薩摩の子   作:キチガイの人

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 言わずもがなシリアス回です。
 ようやくアクア視点ですって奥さん。
 感想、評価頂けると幸いです。



 つか明日から仕事が月初めの繁忙期に入るのに、なんでこうも重要な話と時期を俺は被せたんだろう……?


060.次章の悲劇

 俺こと『星野愛久愛海』……星野アクアは転生者であり、生前は雨宮吾郎として生きてきた。爆発的な人気を誇るアイドルの『アイ』のストーカーに殺され、俺はアイの産んだ双子の兄として転生する。

 ……そして、俺を殺したそのストーカーにアイは殺される。俺の、目の前で。

 ストーカーの大学生は死んだが、その殺人犯に共犯者が存在する。アイの交友関係の少なさと殺人事件時の状況から、俺はその男は俺と妹の父親ではないかと考察し、芸能界に足を踏み入れ──ようとした。

 

 しかし、あの事件から十数年経過した今。

 俺は生前のアイが残した携帯のロックを解除できていない。無駄にセキュリティが高すぎる。

 

 加えて──最近、双子の妹であるルビーの様子がおかしい。

 アイドル目指してがむしゃらにオーディションを受けていた妹だったが、最近はその焦燥感が浮き彫りになりつつあった。

 この前もふらっとどこかに出かけては、ボロボロ涙を流しながら家に帰ってきて「私、やっぱり……愛されて……なかったんだ……」と、すぐに部屋に引きこもっていた。

 ……確かに俺が手を回してアイドルにならないよう動いていたが、最近はそんなことをせずとも落選通知が来ることが多くなり、それがルビーの焦りに拍車をかけているのかもしれない。アイの二の舞にならないように動いたつもりだったが、間違いだったのかもしれないと思いつつある。

 

 

『お兄ちゃん、また、落ちちゃったよ……』

 

『………』

 

『私、アイドル向いてないのかな……?』

 

 

 自虐的に笑いながら泣く妹を見て、どうにかフォローしないといけないという気持ちと、芸能界という危険な場所に足を踏み入れてほしくないという気持ちがせめぎ合う。

 何があろうとルビーだけは守らないといけない。

 しかし、今の俺は本当に妹を守れているのだろうか?

 

 そして今日もアイのスマホのロック解除に勤しむ。

 やっていることがやっていることなだけに、周囲に相談もできるはずがない。これさえ解除できれば──俺の復讐がスタートラインに立てるはず。

 

 

「──あっ」

 

 

 そして、ついに、その時が来た。

 パスワード『45510』で、アイのスマホロックが解除されたのだ。……この数字、何回か入力したことがあるんだが。途中でランダムパスワードになるのが面倒過ぎた。

 抜けているようで、アイは非常に用心深かったようだ。これだけでも、アイが俺たちの存在を隠そうと必死になっていたことが分かる。

 

 俺はすぐさま電話帳を開く。

 アイが妊娠前に使っていた携帯であり、芸能関係者の連絡先が載っているはず。そのどれかが自分の父親……とまでは思ってないが、少なくとも今の状況よりも選択肢は大きく広がるはずだ。

 ……アイを殺した男に復讐する。この始まりを、どれほど待ちわびたことか。奴だけは殺す。どれだけ時間がかかろうとも、最悪の苦痛を与えて殺

 

 

「……は?」

 

 

 電話帳に登録されていた名前は1件のみ。

 さすがに仕事で使っていた携帯だ。1件だけしか登録されてないのはおかしい。そして、その唯一登録されている名前を睨む。

 

 

 

 

 

五代(ごだい) 友厚(ともあつ)

 

 

 

 

 

 聞いたことのない名前だった。

 すぐに自分のスマホで調べてはみたが、芸能界にそのような人物がいる様子がない。どれだけ調べても幕末の偉人の情報しか出てこない。

 

 この男が──俺たちの父親なのか?

 電話帳に刻まれた男の名前を脳裏に刻んだ。

 

 その時

 

 

『~♪』

 

「っ!?」

 

 

 アイのスマホから着信音が鳴る。

 電話してきた相手は、五代友厚その人だった。

 

 なぜ? このタイミングで? 今?

 俺は震える手で、緑の応答ボタンを押した。

 

 

「……もしもし」

 

『初めまして、と挨拶をしましょう。星野アクアマリンさん、星野アイさんのスマホロックの件、本当におめでとうございます』

 

「………」

 

 

 俺は周囲を見渡したが、すぐに通話している場所を洗面台に移す。もしかしたら先ほど通話していた自室にカメラ等がしかけられていることを考慮したからだ。

 電話先の男は──俺が想像していた以上に厄介な存在の可能性が高い。

 ロックを解除したこのタイミングで電話なんて普通出来ない。それだけでも、相手が一般人ではないことが伺える。

 

 

「……アンタ、何者だ」

 

『星野アイさんのことを知る者……とでも答えておきましょうか』

 

 

 自然と俺は警戒心を数段階上げた。

 どうも食えない相手と会話している気分だ。

 

 

『貴方が今お使いのスマホを解除したのだって、彼女の情報を得るために行ったことでしょう? その携帯には私の連絡先が一つ。さて、貴方は何を聞きたいですか?』

 

「……アイのことを知りたい」

 

『……母親、ではなく『アイ』ですか。えぇ、いいでしょう』

 

 

