薩摩の子 作:キチガイの人
感想、評価頂けると幸いです。
カミキ「島津少年! このままだとルビー君が闇堕ちしてしまうぞ!」(元凶)
カミキ「私が手を差し伸べるべきなのか……? いや、しかし……」(元凶)
カミキさん帰ってもろて。
「──おー、ついに九州三勢力同盟爆誕したん?」
『情勢的に仕方なくない? 停戦とかいう名目上の大友と島津の同盟だよ? 長崎・佐賀が活動圏内の龍造寺的には、この二つ組まれると生き残ることすら難しいし』
「でも龍造寺って信じられんのか? あの当主CV石〇彰だろ?」
『とても誠実な当主さんじゃん。CV〇田彰ってだけで』
リビングで未来と軽い情報交換をしていると、対面のアイと黒川さんが、ちょいちょいと手招きをしているのが目に映った。「通話後に話がある」の意である。
特に駄弁っていただけなので、俺は早々に話を切り上げることにした。
「すまん、姫2人からのお呼び出しだ」
『てらー。夜は程々にねー』
「今日はしねぇよ。俺は」
『ハハハッ。キスNGの元アイドルが昏睡レイプ上等ってどうな──』
俺は電話を切る。未来の後半部分の呟きは聞こえなかったが、どうせロクでもないことを言っているのは目に見えている。
「んで、どないしたん?」
「オーカのスマホ貸して」
アイは笑顔で手を出してくる。
なぜ黒川さんが付き添いながら、そのようなことを言うのか意図が読めんが、俺は指紋認証でロックを解除したプライベート用のスマホを机に置く。
恋人はそれを手に取りながら、
「仕事用も出しといてね?」
「……俺のスマホなんか見て何するんだ?」
「浮気調査」
不名誉な嫌疑をかけられていることが発覚した。
俺は不愉快さを隠そうともせず、吐き捨てるように反論した。
「俺が他の女に現を抜かしてるって?」
「んー? それは絶対ないよ。私が言いたいのは、オーカが私に隠れてエッチな漫画やゲーム、画像とかを隠し持ってないかなぁって思ってるだけ」
「………」
「どうして反論しないのかな?」
持ってるからだよ。なんて言えるわけがない。
どうやら彼女にとってはエロい何かを持つこと自体が浮気判定らしい。そこらへん男女で考え方が違うのだから、俺的にはセーフでもアイ的にはアウトなのかもしれないなぁ。
……いや、待てこれ違う。
「……万が一仮にも俺のスマホから何の因果か見つかったとして、アイはそれをどうするつもりなの?」
「中身確認する。そして参考にする。オーカに無駄撃ちさせるわけないじゃん。私が居るんだから、漫画通りに私と愛し合えばいいでしょ?」
やはりかと俺は天を仰いだ。参考文献代わりにする気だ。
紙媒体だと次の日にはなぜかバレることを学んだ俺は、その保管場所を電子世界に移した。
それをアイは察したのだろう。
しかし、プライベート用にアイが求めているものはないだろう。それどころか俺のプライベートは誰かさんのせいで、撫子と黒川さんぐらいしか交友がないのだ。
問題は仕事用のスマホだ。これをアイに見られるのはちと厄介だが、それを言い出せるような状況ではないのは火を見るよりも明らか。俺は大人しくロック画面を外して差し出すのだった。
「………」
「………」
ところで黒川さんも見てるのはなぜなのだろう。
何も面白くないよ?
