薩摩の子 作:キチガイの人
感想、評価頂けると幸いです。
ちなみになんですが、咸の本名は既に決めてあります。ルビーの『親からの無償の愛』論を一発でぶっ壊すレベルの胸糞ネームです。考えた作者自身がドン引きしました。いつか出します。
黒川あかねさんが××高校に編入した。
一時期時の人となった元女優の少女であり、例の炎上事件もあった関係か、校内でも賛否両論の嵐が巻き起こった。カレーが嫌いな人間だっているのだから、あの真面目で健気な少女を嫌う人だって存在はするのだ。こればっかりはもう仕方ないと割り切るしかないのだろう。
もちろん教師陣も一丸となって彼女を外敵から守るのだった。下手に騒がれるのも自称進学校へのイメージダウンに繋がるしな……という理由もあるが、なんか知らんけどウチの学校の教師陣は人格者が多すぎる。率先して彼女を守る動きを示した。
自分の立ち位置を俺たちも公言する。
俺はともかく、他の3馬鹿とかは、クラス内でもそれなりのカーストを維持しているからな。
『……黒川さん? あぁ、ウチのご近所さん。めっちゃ良い子だよ。あ、1年5組の税所となんかいい感じらしいよ?(ここ強調)』
『あかっちは私の友達だよ! 最近はウチに泊まりに来ることもあるんだー。あ、1年5組のみっちゃんと仲がいいんだって!(ここ強調)』
『えぇ、私も家ぐるみでお世話になっております。礼儀正しく、真面目で、とても素晴らしい女性です。ネットでの評価など、実際に交流しないことには分からないものです』
『あァ!? 炎上がどうしたァ!? テメェ実際に会って話したのかァ!? 目に見えねぇモン信じて、実際に見えるモノ信じねェでどうすんだよクソが。あ、1年5組のクソ咸が気にかけてたらしいぜ?(ここ強調)』
『こらこら、女の子の悪口は感心しないなぁ、ウチのクソ姉貴は例外だけど。あの事件だって当事者間で解決してるんだから、今更蒸し返すのもあれじゃない? あ、1年5組の税所が懇意にしてるとか(ここ強調)』
ところでアイのせいで俺も泊りに参加した噂が流れたんですが、これはどこに相談すればいいんかな。いや、確かに咸の要望でウチに泊めてるよ? でも俺一緒に寝てないからね? アイん部屋に女の子同士で寝てるからね? 俺は久方ぶりに一人で悠々と寝てるよ?
最近はアイを疑似抱き枕にして寝てると、抱き枕から聞いた。一人でいるとまた自殺しかねないと心配しての配慮だった。環境が変わったからと言って、メンタルもリセットされるわけでもないし。
そんなこんなで高校での噂や、心にもない流言飛語は鳴りを潜めていったのだった。
何なら××高校1年二大美女に名を連ねてしまったぐらいだ。だってあの黒川さんだぜ? そりゃ人気も出るわな。
そして黒川さんは1年3組に在籍している。
クラスに仲のいい女の子がいるだけでも安心度が段違いなので、アイは彼女のメンタルを慮って、1年3組に戻っている。
そもそも
俺の左腕はいまだに稼働する見込みはないが、それでも要介護というわけでもない。クラスの皆は何か物足りなさを感じながらも、担任が欠席者を確──
──バタンッ。
「──東先生! 遅れてごめんなさいっ!」
「東雲な。おー、嫁島津、戻ってきたのか」
「うんっ。あ、あとあかっちも連れてきましたっ」
「そうかそうか。山田先生にはちゃんと事前申告しているか?」
「山本先生は今日も休みです!」
「なら俺から学年主任に伝えとくわ。……おーい、そこん男子、机をさっさと移動させてやれー」
クラスの男子によって、最後尾に座っていた俺の横に机が二つくっつけられる。随分と慣れた移動であり、周囲の人間も最適化された動きを見せた。
アイは黒川さんの手を引いて、さも当然のようにクラスメイトの間をすり抜けるように歩み、さも当然のように俺の横に座る。そしてアイの横に黒川さんも座る。
……あれか、俺がおかしいんか。
なんで1-3の女子生徒二人が、1-2の俺の横で授業受ける気満々なの?
