薩摩の子   作:キチガイの人

61 / 127
 シリアス回です。アクア視点です。
 次回も、まぁ、シリアスなんじゃないかと。
 何なら明日の夜中に投稿しようと思ったんですが、復讐を煽るアクアの内なる吾郎的な感じで『月曜とかいう一番辛い日が始まるのに、この絶望的な状況下で待たせるつもりか?』とか、内なる俺が言ってきたので投稿します。明日めっちゃ仕事忙しいから書き溜めにしたかったよ。
 感想、評価頂けると幸いです。



 12話書いてた俺自身に言いたい。
 これが見たかったんだろう?



061.終章の喜劇

 俺とルビーは予約されていたチケットを使って、新幹線で福岡に向かう。鹿児島への直通はないので、博多駅で乗り継がないといけない。

 まさか、生前の故郷(宮崎)より先に、そのさらに南である鹿児島に向かうことになるとは思わなかった。そもそも何でアイが鹿児島に生まれ変わったのか、ルビーも元社長から詳細を聞かなかったらしい。聞ける心境ではなかった、と言った方が正しいか。

 そもそも俺たちも転生した身なので、このシステムそのものを考察しようにも無理があると言えるだろう。深くは考えないことにした。

 

 それよりも、だ。

 東京から鹿児島まで、結構な距離がある。

 

 

「……乗ってるだけでも6時間、か」

 

「………」

 

 

 飛行機の方が早く着くのでは?と思わなくもなかったが、そのためのグリーン車だったのだろう。安くはないだろうに、来るかもわからない子供2人のために出資するとは、五代友厚という男の財力が窺える。それか、背後に強力な何かがついているのだろう。そのなにかも、五代友厚という男の情報が全くでないことから、推測のしようがないんだが。

 俺は乗車時間に目を細め、ルビーは喋ることなく俺の腕に抱き着く。

 

 そして新幹線に乗り込み、博多経由で鹿児島へと向かう。

 俺はふと、気づく。そういえば、転生してこんな風に長距離の旅行紛いの移動をしたのは初めてかもしれない。アイが生きているときは環境がそれを許さなかったし、アイの死後は俺もルビーも、そんな余裕すらなかった。

 

 座り心地の良い座席に座ったとしても、ルビーが俺の手を離すことはない。

 

 

「……ママ、鹿児島にいるかな?」

 

「……そのために行くんだろ」

 

 

 そして定期的にこの話をする。

 俺が頭を抱える原因の一つだ。

 

 普通に考えれば()()()()()()()()()()()()()()

 人間は死ねば終わりだ。それが常識であり、壱護さんの話は一考にも値しない願望に過ぎない。

 

 しかし──俺とルビーは実際に転生者である。

 いくら現実的ではない話であろうと、その例が他でもない自分なのだから、アイが転生して鹿児島にいる可能性が否定できなかった。

 そして、鹿児島在住の人間……主に、彼女と同じ学校に在籍する生徒のものであろうツイートを筆頭に、彼女と親しい関係にある『あかっち』というアカウント名のツイートが、アイが生まれ変わっている説を後押しする。

 

 可能性は、ある。

 だが、もしアイの転生が誤りであったら?

 もしそうなら、今のルビーに耐えられるのだろうか?

 ……壱護さんは本当に厄介な話をしたものだ。これが本当ならまだいいとしても、違った場合のルビーの心が壊れかねないことに少しは考慮してほしかった。それだけ彼がアイの転生を信じていることの証拠かもしれないが。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 横目で俺はルビーを見る。

 あの日帰って来たときのような最悪だけは治まったが、黒い瞳の輝きには、焦燥や不安、絶望や後悔が渦巻いているようにも見える。

 少なくともアイドルになれない焦燥感だけで、こうはならないはず。それ以外の、自身の心を壊しかねない何かがあったはずだが、それも検討がつかない。

 彼女がこうなる原因……特にあの頃のニュースで目ぼしいものはなかったはず。俺の生前の遺体が発見されたのを聞いた気がするが、それが要因になるとも思えないし。

 他にあるとすれば……その時期だと『カミキ豚骨ラーメン』ぐらいだろうか? 実際に食いに行ってはみたが、豚骨ラーメンにしては比較的あっさりとしており、あの豚特有の脂に苦手意識を持つ人間にも受け入れられそうな、程よい感じの美味しさだった。ルビーには一切関係ないと思うが。

 

