薩摩の子 作:キチガイの人
次回の内容は仕事しながら考えてます。
あと原作と違う点が複数あります。あ、薩摩とか島津の話じゃない方です。
この自称進学校の体育はクラス合同である。
とは言っても、前半クラスと後半クラスに分かれるので、前半クラスの俺の体育ん時のパートナーは兼定、時々アイである。
そして、今日の体育は自習。
ちらほらと男子生徒がボールで遊んだり、日陰で時間をつぶすなど、各々が思いのままに行動している。俺と兼定は後者であり、日陰で腰を掛けられるところを確保し、青空に流れる雲をボーっと眺めているのである。
俺から見て右に座る体育服姿の兼定と、負傷して見学オンリーの夏の学生服を着た俺は、なんの意味もない会話と共に、校庭で元気いっぱいに遊ぶ男共を眺めるのだった。
「あーあ、野郎は校庭に放置で、女共はプールかよ。汗流してェ」
「俺は問答無用で見学だから、別にどっちでもいいわ」
「サッカーとかは出来んじゃねェの?」
「ダメだな。アイがめっちゃ怒る」
アイが居ないのは、純粋に男女分かれているためである。
今頃はスク水姿のアイが、他の同性を魅了しながら、このクソ暑い授業を受けているのだろう。今はプールの中の水の冷たさが羨ましい。
「つか男子少なくね?」
「大半の男子はプールに特攻しに行ったからな。あの学年一の美女の水着姿だぜ? 教師が見てない今、思春期の男子が指くわえて素直にボール遊びすると思うかァ?」
「あーね、生徒指導行きでも目に焼き付けたいって算段か」
確かに気持ちは十分理解できる。
いくら学校指定の地味な水着だろうと、あの同性異性問わず息を吞むプロポーションが浮き彫りになる姿だ。いくら異性からの評価が下がろうが、推薦の道が閉ざされようが、星野アイという少女の水着姿を目に焼き付ける行為の前では、全てが霞んでしまうだろう。
武士共は、その覚悟でプールへ覗きに行っているのだ。
アホかな?
俺はアホ共の行動に納得の意を示す。
しかし、兼定は腑に落ちないようだ。
「……テメェは自分の恋人が見世物になってンだぞ? 反応はそれだけか?」
「俺の恋人の生前の職業はご存じ?」
「あァ……テメェん中では、そォいう感覚かァ」
彼女のあられもない姿を誰にも見せたくないと思わないと言えば嘘になる。けれども、それを表に出してしまうのは、彼女の生前の行いを否定することと同義となる。
今はアイドルじゃないんだから別にいいんじゃね?とか、言い訳はいくらでも出てくるだろう。でも、当の本人があまり気にしてないのだ。俺がそれに口をはさむのはお門違いだろう。
だから開き直ってやるのだ。俺の恋人は、こんなに凄いんだぞ、と。
「あと、アイの水着姿は前にも見たからな」
「家ン中でか? わざわざ見せつけてくるのかよ。お熱いこった」
「……あの格好で何度搾られたか」
「あのドスケベ性欲モンスター、とうとうコスプレプレイにまで手を出したのかよ。キスNGだった元アイドル様のやることじゃねェだろうが」
俺は思い出して身震いする。
その姿を見た兼定は、呆れてものも言えないようだ。
夜にスク水姿の彼女を見ると、思わず身構えてしまうようになった俺。最近のアイは俺に夏物のスーツを着せて『水着姿の女子生徒が先生を犯す』プレイにハマっているらしい。負傷している身なので、夜の主導権はアイにあるのだ。
いや、まぁ、彼女の『オーカ先生』って言葉は心にグッとくるものはあるけれども。
このままズルズルと堕ちていく感が凄くある。
「話を戻そうか。でもプールに特攻した男子生徒は可哀そうだなぁ」
「そン心は?」
「目当ての女の子がココに居るんだぜ?」
「だぜー?」
いつの間にか俺の左方に座っているアイが、兼定に顔を見せながら、俺の口調を真似る。
もちろん水着姿ではなく、体育服を着用していた。
「女子がココにいていいのか? 水泳の時間なんじゃねェのか」
「こっちも自習だよ? それに男の子たちが来るのは分かってたからね。それならオーカのところに来た方が、数千倍楽しいじゃん?」
「本当にくだらないこと喋っているだけだぞ?」
「オーカの傍に居たいの。ダメ?」
ダメじゃないよ、と口にする。アイはその回答に満足したのか、力の籠められない左腕を彼女の上半身で包み込む。胸で抱きしめ、指を絡めて、腕でホールドする。立花のオッサンからめった刺しにされ、神経ズタズタにされた腕だ。しかも折れてたし。刺し傷よりも回復に長い時間が必要となるだろう。