 その言葉と共に、自分が所有しているスマホに通知が入る。そこにはネットで予約された新幹線のチケットが数枚表示されていた。乗り換え込みのチケットであり、それは2人分用意されていた。わざわざグリーン車を今度の土曜日に予約しており、料金も支払い済み。

 そのチケットの行先は──鹿児島。

 

 

「鹿児島?」

 

『えぇ、それで鹿児島中央駅までお越しください。そこまで来ていただければ、()()()()()()()()()()、貴方が知りたいことに可能な限りお答えしましょう』

 

「五代、アンタは本当に何者だ? 鹿児島の人間が、なぜアイについて知っている」

 

『アクアさんはSNSをご利用されてますか?』

 

「それが?」

 

『それであれば──なぜ鹿児島なのか。もしかしたら分かるかもしれませんねぇ。鹿児島と星野アイという女性の関係性、新幹線の予約日までに調べてみるといいかもしれませんよ?』

 

 

 あくまでも五代は余裕な態度を崩さずに、そして胡散臭そうに喋るだけだった。どちらにせよ、俺が鹿児島に来ることを既に確信している様子であり、手のひらで踊らされているように覚える。

 最後に俺の口から出てきた言葉も、苦し紛れの足搔きなのかもしれない。

 

 

「もし俺が鹿児島に行かない……と言ったら?」

 

『それも貴方の自由でしょう。別にかまいませんよ。……ですが、本当にその選択を貴方は取れますでしょうか? 貴方はいいでしょう。しかし──もう片方は、そうでしょうか?』

 

「……片方」

 

『貴方と会える日を楽しみにしております。それでは、今度の土曜日に』

 

 

 そうして通話が終わった。

 チケットが届いたアドレス経由で相手を調べようとしたが、どうも海外のサーバーを経由していたため特定ができなかった。用意周到なうえに、得体の知れない相手。しかし、現段階で五代友厚がアイの手掛かりに最も近い人物であることは否定できない。

 

 癪ではあるが五代の言うようにSNSを調べ──彼の言いたいことを理解した。前にも一度見てスルーしたことだが、SNSに()()()()()()()()()()の画像が出回っていた。本当に瓜二つであり、俺の心が無意識にざわつくのを感じる。

 だが、画像にもおかしい点がある。確かにアイに似た女の子ではあるが、同じ写真でもアイに雰囲気が似ているものもあれば、アイのように他者を惹きつけるオーラみたいなものが感じられない写真もあるのだ。あの見る者を魅了するような瞳があったりなかったり、少なくとも『アイ』はオンオフ問わず、そのオーラがあったのに、だ。

 それで、鹿児島にいる彼女は彼氏持ちらしい。本人がそう言ってる。なんかイラッときた。

 

 どちらにせよ五代の言う通り動くしかないだろう。

 俺は今度の土曜日、一人で鹿児島に向かう決意をした。

 ──今日のルビーを見るまでは。

 

 

「……おに……ぃちゃん」

 

「る、ルビー、どうした?」

 

 

 どこからか帰ってきた妹は、頬を伝い地面に落ちる涙を一切拭おうともせず、いつからか塗りつぶされた黒く鈍く輝く瞳を濡らし、悲痛な笑みを浮かべていた。

 ここまで胸を抉るような彼女の笑顔を見るのは初めてだった。

 

 

「私、頑張ったけど……たっくさん、頑張ったけど……ママみたいに、なれなかったよ……」

 

「………」

 

「……私、やっぱりダメな子、だったのかな?」

 

「違う。それは絶対に違う」

 

「……今日、壱護さんに、会ったんだ」

 

「……それは」

 

「壱護さん、がね、鹿児島で……ママの、生まれ変わりと、会ったって……」

 

「──は?」

 

「お、にぃ、ちゃん……会いたい、よ」

 

「……ルビー」

 

「ママに……会いたい……よぉ。もう一度、もう一度だけ、で……いいから、ママ……に会いたい……会いたいよぉ……!」

 

 

 妹はペタンと地面に尻餅をついて、子供のように声を出しながら泣き始めた。死んだ母親に会いたいと、一度だけでもいいから、会いたいと。叶うことのない残酷な願いを、崩壊したダムのように感情を垂れ流した。

 

 俺だって……何度夢見たことか。

 だからこそ、俺は座る妹を正面から抱きしめ、先ほど考えていたことを撤回した。

 

 

「ルビー、行くぞ」

 

「……ぇ」

 

 

 

 

 

「行くぞ、鹿児島に」

 

 

 そこに何かあると希望に縋りながら。

 

 

 

 

 




【星野 愛久愛海】
 原作主人公。転生者。双子の兄。ようやくロックを解除したと思ったら、ようわからん胡散臭い男の連絡先しかなかった。転生後のアイに違和感を覚えたのが、単に桜華が写真撮ってるか否かの違いである。今作主人公いると噓つけねぇし。

【星野 瑠美衣】
 ↑の双子の妹。転生者。アイドルになれない。センセの死亡。そしてサラッと流したが生前の母親の様子を見に行ってメンタルブレイク状態。もう真犯人ぶっ殺すしかねぇ!って段階で、アイの生まれ変わり情報を知って、感情が決壊する。もうどん底。つまり、あとは引き上げるのみ。











???「来たか!」

???「おせえんだよ!」

カミキ「待ちかねたぞ! この展開をおおおおお!」

次回、『祝え! いや、もはや言葉は不要。ただこの瞬間を味わうがいいッ!』
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