薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼのシリアス回です。
 感想、評価頂けると幸いです。


045.健康は大切

 アイが高熱を出した。

 いつものように俺は起床したんだが、隣で寝ていた彼女は異様に顔が真っ赤だったので、彼女の熱を測ったところ、38度後半だったことが発覚した。とりあえず、俺の布団に寝かしている。

 何が原因だったのだろうか。

 

 

『オーカって濡れ透け大好き派?』

 

『馬鹿なこと言ってないで早く風呂入れ。ただでさえ雨に濡れたんだから、このままじゃ風邪ひくぞ』

 

 

 何が原因だったのだろうか。

 

 

『アイスおいしー』

 

『おま、まだ風呂入ってなかったのかよ。さっさと入れって。何時だと思ってんだ』

 

 

 何が原因だったのだろうか。

 

 

『このままシよ?』

 

『だから風呂入れって……!』

 

 

 何が原因だったのだろうか。(すっとぼけ)

 

 そんなわけで学校に行くまでの間、俺は彼女の看病を行う。本当は休んで看病してあげたいが、前回の俺が救急搬送時の件で延期になってしまった用事があるのだ。学年主任と関わっているので、流石にこれ以上延ばすのは先方に迷惑がかかる。

 星野母は大隅半島に家があり物理的に遠いので、俺の母親を呼んでいる。二つ返事で来てくれるとの事だった。

 俺自身が熱で寝込んだことが少ない為、発熱時の対処法が分からない。なので、スマホで検索しながら今の時間できることを探すのだった。

 

 

「ほれ、飲めるか?」

 

「ん……」

 

 

 まずは解熱剤を飲ませる。いつものような元気さや活発さは鳴りを潜め、とても衰弱していることは明白だろう。錠剤タイプと水の入ったコップを渡し、飲んでいる間に冷凍庫から保冷剤、棚から冷却ジェルシートを持ってくる。

 おでこに冷却ジェルシートを張り、枕の上に保冷剤を並べてタオルをかけて、彼女の横に寝かせる。羽毛布団を引っ張り出し、首から下を温めるようにかける。準備はある程度完了した。

 

 俺は意識がもうろうとしているであろう彼女に呼びかけた。

 彼女は辛そうになりながらも、俺の方を見る。

 

 

「俺は今から学校に行くから、安静にしとけよ? あと……あー……1時間ぐらいしたら、俺の母親が来るから、心配しないでくれ。んじゃ、行ってくる」

 

 

 屈んで彼女に語り掛けていた俺は立ち上がって家を出

 

 

「……あの、アイさん。手を放して頂けると」

 

 

 俺のカッターシャツをつかんで離さない彼女にお願いする。

 しかし、布団の上で寝ているアイは、ボロボロと泣きながら首を小さく横に振る。

 

 

「おぉか……行っちゃ、やだ……」

 

「……いや、今日ばっかりは休めなくてだな」

 

「やだぁっ……行かないで……一緒に、いて……」

 

「とは言ってもなぁ……」

 

 

 その掴む手は弱く、振りほどこうと思えば簡単に話すことが可能だろう。しかし、俺には盤石な岩よりも重く、無理矢理振りほどくことができなかった。

 悩んでいる間も彼女は懇願する。

 それは、そう、生前の──

 

 

 

 

 

「……おいて……いかないで……いい子に、するから……捨てないで……」

 

 

 

 

 

 前世の母親と、俺の背を重ねてしまったのだろうか。

 

 

「……はぁ、ったく」

 

 

 俺は彼女の手を振りほどいた。

 そしてスマホを操作する。

 

 

「やだ……やだぁ……おぉか……やだよぉ……」

 

「分かった分かった、今から行かないように色んなところに電話するから、少し待ってくれ。また学年主任から小言を食らうのか……面倒くさいなぁ……」

 

 

 俺は自分の担任と、最近復活したアイの担任に電話で休む旨を伝え、馬鹿共の全体LINEに休む経緯を入れ、最後に母親に買ってきて欲しいものの要望を伝える。

 ちなみに担任には学年主任に謝っといてくださいと嫌な役を押し付ける。後日、双方の担任の壮絶なフォローにより俺が怒られることはなかった。頭が上がらんわ。

 

 

「母上の看病の必要なくなったので、ゼリーかヨーグルト買って来て」

 

『はぁ? 急に言うな殺すぞ』

 

「……いや、アイが泣きながらどうしても学校行かないでって聞かなくて。正直、外出たら泣かれそうだし、買い出しにも行けなさそうだから、代わりに買ってきて欲しいなぁと」

 

『なら仕方ないわね』

 

 

 ウチの母上理不尽過ぎんか?

