薩摩の子 作:キチガイの人
コイツら無意識にルビー闇落ちさせることしかしてませんな。
感想、評価頂けると幸いです。
この時間帯のリビングでは各々が好きなことをする。
俺は学校で未来から受け取った資料を読む。
黒川さんはパソコンとスマホを交互に眺める。
アイはソファーに座っている俺の後ろからチョークスリーパーをキメようとする。
どうして?(素朴な疑問)
「……アイさん、俺は何か悪いことした?」
「その資料に載ってる可愛い女の子は誰?」
アイはニコっと笑った。
彼女の視線は俺の手元にある資料に目を向けられていたが。そして目が全然笑ってなかったが。
それを知ったうえで俺はいつも通り彼女に説明する。
別にやましいことなんて一切してないからな。これを入手したルートに関しては、正規の手段じゃないのでノーコメントだけどね。
「あぁ、彼女ね。本当に可愛いよね。……今も生きてたら、相当な美人さんだったんじゃないかな」
「それって……」
「退形成性星細胞腫だってさ。俺もよく分からないけど、軽く調べた感じ生存率が低い病気だと」
この資料を手に入れられた経緯は、立花のオッサンの通夜にまで遡る。
大友家当主と話をした際に、彼は俺に対して重要な情報を提示してきたのだ。後に正式な書面は送ると言葉を付け加えたので、根回し的な意味も含めて俺に教えたのだろう。
『導春の死は大友の損失だ。……我々は、宮崎北部から手を引く』
『……そこまで、ですか』
『大友は敵が多い。南に島津、西に龍造寺、北に毛利、東に長宗我部。導春亡き今、大友にそれらすべてと睨み合う余裕はないのだ』
他にも九州三国の停戦協定だったり重要な話も出てきたが、俺が一番気にするのはそこではなかった。
彼らは宮崎から撤退する。その後、その宮崎圏内で島津がどう動こうとも、大友はそれに関与はしないとの事だった。
俺にとっては立花のオッサンが残した最後の置き土産の気分だった。
そりゃそうだ。俺たちが調べている
バリバリ大友圏内だったので、どう調べようか馬鹿共と議論していたところでの朗報。俺らは後顧の憂いなく、大手を振って調べることが可能となったのだ。今ちょうどフットワークの軽い兼定は観光がてら宮崎の病院に足を運んでおり、先に資料等は未来と咸が調べ上げてくれたのだ。俺が手にしているのはその一つである。
「
「そうなんだ……ん? んー……」
彼女は一瞬納得しかけ、急に首を傾げた。俺が「どうした?」と聞いては見たが、最終的には「何でもないよ」と返された。
今までの経験から察するに、雨宮先生と彼女に関して何か聞いたような気がするが、今世含め十数年前の記憶なので、何を話したかのさえも覚えてない──と言ったところか。彼女は失踪前の雨宮先生と会話した数少ない人物の一人なので、できれば思い出してほしいところではあるが。
まぁ、あれから彼女も色々あり過ぎた。忘れるのも無理ないだろう。
俺は資料をペラペラ捲る。
書いてある内容は、あまり気分のいいものではないが。
「これ本当に担当医じゃない先生の経過報告書かよ」
担当医の簡素な報告書と比較するのが烏滸がましいほど、天童寺さんの軌跡を少しでも残そうと、死の間際まで必死に足搔いた記録が記されていた。ここまで入れ込むとなると、その喪失感は如何ほどだったのだろうか。想像に難くない。
どうやら先生が『アイ』を推し始めた理由も、この今は亡き少女が要因であったらしいな。
中には「おいおい、マジかよ」と言いたくなるような、彼と彼女の型破りなエピソードも含まれていた。アイのライブに連れ出したのかよ。羨ましいなオイ。
そして、流し読みをしていた俺は最後のページを開く。
開いて──嘆息した。
「……これは、
「ん? オーカ何か言った?」
「独り言だよ」
最後の報告書は、正直何書いてあるのか分からなかった。
彼女が死亡したことは分かる。そこしか分からんのだ。涙で滲んだ字が、長い年月で風化したことにより、これを解読するのは至難の業だろう。
