薩摩の子 作:キチガイの人
……チッ、想像以上に俺の黒歴史を読んでいる人が多(ゲフンゲフン
感想、評価頂けると幸いです。
復讐劇は終わりを告げる。
あっけなく。
感慨もなく。
理不尽に。
不条理に。
目を逸らすな。それが──現実だ。
一言で表すならば『気持ち悪い』に尽きるだろう。
とにかく我慢弱く、人の話は聞かない、おとめ座の男。そしてアホみたいに強いのだから、周辺勢力から『(色んな意味で)手に負えない』と畏怖されてた。
一方で人材育成に尽力した方で、部下が弱いのは上司の責任と自負し、自分の元に来れば武士共に育てて見せようと豪語し、それを実現した有言実行の男。なので部下から多大なる人気があった。立花家の連中が猛者と称される理由である。
俺が知っているのはそれくらいだろうか。あのアイがヤンデレ化した事件まで接点がほとんどなかった人物だからなぁ。
そんな人物が死去した。
俺は彼の通夜に足を運んでいた。
「まさか生きて大友ん土地に来るとは思わなかったなぁ」
「お土産とか買っとく?」
「この時間じゃ店なんて開いてないだろうし、日帰りなんだから寄り道せずに行くぞ。明日学校が普通にあるってこと忘れるなよ?」
学生という身分から制服とかでも良かったのだが、今回は俺とアイは喪服に身を包んでいた。俺は家柄上すぐに用意できるが、アイのを用意するのが大変になるはずだった。そもそも、本当ならアイを連れて行く予定がなかったのだ。
一応は敵地であり、呼ばれたのは俺だけであり、本当はさっさと御焼香あげて帰るつもりだったのだ。
俺が呼ばれた理由も、自分が死んだときは島津桜華を通夜に呼んでほしいとの遺言があったためだ。さすがに無視するわけにもいかない。
『ちょっくら行ってくるわ。日付変わるころに帰る』
『私も行く』
『……たかだか通夜に行くだけだぞ』
『でもオーカは敵地で危ないって言ってたよね?』
『だから──』
『私、言ったよね? 危ないところには私もついていくって』
『………』
『一緒に生きて、一緒に死ぬって、言ったよね?』
『………』
俺はアイに根負けした。
あの立花のオッサンの葬式なのだから、闇討ちをする可能性は限りなく低いが、それでも最悪は想定するべきである。何なら黙って行こうなと考えてみたが、今日使う予定だったゴム全てに無言で針で穴をあけ始めた時点で、俺は白旗を上げた。
最悪大友に囲まれても逃げられる自信はあるが、アイに勝てる自信はない。そういうことである。
足早に実家に帰り、そこで俺はスーツに着替えた。なんか知らないけど、アイの喪服も事前に用意されていた。ウチのオカンは愛娘に必要な冠婚葬祭の服をちゃんと用意しているようだ。
そしてタクシーで予定地まで向かおうとしたが、その足に名乗りを上げたのは親父殿だった。通夜とはいえ大友の地に踏み入れるならと、送迎まで行ってくれるとのこと。とりあえず安全面の確保は確実なものになった。
「親父殿、すみません。帰りもよろしくお願い致します」
「うむ」
「えっと、お、お義父さん、ありがとうございます」
「……うむ」
俺はアイから父親の話を聞いたことがない。
つまりは、まぁ、そういうことなのだろう。彼女は父親という存在と、まともに接したことがないのだ。星野家でもあんまり接することが少なかったと、星野父から相談されたことがある。
彼女は父親との接し方が分からないんじゃないだろうか。ただでさえ不器用ながらも少しずつ母上に甘えているのだから、親父殿ならなおさらだろう。
それでも彼女なりに、しどろもどろになりながらも親父殿に礼を言うのだった。
親父殿もそれに満足そうに頷く。めっちゃニッコニコだった。アクア君とルビーさんの為に毎日500円玉貯金やってるとき並みには嬉しそうだった。
親父殿は駐車場で待機し、俺とアイは通夜が行われている会場に足を運ぶ。
さすが天下の立花家の葬式だ。ホールの外にも人があふれている。俺はアイの手を引きながら、受付へと向かうのだった。
受付の女性にお悔やみの言葉を述べ一礼し、香典袋を相手方に渡す。俺は芳名帳に俺とアイの名前、とりあえず実家の住所を記入する。
その途中、受付の女性が気づいたのだろう。
「し、島津っ……!?」
ざわりと周囲の雰囲気が一変した。
ガラの悪いニーチャンも、明らかにカタギじゃない人間であろうおっさんも、一斉して俺の方を向くのだ。そりゃそうだ、立花家の通夜に参列している人間が、島津の名を知らないはずはないのだから。
それでも俺は気にせず、芳名帳を書き終える。最後に一礼して、会場に足を運ぶ。
アイも一切気圧される様子はない。