その様子を見た兼定は、どこからともなくコーヒー2Lのペットボトルを取り出し、ラッパ飲みをする。
「ってか今気づいた。それ俺の体操服じゃん」
「そうだよ?」
思いっきり『島津』の文字が書かれてるじゃん。
アイ曰く、間違えて持ってきたらしい。俺は目を細めた。
「ねえねえ、二人はなんの話をしてたの?」
「本当にしょうもねェ話だよ。現在ネタ切れだ。テメェも来たンだから何か話せ。なければ授業終了まで青空観察だ」
「今日の夜に着てもらう服の話なんだけどさぁ──」
「それはテメェの旦那と夜に話せ」
「みっちゃん最近休んでるけど、どうしたの?」
アイの問題提起に、兼定はつまらなさそうに話し始める。
俺も大まかに聞いただけで、咸が今何をしているのかまでは把握してない。
「少し前の桜華と同じだよ。持ってるだけのコネ使って、一人の女を助けるために奔走してるってハナシ。ご苦労なこった」
「それってSNSで一時期トレンド入りしてた『自殺未遂』と何か関係があるのか? あんまり興味ねぇから、全容までは把握しとらんけど」
そういう芸能人のゴシップネタは好きじゃない。
隣にいる恋人の影響だろう。
兼定も当事者ではないので詳しくは知らないと語る。そのSNSが情報源だが、とある番組で不慮の事故が発生し、とある加害者側の女優が大炎上したようだ。加害者側は正式に謝罪し、被害者側もそれを許した。それで終わる──はずだったのだ。
しかし、なぜか関係のない第三者たる外野が燃料を投下し続け炎上は留まることを知らず。
ついに精神的に病んだ加害者側の女優が自殺未遂をやらかす事態にまで発展したのだ。
「──首吊り自殺だってなァ。紐の結びが甘くなきゃ、未遂の単語はなかっただろうがなァ。胸糞悪ィ」
「あー、耐えられなかったパターンだね。私もネットで悪口書かれてたなぁ」
「加害者だからって精神病むまで叩くとか人の心ないんか?」
「人の心があるから、徹底的に叩くんだよ? オーカは優しいから、そーゆー人たちの気持ちは分からないと思うけど」
アイの微笑みに、俺は反比例して表情を曇らせる。
俺はスマホを起動させ、いまだに居座っている『自殺未遂』を開いてみる。人一人が精神的に追い込まれ、自殺未遂まで至ったのにもかかわらず、それでも徹底的に彼女を貶める不愉快なツイートに、舌打ちをしてスマホを閉じる。
顔が見えないからって言いたい放題だな。
正義の剣を死体に振り下ろし続けるのは、さぞかし気持ちがいいのだろう。
あー、くそっ。
気分悪くなってきたわ。
「……兼定、もしかして例の彼女か?」
「ご明察だ。ガキ相手にやべェよな。芸能人に人権って言葉は存在しないらしいぜ」
黒川さん……だったか? 画像でしか見たことのない人物ではあるが、俺から見ても、自殺未遂まで追い込んでいい人物ではなかったと記憶する。
俺は気持ち左手を強く握りしめる。手は全然動いてないけど。
動いていないのに、アイは何かを察したように俺の左手に力を入れているけど。
「今日の咸のクソ野郎は弁護士との打ち合わせだとよ」
「法の力で誹謗中傷する馬鹿をチェストする感じ?」
「ンなわけ。裁判費用準備するのも面倒だろうが」
俺もアイが叩かれて今のように炎上していたら、法と権力と腕力の全てを以て、SNSに蔓延る馬鹿をエレクトリカルパレードするんだけどなぁ。法と権力だけで解決したいね。できない相手には薩摩人を1ダース送り込むしな。
金を億とられるのと、首をとられるの。好きな方を選ぶといい。
「まァ、あと少しで落ち着きはするだろうがな。そンときは、桜華──そして、星野にも動いてもらうからなァ。何、危ねェことはさせねェよ」
「事前に連絡はよろしくな。助けられるんなら助けよう」
「私も? できることは頑張るけど……何させられるんだろ?」
こうして授業は終わりを告げる。
遠くに聞こえる男子生徒共の叫び声と共に。
【島津 桜華】
主人公。立花のオッサンに腕をめった刺しにされた関係で、腕の感覚が全然ない様子。ちなみに立花のオッサンは分かりやすく言うと、親父殿と互角の戦闘力を持つ、性格グラハム・エーカー。おとめ座の男。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。コスプレしながら主人公を夜に襲うのが日課。普段着、外出用の服、コスプレ衣装の比率が1:2:8。