ここまで私情まみれの報告書は基本病院側も残さない。それでも──十数年の時を経て、今は俺の手の内にある。
ここから彼が星野アイを殺害する動機をこじつけることは可能だ。イカレた人間なら、アイを天童寺さんが死んだ原因として狙う可能性もある。逆恨みなんてのはどこでも起こるし、生前のアイの死因も元をたどればファンの逆恨みとも言えなくもない。
しかし、可能性として除外はせずとも、俺の中で『
果たして、天童寺さりなちゃんは、雨宮先生と会えて幸せだったのだろうか? ここまで患者と向き合ってくれる先生なんざ、全国探しても中々いないぞ。
せめて──彼女の魂が、安らかに眠っていることを願おう。
「となると、だ。ホントにマジで雨宮先生どこ行ったんだろうな」
「センセどこ行っちゃったんだろ。元気だといいね」
「元気なら何らかの痕跡が残っててもおかしくはないんだが」
チョークスリーパーを諦め、いつの間にか横に座っていたアイと楽しく話していると、対面でネットの海に潜っていた黒川さんが浮上する。
「前々から疑問に思ってたんだけど、アイちゃんって、もしかして『アイ』なのかな?」
「「うん」」
「……あっさりバラすんだね」
「3馬鹿や撫子、島津家当主と複数重鎮、俺の両親、アイの両親も知ってることだからな。敏い黒川さんなら、俺が言わなくても勘付くかなーってのは思ってた」
「それだけの人間が、生まれ変わりを信じてるんだ……」
そうそう起こるはずのない奇跡みたいなもんだろうと俺は笑い、薩摩だし何が起こっても不思議じゃないよねと黒川さんは苦笑いをした。彼女は薩摩を何だと思ってるんだろうか。
俺だって非科学的なことをそうホイホイと信じるわけじゃない。
アイが言ってたから信じてるだけだし。
「あ、それとアイちゃんとのツーショット写真をSNSの私のアカウントであげたけど、これで良かったのかな? 確認して」
「ほいほい。……アイ的にはどうよ」
「私とあかっちが最高の角度で映ってる。100点満点」
だってさ、とスマホを返しながら評価をつける。
咸のアドバイス通りの予約投稿、未来のアドバイス通りの撮影場所の記録が残らない写真、兼定のアドバイス通りの周辺の人間の顔が見えないようなモザイク加工。
とは言っても、撮影場所自体はネットで調べりゃ出てくる鹿児島の名所だから、未来のは念の為の助言だろう。写真の内部記録を勝手に漁って特定する税所とかいう家の当主様もいることだしな。
「──ってな感じで、双子ホイホイ目的で黒川さんには協力してもらってるわけ」
「……え……えーと、生まれ変わる前のアイちゃんには子供さんが、いたってこと?」
「そそ」
「……それって、桜華君って既に双子のお父さん?」
「……そそ」
アイの為に動いているわけだが、同時に俺が別の覚悟を決める必要性にも迫られているというワケだ。こんな未成年のガキが父親だって言って、それを受け入れられる子供が世界にどれだけいることやら。俺には誇れる何かと言うものが存在しないので、こんな父親を持ってしまう双子には同情する。
せめて親父殿みたいな屋久杉並みの絶対的な安心感とかありゃ話は別なんだろうけど。
まだ会ったことのない双子に思いを馳せていると、俺の仕事用のスマホが鳴る。
相手は絶賛観光中の兼定からだった。
「もしもし、どした?」
『オイ、例の産婦人科医、見つかったわ』
「おー、マジか。そりゃよかった」
雨宮先生が見つかったらしい。
やっぱり資料眺めてるより、現地に行く方がいいね。百聞は一見に如か
『白骨化死体だけどなァ』
「……は?」
【島津 桜華】
主人公。ゴローセンセが犯人じゃないと信じたいけど、アイを守るためにも可能性としては留めている。まぁ、ないだろうけどね的なノリ。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。十数年前の話なので、センセから語られたさりなちゃんの話を覚えていない。その後色々あったし。主人公ベタ褒めなのでさりなちゃんに若干嫉妬する。なお娘である。