こうなることは想定済みだったし、こういうとき嘘の仮面を被った彼女を頼もしく思う。俺が関わらない方面でのメンタル強度は馬鹿共お墨付きである。
「ほう、よく来てくれた、島津の
僧侶のお経がすでに始まっているが、俺以外にもまばらに焼香をあげる人間が会場にいる。あまりにも参列者が多い関係か、焼香フリータイムみたいな時間が設けられているのだろう。
遺影のある場所まで向かう途中、俺を呼び止めたのは大友家当主だった。顔だけは見たことがあり、前に写真で見た時より若干やせ細っていた。
とりあえずお悔やみの言葉を述べておく。
彼はそれに一言返し、隣のアイを視界に入れる。
「……そちらのお嬢さんは?」
「妻です」
「恋人です」
「二人の発言に相違があるが?」
くっそ。何をどう頑張っても、アイの自己紹介のスピードに勝てない。多分、脊髄反射で『妻です』と返しているに違いない。脳みそ経由してほしい。
大友家当主は「許嫁みたいなものか」と納得し、話を続ける。いくつかの会話を交わした後、場所が場所なので不適切だと思うが、それでも聞きたいことを尋ねてみる。
「今回、
「お主との戦での古傷がたたったのだろう。それが全てよ」
「……すみませんが、自分は導春殿に傷一つつけてません。それどころか、自分が負傷したぐらいです。他にも原因があるのでは?」
身に覚えのない死因の元凶にされてもなぁ。
俺は自分の無罪を掲げ、それ以外にも理由があったのでは?と当主に問う。大友の英雄を俺が原因で……なんて逆恨みされても困
「「「「「………」」」」」
え、なんか周囲にいる全員から目を逸らされたんだけど。
すっごい嫌な予感がする。
「お主との戦が原因である。……そういうことに、してくれないか?」
「……本当のところは?」
「……
そりゃ定期的に30個食ってりゃそうなると、目を遠くしながら語る。立花の英雄の死因が『めっちゃ好きな
大友勢力では、馬鹿みたいに牡蠣を食うおっさんを見て、彼が戦で死ぬか牡蠣に殺されるか……なんて話もあったらしい。
アホかな?
「だれも止めなかったんですか?」
「……あれが言葉で止まるなら苦労せん」
人の話聞かないもんなぁ。
毒殺の線も疑ったが、自ら取ってきた牡蠣だと論破された。
公的には、古傷による病死と記されている。
♦♦♦
俺とアイは通夜を早々に切り上げて外に出る。
既に日は完全に落ち、あまり光のないところなので満点の星空が見える。
「………」
俺は星空を見上げた。
巨星はまた一つ、堕ちてしまったが。
「……オーカ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。別に悲しんではいないさ。そもそも立花のオッサンは敵だったからな」
「やっぱりオーカは嘘つくのが下手だね」
彼女は俺の胴をギューッと抱きしめた。
小さい身体に、それでも確かに心臓の鼓動が聞こえるくらい接近している状況であり、ふと先ほど見たオッサンの遺体が脳裏をよぎる。
彼女は生きていて、オッサンはもう死んでいる。
多くの人間の死を見てきた。
いや、多くの人の死因が俺だった。
それでも、それでもだ。
「悲しくはない。それは本当だよ。ただ──少し寂しくはあるかな」
あの傍迷惑なオッサンがこの世にいないのを、寂しくは思う。
俺は彼女を抱きしめ返す。
せめて彼女の為にも、天寿は全うしようと。そう彼女に無言で伝えるために。
死因がアレであるが──せめて、安らかに眠れ。
俺はそれを悼もう。
【片寄 ゆらのインタビューより抜粋】
「──私にとって、カミキヒカルさんが、どういう存在か、ですか?」
「一言で言うのであれば、『命の恩人』です」
「あの転落事故はご存じですか?」
「私、山登りの時に足を踏み外しちゃって、
「あの時は死ぬのかなって思ったんですけど、私と同じように頭から血を流しているのに、カミキさんが助けてくれて……あれがなければ私はここにいなかったでしょう」
「……そういえば、あの事件からカミキさんも変わった気がします」
「前まではミステリアスだけど優しい男性だったんですが、最近は冗談とか言って場を和ませたりしてくれるんです。やっぱり、一流の役者さんだった方は違うなって思いました」
「……ま、まぁ? 私は今の話しやすいカミキさんの方が、す、好きですが?」
「えぇ、今後とも公私ともにお付き合いしていきたいです」
「……あ、そういえば。一つ気になることがあって」
「カミキさんの誕生日って××月○○日ですよね? ○○座ですよね?」
「あの事件からでしょうか。自分のことを『おとめ座の男』って仰るんですよ。何かの役作りでしょうか?」