薩摩の子 作:キチガイの人
言葉は不要、ただこの時を嚙み締めましょう。
恋愛とは何なのか。
人を『愛する』とは何なのか。
俺はここ数ヶ月、同じような事をずっと考えてきた。
書物で読み、映画で学び、人に聞き、恋愛とはどのような感情であるかを学び続けた。
正直、何言ってるのか分かんなかったが。
『じゃあさ、桜華は自分が島津じゃなかったらアイちゃん守らないの?』
しかし、あの種子島の傾奇者はそう言った。島津の為と常々口にするのなら、お前が島津でなくなったとき、その思いを抱き続けることはできるのか?と。
最初、コイツは何を言っているんだと思った。
前提条件が、前提条件として成立していない。
島津でなくなったとしたら? 俺が島津以外の何になるって話なんだ。
『桜華はなんで彼女を守るの?』
『桜華にとって彼女は何なの?』
だから、俺は島津として──
……あぁ? 俺個人? 俺個人ってなんだ?
やばい、頭こんがらがってきた。
「───」
俺は……しま──違う。俺?
「──カ」
個人として……自己なんて必要な──違う。俺は……
「──オーカ! オーカ!」
「──んぁっ!?」
思考の海に溺れていた俺は、急に現実に戻される。
夜のゆったりとした時間に、ソファーで言葉を反芻させていたとき、俺の頭を柔らかい感触が包み込む。ふわりと柔らかい匂いも刺激となり、急に引き戻された脳が感覚神経を仕事させる。
俺は後ろから同居人に頭を抱きしめられて、上から覗きこまれているらしい。
珍しく自分の私服を着た少女は、俺をずっと呼んでいた、と。
「オーカ、大丈夫?」
「……ちょっと考え事してた。すまん」
「それならよかった。オーカに聞きたいことがあったから、邪魔しちゃ悪いかなって思っちゃったんだ。忙しいなら後で聞くけど……」
「今でいいよ。何?」
俺の言葉に、アイは抱きしめる力を強くする。
俺の形に、彼女の双丘は形を変えていることが容易に想像できるくらいには、強く抱いて来た。この幸せな気持ちを享受したい気持ちと、彼女のためにも一刻も離れなければという気持ちがせめぎあい──
「『黒川 あかね』って女の子が、いいんだ?」
俺のためにも一刻も離れなければという気持ちがターボを振り切る。
彼女の抱きしめる行為は、拘束だったのだ。
「……ちゃうんすよ、アイさん。あれは言葉の綾と申しますか、世間一般論を述べただけと申しますか。少なくともやましい気持ちは微塵もありません。はい」
「そーなんだー。でも羨ましいって言ってたよね?」
「あれは煽り文句です。咸を貶めるために言っただけであり、決して黒川さんという女性に対しての感情なんて……。そもそも会ったことのない他人ですし。彼女も俺のこと知らないですし」
「オーカ」
彼女はニコッと笑う。
内心本当に笑顔かは知らんが。
「私の方が、かわいいよ?」
「……あの、張り合う必要性は」
「私の方が、オーカのこと知ってるよ?」
「……それは確かにそうだけど」
「オーカのしたいこと、何でもしてあげるよ?」
「……話を聞いていただけると」
「私の方が都合がいいよ?」
「……えっとですね」
「私の方が、オーカのこと好きだよ?」
「………」
彼女のゴリ押しによって、俺は両手を挙げた。
別に勝ち負けの話ではないが、俺は白旗を自ら掲げる。
「悪かったって。信じてくれるか分からんが、その黒川さん?って人とは何もない」
「………」
アイは知らんだろうが、むしろ彼女と何かあった方が問題なんだけど。LINE見てたけど、経緯はまったく以て予想がつかないが、咸は何をどうしたら顔を合わせたことのない相手にあそこまで懐かれるのだろうかと思ったくらいだ。
それで素人目からしても、
彼女の今のメンタル状況が、撫子がやらかした時のアイの状況に酷似してるんよ。どうした、劇団のエース。