「今までオーカをほったらかしてごめんね? 今日からはずっと一緒だよ」
「……黒川さんは咸のいる1年5組に行った方がよくなかった?」
「あはは! オーカは面白いこと言うね。あかっちとみっちゃんはクラスが違うよ?」
手元に鏡がないのが非常に惜しい。
俺は動く右手で顔を覆って天を仰いでいる間に、ホームルームはいつものように終了し、国語担当教諭が入れ違いで1-2に入室する。先生は俺たちの場所を一見し、小さく嘆息して、授業に使うプリントを前列に渡して後ろに回すように指示する。もちろん乱入者分もしっかり回ってくる始末だ。
アイは少しでも成績を上げようと授業中は真面目に受け、他クラスにお邪魔して授業を受けることに慣れてない黒川さんは緊張したようにノートにメモを取る。
こうして俺の日常がなぜか戻ってきたのだった。
やっぱりおかしいよ。
♦♦♦
「き、緊張したぁ。物凄く緊張したぁ! 地方の進学校って、けっこう自由なんだね……」
「そこの問題児が自由過ぎるだけだよ」
時間は進んで昼休憩。
それぞれ昼食を用意し、俺たちは1-2で食事をとるのだった。この時ばかりは他クラスも入出可能な時間なので、3馬鹿も1-2にお邪魔している。これだよ、これが普通なんよ。
一番星の生まれ変わりの生まれ変わりがおかしいんよ。
「えー、でもでも、私は先生から怒られたことないよ」
「どうやらコイツには諦観って概念が存在しねェらしい」
「私は欲張りだからね!」
「こういうのが人生を楽しく生きる秘訣なのかもしれないなぁ」
俺の心労を度外視した会話に、引きつった笑みすらできなくなってきている島津少年。
アホ2人と非常識少女が楽しく笑っている横で、初々しいカップルみたいな会話をする2人の男女の方に耳を傾けよう。
「……申し訳ございません、今回の件が中々片付かず、黒川さんにお会いする時間がありませんでした。そうですね、今度の土曜日であればご自宅に伺えるかもしれません」
「ほ、ほんと? やった……あっ、まだ部屋全然片付いてない……!」
「荷解きがまだでしょう? 私も手伝いますよ」
「う、うん。ありがとう、咸君」
こういう初々しさMAXのカップルの姿を眺めるのも悪くないな。
俺は二人の会話を聞きながら、朝から作った弁当のおかずを口に運ぶ。アイは同じメニューにしたが、黒川さんは別のおかずを使っているので、あたかも半同棲してませんよアピールをしている。
世間体には気を遣うんですよ。
それともこれが普通の恋人の距離感だろうか。
ウチは付き合う前から強制的に同棲して、外堀内堀をガンガン埋められていたから、正直何が恋人同士の絡みなのか、未だによく分かってない。
アイに流されてヤることヤってんしなぁ。
なんて物思いにふけていると、左腕をぐいっと引っ張られる。
「あかっちばっかり見てたらダメだよ。私を見て、ね?」
「なんだ、寂しいのか?」
「うん」
頬を膨らませて抗議するアイに、俺はため息をつきながら自分の弁当箱に残っていた玉子焼きを摘まみ、彼女の口の中にねじ込む。
いわゆる乱雑な『あーん』である。正式なものは前に腐るほどやった。
「ほれ、これで満足だろ……って、箸が口から離れねぇんだけど……おい、ちょ、俺の箸を味わうんじゃねぇって、え、これ全然取れねぇんだが……!?」
玉子焼きどころか俺の箸すらも堪能する元アイドル。
一定時間経過し、堪能した彼女はやっと口を離す。
「えへへ、オーカとの間接キスだぁ。まだオーカのごはんって残ってるよね?」
「そうだな」
「ちゃんと箸を使って味わって食べるんだよ?」
小悪魔のように、可愛らしい笑顔を浮かべる彼女。
その姿を見て、俺は一生この少女には敵わないんだなと痛感するのであった。
「兼定、見てよ。この前、Amazonで注文したんだ」
「1ガロンのタバスコなんざ、使い切るのに何年かかンだ?」
「え、今から一気飲みするけど」
「テメェはとりあえず病院行け」
【島津 桜華】
主人公。あかねが家に泊まっている間は、搾られることがないので、ある意味安全な生活を満喫している。が、適度に発散させないと外で搾られるのでは?と震えながら毎日を迎えてる。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。最近あかねのことを『あかっち』と愛称で呼ぶ。欲求不満気味だが、友達のあかっちを放っておけないので我慢する。ところで旧校舎の空き部屋って人があまり通らないよね? せや。