薩摩の子 作:キチガイの人
初の黒川さん視点です。初なのにコレかよ。
感想、評価頂けると幸いです。
次回、宝石妹が動く予定です。
『……■■■君』
『おかあさんは』
『私のこと』
『大好きだったかな?』
この感情が彼への『愛』なのか分からない。
それでも──私を救ってくれた彼を、今度は私が支えたいと思った。
例え、それが私以外の女の為だとしても。
『──彼女の名前は
『咸君の、許嫁だよね?』
『9歳で死去してます。病だとは聞いてますが、詳しいことは私も知りません』
本当は桜華君の電話帳から、咸君のスマホの保有台数を調べようと思ってたけど、そこで咸君の秘密とも言えるような情報をもらった。
彼の許嫁。
この心のモヤモヤが何なのか分からないけど、次に会った時に彼に聞いてみた。
彼は困ったように笑いながら、自身の持つスマホの画像を私に見せた。
栗色の髪を長く伸ばした、キラキラ光る笑顔の、可愛らしい女の子。とても魅力的であり、誰もを魅了するような瞳で──
『アイちゃんに似てる……?』
『髪の色は違えど、雰囲気はそっくりですよね。私も星野さんに初めて会った時は、とても驚きましたよ』
親戚だと言われても違和感がなかった。
瞳に映る星の輝きが特徴的であり、スマホの画像に映る彼女にもそれがあった。
『あれ? でもアイちゃんは蛍ちゃんのことを何も言ってなかったよ? このくらいそっくりなら、桜華君がアイちゃんに何か話してもおかしくないのに』
『星野さんは私たちと話す時と、桜華のみと話す時では、雰囲気がまるで違います。蛍はどちらかというと桜華以外の人間と話をするときの彼女に似てますからね』
彼女も太陽のような子でしたよ。
咸君はそう懐かしそうに語った。
『でも、病気で亡くなったって、本当に咸君は知らないの?』
『私のせいですよ』
『えっ』
『私のせいです』
『………』
『そういうことにしてください』
彼はそう口にしたが、私はその答えに納得してなかった。
画面の中の少女を見ていた
だから、私は調べた。
ネットで調べ、税所家でも比較的交友のあった人間にも協力を仰ぎ、彼女のことを知る兼定君にも聞いて、演劇をしていた時の癖なのか、プロファイリングを用いた考察を考察で重ね、徹底的に調べられる限りのことを調べた。
調べて。
調べて。
調べて。
──私は、絶望した。
『……なん、で』
鍋島蛍は税所家の謀略で殺害された。
鍋島蛍は8歳で心臓の病気で入院し、1年間の闘病の末死去した。彼女の母親は既に行方不明であり、彼女の父親は彼女の死から数か月後に自殺。身内の不祥事を隠すための口実だったように見える。
どこにも咸君の介在する理由も余地もなかったが、鍋島家の人間は全ての罪を税所家──許嫁であった咸君に被せたのだった。それができるだけの諜報活動ができる家ではあったけれど、彼がそんなことをする意味がない。
それでも鍋島家は主張を変えず、税所家と鍋島家は今も険悪な関係が続いている。
彼は「まぁ、そう思われるようなことを散々してきましたし。因果応報、というものでしょうか?」と受け入れていた。
違う。咸君のせいじゃない。
彼は悪くない。
私はそう叫びたかったが、そう叫んでも彼は困ったように笑うだけだった。
『……蛍ちゃんは、咸君のことが好きだったの?』
『どうでしょう? その感情が恋愛感情か分からない年齢だったと思いますし、それを知る前に彼女は解放されましたからね』
でも、と彼は言葉をつづけた。
『しかし、私は彼女から『あるお願い』を依頼されている』
『それって……』
『それを知るためにも、星野さんの子供さんの父親──カミキヒカル氏を知る必要があります』
そう語る彼の瞳は鈍色に輝いていた。
星野さんを疑いもしましたが、あれはシロでしょう。それなら、カミキヒカル氏が有力候補かと。彼は暗いトーンの声で呟いているのが印象的だった。
友達にも内緒にしながら、彼は私と同じように調べた。
