薩摩の子 作:キチガイの人
感想、評価頂けると幸いです。
ところで感想やら評価でアイ転生モノが珍しいとか言われるんですけど本当ですか? 皆さんも書きましょう。何なら土佐の子でも会津の子でも長州の子でも、ご当地に転生させて、徳川包囲網作りましょう。
Q.アイとルビーの二人組で鹿児島でご当地アイドルさせたらいいのでは?
A.チャンバラごっこに鎌倉武士を乱入させないでください。
039.有用性と無自覚
我が家は不穏な空気に包まれていた。
リビングには
アイは警戒心むき出しで対応しており、黒川さんも状況が呑み込めず困惑している。
俺は何とかキッチンに避難している状況だ。
どうしてこうなった?(純粋な疑問)
「──という状況です。どうしてくれるん?」
『逆に何をどうトチ狂ったら、そんな展開になるんですか? 確かに、事前に言ってなかった私も悪いですが、普通そうはならないでしょう?』
「なっとるやろがい」
俺は小声で元凶の馬鹿に文句を言っていた。
言いたくもなるだろう。明日学校休む可能性も出てきたぞ。
『彼女を薩摩に呼んだのは私です。本来ならば、責任を持って私の方で保護したかったのですが……桜華もご存じでしょう?』
「
薩摩の諜報活動、情報統制を司る税所家の現当主がこの男である。
黒川さん一人を保護するのなら、他家なら何の問題もないはずだった。しかし、税所家は特殊過ぎるのだ。裏での暗躍はお手の物、下手すると秘密裏に消されかねないのが、税所という一族だ。俺自身も咸との交流はあるが、税所家そのものには極力関わり合いたくはない。
あの集団、咸と島津への狂信が過ぎる連中の集まりだもんな。
誰か一人でも『彼女は税所家当主に相応しくない』と考えれば、翌日には消えている可能性もある。そして、それに罰を下そうものなら『ありがとうございます!』とか言ってくる始末。嫌だよ、あのドM集団。
その点、このマンションは最高の環境だろう。
先代が彼女の存在を認めている時点で、税所家の人間は彼女に手を出すことはできない。
『あかねさんは今、非常に情緒不安定なんです。一度は自殺を試みるくらいには病んでいますからね。彼女には何か困ったことがあれば、203号室在住の島津桜華という少年に頼ってほしいと伝えてますから』
「俺は精神科医じゃねぇんよ。しかも、既に情緒不安定な恋人も抱えてるんよ」
そして
俺はキッチンでしゃがみながら項垂れる。
その姿は見えないはずなのに、咸はそのタイミングで「すみませんね」と労ってくるのであった。
『後で埋め合わせはします。……それに、彼女の交流は桜華にとっても悪い話じゃないでしょう?』
「そのせいでウチの恋人が不機嫌なんやけど」
『彼女──黒川あかねさんは、例の計画で必要となる
俺はその言葉に眉をひそめた。
恐らく立案者は種子島家の人格破綻者なんだろう。斎藤社長といい、アイツは何をするつもりだ。
『我々は星野さんの子供さんに直接会いに行くことは難しいです。それならば、あちらから鹿児島に来ていただく他ありません。それは前にも説明しましたよね?』
「やっぱり徳川は邪魔だよね」
『それはいったん置いておきましょう。前回、斎藤社長と星野さんを会わせることで、彼経由で双子に話が行く流れは作りました』
斎藤社長にも俺とアイから伝えている。
双子と接触することがあれば、本人たちの信じる信じないにかかわらず、元人気アイドルの生まれ変わりが薩摩にいることを伝えても構わないと。
『しかし、成功率を上げるには複数の策を講じるものです。できれば彼女と星野さんにはぜひとも仲良くなっていただきたい』
「……あー、そういうことか。よくもまあこんなクソみたいなこと思いつくな」
『えぇ、
彼女が仕事の際に使用していたSNSのアカウントは一切更新させてないという。というか新しいアカウント作ってしまえば?と咸から彼女に持ち掛けていると。
しかし、ファンやアンチの執念とは凄まじいものだ。
例え新しいアカウントを作ろうが、人権無視の蛮族共は特定をしてしまうだろう。
