薩摩の子 作:キチガイの人
もちっと続きます。
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「とは言ったものの、まずは自己紹介からしましょうか」
「あの、改まった口調に戻さなくていいよ?」
よくよく考えてみたら、俺とアイは彼女のことを知ってはいるが、彼女は俺たちのことを知らないだろう。いや、アイのことはもしかしたら知ってるのかもしれないけど、とりあえず別人設定で世間にはゴリ押しているので。
加えて、黒川さんが高校2年生で俺の人生の先輩だと思い出したので、早急に態度を改める。え、撫子もだろって? いや、人格破綻者が人生の先輩面しないでもらえますか?
けれども、その態度急変に待ったをかけたのが黒川パイセン。曰く、咸の友達とは距離感なく仲良くしたいとの事。めっちゃ健気な人じゃないですか。
なんで炎上したんですか?
「それに、私も桜華君とアイさんと同じ学年になるし」
「え? 黒川さんが通ってた学校って、そこそこの進学校じゃなかったけ? こんな自称(爆笑)進学校に1年からリスタートする必要なくない?」
スマホで彼女のwiki見ながら質問する俺。
すると、目に見えて赤面する元女優の女の子は、か細い声で胸の内を語るのだった。
「……だって、咸君と同じ学年になりたかったから」
「分かる」(即答)
黒川さんの乙女心に、力こそパワーと言わんばかりに、ゴリ押しで1年2組に駐在する少女は深く何度も頷く。この少女のせいで山田教諭は胃薬片手に授業を行っていることを知っているのだろうか。知ってても改めなさそうだけど。
それにしても……そうか。同じ学年になるのか。何組だろう。
「話を戻そう。咸がどんな紹介したか知らねぇけど、念のためな? ──俺の名前は姓が島津、名を桜華。咸の腐れ縁で、××高校1年生だ。ちょっと家柄が古いだけの、普通の15歳のガキだよ」
「普通……?」
ウチの恋人が物凄い怪訝な目で見てくるの何なの。
親父殿やご隠居に比べればカタギと変わらねぇよ。
すると、彼女は微笑みながら、俺の自己紹介に補足を加える。
「うん。咸君から聞いてるよ。
「俺の裏の個人情報が丸裸にされてるんだけど」
「オーカを丸裸にしていいのは私だけだよ?」
「そういう意味じゃねぇ」
そんなディープな話を初対面の人間にするんじゃありません。
ってか、一般人に話していいことじゃねぇだろ。裏でドンパチやってることも知ってるし、駒にしては情報提供し過ぎじゃないですか咸さん? これ、駒ってクイーンのこと言ってる?
その後アイも自己紹介するが、案の定と言うべきか、咸から必要以上の情報が彼女に渡っていた。さすがに転生者のことは話してないが、島津家当主の後ろ盾がある等、割と中枢に近い事情すら彼女にインプットされているようだ。
なぜ彼女が深いことまで知っているのか。
大体の予想はつくが、まぁ、後で咸と答え合わせと行こうか。
一通りの自己紹介が終わり、次の話題に移る。
というよりも、俺とアイが今一番知りたいことを彼女から聞くのだった。本心ではあまり聞きたくはないが、知らなきゃいけないことなので仕方ない。
「どういう経緯で薩摩へ?」
「………」
俺やアイの個人情報を喋るような饒舌さは消え去り、代わりに若干青ざめたか弱い女の子が、そこにはいた。自分の身体を抱きしめながら、それでも俺たちに説明しないといけないと、無理やり口を動かしているようにも見える。
俺だって傷口に塩を塗り込むような真似はしたくない。
しかし、咸から任されている以上、俺は彼女を保護する責任がある。彼女が
たどたどしく、それでも時間をかけて、彼女は薩摩に移住するきっかけを語る。
恋愛リアリティショーとして知られる、『今からガチ恋始めます』という番組に出演するところから全てが始まる。まぁ、聞く限りでは若者の台本のない恋愛ドラマ的なアレなんだろう。俺は知らん。アイも知らん。そんな番組に造詣が深ければ、俺は今頃アイに食われてない。
そこで番組での出演時間に伸び悩んだ黒川さんは、番組スタッフのアドバイスで悪女ムーヴをやらかし、共演者の女の子を物理的に傷つけてしまい、結果ネットが大炎上。問題は当事者間で解決したものの、それでも炎上は収まらず。俺も少しは覗いたことがあるが、そりゃもう罵詈雑言の嵐で、未成年のガキ一人に対して関係ない第三者の悪意が容赦なく襲いかかっていたのを思い出す。
そして──黒川さんは自殺を図った。
『疲れた』
『もういいや』
『考えたくもない』
自室で首を吊り、結局は失敗した。
もう一度自殺を図ろうとするも──死の間際に感じた、潜在的な恐怖が歯止めとなり、二回目の首吊りが行われることはなかったと語る。
