薩摩の子 作:キチガイの人
苗字のルビが欲しいと指摘頂きました。自分的にはなじみがありますが、鹿児島県外の方々から見れば珍しい苗字だよなぁと思ったので、以後ルビを極力振ります。
あと誤字指摘ありがとうございます。読み返しているんですが、それでも見逃してしまうので非常に助かります。
「母上、今回の仕送りが些か多いように感じられるんですが、明日俺は死ぬんでしょうか?」
『アンタ私を何だと思ってんのよ』
クソババァだが?
通帳片手に親に連絡を入れる俺の内心は即答だった。口に出したら命はないだろうが。
『それでアイちゃんの新しい携帯を契約してきなさい。ほら、あの子古いやつしか持ってなかったでしょ? アンタのもそろそろ機種変時期だし、ついでに見て来れば?』
「古いって言っても2.3世代前の型落ちってだけだろ? 俺のもまだ使えなくはないし、別に良くないか?」
『アンタねぇ……』
電話の奥から大きなため息が聞こえた。
『あのね、女の子ってのは大変なの。せめて携帯2台ぐらいは持っておきたいものなの。アンタだって2台待ちでしょ』
「そうだけれども」
確かにプライベート用と裏でコソコソする用の2台持ちではある。オカンの言っている俺の機種変時期のそれも、プライベート用だしね。
もう一つの仕送りであるダンボール箱の中には、食料品の他にも、星野家の両親の書類等も同封されていた。なるほど、俺とアイだけで契約できるように手配済みなのか。
そうなると先方の意向を無下にはできないな。
そんなこんなで俺とアイは各々の目的のために、比較的品ぞろえの良い場所に赴くことになった。俺は機種変、アイは新規契約として。
「私も
「遠慮すんな。こっちから頼んだわけじゃないし、貰えるもんは貰っとかないと損だぞ? そもそもの話、俺は
うちのオカンはアイにベタ甘だからなぁ。彼女の為に何かと仕送りと称して日用品から嗜好品の数々を送ってくるし。気持ちは分かるんだ、俺に兄弟姉妹がいないので、娘に餓えたオカンがアイを溺愛するのは同然の結果だろう。
じゃあ俺の父親──親父殿はどう思ってるのか。
外見が薩摩版キング・ブラッドレイみたいで、実際に戦闘力も本家とさして変わらず、泣く子も黙る『現代の鬼島津』と呼ばれた男は、星野アイをどう思っているのか。
『………』
『星野アイ、です。よろしく、お願いします……』
初めて対面したとき、あまりにもの迫力に、隣にいた俺の手を握って離さなかったぐらいである。親父殿は俺とアイを交互に見て、手を握っている位置を見て──アイの頭をゆっくり優しく撫でた。
『……っ!?』
『
……転生云々の話は別として、この男の観察眼は俺を遥かに超える。彼女を──自身が『愛』というものを理解することが難しく、同時に愛に恐ろしく飢えており、時には嘘の仮面を被っては人を欺く、その歪な在り方を見抜いたのだろう。
それを知ってなお──親父殿は肯定した。
不出来ながらも、それでも
緊張しながらも、涙をボロボロ流す彼女を見て思う。
くっそカッコ悪く彼女を励ました俺とは大違いだ。
同時に、非常に惜しく思う。
──親父殿みたいな人間が生前の彼女の傍に居れば、彼女は死ぬことはなかったんじゃないかと。今でも子供たちに囲まれながら楽しく暮らしてたんじゃないかと。
そのような余計なことを考えていると、親父殿は俺を横目で見る。
『桜華、支えてやれ。傍にいてやれ。寄り添ってやれ。その手、離すなよ。
『親父殿……』
『……それと、18まで避妊は忘れるなよ』
『親父殿……?』
そのやり取りから分かる通り、アイのことを親父殿も気に入っているようだ。……どうしても俺の頭から『双方の両親公認』という恐ろしい単語が頭から離れない。大坂夏の陣を迎えた豊臣秀頼の気分なんだが。真田さん助けて。
「……オーカ? 早く携帯見ようよ」
「──あぁ、悪い」
意識を現実に戻した俺は、店舗に展示されているスマートフォンを眺める。場所は中央駅西口方面、ビッグカメラの2階だ。え、お前ら中央駅しか行ってないなって? 鹿児島は中央駅と天文館行けば何でも揃うんだよ。
俺はとある一角まで歩き、アイを手招きして呼ぶ。
「ほら、ここら辺なんかいいんじゃないか? 俺はあっち方面の見てくるから、選び終わったら教えてくれ」
「私の見間違いじゃなきゃ、ここ高齢者や子供向けのエリアだよね? だよね?」
俺の頬が自由自在に伸ばされるアクシデントもあったが、時間をかけて選んだ結果、俺は全体的に黒いスマホに機種を変更し、アイは深い紫色の携帯電話を新規契約したようだ。ちなみに色よりも機能性を重視した結果である。