俺の言葉が届いたかどうかは分からない。
彼女は俯いたまま、しかし俺の頭は離さない。そして、俺の頭上に彼女の顔があるものだから、俯きながら目尻を下げた少女の顔が見える。
「……分からないよ、分からないんだよ」
「アイ?」
「私の方が、オーカのことが大好きなんだよ。でもね、この言葉が本当なのか、嘘なのか分からないんだよ。嘘じゃないって心が言ってるのに、私の口から出る言葉が、本当に君のことを愛しているのか分からないんだよ……」
「………」
「私は嘘つきだから。噓が愛だったから。……ダメだね、心の底から愛してるって思っているのに、その言葉が嘘じゃないかって自分が信じれなくて、嘘じゃないかって相手に思われるのが怖くて、そして──オーカに嫌われるんじゃないかって。それが一番、怖いなぁ」
「……そんなことは──」
俺は否定の言葉を出しかけて、言葉に詰まる。
彼女の言葉を信じられるほど、俺は今の自分を信じられるのだろうか。自分の言葉が信用できなければ、それは薄っぺらい同情になってしまう。
『──これでも答えが出ないのか。この鈍感は』
『あー、じゃあ、これならどう?』
『桜華は島津の為なら』
『
何を言ってるんだ、この馬鹿は。
そんなん決まってるだろうが……あ?
「──あぁ、そういうことか」
これか。
これなのか。
『私、オーカが傷ついてほしくないよ』
こんなにも悩んで悩んで悩んで悩んで。
その結果が、これなのか。
『私はオーカと同じお墓に入りたいのっ』
こんなにも、簡単なことだったのか。
こんな簡単なことに悩まされていたのか。
島津と彼女を天秤にかければ、分かることだったのか。
『優しいよ。すっごく、優しい。私のオーカは、私の大好きなオーカは、優しいんだよ』
俺は、あぁ、そうなのか。
俺は、あの時から、
『えーと、あー、うん、そのー、ね? うん。俺個人としては、だ。星野さんのことを好ましく思ってます。はい──あ゛あ゛あ゛あ゛っ、分かった! 好きです。はい、好きですよ! これでいいだろう!?』
俺はあの時から既に。
「──ハハッ、ハハハハハッ」
「っ!? お、オーカ?」
「いやー、そっかそっか。あーあ、なんだよ。壮絶な時間の無駄だったじゃねぇか」
こんな簡単なことも分からないとは、ここまで来るのに、どれだけ彼女を不安にさせてしまったのか。まったくもって理解しがたい。島津桜華とかいう頭薩摩は天性の大馬鹿だったんじゃねぇのか?
俺の唐突な笑い声に、自虐よりも不安を表に出すアイ。
「いやー、マジか。マジなのか。これに気づかないなんざ──俺は相当ヤバかったんだなぁ。本当に面目ない。あの
「ご、ごめん。怒ってる?」
「ん? 全然、アイは悪くないよ。むしろ、俺の方が謝りたいぐらいだ。こんなん算数の方が難しいわな。どんだけ時間かけてんだよって、どつかれても文句言えないぜ」
傑作にも程がある。
いや、戯言か?
まぁ、それはいい。
それよりもはるかに、何よりも大事なことがある。
「ありがとう、アイ。目ぇ覚めたわ」
俺は彼女の拘束から逃れ、ソファーから立ち上がり、彼女の前に立つ。
島津の馬鹿と嘘つきの少女の身長差はそこそこある。自分に呆れている俺が、不安そうに見つめる彼女を見下ろしているのだ。
「アイ、時間がかかって本当に申し訳ない。だから単刀直入に言わせてもらう」
「え? 唐突にどうし
「俺、アイのことが好きだ」
俺は自分の仮面を握り潰した。
【島津桜華】
主人公。理解じゃなくて、自覚をしないといけない。既に答えはあの日にあった模様。ちなみに彼は『嘘を見破る目』とかいうアイ特攻持ってる化物。でもアイに堕ちちゃってるので、それ以前の問題。
【星野アイ】
ヒロイン。転生者。自分の言葉が嘘か分からない悩みを抱える。彼女は気づいてないが、主人公と接するときは目の星が消えてるんですよね。つまり?