薩摩の子 作:キチガイの人
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追記・アンケートありがとうございました。
「トラック来たね」
「この時期に引っ越したぁ珍しいな」
ベランダから外の様子を眺めているアイに、室内でアルバイトに勤しむ俺は適当に返す。財務からの仕事がそこそこ回ってくるもんだから、ぶっちゃけ学校の宿題よりも大変である。やってることは算数の連続ではあるが、金を扱う仕事である以上ミスはしたくない。
この仕事の斡旋の多さには、例の
アイドルの活躍が多くて喜ぶファンはいるが、裏方の仕事が多くなることを心配する人間がいないのと一緒だ。
安定して安全な収入にはなった。
しかし、前よりは時給は格段に減った。
前までは首ポンポン獲るだけで稼げたもんなぁ。でも、アイのヤンデレ化事件から、宗家から「お願いだからお前は大人しくしとけ」と釘を刺されているくらいである。宗家と言っても当主殿とその他数名だが。
いや、あれ本当は俺悪くないんよ。善意の押し付けと、防刃防弾服貫通してくる
とりあえず「うっせぇバーカ」と返しといた。
「引っ越してくる住人も、怪しいのじゃないだろうから大丈夫だと思うぜ」
「誰が引っ越してくるのか、オーカは聞いてるの?」
「いや、知らん」
隣に引っ越してくることしか知らんと返しといた。
アイはその言葉に首をかしげる。
「ほら、ベランダから見えるだろ。駐車場近くのベンチで、いつも日向ぼっこしてるじーさん」
「雨の日以外は座ってるよねー。あのおじいちゃん、私にいつも声かけてくれるし、お菓子とかもくれたりするんだ。確か下の階に住んでるんだっけ。あのおじいちゃんがどうしたの?」
「あれご隠居。先代島津の当主」
「そうだったの!?」
誰か知らない人からお菓子貰ってるのか、ウチの恋人は。前世の死因を顧みて、命を大切にしてほしいと切に願う。(特大ブーメラン)
実際怪しいオッサンじゃないから別にいいけどね。アイの将来の義理の祖父にあたる人間だし。
「あの人がトラックをスルーしてるんなら大丈夫だ。不審者であれば、駐車場を大人しく通らせないからな。そういう意味では、ここのセキュリティーって万全だよなぁ」
「杖ついてるけど、おじいちゃんは強いの?」
「現役引退してっけど、めっちゃ強いよ」
島津の双翼の生みの親だぜ?
確かに年齢的に全盛期よりは衰えてはいる。今のご隠居なら親父殿10人くらいいれば、かすり傷ぐらいは負わせられるんじゃないだろうか?
リョースケ君何人いれば、この階までたどり着けられるんかね。
世間的には『掃除業者』と名乗ってるとか。
何を掃除するのか言ってないので大丈夫。
「でも、お隣さんが来るんだね。ここって防音とか大丈夫かな?」
「多少騒いだくらいで隣に漏れることはないと思うけど、何か聞かれたらマズいことってあったっけ?」
稀に馬鹿共と物騒な話をするくらいか?
「だってマニアックなプレイができなくなるじゃん」
「純粋な疑問なんだけど、あの服どっから調達してくるん? 鹿児島に暮らして長いけどさ、そんな服売ってる店見たことないんだよ」
彼女の衣装棚に洗濯物を持っていくときに見たことあるが、マジでやばいからな。普段生活してたら必要のない衣装が山のように出てくる。メイド服やチャイナ服、競泳水着から軍服、何の作品のキャラか分からんエッチな衣装まで取り揃えていた。
プレイに関しては……うん、はい。さすがは女優もやってただけのことはあるのか、素人目からして
「ナデコちゃんに頼んでるよ」
「だからアイツ最近死んだ目してるんだぁ……」
島津関係者から『正義の味方目指してないタイプの壮年の衛宮切嗣』って言われてんの知ってるかな。アイに衣装託して死にそう。
あの女、今までは大っ嫌いだったが、最近なんか不憫に思えてきた。現在龍造寺と諜報戦してて、双子釣り野伏計画も並行して進めて、しかもコレだろ? 過労死するんじゃないかなアイツ。
「今まではウチの左右が空き部屋だったけど、今回からご近所さんが来るんだ。エンカウントしたときは、最低限の挨拶くらいはしろよ」
「私の事コミュ障かなにかと勘違いしてない? これでも二児の母兼元アイドルなんだけど」
「その片鱗が感じられない言動が増えてるの自覚してね?」
彼女って自分に有益な人間関係しか築かないイメージだし。生前からそうだったのだろうか? アイから同世代の友人の話を一切聞かないんよ。
そりゃ隣のクラスに問答無用で駐屯している人物だからなぁ。しかも、成績も僅かながら徐々に伸びているから先生も胃を痛めながら諦めているし、ウチのクラスの人間からは評判がいいから何も言われない。男女問わずアイドル時代の圧倒的カリスマ性で虜にしとるんよ。分かっててやってるからマジ狡猾過ぎる。