どうせスマホカバー被せれば一緒や。
そんな事情から、俺の選ぶものがアクセサリーエリアへと移動する。豊富な種類があるのは確かだが、俺自身があまりこだわりとかない派の人間だから、どれがいいのか皆目見当もつかない。
とりあえずスマホと同じ審査基準の無難かつ機能性を目的として探しているところ、肩をポンポンと叩かれて振り向く。
視線の先にはニコニコのアイが立っていた。
「お揃いにしよ?」
「………」
いや、まぁ、いいんだけどさ。
これもう言い訳できなくない?(手遅れ)
幸い俺とアイの選んだスマホは型が近かったため、俺とアイの要望は概ね叶えられることになった。会計時の店員さんの微笑ましい視線に俺は耐えることができなかったが。
♦♦♦
「……ふぅ、やっと使いやすい状態に戻せた」
リビングで機種変更あるあるの『自分設定に戻す』を終えた俺は、新しいスマホを服のポケットにねじ込んだ。ホーム画面やロック画面設定、Webのパスワード設定から、アプリケーションの再ダウンロード、余計なアプリケーションの削除など、新しいスマホを自分通りにカスタマイズし直すのは骨が折れた。
せっかく中央駅に行ったのだからと、アミュプラザ地下で購入したイチゴの乗ったスイーツを食していると、新しいスマホを片手に四苦八苦していたはずのアイが寄ってきた。
期待半分、不安半分と言った風に。
「お願いがあるんだけど、ダメ、かな?」
「内容による。なんか分らんことでもあったか?」
「そういうわけじゃないんだけど……ちょっとここのソファーに座って欲しいな」
リビングのソファーを指すアイ。
俺は言われた通り腰を下ろした。
「もうちょっと足を開いて、もっと奥に腰かけて……そうそう、そんな感じ。それじゃあ、お邪魔しまーす」
「ちょ、おまっ」
股を開いたスペースを作るよう指示した彼女は、そのまま自分の身体をねじ込むように座る。傍から見れば俺が彼女を抱きしめて座っているようにも見えなくはない。
「私の腰を抱きしめてよ」
「……(最後の抵抗)」
「胸とどっちがいい?」
傍から見なくとも俺が彼女を抱きしめて座っているようにしか見えない。
繊細なガラス製品を触る時以上に、細心の注意を払って彼女の腰に手を回すが、アイが「もっと強く抱きしめて」と無茶な注文をしてきて、無視し続けたら俺の両手をガシッと掴んで、上部に移動させ始めたので、観念した俺は彼女の細い身体を壊れないように、ただ力強く抱きしめた。
うわっ、女の子の身体って、こんな細くて柔らかいんだ……と童貞100%の感想を心の中で述べ、彼女の紫がかった黒髪から、ふんわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。俺とアイの身長差って15センチ以上離れているから、すっぽりとアイの上半身が懐に入る。
確かにほぼ毎日添い寝しているけどさぁ! こんなん何回やっても慣れねぇんだよ……!
「上向いて、笑顔で……はいチーズっ!」
自撮りの要領で俺とアイのツーショット写真がいとも容易く撮られる。ただ構図がお気に召さなかったらしく、何回か撮り直したのち、彼女が満足するものが撮れたようだ。
無邪気に俺との写真を見せつける。
「私の最初のスマホの写真はさ、オーカとのツーショットって決めてたんだ。ありがとね」
「……そいつは光栄なこった」
俺は彼女を抱きかかえ隣に下ろし、先ほどいた場所に戻って、若干クリームの溶けたケーキを食べ始めた。アイはバタバタと足を振りながら、スマホをいそいそと操作する。
ふと、俺のスマホがポケットで震える。
見てみると、LINEの通知だった。開くと先ほどの写真がアイから添付されてきた。
「………」
俺は大きく深くため息をつき、その写真を保存するのだった。
「ロック画面に写真設定できた!」
「それプライベート用のスマホにするんだよな?」
「そーだよー」
「……学校に持っていくん?」
「当たり前じゃん!」
俺は天を仰いだ。
……ここから入れる保険ってありませんか?(震え声)
裏設定登場人物紹介
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今作の主人公。薩摩藩一門が一つ、今和泉島津家の流れを持つ島津家の一人息子。もちろん血筋的に時期当主の資格はあるが放棄させられているため継承権はない。ただ一族でも発言力は強いため、簡単に説明すると『ボンボンの坊ちゃん』。島津家の人間としての最低限の武術の心得はあるが、元の性格が『薩摩兵マジ蛮族』と言い放った