薩摩の子 作:キチガイの人
序章はまだ終わりません。まだ色々やらないといけないことが多いですし。
『推しの子』のテーマが『復讐』だとしたら、『薩摩の子』のテーマは『喜劇』だと思われます。それこそ星野源さんの『喜劇』(SPY×FAMILYのED)とか聞いていただけると、この作品の雰囲気がより伝わると思います。良き曲ですよ。
「俺、アイのことが好きだ」
俺の突然の告白に、アイは固まる。
どうやら俺の言葉の処理に時間を要しているようで、困惑した表情が数分続いた。ちょっと返答に時間がかかり過ぎなので、これ失敗したか?と不安になり始めたとき、
「──……えぇっ!?」
ようやく彼女の脳に情報が到達したようだ。
到達したからと言って、それを正常に処理できるかまでは分からんが。
「………」
「………」
「………」
「……えっと、返答欲しいんだけど」
「ひゃいっ!? え、えー……あぅあ……」
受け入れてもらえるのであればそれで良し、断られるのであれば自分磨いて再度チャレンジするも良し。どちらにせよ、あとはアイの返答次第なので、俺としては答えをもらいたいんだが、肝心の少女が右往左往しているので困っている。
頬どころか首筋、耳まで真っ赤にして喘いでいる様子。
何か問題でもあったのだろうか?
俺は短く熟考し、理解した。
心の赴くままに言葉にしただけじゃん。
ちゃんと言わんとダメだろう。
「悪い。気持ちが先走り過ぎた。──俺は、星野アイが大好きです。愛してます。結婚を前提に、付き合って下さい。お願いします」
「………」
俺は頭を下げて、告白する。
しかし、やはり返答は返ってこない。やっぱり急すぎたか?
回答保留でもいいよと口に出そうとした瞬間、絞り出すように少女は疑問を口にする。
「……本当に、私
「俺はアイ
とりあえず即答しておいた。
そう迷うことでもないし。
「だ、だって。私転生者だし。なのに世間知らずだし。実年齢
「それがどうした?」
「私って『アイドルができる超絶美少女』なだけの女の子だよ?」
「それ自分で言えるのは本当に称賛に値するよ。事実だから否定はしないけどさ」
ここまで外見に自信ある人間って本当に珍しいよなぁ。伊達に学校の男子生徒を無自覚に魅了しては切り捨ててはいないらしい。最近の話だと、彼女の異名に『傾校の美女』が追加されたとか。倒れてるのは学校じゃなくて野郎どもなんだけどね。
俺も全然笑える状況ではないが。
その高嶺の花に現在進行形で告白しているし。
「オーカの前では完璧で強い自分を魅せたいのに、なんか全然できなくて、さっきみたいに些細なことで嫉妬する、本当の私は醜くて弱い女なんだよ? それでも──君は、私を愛してくれるの?」
「人間なんざ100じゃないから。完璧じゃない? 人間性があっていいじゃん」
「本当に──本当に、私がオーカのお嫁さんになっていいの?」
「こっちがお願いしている側なんだけどなぁ」
それとも暗に「分かり切ったことをいちいち聞くな」って言われているのだろうか。
付き合ってくださいの告白に、嫁になれるかの有無を聞いてくるし、俺の告白の部分だけ切り取ると、彼女から告白されてるんじゃ?と錯覚できる内容だしな。
俺の言葉に、彼女はぺたんと地面に尻餅をつく。
目に大粒の涙を浮かべて。彼女は必死に拭っているが、次々と溢れている。
「……怖かったんだからね? オーカって凄くモテるから、誰かに取られるんじゃないかって、不安で、怖くて、寂しくて。ずっと一緒にいられるか、分からなくって。でも、でも……!」
「……え? 俺モテてたの初耳なんだけど」
「これで、オーカと一緒にいられるんだよね? ずっと、ずーっと、一緒にいてもいいんだよね?」
彼女の吐き出した本心に、俺は笑いかける。
「あぁ。君が望んでくれるのなら」
地べたに座る彼女を、俺も腰を下ろして優しく抱きしめる。
自分が愛されることを
そういった思いも含めて、強く、確かに、そして優しく、愛する彼女を抱きしめるのだった。