急接近したアイに頬をぷにぷに引っ張られながら、俺は仕事に戻るのだった。
……あれ? なんか重要なことを忘れてる気がする。まぁ、いっか。
♦♦♦
次の日。
いつものように学校に行って、いつものように何故か1-2で
今回は道中アイと別行動をとる。近所のスーパーで買いたいものがあるとかなんとか。先に家帰って飯の準備するわって分かれて、今に至る。駐車場のベンチで微笑む先代に一礼し、俺はマンションの2階に上がる。
「……ん?」
なんか家の前に人がいる。
同世代くらいの女性だ。大人びた雰囲気があるが、どこか表情に影が見える、とても整った顔立ちの少女。手に菓子屋の袋を下げている。俺に気づいている様子はなく、意を決したように俺ん家のインターホンを鳴らそうとする。
これ声かけないといけない展開じゃん。まーたカウント増えるんだけど。
彼女はインターホンを鳴らす。
もちろん不在なので誰も反応しない。
「……いないのかな?」
「ウチに何か用ですか?」
「──っ!?」
俺の声に過剰に反応して距離をとる少女。
普通に傷つくくらい引かれたんだが。
「どうも、202号室の島津です。……もしかして、203号室に引っ越してきた方ですか?」
「え……あ……はい。203号室の者です。挨拶回りで来ました」
俺が隣人と知るや否や、少女は姿勢を正常に戻し頭を下げる。体の軸が全然ブレてないし、ウチの恋人みたいに何か演劇経験者だろうか。
これ菓子折りですと渡される。俺はそれを受け取──ちょっと待って。
俺は彼女に問う。
「一つお伺いしたいことがあるんですが」
「どうしましたか?」
「──黒川あかねさん、ですか?」
「──っ!?」
見てわかるくらいに彼女の表情が変わった。これビンゴだな。
当の本人としては心境は穏やかじゃないはず。今では沈静化したとはいえ、一時期大炎上の当事者だったのだから、身バレは最も避けたいことだろうし。その証拠に、この短時間で顔色が物凄く悪くなっている。
彼女は恐れている。この隣人に、どのような言葉を吐きかけられるのかを。
だから俺はスマホを取り出す。
SNSで拡散されるのかと勘違いしたのか、泣きそうな顔をして、自分の身体を抱きしめる少女。
「会話中すみません、ちょっと電話しますね」
俺はクソ馬鹿に電話する。
「──咸、なんか劇団のエースが隣ん引っ越してきたんやけど」
『あ、言ってませんでしたか? 彼女をよろしくお願いしますね』
「お前を殺す」
俺は即座に電話を切った。
そして彼女ににこやかに笑いかけた。内心は全く笑ってなかったが。
俺聞いてねぇんだけど!?
え、ちょ、マジで言ってるんすか!?
ウチのマンションは芸能界の避難所じゃねぇんだぞ!?
いや、まぁ、首狩りセコムいるから一番安全だけど!?
「咸君を、知っているんですか? もしかして……彼の言っていた、桜華君?」
「……アイツが言ってたのなら、その桜華は俺ですよ」
彼女には説明するのに、俺に説明しないの何なの?と、社交的な笑みを浮かべながら内心舌打ちする。たぶんアイも知らないんだろう。
なんて考えていると、先ほどのよそよそしい態度が一変して、何の警戒もなく彼女は近づく。そして俺の両手を握りしめてきた。あまりにもの急展開に、俺は身構える時間すら与えられなかった。
「あ、あの! 桜華君にぜひ聞きたいことがあるんです! あ、玄関前じゃ話がしづらいですよね? 私の部屋、まだ片付いてませんが上がっていきませんか!?」
「いや、落ち着
「──オー、カ?」
何とも死ぬほどのバッドタイミングで現れる、俺の最愛の少女。
そりゃ、そうだろう。自分の彼氏が、前に話題に上がっていた有名人に言い寄られているのだから、彼女の心境は如何ほどか。俺の名前を呼ぶ声は、首に刀を振り下ろす音に聞こえたくらいだ。
「あの、アイさん。あのですね、これには深いワケが」
「……あはは、オーカ。私はちゃぁんと、分かってるよ」
瞳孔開いて嗤う彼女が十全に理解しているとは思えないが。
「
「せめて、せめて弁明をっ……!」
足早に俺に近づいてくるアイ。
状況が呑み込めないあかねさん。
俺は言葉では止められないと悟り、その場でノータイムで土下座を行うのだった。
ここは薩摩。
愛を渇望する転生者を優しく包む地は、新たな来訪者を迎え入れるのだった。
【次章予告】
無事恋人関係になった桜華とアイ。これで円満かと思いきや、どうやらアイの子供たちは復讐計画を企てている様子。東京圏には諸事情で足を運べない薩摩のキチガイ共は、双子を薩摩へ足を運ばせるために暗躍する。その一方で、桜華は隣人の黒川あかねに頭を悩ませることとになるのだった。
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