世間からは後ろ指をさされ、自死すらもできない。
自室で嗚咽を漏らしながら泣く彼女に、一つのLINEの通知が入った。あの税所家の麒麟児からで、最近、演劇等でのアドバイスやプライベートでの悩み相談で親しくなった、顔の見えない少年からの励ましの言葉がそこにあった。
しかし、彼女は疲れていた。
既に心は、壊れていたのだった。
彼女はあろうことか、咸にLINE電話を行う。
『───』
『………』
『──っと、すみません。黒川さん、でしたか? こうやって声を交わすのは初めてでしょうか。何か相談事……と言っても、例のアレですよね。黒川さん、あまり外野の声は気になさらず』
『私、死にたい』
彼女は自分の心の内を吐き出した。
心の黒い液体を、顔も見たことのない相手にぶちまけるのだった。
『もう゛、しにだい。でも、こわくで、しね゛ないよ』
『黒川さん……』
『わだじ、もう、もう゛、やだよ。ごわいよ。いやだよ』
『………』
『……だずけで。み゛なぐん、だずげでよぉ、わだし、もう──づかれだよ』
彼女の心からのSOS。心を折られ、再起不能になった少女は、顔も知らぬ少年に助けを求めるくらいには、心身ともに限界まで疲労していたのだった。
『黒川あかねさん、貴女には天性の才能があります。この荒波を超えることができれば、より一層成長することが可能です。そう、貴女は演劇をやりたくて、
『……っ』
『……ですが、それでも、それでも無理だと。もうダメだと。その世界では生きていけないと。そう、思うのであれば──』
前者の回答は彼女の望んだものではなかったのだろう。
咸はそれを悟って、第二の選択肢を提示する。
『──私にもう一度、助けを求めてください。逃げましょう。逃走とは動物の生存本能です。そもそもが動物な人間が、その選択をしてはいけない道理などないでしょう。逃げてしまいましょう。生きてさえいれば、再起はある』
『……あ、あ』
『黒川あかねさん、どうされますか? 踏みとどまって女優への栄光を掴みますか? それとも、そのしがらみから解放されたいですか?』
彼の残酷な問い。
しかし答えはすんなり出る。彼女は、もう全てに疲れていたのだった。
『──み゛なぐん、だずげで、み゛なぐん……!』
分かりました、任せてください。
彼はそう言って、行動に移した。彼が持ちうる全ての資産、コネを十全に発揮し、短時間で彼女の薩摩で暮らす基盤を作り上げたのだった。弁護士を雇ったのは、様々な法的手続きをスムーズに行うため。貯蓄を使い、足りなければ私財を売り、金銭ガン無視で時間重視で炎上騒動以外の全てを穏便に解決するのだった。
それだけの行動力があるのなら、引っ越しのことぐらい隣人に先に言えよと思わなくもない。
「咸君は、私の元女優としての『黒川あかね』に有用性を見出して手を差し伸べた。それは分かってるの。私には、それしかできないから……」
「………」
彼女は本当に考察とか得意なんかな?と島津少年は訝しんだ。
それだけで夢投げ捨てるような奴かよ。
「私、咸君の役に立ちたい。咸君の『駒』になりたいの」
「………」(え、そういう愛の形もあるの?、というアイの視線)
「………」(まぁ、愛って理屈じゃねぇから、という俺の返し)
要約すると、彼女は咸にとって『都合のいい女』になりたいそうだ。それが助けてくれたことへの恩返しなのか、多額の資金を出させてしまったことへの贖罪なのか、はたまた別の感情で動いているのか。
なので、彼好みの女を演じるための情報が欲しいと、元女優の少女は頭を下げてくるのだった。
その願いに答えたい気持ちはある。
あるにはあるんだが……そこで一つ重要な問題が発生する。
「アイツの、ことかぁ。よりにもよって、アイツの情報かぁ」
あの秘密主義の税所家の現当主だ。
ぶっちゃけ言って腐れ縁ではあるけれど、俺は兼定や未来の情報と比較すると、俺は咸という男を知っているわけではない。確かに薩摩の中で彼をよく知る人物と言えば、真っ先に俺の名が挙がるだろう。
知ってることはそこまで多くはないけれど。
「うーん、何て言えばいいのかなぁ」
「どんな些細なことでもいいから、教えてくれないかな」
「いや、別に渋ってるわけじゃないんよ。アイツのことを根掘り葉掘り聞かれたことないからさ」
だから、だろうか。
あの秘密主義の最大の秘密を知っている俺だからこそ。
咸について聞かれたこと自体なかったものだから、俺は思わず口を滑らしてしまったのだった。
「そもそも、アイツって戸籍上死んでるからなぁ」
【島津 桜華】
あ、やべっ。
【星野 アイ】
え?
【黒川 あかね】
え?