薩摩の子 作:キチガイの人
双子の知らぬ間に超強力なセコムが。
実家に顔を、出すのは何ヶ月ぶりか。
2ヶ月か。そんな時間たってないな。
同棲開始から、あまりにも様々なことが起こったので、俺としては体感数年経過しても納得するくらいには、実家というものが懐かしい。数年経過してれば、エスカレーター式に俺の人生の墓場行きが確定するんですけどね。
そのお膳立てに俺の意思は関与しないだろう。今では、それでもいっかという心の余裕があるが。
到底信じられない御伽話をあの両親に語らなければならず、宿題が全然終わっていないガキのような心境の俺。俺のテンションに反比例するように、今から義理の両親に挨拶に行くことにウッキウキしているアイ。
温度差のあるカップルは、何の障害もなく実家に上がり、茶の間にいる俺の両親と対峙する。机を挟んで双方が対峙する形だ。俺と親父殿は胡坐、母親とアイは正座である。
「──只今戻りました」
「うむ」
俺の挨拶に頷く親父殿。
屋久杉の如き堅牢さを見せる父親に、アイは未だに慣れないようだ。あれを前にして構えない人間も少ないけど。
一般家庭では中々見られない親子のやり取り。
本当ならそこで終わるはずだったが、今回ばかりは父親から意外な声をかけられる。
「……やっと仮面を捨てたか」
「申し訳ございません」
「良い」
我が家特有の超圧縮言語で意思疎通する俺と親父殿に、アイはかわいらしく首を傾げた。その様子を微笑ましそうに見つめる母親。
親子だからこその芸当だ。
ちなみに訳すると、
『やっと島津を捨て、彼女への愛を理解できたか』
『島津としての責務を全う出来ず申し訳ございません。しかし、後悔はありません』
『お前がその生き方を選ぶなら、それでいい』
こうである。
しかし……あれか。
親父殿には見破られていたか。
謀ったつもりは微塵もないが、俺の生き方が島津として性に合わんことは気づいてたということか。
だからと言って戻ることはできない。
俺はアイの為に命は使えるが、島津の為に死ぬことはできない。親父殿としては、とんでもないボンクラ息子に育ったと思われても仕方ないな。薩摩の地は死兵を
とんだ親不孝者だ。
親父殿は心なしか嬉しそうだが。
「──アンタとアイちゃんが我が家の門をくぐったってことは、そういうことね?」
ここからは基本無口な父に代わり、事実上の我が家の最高権力者である母親に進行役が移る。物理的強者たる親父殿だが、この母親には余程のことがない限り頭が上がらない。そして母親も父親を第一に弁えている。
……こういうのが夫婦仲を持続するコツなのかな。
良いところは参考にしていこう。
聞かれていることは俺への公開処刑だが。
なので言い淀む俺を慮ってか、アイが答えた。
「はい、18歳で結婚をすることを前提に、オー……桜華君とお付き合いすることになりました。よろしくお願いいたします」
彼女はそう言って正座したままお辞儀をする。
その仕草は流れるように優雅であり、さすが元女優経験者だと痛感する。姿勢もさっきから非の打ち所が全然ない。
「こちらこそ。というか、本当にこんな息子でいいの? 聞いたわよ? アイちゃん学校で男の子にモテモテだって。それでもウチの息子を選んでくれるの?」
「母上、俺の扱い酷くない?」
「そんなことないですっ」
ガバッと顔を上げたアイは勇ましく反論する。
「私はオーカじゃないとダメなんです。オーカの愛じゃないと、オーカの『愛してる』って言葉じゃないと、心に響かないんです。むしろ、私がオーカにしてあげられることが少ないと思います。それでも──私は、オーカと共に生きて、共に死にたいんです」
「「「………」」」
「お願いします。──私を、星野アイを、島津桜華のお嫁さんとして、認めてください」
彼女は真摯に頭を下げた。
横から見ると、その手が若干震えている。
アイの心境は理解できる。そもそも分家の養子だ。排他主義の薩摩の地でも『よそ者』として扱われる可能性だって十分にある。俺と相思相愛だとしても、親がそれを認めてくれない可能性だってあるはず。本来は客観的に見れば血筋的に釣り合わないのだ。これも名家の面倒なところの一つである。
「……え、待って、無理、100点満点。最高。ヤバい、孫楽しみ。──アンタ、死んでもアイちゃんを離すんじゃないよ。これ以上の娘は銀河系探しても見当たらないわ」
