薩摩の子   作:キチガイの人

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 次回はほのぼのさせたいです。
 何気に星野アイ(高1)と黒川あかね(高2)が対話する作品ってコレだけなのでは?
 感想、評価頂けると幸いです。


 しかし、どうシュミレートしても、主人公とルビーが衝突する先しか見えないんですよね。これは困った。
 あと頭から『スーパー薩摩隼人カミキ君』って単語が頭から離れません。どっから出てきたこの単語。命に重みを感じる(物理)になるやんけ。


041.嘘つきばかり

 俺としては心の内でつぶやいた言葉だった。

 うん、心の中でね?

 

 

「「………」」

 

 

 たぶん口に出ちまったな。

 彼女らの時が止まったように表情をこわばらせる有様を見れば、咸の秘密をゲロったのは一目瞭然だ。アイツから口止めされてないからセーフに近くないアウトだけれども。

 

 俺は一つ咳払いをする。

 そして営業スマイルを浮かべるのだった。

 

 

「ここオフレコでね?」

 

「オーカ、ばっちりオンエアしてるよ」

 

 

 オメー逃がさねぇからな?と言いたげに、愛しの彼女は俺の左腕に絡みついて甘えてくる。前進逃亡が十八番の島津武者ではあるが、これには鬼島津(義弘公)も逃げられないだろう。

 対面の黒川さんもメモ帳をばっちり構えている。

 

 これは咸のアレコレを吐くまで満足しないようだ。

 念のためにキャリーケースまで持ってきてるの用意周到過ぎるでしょ。

 

 

「お願いしますっ」

 

「……あぁ、もう、分かった。分かったから。話すよ、話せばいいんだろ」

 

 

 黒川さんの熱心な拝み倒しに陥落する俺。

 口を滑らせた俺が10割悪いけれども、この時ばかりは丸投げした咸にも責任があると思いました。完全に責任転嫁である。

 

 

「じゃあ、さっきの発言について詳しく。みっちゃんが戸籍上死んでるってどういうこと?」

 

「あー……その前に違う話していいか?」

 

「それ今の質問にも関わってくる?」

 

「じゃなければ話さんわ」

 

 

 アイは黒川さんに視線を向け、黒川さんはそれに頷く。

 了承も得たところで、俺は彼女の望むであろう、俺の知るアイツの情報を提供した。

 

 

「さて、まずはアイに質問だ。咸とアイが会ったのって中坊時代の最後辺りだよな。それまで一切交流がなかったと思うけど、お前に対してなんか優しくなかったか?」

 

「んー、そうかな? みっちゃん元々優しいよ?」

 

「………」

 

 

 咸が特定の女性に優しい。その情報を聞いて、若干不満げにペンを走らせる元女優の少女。一方のアイは、完全に友達感覚なんだけどね。

 別に彼女を嫉妬させるために吐き出した情報ではないが。

 

 

「こういうのは、なんつーったけな? 類似性バイアスってやつ?」

 

「自分との共通点に対して好感を持って、その点を高く評価してしまう……っていう意味だよね?」

 

「黒川さん、物知り過ぎない? ……そそ。アイに前にも言ったけど、星野アイと税所咸って、本質がかなり似た者同士なんだよ」

 

「私とみっちゃんが? どこが似てるの?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺がアイと会った時、似た奴がどうのこうのって言ったじゃん」

 

 

 嘘つきの友人。俺はアイという少女と出会う前から、呼吸するように嘘を吐く人間との交流があったのだ。島津桜華という男が、嘘ばっかつく少女に嫌悪感を抱かなかった理由に、彼女のような存在と幼少期から交流があったという点もあるんじゃないかな。

 咸がいなければ、もしかしたらアイとの交流も、もう少しギクシャクしたものになっていた可能性もある。

 

 

「そんで話を戻す。アイも外では呼吸するように嘘バラ撒くが、咸のそれはアイのように生易しいもんじゃない。もう嘘。ぜーんぶ、嘘。嘘で嘘を塗り固めて、嘘で構成された、薩摩随一の嘘吐き野郎。それがアイツなんだよ」

 

「彼が、嘘吐き……」

 

「そんなショック受けなくてもいいよ、黒川さん。アイツの質が悪いのは、嘘で構成されたそれで、本当を囁くから見抜きにくいんよ。君を助けると言った言葉も、その献身も、十中八九本物だろうから安心して」

 

 

 彼女のメンタルもカバーしつつ、俺は再度爆弾を投じる。別にリスキルしたくてフォローしたわけではないことは明言しておこう。

 

 

 

 

 

「アイが噓をつくことを極めまくったらアイツみたいになるんじゃないかな? いや、無理か。だって『()()()()()()()()()()()()

 

「「……!?」」

 

 

 

 

 

 目を丸くして驚く女性陣。そら驚くよなぁ。名前が覚えにくいと愛称をつけたり、必死になって助けを求めたその名前が、そもそもが嘘であったというのだから。

 しかし、俺は他者につく嘘は苦手。

 悲しいことに現実だ。

 

 

「ここで俺がうっかり吐いた例の言葉を思い出してほしい」

 

「……っ、もしかして、咸君が戸籍上死んでるって、その戸籍に載っている名前が本物?」

 

「当たらずとも遠からず。あいつは既に公的には3()()()()()()()、その倍以上の身分があり、さらにその倍以上名前が存在する。『税所咸』って名前は、その数多く存在する偽造戸籍の一つに過ぎないのさ」

 