 その後、俺とルビーは弁当を買うときぐらいの会話しかせず、旅行にしてはあまりにも暗い長距離移動を余儀なくされるのだった。

 これが希望に変わるのか、絶望で終わるのか。

 その答えは九州最南端にある。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「「あっつ……」」

 

 

 鹿児島中央駅に降り立った、俺とルビーの第一声がそれだった。宮崎もそれなりに暑かったが、鹿児島の場合は『暑いのが当たり前』感が前面に出ている暑さともいえよう。俺も妹も上は涼しい恰好をしたつもりだったが、それでも手のひらで自分の顔を扇ぐ。

 さすがに駅内は涼しいはずと、俺は大きめのバッグを、ルビーはキャリーケースを引きながら、足早に改札へと向かう。

 

 改札を抜けて、東京よりは人の少ない改札前の空間に降り立つ。

 さて、ここからどうするか。

 

 

「お兄ちゃん、ここからどうするの?」

 

「いや、俺も鹿児島中央駅に来たら迎えが来るとしか」

 

 

 途方に暮れていた時、俺のスマホが振動する。

 例の五代友厚からの着信であり、いつもタイミングが良すぎると疑いながら、俺は対応した。

 

 

『星野アクアさん、そして星野ルビーさん。九州最南端、活火山有する薩摩の地へ、ようこそおいで下さいました。新幹線内で何か不便なことなどはございましたでしょうか?』

 

「いや、とくには。飛行機の方が早いんじゃないかとは思ったけど」

 

『ふむ、次回からは検討しましょう』

 

 

 まるで俺たちが何回も鹿児島に足を運ぶ前提で話をしている気がするが、俺は無視して次の指示を仰ぐ。星野アイの情報を持っていると言ったのは、この男なのだから。壱護さんの言っていたアイの転生に関しても聞けるかもしれない。

 その俺の問いに、五代友厚は答えた。

 

 

『でしたらアミュ方面』

 

「アミュ?」

 

『……失礼しました。貴方たちは新幹線の改札口を背にしているとは思いますが、そのまま右方向──東口の階段を下りてきてください。下るエスカレーターが遠い方、とでも思ってください』

 

「その後はどうすればいい」

 

『降りてくだされば、迎えの者が立っていますので。その方と話をしていただければ』

 

「そいつの特徴は?」

 

()()()()()()()()

 

 

 それだけ言って電話が切れる。

 本当に勝手な奴だと思った。

 

 俺はルビーを引き連れて東口と呼ばれるエリアに通ずる階段を下りていく。エスカレーターは故障している様子だったので階段を使うしかなく、ルビーのキャリーケースは重いので俺が代わりに持って降りる。

 一歩一歩、急ぐことなく確実に。

 

 ルビーも俺の様子を見ながら、同じ速度で階段を下りる。

 屋根のある階段であり、外の様子は下段まで行かないと見えないだろう。

 

 

「その五代って人は、どんな人なの?」

 

「俺も会ったことはないが、少なくともアイに関して……」

 

 

 俺は下段まで下りて、ようやく東口の外を見た。

 前にはタクシー乗り場が構えており、遠くにはバスの乗り場が点在してる。東京駅に比べると圧倒的に規模は小さいが、地方にしては大きなバス乗り場であることは想像に難くない。

 その東口の階段前とタクシー乗り場前の中間地点ぐらいに、一人の少女が立っていた。

 

 

「何らかの……」

 

 

 その少女は落ち着きがなく、その小さい空間で踊るように俺たちを待っていた。五代の言っていた『迎え』というのが、この少女であることは明白だろう。

 

 

「情報……」

 

 

 その少女は紫がかった長い黒髪を揺らし、目を閉じて何かしらの鼻歌をしながら、俺たちに気づかず、手を後ろで組んでステップを踏んでいる。

 夏なのに長袖の服を着ているが、その服装には見覚えがあった。()()()()()()()()()姿()よりも若干幼い──それこそ、生前の雨宮吾郎が彼女と初めて会った時のような年齢だと思われるが、着ている服は最後に見た服装に酷似している。

 

 

「が……」

 

 

 少女は目を開けた。

 そして、俺とルビーを捉える。

 ──その、()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()

 

 

「───」

 

「───」

 

 

 支えのなくなったカバンとキャリーケースが、アンバランスに放置されたためか、音を盛大にならして倒れる。

 しかし、俺とルビーにはそんな些細なことを気にする様子など、一切なかった。

 果たして思考も正常に働いていたのか、俺には分からなかったし、分かる余裕もなかった。

 