 俺は普段着に着替えて、スマホやタブレット、それらの充電器を持って、ベッド近くに腰を下ろす。予想していた通り、アイが自分の右手を伸ばしてきたので、俺は左手を贄に差し出す。

 これで俺は本格的に動けなくなった。

 

 スマホをポチポチしながら時間をつぶしていると、家の扉が勝手に開く。現れたのは家のスペアキーを持つ俺のオカンだった。

 両手にスーパーの袋を携えて推参したようだ。

 

 

「ホントすまん。こんな状況だからさ……」

 

「言い訳はいいから、アンタはそこを動かずアイちゃんの手を離さないこと。アンタの昼飯と晩飯はここに置いておくから。アンタの分の水分はコレ。洗濯はした?」

 

「あー……やってないわ」

 

「部屋干しだけど私がやっておくわ」

 

 

 その声はアイにも聞こえたらしく、弱弱しく彼女は謝罪の言葉を口にする。

 

 

「おかぁ、さん……ごめん……なさい……」

 

「アイちゃん、そういう時は『ありがとう』って言うものよ。そっちの方が、看病してる側は喜ぶんだから。ね?」

 

「ありが、とう……」

 

「フフッ、どういたしまして」

 

 

 母上はアイにウインクしながら浴室に入っていく。そこに洗濯機があるので、洗濯物を処理するために向かうのだろう。こういう時、信頼できる人間が近くにいることのありがたみと言うものを、ひしひしと感じることができる。

 ……前世の彼女には、果たしてそのような人物がいたのだろうか。

 

 アイが安静にし、母親が洗濯物を干した後に、キッチンで何やら作業をする。

 その間、バイトの休み願いを財務に申告する。

 というか財務に『アイが熱出したので、看病の為に今日は休みます』と伝えたところ、『じゃあ特別有給で処理しとくね』と返答が来ただけである。出来高制のバイトに特別有給とは何なのか。後で聞いたところ、俺の有給日数にはカウントされない、財務が勝手に決めた制度だとか。アイが絡むと以下略。

 

 

「これがポカリと水を混ぜたやつね」

 

「わざわざ赤子が使うタイプのストロー付きのコップを買って来たんか」

 

「だからこそ、よ。倒れても零れない作りなんだから、病人が水分補給するときに便利なの。アンタも将来父親になるんだったら覚えておきなさい」

 

 

 はえー、と感心しながら、受け取る。これ補充用ねと水筒も渡される。

 忙しい中来てくれた母親は、俺が家に残ることを確認してから、仕事に戻ると帰ろうとする。

 

 

「ゼリーとヨーグルトは冷蔵庫ん中。ある程度回復したらお粥でも作ってあげなさい。アンタ作れるわよね? もちろん美味しいやつ」

 

「簡単なものなら作れるよ」

 

「アンタの馬鹿みたいに頑丈な身体じゃないことは念頭に入れておきなさいよ。アイちゃんはか弱い女の子なんだから。たとえ治ったとしても、次の日も休ませなさいよ。アンタも」

 

「出席日数ってご存じ?」

 

「アイちゃんと一緒に補習受けなさい。以上」

 

 

 そうなるだろうなぁと思いながら、俺は母親の帰宅を見送った。

 その場にとどまりながら、だが。

 

 俺はやることもないのでスマホをポチるか、タブレットで漫画を読む。

 すると、アイが左手をぎゅっと握ってくる。

 

 

「おぉか、ごめんね? それと、ありがとう」

 

「濡れたら風呂にさっさと入ること。記憶したか?」

 

「次からは気を付けるね……」

 

 

 彼女は微笑み、そして寝息のみが聞こえるようになる。

 俺は終始、可能な限り寄り添うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──彼女の容体は?』

 

「寝てるよ。微熱程度に回復したし、それ以外の症状は出てない」

 

『それは良かったです。あかねさんも心配されていたので』

 

「後で謝らんとなぁ」

 

『……それで、今回の要件は?』

 

「アイの元旦那の件だ。ちょっと聞きたいことがある」

 

『何か気になる点が?』

 

「別に疑っているわけではないが、アイの元旦那が彼女を間接的に殺したのは確定事項なのか? そもそもの話、奴は本当に双子の父親か? 物的証拠、またはそういうデータは?」

 

『犯行がかなり前ですからね、物的証拠と言えるものはありません。が、調べた限りですと、彼以外にアイさんを殺せる人間がいないんですよ。なので通話履歴や当時の行動情報から、状況証拠で彼と判断しています。無論、他の可能性も考えて動いてはいますが』

 

「誤チェストなんて話にならないからな。ところで、一人調べてほしい奴がいる」

 

『どなたでしょう?』

 

雨宮(あまみや) 吾郎(ごろう)って男だ。宮崎の産婦人科医で、現在失踪中。アイの双子を産む際に彼女と実際に会ってる」

 

『……なるほど、その名前は聞いたことがあります。あまり気にしませんでした』

 

「嫌な予感がする。失踪中ってのも気にかかる」

 

『その心は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えた時期に違和感がある。失踪中と言う()()()()()()()とあれば猶更だ。あくまでも想像の範疇だが──アイの殺害に関与しているかもしれん」

 

 

 

 




【島津 桜華】
 主人公。薩摩的に嫌な予感は基本的に他人の死が関わるので、今回の予感を悪い方向に考えている。何ならセンセがアイの殺害に関わっているのでは?と疑っている。実際は被害者である。

【星野 アイ】
 ヒロイン。転生者。桜華の食べさせてくれるゼリーは非常においしかった。
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