 

 『咸』という言葉には『あまねく』つまり広い範囲を指す言葉であり、元々が個人を差すような言葉ではない。その時点で、アイツが名前というものに、それほど執着していないということが伺える。

 仕事上必要だと思っての行動に見えるが、アイツのそれは妄執の領域にまで来ている。余程自分の本当の姿を晒したくはないんだろう。

 ここでアイとの類似点である2番、3番が生きてくる。

 

 

「かつて税所家の名無しが言った。『名前というものは人を区別するための指標でしかない』と。アイツさ、父親が早死にしたし、母親に殺されかけて、逆に殺してんの」

 

「みっちゃんの、お母さん、が……?」

 

「何でなんて聞くなよ。俺もそこまで深くは聞かんかった。確かそこで自分の本当の名前を戸籍と共に葬ったんじゃなかったかな? だから本当のアイツは母親と無理心中してるって筋書きだな」

 

 

 俺はそこで一呼吸おいて、配膳の際に用意した麦茶のボトルからコップに注ぎ、その麦茶で渇いたのどを潤す。ついでに彼女らのコップにも注いではみたが、アイはぎゅっと左腕を強く握って、黒川さんはペンとメモ帳を再度構え、続きを促す。

 

 島津少年はため息をついた。

 他人の鬱暴露話は……あまり好きじゃない。

 

 

「そんな人間が、愛情を一身に受けて育ったと思うか? そりゃ『愛』なんざ知らんわな。肉親が死んで半自動的にアイツが税所家のトップ。俺もアイツが親愛の対象かと言えば、どっちかっつーと肩並べる戦友だし。アイツ自身も『愛』なんてものを必要としなかった」

 

 

 愛を渇望したのがアイであり。

 愛を知ろうともしなかったのが咸である。

 

 環境も境遇も似ているにも関わらず、その進む方向性は交わることはなかった二人。

 しかし、アイツを知ろうとするのなら、恐らく薩摩の中ではアイが適任じゃないかと思われると伝えた。そう、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「つまり星野さんを参考にすれば」

 

「オススメしないけどね。黒川さん、君が彼を知りたいってのならそうすればいい。でも、もしそれ以外の目的があるのなら。咸を支えたいって言うのであれば、アイを参考にするのだけは止めた方がいい」

 

 

 噓吐きと噓吐きが交わったところで、傷の舐めあいにしか発展しない。

 彼の隣に立ちたいというのなら──

 

 

「んー、要するに? 目黒ちゃんがみっちゃんとラブラブするのなら、私じゃなくてオーカを参考にすればいいってこと? 私にはオーカが必須だし、みっちゃんが私と同じなら、目指すならオーカなんじゃないかなぁ」

 

「……桜華君を、参考に、と」

 

「待って、俺が言いたいことはそうじゃない」

 

 

 黒川さんに薩摩兵を憑依させるのだけはアカンやろ。

 誰が『黒川あかね(さつまのすがた)』を望むんや。

 

 

「ここまで語れば、いかに咸が徹底した秘密主義の塊だってことが伝わったと思う。もう本人に聞くぐらいしないと、これ以上の重要情報って手に入りづらいんじゃないか? 教えてくれる保証はないけど」

 

「ううん、ありがとう、桜華君。ものすごく参考になった。私も頑張ってみるよ……少しでも咸君の、役に立ちたいから」

 

 

 情報分析が彼女の長所であるのに、その情報そのものが非常に入手困難。そんな状況下であろうと、彼女の目に諦めの文字は微塵もなかった。

 これだけ見ると献身的な女性に映るだろう。……しかし、俺は彼女の目に一種の『狂気』を感じた。普通に接しているようにも見えるが、女優という目標を失った彼女は、今は何を拠り所として生きているのだろうか。

 これはちと危うい。俺の手に余るかもしれん。今度馬鹿共に相談してみるか。

 

 後はまぁ、普通に暮らしてれば気づくこともあるんじゃないかな。

 今アドバイスできるとすればそのくらいだろう。

 

 

「……オーカ、聞いてもいいかな?」

 

「なんじゃらほい」

 

「オーカはみっちゃんの本当の名前って知ってるの?」

 

 

 その質問は予想できたことだ。

 俺はそれに是と答え、加えて言葉を重ねた。

 

 

「でも教えることはできない。これは咸自身から口止めされてるからな。今まで暴露した分は特に何も言われてないけど、これだけは再三言われたから、さすがのアイにも教えてやれん」

 

 

 だから、と俺は黒川さんに挑戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「それは自分で聞くことだ。何、親密になれば聞けるだろうさ」

 

 

 俺は君と彼がそのような関係になることを願う。

 その意味を込めて発破をかけてみるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何回搾れば教えてくれるかな」

 

「それ卑怯だと思うんすよ、アイさん」

 

 

 

 




【島津 桜華】
 主人公。薩摩で唯一、咸の本名を知る人物。税所家の人間どころか、島津家当主すらも知らない。これ咸の本名が『排泄物 吾郎三郎』とか言ってもバレないのではと思ったことはあるが、実行には移してない。

【星野 アイ】
 ヒロイン。転生者。咸の本名を知りたい。とりあえず後日、極限まで愛し合ってみたが、吐いてはくれなかった。不満に思いながらも、そういう約束は守る彼も好き。

【黒川 あかね】
 劇団『ララライ』の元女優。咸への献身が恋なのか否か分かってない様子。このカップルは手ごわいぜ、島津夫妻。
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