「……ねぇ、オーカ」
「はい」
「この『智子さん』『葵様』『綾波さん』『蛍様』って女、誰?」
「……あ゛っ」
俺の彼女は電話帳を開きながら、俺に微笑む。黒い星を輝かせながら。
声色としては『信じてるけど、それはそれとして彼女らの名前を聞いたことはないよ?』と言われている気がする。
説明しなかった場合、俺は数か月後に父親になる可能性がある。義理でもなんでもなく。
加えて俺は自身が盛大な過ち──二人に仕事用のスマホを見せたことを後悔するのだった。仕事用と言うことで、アイも黒川さんも、メールやLINEの会話履歴までは見ないと明言していた。そこら辺はちゃんと弁えている女の子たちである。
しかし電話帳までは考慮してなかった。冷や汗をかきながら説明する。
とりあえず正座もしておく。
「まず『智子さん』は兼定のオカンです」
「……あー、タネサダ君のお母さんかぁ」
「ラピュタのドーラおばさん的な人だったよね?」
黒川さんの例えが的を射すぎて貫通しそうなくらい的確であった。下手に言葉を連ねるより、彼女のような説明をした方が人には伝わるだろう。
アイも顔合わせをしたことがあるのは知ってるが、まさか黒川さんも知ってるとは思わなかった。後から聞いた話によると、彼女を参考にすれば頼れるお母さん像を再現できるかなと思ったらしい。
黒川あかね(ドーラのすがた)は、彼女のファンに殺されそうだから止めてほしいけど。
「そんで『葵様』は当主様の奥方です」
「あのすっごい美人の人だっけ?」
「モデルの人って言われても信じちゃいそうな美人さんだよね。実際にそうだったの?」
「いや、芸能人だった経歴はないはず」
夫のドルオタに理解のある美人な奥方。
というか俺のオカンよりちょっと上の年齢なのに、20代後半と言っても違和感がないぐらいに若く見える。それで当主様が何度か通報されたことがあるというのは秘密だ。
「それで、『綾波さん』は元仕事仲間っす」
「ふーん……可愛い? カッコいい? 美人?」
「普通。でも正直そんなのどうでもいい。この人がいなかったら俺は三回ぐらい死んでる」
俺が前線で島津やってた時代にお世話になった、医療班の女性である。彼女の存在は非常に大きく、本当にこの人がいなかったらアイとは会えてなかったと断言できるくらい、俺はこの人にお世話になりまくった記憶がある。
流れ的には綾波さんから応急処置→整形外科のオッサンの集中治療が定型化していたぐらいだ。『島津のナイチンゲール』『治療じゃなく蘇生』『薩摩兵ゾンビアタック作戦の要』と、様々な異名を持つ女性。
さて、これで説明は終了したな。
うん。もういいでしょ?(涙目)
「……最後の『蛍様』って誰?」
「……えっと、後で言ってもいい? ちょっと今は勘弁してほしいかなって」
俺はチラリと黒川さんを見ながら、アイにも分かるように思念を送る。届かないけど。それでも『察して』感を出していくのだ。
けれども恋人には案の定届かず。今回の調査の件は黒川さんも手伝ってくれた恩があるのか、ここで言ってほしいとアイは口にした。
彼女たちは知りたいと口にした。
これが地雷だと知らずに。
「……ま、マジで言わないといけないですか?」
「私はオーカを信じてるからね?」
「……はぁ、やっぱり残しとくんじゃなかったのかもしれねぇなぁ。それね、咸の許嫁の名前」
「「!?」」
名家のお嬢さんであり、馬鹿共や俺もお世話になった女の子の名前だ。
俺の言葉に黒川さんのメモする動きが止まり、ギュッとペンを握った。彼女にとっては想定内であってもショックはあっただろう。彼の都合のいい女になりたいという願いこそあれど、それでも彼に女の影がちらつくのは苦しいはずだ。
そして俺も現在進行形で心苦しい。
「アイ、その名前に電話かけてくれ」
「え、でも……」
「いいから」
彼女は電話帳から電話番号を選択し、耳に当てる。
おそらく、彼女の耳にはこう聞こえたはずだ。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめの上、おかけ直し下さい』
アイは電話を切って、困惑した表情で俺の名前を口にした。
けれども、俺は多くを語らなかった。
「……察して。俺からはこれ以上は言えない」
それ以降、彼女が咸に何か聞けたのかまでは俺も把握していない。俺が知る必要もないし、それは咸と黒川さんだけで話をするべきだと思ったからだ。
ただ──黒川あかねという少女は、髪を切らずに伸ばすようになったことは記しておこう。
誰を意識しているのかは……俺には分からない。
【島津 桜華】
主人公。エロ系なコンテンツを隠し持ってる『秘密の携帯3台目』も無事バレてしまう。ちなみに故人の電話帳は残しておく派。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。主人公が浮気するなんて全然思ってないけど、それはそれとして無駄打ち要因は排除する構え。ちなみに3台目の情報は咸から聞いた。それが仇となり、自分の隠してない裏話を知られるきっかけにもなった。