咸が言いたいのはこうである。
その新しいアカウントで、黒川さんと、その友人となったアイのツイート(又は写真)を載せることで、双子に彼女の存在を匂わせることが目的であると。
咸の妨害で未だに復讐相手の手がかりすら掴めていないアクア君のことだ。このツイートを見つける可能性は、そう低くはないだろう。
『彼女を助けたのも、彼女の知名度が欲しかったからですよ。まぁ、星野さんの魅力であれば、SNSの鍵を外せば双子に届きそうではありますけどね。こっちのほうが楽でしょう?』
「……そう、だな」
『いやはや、最初は星野さんの元旦那さんの特定の為に交流してましたが、ここまで使える存在だったとは。元女優という点も、今後使い道がありそうですね。こちらで確保できたことは僥倖とも言えるでしょう』
「……ところで一つ聞きたいんだけどさ」
この発言だけ聞けば、咸は黒川さんを計画の
さすが税所家の麒麟児。
どこまでも情報というものに残酷な一族である。
でもさ、
「黒川さん助けるために外車売ったって聞いたけど、本当?」
『えぇ、資金が不足してたので。税所家の資産から出すわけにもいかなかったですし、結構高値で売れたので、私の懐は潤ってますよ』
コイツ、小さい頃から夢見てた、○○社の超高級車を自分の貯金が貯まったからと即購入したんだよな。早く18歳になって乗り回したいと、購入時に耳に
咸はそれを駒を入手するために、何の迷いもなく売り払った。
……あれかな。自覚ないんかな。
今もなお、彼女を『使える駒』であると力説する彼に、少し前の俺もこんな感じだったのかなぁと白目をむきながら聞き流す。
ごめんな、未来。あの時の俺、頭島津だったわ。
その後「彼女はお金がないので食事の提供お願いします。桜華の口座に振り込んどきますね」と、駒の食生活を心配する咸から多額の資金を頂き話が終わる。
提供する食事の栄養バランス考えろってことですね。
「ほーい、飯やぞー」
「「………」」
そんで我が家の最悪な空気をどうしてくれようか。
それぞれの前に配膳し、俺はアイの隣に座る。
彼女らをどう仲良くさせればいいのか。
実は答えは簡単なんだけど、男女間の問題も発生してくるので、電話をする前は躊躇していたことは認めよう。しかし、咸に丸投げされた以上、俺は遠慮するつもりは一切ない。
「ところで、黒川さん。さっきの相談したいことって、もしかして咸のことに関係ある?」
「……はい」
ここでアイは『咸と仲の良い女の子』と『咸が黒川さん関係で奔走している』という情報を思い出したのだろう。加えて、彼女が税所家の麒麟児の名前を出した瞬間、分かりやすく赤面していることから、彼女が自分の敵ではないと理解したはず。
露骨に雰囲気が軟化するアイに、もっと早く気付いてほしかったなぁと内心思う俺。
でもとりあえずヨシっ!と自分を納得させ、黒川さんを見据える。
あぁ、黒川さんとアイを友達にしようじゃないか。
「俺が分かることであれば協力しよう。咸のこと好きなんだろ?」
「……へぇっ!? わ、私は、そのっ……!?」
「隠さなくてもいいから大丈夫だよ。アイツの昔からの友達だからこそ、黒川さんみたいな女の子なら安心できるからさ。アイも応援してくれるだろ?」
「もちろん、応援するよ。みっちゃんと、貴女との恋を、ね?」
ひとまず咸を贄にして、な。
【島津 桜華】
主人公。今回の件で咸とあかねをくっつけたろ!と画策するが、自分も恋愛初心者なので何すればいいのか分からない様子。とりあえず経験則から咸にゴムは渡しておこうと思う。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。自分の安寧の為にもみっちゃんと彼女をくっつけようと思うが、自分も恋愛初心者なので何すればいいのか分からない様子。とりあえず経験則から外堀内堀を埋めることの大切さを説く。
【黒川 あかね】
劇団『ララライ』の元エース。なんか知らんけど薩摩に移住している。詳細は次話で明かされるかも。