「言われなくとも」
ただ事実だけ見れば母親の好みにクリティカルヒットしている、俺の愛しの彼女だ。ほら見ろ、正論過ぎて親父殿も何度も深く頷いているじゃないか。
彼女の釣り合い云々は杞憂である。そもそもなぜか島津ん当主&重鎮複数から盛大に崇拝されている少女である。同族も釣り合う以前に、彼女何者?って感情の方が強い。余談だが、当主は俺に「桜華君がアイ君と結婚したら、私はアイ君の義理の伯父さんになるのか。……推しの伯父さんかぁ」と恍惚な笑みを浮かべていたのを思い出す。
「私からもお願いするわ。ウチの馬鹿息子がアイちゃんのお婿さんなら安心よ。桜華をよろしくね?」
「はいっ」
彼女は母親の言葉に、満面の笑みで頷いた。
こうして、俺とアイの交際報告は終
「──親父殿、母上。いや、父さん、母さん」
「「……っ!?」」
「俺とアイが付き合うことになったわけだけど、それと同時に報告したいこと……アイの件で言わなきゃいけないことがある」
さて、ここからが本命だ。
俺は
これだけでも両親は理解するだろう。
今から話をすることは、家族として重要であることを。
俺は父親と母親に話をする。
彼女が──
生前の記憶があること。
双子の兄妹がおり、現在高校生であること。
俺は自分が知る限りの彼女の生前を伝え、アイも俺の至らない説明を補足するように語る。
俄かには信じがたく、突拍子もなく、現実離れした御伽噺を、さも当然のように語る俺は、二人からしたら狂っているようにしか見えないだろう。
それでも俺は語る。彼女の真実の軌跡を。
最初に口を開いたのは親父殿だった。
親父殿も彼女の話が嘘だとは思っていないのだろう。しかし、嘘じゃないからと言ってそれを信じられるとは限らない。そういった複雑な気持ちであることは、想像に難くない。
「信じるのか?」
「でなければ父さんに言わないよ」
「……正気か?」
……まぁ、そういわれることは想定していた。
そして返す言葉も。
「逆に聞くけど──あなたの育てた息子は、惚れた女の
「……そうか、お前は信じるのか」
「言葉が足りないというのなら、納得するまで俺は言葉を重ねるよ」
「いらん。お前が信じるのなら、
「ありがとうございます」
俺は深く深く、頭を下げた。
正直、そこまで簡単に信じてくれるとは思ってなかった。
「桜華、アンタは信じるのね。なら、私も信じる」
母親は立ち上がり、アイの傍に屈んで──力いっぱい抱きしめる。
そして、血のつながった親子のように、アイの頭を優しく撫でた。撫で方が俺にそっくりで、やっぱり遺伝かとバカみたいなことを考える。
「今まで、ほんっっっとうに、頑張ったわね。偉いわ」
「お義母さん……」
「覚えておきなさい。アイちゃんは今から私の可愛い可愛い義娘で、旦那の義娘よ。たっくさん甘えていいんだからね?」
「うんっ……!」
こんなにあっさりと信じられるのか。
後で聞いたところ、母上曰く「普通なら信じないわよ。アイちゃんの言うことであり、アンタが全面的に信じてるから、私と旦那も信じるのよ」とのこと。
アンタら最高の親だよ。
アイと母親がイチャイチャしている様子を眺めていると、親父殿がふと独り言のように口にした。
「……そうか、孫がもういるのか」
「そこのあたりは信じたくなかったですけどね」
「……孫か、そうか、孫か」
鬼島津と畏れられた男は、孫という単語を噛み締めるように呟く。少し頬が緩んでいるように見えるのは、気のせいだろうか?
いやいや、猿叫だけで窓ガラスを粉砕し、薙げば地面を抉り、マジで戦車数台を中の人ほど木端微塵にする、あの鬼神が、まさかまさか
「孫への小遣いは、いくらが妥当か……?」
マジですか。
【島津 桜華】
主人公。双子の養育費のことを両親に相談したところ「孫の養育費など、いくらでも出してやる」と言われた模様。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。今作の彼女は義理だけれど親というものに恵まれているのだろうか。幼少期の家庭内暴力に加え、生前の惨状も知られたせいで、主人公の両親からめっちゃ甘やかされる。
【島津
親父殿。かわいい息子の嫁さんと孫な双子の為なら財布が緩む男。黒幕さん、彼女らに危害を加える場合、まずこのセコムを相手にするんですが、それでも手出します?