 目前の少女は嬉しそうに笑みを浮かべて、腕を後ろで組みながら、身体を横に傾ける。

 

 

「──アクア、ルビー、薩摩へようこそ。二人とも、おっきくなったね」

 

「──ま、ま……?」

 

 

 ……その声で、生前と同じ声色で、俺たちに呼びかけた。ルビーはゆっくりと、一歩を踏みしめながら、ゆらゆらと彼女に近づく。

 彼女──アイは、組んでた腕を広げて、俺たちを迎え入れる準備をする。

 

 

「ルビーも本当に綺麗になったね。やっぱりママに似て美人さんになったよ。私の予測通りだねっ」

 

「……マ、マ」

 

「私ね、生まれ変わったんだよ。ほら、おいで? 私、もう一回、二人をだきじめられるよ? また、『愛してる』っで、い゛えるよ゛?」

 

 

 途中から涙声で腕を広げるアイ。

 それに、最初に耐えられなかったのはルビーだった。

 

 

 

 

 

「──マ゛マ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!」

 

 

 

 

 

 ルビーは全力で飛び込んだ。

 アイはそれを真正面から受け止め、泣きじゃくるルビーの背中を片手で叩きながら、その視線を俺に向ける。そして、もう片方の手を俺に差し伸べる。

 

 

「あははっ、アクアもカッコよくなったね! ほら、甘えていいんだよ?」

 

「あ、い……?」

 

「私は──ここにいるよ?」

 

 

 ……何度だって、都合の良い夢を見たよな。

 なんかの物語みたいに、ご都合主義の奇跡でも起きたらって。

 

 

 

 ──あのとき、アイを救えていたら。

 

 

 

 そんな叶うはずのない夢を、何度願っただろう。

 

 

 

 

 

「──あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「うわっ──」

 

「アイ! アイぃ!」

 

 

 

 

 

 俺は2人と共に後ろに倒れ、ルビーと一緒に恥も外聞も捨てて、12年前に失ったはずの母親の胸で、大声で泣き叫ぶのだった。

 

 確かに、俺の願いは叶うことはなかった。

 それでも──アイはここにいた。

 その救えなかった一番星は、確かにここにいたのだ。

 

 

 

 




【裏話】

桜華「生前死亡時の服装は……これか?」

アイ「今7月なんだけど。長袖って、すごく暑いと思うけど」

未来「でも視覚的に『死んだアイちゃんが蘇った』感出した方が、双子にも印象付けられるんじゃないかな? 妹ちゃんの方が情緒不安定とか聞いたし」

桜華「あー、ガワで現実を突きつけるのね」

アイ「うーん……まぁ、我慢するよ」



桜華「中央駅の在来線の別出口ルートはできた?」

兼定「問題ねェよ。これで当日は改札前とかがガラ空きになるんじゃねェか?」

桜華「人多いと感動の再会演出が締まらねぇもんなぁ」

兼定「……死人との再会、かァ。羨ましいなオイ」



咸 「星野さんの立ち位置は……そこです。そこが絶妙に階段上部から見えないです。ベストポジションですよ」

アイ「ここら辺? あー、確かに咸君が絶妙に見えないねー」

撫子「……これ、エスカレーターとかで降りられたら意味ないんじゃない?」

咸 「当日は工事中の看板を立てときましょう」

アイ「ナデコちゃん、ナイス!」



桜華「双子が飛び込んでくる可能性」

未来「アイちゃんの後方にマットレス推奨?」

兼定「地面と同じ色の低反発マットレスでも用意しとけ」

桜華「……おぉ、衝撃ほとんど来ない」

未来「やっほーい」

兼定「遊ぶなクソが」



桜華「ところで親父殿が感動の再会を見たいと要望が来てるんだが……どないする?」

撫子「今回のパトロンからの要望でしょ。ここの死角にカメラでもつけておけば? あっちからは見えないでしょ?」

咸 「グリーン車のチケット代まで出してくれた鬼島津殿の願いを無視できません。それでいきましょう」



咸 「双子来ましたねぇ」

桜華「じゃあ手筈通りに」



桜華「(無言のガッツポーズ)」

未来「(無言のガッツポーズ)」

兼定「(無言のガッツポーズ)」

咸 「(無言のガッツポーズ)」

撫子「(無言のガッツポーズ)」




次回、『それはそれとして、お前を親父とは認めない』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。