薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼの回です。
 『推しの子』の漫画を少しずつ読んでます。クッソ面白いです。
 ところで『15年の嘘(仮)』って映画するんですね。……本作でめっちゃやりたい。カミキ主導でやらせるか? 何なら鹿児島出身のアイ激似の女の子いるからリアリティがかなり増すよ? やる意味全然ないけど。
 感想、評価頂けると幸いです。


056.例のアレ

 学生の身分であるが、曲がりなりにも俺は島津の人間だ。

 暑中見舞いを各所に送らないといけない。

 

 自腹で。

 自腹で。

 自腹、で。(ここ強調)

 

 

「つっても、俺はめっちゃお世話になってる家臣勢や身内にしか送らんけどな。ほとんどは親父殿が全部送っちゃうし。今の俺は薄給だし」

 

「……ソウダネ」

 

「おいシングルマザー。もしかして暑中見舞い送ったことないのか」

 

「だ、だってぇ。住所バレするのはマズいし」

 

「事務所ん住所から送っとけよ……」

 

 

 そんなわけで、俺とアイは山形屋(やまかたや)に来た。

 山形屋とは鹿児島を代表とする百貨店である。鹿児島や宮崎に生息し、かつてはウチが大名やってた時の勢力図そのままに点在していたほどであり、薩摩で皆に知られているデパートだ。

 なんで薩摩なのに山形なんだって? 創業者が現在の山形出身の商人がやってた呉服屋が前身だからである。

 

 二人が赴くのは天文館にある山形屋本店。

 目指すは1号館6階の大催場。この季節になると暑中見舞い用の品物がずらりと並ぶのだ。

 余談ではあるが鹿児島でも有数の百貨店なので広い。俺は地元民なのに、山形屋だと普通に迷う。ここまで来るのに少々時間を要したほどである。俺は多分都心で生きていけない人間だと思った。

 

 

「うわぁ、こんな風に見本がずらって並ぶんだね」

 

「他がどういうシステムなのか知らんが、山形屋はそうだな」

 

 

 クソ広い会場の手前に見本が並び、その見本の前には注文票が置かれ、これで送りたい品を選んでいく。そして会場奥が会計&受付となっており、お金払って送り相手の名前や住所を記入することによって、あとは山形屋さん側が全部やってくれるのだ。

 なんと素晴らしいシステム。

 ……探せばもっといいシステムがあると思うが、実は山形屋経由で暑中見舞いだったりお歳暮を贈るのは、島津勢力内の暗黙の了解なんだよね。

 

 だって島津(ウチ)と山形屋さんは前身の呉服屋からの付き合いだし。

 昔からお世話になってるし。

 仕方ないよね?

 

 

「さてさて、送り相手は当主殿とバイトの上司だな。大隅のアイの父母にも送らんと。あとは親父殿に任せる。あと3馬鹿も送ってくるから送り返さないとね。あぁ、今年からは黒川さんにも送ろう。あ、と、は……っと。軍師(笑)にも送っとくか」

 

「結構なお値段にならないかな? 私、そこまでお金持ってないんだけど……」

 

「俺のバイト代から出すに決まってるだろ。あ、でもアイ名義で何人か送ってくれ」

 

 

 当主殿とバイトの上司(アイの大ファン)は確定として、人格破綻者にもアイの名前で送るか。

 

 

「最初に上のブツから選ぶか。酒が安定やな。アイ選んで」

 

「……えーとね、私20歳で死んでるから、お酒の事って全然詳しくないよ? 特に焼酎?っての全然飲んだこともないんだけど。本当に私なんかが選んじゃっていいの?」

 

「LINEで『アイが選びました』って言っとくから。お二方も、アイが選んだものなら喜ぶぜ」

 

 

 それなら……これとこれっ。と酒エリアで十数分考えたのち、そこそこのお値段のする焼酎の詰め合わせセットを選んでくる俺の恋人。

 銘柄も悪くないし、これならお二方もニッコリだな。

 

 ……後日、家宝として奉られると知ってれば、もうちょい高めの酒を選んだけどなぁ。

 当時の俺とアイはそんなこと知らないので、彼女の選んだもので確定してしまう。

 

 

「んで星野父母には和菓子の詰め合わせを送ろう。黒川さんもコレでいいかな? 明石屋(鹿児島の老舗)の和菓子って美味しいんよ。黒川さん和菓子はイケるって咸も言ってたし」

 

 

 深く考えず、鹿児島を代表とする和菓子屋の詰め合わせセットを選ぶと、いつものように左腕に抱き着いているアイが己の方に引っ張ってくる。

 どうしたんだろうか?