アイも俺の背中を抱きしめ返す。
これが、彼女の答えなのだろう。
「アイ、大好きだよ。愛してる」
「……うん。うんっ! 不束者だけど、よろしくお願いします……!」
♦♦♦
あの馬鹿共が言ってることが分かった。
同棲相手が恋仲になったわけだが、俺がそれを自覚した以外はさして変わらなかった。アイツらが「これで付き合ってないってマジ?」という言葉を、真の意味で理解したわけである。そりゃそうだわ。今思い返してみると、恋人のそれだわ。
それに気づかない俺も俺だが。島津フィルター怖っ。
俺とアイは同じソファーで並んで座り、寝る前のゆったりした時間を過ごしながら、俺は今までを振り返りながら気づく。
グループLINEで3馬鹿に報告し、末永く爆発しろとメッセージを頂く。
馬鹿共の
その幸せに浸っていると、大事なことをふと思い出す。
俺は今週の土日に双方の両親に挨拶に行くだろう。
それには俺の両親も含まれる。──アイが転生者であり、双子の母親であり、俺が高校卒業した瞬間に双子の義理の父親になるという、報告も含めて。
「………」
信じてもらえるんかコレ。
逆の立場なら信じるの厳しいぞ。
「オーカ、私たちって恋人同士、なんだよね?」
「ん? あぁ、そうだな」
どう説得しようか悩んでいると、彼女の言葉を聞いて、思考を彼方に吹っ飛ばす。難しいことは後で考えよう。どうせ考えても、シュミレーション通りには絶対行かないだろうから。
それよりもアイの言葉に耳を傾けた方が有意義だ。
「……じゃあさ、シよ?」
「……あー」
そっかぁ。そうなるかぁ。
そうだよなぁ。そうなっちまうよなぁ。
考えてなかったなぁ。完全に思考から抜け落ちてたなぁ。
「その……ね? オーカの愛は嬉しいんだけど、ちょっぴり不安な気持ちになっちゃうんだ。君との確かなつながりが欲しいんだ。完全に私のワガママだけど、君ともっと深く愛し合いたいんだ。ごめんね?」
「……別に謝る必要はないよ」
「オーカも初めてだよね? 私も、この身体では初めてなんだ。……オーカの
ここで断る選択肢を選べる人間を見てみたい。
外堀内堀、城どころか豊臣秀頼も埋まってるんだけど。つか参考文献が
まぁ、あってないような選択肢ですよね。
『はい』か『yes』だけですよね、はい。
「……りょーかい。わかったわかった。
俺はソファーから立ち上がって目当てのものを探す。
確か数ダースどころか、
とりあえず1箱あれば十分だろう。あれー、どこだっけ
「……ゴム使うの?」
「ゑ?」
ソファーに座ったままの彼女は、俺の質問に、心底不思議そうに尋ね返す。
え、待って。
待って待って待って。
待って待って待って待って待って。
「私たち、初めてするんだよ?」
「そ、そうだよな! だから避妊するためにもゴ」
「私、オーカとの初めてでゴムさせる気
「………」
パワーワードで俺の脳をぐちゃぐちゃにするのやめてもらえませんか?
「もちろん今日は大丈夫な日だし、私が薬飲むから心配しないでね」
「………」
彼女は華のように微笑む。
俺は引きつったように笑う。
「たくさん、愛し合おうね?」
俺はベッドの上で目を覚ます。
近くのスマホで、確認すると午前10時。もちろん平日。学校もある。
「………」
隣を見る。
そこには生まれたままの姿の、愛しい少女が横たわって幸せそうに寝ている。
「………」
俺は近くの机を見る。
そこには空になった精力剤のドリンク瓶が5本置かれている。
飲む人間は限られるが、俺は飲んだ記憶はない。
「………」
俺は天を仰いだ。
拝啓、母上。
俺はとんでもねぇ性欲モンスターを解き放ったかもしれません。
【島津桜華】
主人公。他者が彼女に完璧で究極を求めるのなら、主人公は彼女の不完全さや脆さを愛します。元旦那が彼女の性欲に耐えられず、逆恨みで殺した説を若干疑っている。
【星野アイ】
ヒロイン。転生者。以降、彼への自重が一切なくなる。やったね。