ。
蓋開けてみれば、彼女の願いを応援するための行動だし、今回の件も建前上修正が必要なら彼と同じ進路先でいいのでは?と考えているのだろう。そして、当の本人が喜んで賛成しているのだ。
放任主義? いや、違うか? 家庭のカタチって難しいね。
先生は2枚の紙を取り出し、片方は伏せたまま、俺に対して話をする。アイは抱きつきながら俺の方に頭を預けている。
……これ今後もアイの進路の話のたびに呼ばれるんかな? 俺はアクア君とルビーさんの進路の他に、自分の恋人予定のアイの進路まで考えないといけないのか? 俺15歳のガキぞ?
「えーと、これが東雲先生からお借りした君の進路希望だ。……彼女に見せても?」
「えぇ、大丈夫です」
「もう、この際嘘だろうと、建前だろうと、何だっていい。この進路希望は来年の文理選択の指針も兼ねている。そうなると、だ。コレは非常に困る。物凄く困る」
「心中お察しします」
山田先生も最初は彼女なりの冗談かと、3者面談前に彼女の個別面談をしたらしい。いつもは授業も真面目に聞く生徒で、社交性もそこまで悪くない彼女だ。男と同棲している点を除けば、特に問題がある生徒ではないのだ。
『星野、この進路についてだが……』
『何か問題でも?』
『い、いや、進路希望調査は大学進学の……』
『でも、私18歳になった瞬間に、オー……島津君と結婚して、子供孕みますよ? 大学進学とか全然考えてないです』
じゃあ何で自称進学校の普通科来たんですか?と、質問を返さなかった山田教諭の自制心を褒め称えたい。
彼女の志望動機は『俺がいたから』である。これが俺の自意識過剰とかではなく、ありのままの事実であり、その事実が山田教諭を苦しめているのだ。こんな生徒は彼の教員人生上、金輪際現れないだろう。現れないで。
小学生の将来の夢ですら、もちっと現実的なこと書くぞ。彼女からすれば至極真っ当であり、不変の真理なんだろうけど。
「というわけで、本当に申し訳ないが、島津の進路希望を参考にさせてもらう。星野もそれでいいな?」
「はーい」
「となると第一が
「まぁ、一応。その方針を掲げてはいます」
教員側も俺の情報と、この方向性の定まっていない進路希望で、『家業継ぐので、適当な大学に行きます。あ、文系希望です』というのは察しているはず。なので担任の東雲教諭も何も口も挟まず、日々の勉学を怠らぬようにと定型文を述べるだけに終わったのだ。
島津の進路希望見てると癒される……と思わず口にしている辺り、彼女の件は相当胃に来たんだろう。個別、三者で改善の見込みがなかったのだ。これで俺もアホみたいなこと言おうものなら、先生明日から学校来なかっただろう。
「これを星野の進路にも当てはめたい……が、島津、これにも一応目を通してくれ。星野の入学時の試験結果だ」
「……あー、鹿大には足りないと」
「星野も悪くはないんだが、仮に、建前上、嘘だとしても、鹿大を受けると口にするのなら、学力面で頑張ってもらわないといけない」
鹿児島の大学ってそんな偏差値高くないんだけどな。
と、そこまで考えて、生前施設暮らしで、今世は中学生時代まで家庭内暴力の環境下を過ごしてきた、とんでもねぇ経歴の持ち主であることを思い出す。勉学よりも明日を生き抜くことを考える人生だったのだ。むしろ自称進学校でも合格できたことを褒めるべきなのだろうか。
この学校定員割れしてたけど。
それにしても……そうか。勉強か。
彼女が家で勉強してるところ見たことないな(震え)。
「……分かりました。自分も勉学に関しては得意ではないですが、彼女の学力向上には努めたいと思います。先生の方も、彼女のご指導よろしくお願いします」
「本当にすまないな。私も、担当科目であれば尽力しよう。最後にだが、星野、何か質問はあるか?」
「質問?」
彼女は俺の腕に抱き着いたまま首をかしげる。
そして言い放つ。
「先生、私が次産む子供の名前を
「「………」」
先生は無言で胃の部分を手で押さえる。
俺は腹部の傷跡を手で押さえる。
「……それなら、まだ
山田教諭。後の、星野アイの恩師である。
【島津 桜華】
主人公。学力はそこまで誇れるほどではないが、地元の国立大には難なく入れる学力は持っている。鹿児島の国立大学は偏差値低いけど。とりあえず3年時に相応の地元の大学には行く予定。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。大学進学など露ほど考えてない。18歳になれば子供を産む予定であり、妊娠中は大学も休学しないといけないし、もし留年したら主人公と同じ学年じゃなくなるので、それなら最初から専業主婦すればいいやの精神。
【山田先生】
アイの担任。日本史担当。可哀そうなことに後の3年間アイの担任になる定め。授業はかなり面白く分かりやすい為、OBから『この人の授業聞いてれば、模試の7割以上は余裕』と言われている。生徒一人一人を全力で面倒を見ているので、かなり苦労しがち。妻帯者で、子供もいる。