関東地方にいる彼を調べるのは、相当大変であったのに、星野さんをダシに島津家から資金援助を貰いながら、生前の星野さんを間接的に殺害したと思われる男を徹底的に調べ上げた。
調べ、調べ、観察し、考察し。
そして一つの結論を得た。
『……彼ではない?』
鍋島蛍とカミキヒカルには、何の関係もなかった。
確かに最近の彼はおかしな行動が目立つようにはなったが、それを抜きにしても、彼と彼女の間には何の接点もなかったと、咸君は私に教えてくれた。
これを知っているのは、私と彼だけ。
以降、カミキヒカルへの監視は最低限のものになった。
彼と蛍ちゃんの間にあった『お願い』が何なのか分からないけど、彼は次にアイちゃんのお母さんに狙いを定めた。その追い求める姿はどこか必死さも感じられ、この機会を逃さないと背中が語っていた。
そこまで想われる蛍ちゃんに、少しのモヤを覚えながらも、私は彼の活動に全面的に協力する。
彼と一緒にいられる時間が増えるのは嬉しかったし、彼は口にしないが、闘病生活の末に永い眠りについた少女の最後の『お願い』をかなえたい気持ちもあったから。
『……まぁ、分かりきってたことでもありますがね。星野さんとて、あまり思い出したくない記憶でもありましょう。桜華に叱られましたよ』
『それじゃあ、アイちゃんの前のお母さんを調べるのは無理?』
『無理ではありませんよ。前情報が欲しかった程度にしか思ってませんでしたし、既に場所の特定は済ませてあります。……はぁ、当たっては欲しくありませんが』
アイちゃんの周辺を調べるたびに顔を曇らせていく彼。
まるで彼にとっては好ましくない答えを分かっていて、それでも真実に向けて邁進していくような、そのような印象を覚えた。
本音としては彼の悲しい姿を見たくない。
しかし、目的を彼が明かしてくれない以上、私は彼の望むままに協力するしかない。
少し行ってきます、と彼は数日薩摩を離れた。
そして何事もなく戻ってきた。
時間は夜。
私の家のインターホンが鳴り、家の前に立っていたのは咸君だった。今日は桜華君とアイちゃんは実家に戻っていたので、たまたま家に戻っていた。
チェーンロックを外し、彼を迎え入れるが、彼はいつもより表情が暗かった。
リビングに通し、椅子に座った彼の前にコーヒーを淹れて出す。
彼は短くお礼を言うと、味わうように口をつける。いつもの彼なら誰が出したものであろうと一瞬だけ警戒する素振りを見せるけど、今回は何の躊躇いもなく飲んでいた。
それだけでも今の彼が様子がおかしいことを察した。
会話はそれだけで止まり、彼は長い間口を開くことをしなかった。
……私も、彼から根掘り葉掘り聞きたい気持ちを堪え、テーブルを挟んで彼と対面するだけだった。
どれだけの時間が経過したのか。
彼はポツリと、口にした。
「……残念ながら、間違っていませんでした」
「それはアイちゃんのお母さんが、蛍ちゃんのお母さんだった、ってこと?」
彼は私の言葉に寂しげに笑った。
ぎゅっと、私の胸が締め付けられる。
「なぜ、なんでしょうかね。それを求めることは、そんなにも悪いことなんでしょうか。……ダメですね、期待しても無駄だと自覚しても、それに縋ってしまう」
「咸君?」
「あかねさん、ご両親は大切にしてくださいね」
彼は顔を手で覆いながら嘆く。
涙も流していないのに──私にはそれが、泣いているようにも見えた。
「蛍。星野さん。私たちは『愛』されていなかったようです」
両親から『愛情』と言うものを得られず、許嫁を小さい頃に病気で亡くし、その責任を一身に背負わされ、残酷な結果しか見えない『お願い』を聞き届けた少年。
私はいつの間にか、彼の後ろに回り、その大きくて小さな背中を抱きしめた。
私は──彼を救いたいと願った。
カミキ「『家族との絆』」
カミキ「この世で一番強固な絆であり、この世で一番脆い絆でもある。人によってこうも強度の変わる言葉もないだろう」
カミキ「まぁ、私とて親に愛されぬ身ではあったが」
カミキ「……せめて、自身の子らに強いたくはないものだ」(原作の元凶)