 

 

「……ねぇ、オーカのお義母さんとお義父さんにも送らない?」

 

「え? 確認したけど、必要ないって断られたぞ」

 

「お金は私が出すから、ダメかな?」

 

 

 そんなことを言われて、断れる人類がどれほど存在するのだろうか。

 断る理由もないのだから、彼女の考えを受け入れる。アイは自分で注文票を選び、アイ名義で送ることを決める。

 喜んでくれるだろうか? まぁ、考えるだけ杞憂か。

 

 ……後日、家宝として奉られると知ってれば、止めたんだけどなぁ。

 さすがに腐るので、母上が無理矢理に親父殿へ食わせたと聞いた。親父殿がめっちゃ幸せそうだったと聞いた。

 

 

「そんで馬鹿共と軍師(笑)にはコレだな」

 

 

 これまでの暑中見舞いの中元はそれなりの時間をかけて選んでいたが、俺はアイを引き連れて精肉加工コーナーへと足早に向かい、周囲を見渡して数秒もかからないうちに決め、何も考えずに注文票を引き抜く。

 本当に何の説明文も見てない。

 見ているのは、そう──

 

 

「お、オーカ!? それ〇万する肉だよね!?」

 

「そうだな。量少なっ。さすが地元産の最高級黒毛和牛のステーキだ」

 

 

 値段しか見てなかった。

 これは数年前からの俺たちだけの暗黙の了解なのだが、なんか知らないけど互いにバカ高いモノを選んで送るのが恒例となっている。

 なので後日、我が家にはアホみたいに高い暑中見舞いが送られてくる。

 

 いやー、これ軍師殿は初めてだから死ぬほど驚くのではなかろうか。兼定と咸にも事前に言ってるので、撫子の反応が楽しみ──

 

 

 

 

 

「……これ、黒川さんにも同じ事したら面白そうだな」

 

「あかっち泣いちゃうよ。色んな意味で」

 

 

 

 

 

 俺はさっそくグループLINEで呼びかけると、3馬鹿から即座に既読がついて、了承を得る。値段しか見てないけど、黒毛和牛だから不味いことはないだろうし、黒川さんもきっと喜んでくれるに違いないと確信する。

 他3人は何を選ぶんだろうか? 楽しみだ。

 

 後日、黒川さん宅に『鹿児島県産黒毛和牛ステーキ詰め合わせ』『高級海苔の詰め合わせ』『最高級カステラ4本入り』『知覧の銘茶』が送られてきたそうな。それぞれ数万超えることを調べた彼女は、俺ん家に真っ青になりながら土下座しに来たので全力で止めた。

 星野アイ理論(善意の暴力)は使いどころが難しい。

 

 これで全部選び終わった。

 あとは──

 

 

「さぁて、アイの元旦那には何を送ろうかなぁ!」

 

「さつま揚げとか良いんじゃない?」

 

「鹿児島の名産で殴っていくスタイル。俺は嫌いじゃない」

 

 

 今回のメインディッシュ、例の『星野アイ名義で元旦那宅に暑中見舞い発送(表示住所は島津家所有の廃村)』作戦が決行される日が来たのだ。もちろん当主殿から住所を借りる許可は得ている。

 さっそく鹿児島の特産品エリアまで赴き、俺もアイもノリノリで選ぶ。

 嫌がらせじゃないので、ちゃんとしたものを選ぶ。

 悪意はないのだから。(言い訳)

 

 

「ここは和菓子ルートで攻めるか? 『かるかん』なんてどーよ?」

 

「黒豚のしゃぶしゃぶセットとか。あ、でも高いかな?」

 

「この際値段なんざ知らん。知覧茶は……茶飲むのか元旦那」

 

「芋焼酎! ……彼、飲むのかな?」

 

 

 アレじゃないコレじゃないと議論を重ねた結果、黒豚加工肉詰合せを送ることが決定した。元旦那のプロダクションの住所は公表されているので、そこに『星野アイ』名義で送る。

 受付の人に関しても、俺の家名を出すと妙齢の女性が担当してくれる。もちろん()()()()()側の人間だ。

 

 

「えっと、黒豚セットを送るやつに、この封筒を付属して送ることって……」

 

 

 受付と会計時、元旦那への商品を送る話になったとき、アイが控えめに手提げカバンから表面に何も記入していない白い封筒を取り出して、受付の女性に渡す。

 女性はチラリと俺を見て、俺は小さく頷くと、アイに笑いかけながら「可能ですよ」と受けてくれた。島津故の特別対応である。

 

 女性が奥に引っ込んでいるときにアイに聞く。

 

 

「あれ、何入ってんの?」

 

「んー? あれはね──」

 

 

 アイはいたずらっぽく笑うのだった。

 

 

「──私とオーカのツーショット写真。あ、ちゃんとオーカの顔はモザイク加工してもらったよ。『私たち結婚しました』ってメッセージもナデコちゃんにつけてもらったよ!」

 

 

 肉の善意に、NTR写真の悪意。

 アイの元旦那への恨みは何気に深いんだなぁと思った。

 

 

 

 




カミキ「おぉ! 元妻から暑中見舞いが送られてきたぞ!」

カミキ「しかも写真付──あああああ、アイ君!? そんな島津少年とイチャコラして羨ましいぞ! しかも暴露対策に天〇門加工まで施されてるとはっ!」

カミキ「……でも黒豚は普通に美味だな」

カミキ「………」

カミキ「これは暑中見舞いのお返しをせねば」(善意返し)
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