薩摩の子   作:キチガイの人

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 シリアス回でーす。
 感想、評価頂けると幸いです。





 最新話のラスボスは法律ですね。
 なお本作。


065.夜の攻防戦

 時間が経てば人は眠くなる。

 家族会議をしている間に深夜に突入した星野家と異物混入は、とりあえず寝ましょうかと言うことでお開きになった。

 案の定、平和的に睡眠時間を確保できるはずもなく、特に母娘がギリギリまでゴネにゴネてゴネまくったのは言うまでもない。アクア君……君付けは鬱陶しいと言われたので、以降はアクアと呼び捨てにするが、餓えた猛獣を相手にするのは初めてだったらしく、そりゃもう大変だった。

 どんなに大変かと言うと、

 

 

『家族4人で寝るべきだと思います!』

 

『パス。まずは久しぶりで積もる話も多いだろう星野家の皆様方で寝るべきでは。俺はクールに一人で寝るぜ。じゃあ、おやすみなさい』

 

『お兄ちゃん先生(せんせ)は、もちろん私の隣ね!』

 

『さすがにこの歳で一緒に寝るのはどうかと力が強い……! ルビー! ま、待て、待ってくれ! あ、アイ!』

 

『どーしたの? アクア』

 

『……そろそろ、弟が欲しい』(原子力爆弾投下)

 

『そうそうそうそう! いやー、やっぱりアクアは冴えてるね! やっぱり? やっぱりほしいよね!?  オーカ、今夜は本気で愛し合うよ!』

 

『おいゴラ゛アクアてめぇえええええええええええええ!』

 

 

 いやもう本当に大変だった。

 検討に検討を検討して検討した結果、俺はリビングの自分のベッド、アクアはリビングのソファーに寝そべり、アイとルビー(敬称略)は、普段どころか物置と化したアイの自室で寝ることになった。女の子同士で楽しく過ごしてほしいと切に願う。

 ほら、アイの部屋はスライド式の扉なので、こんな風につっかえ棒をすれば、あら不思議。俺たちの平穏は保たれるのだ。

 

 

「……桜華、つっかえ棒は度が過ぎるんじゃないか?」

 

「外してくればいいじゃん。先に子供の名前考えとけよ」

 

「……もう2.3本追加しとくか」

 

 

 さらなる平穏は保たれる。

 あっちはどんな話をしてるんだろうな。絶対にロクでもない話をしてるんだろうなぁ。

 

 俺は久方ぶりに1人でベッドを占領することになる。いつもアイが隣に寝てることが多いので、少々の寂しさと、約束された明日の元気な起床に思いを馳せる。十数連勤した時のサラリーマンの朝みたいな、疲労度MAXの起床が多かったからね。

 反比例してアイはツヤツヤだったが。

 

 なんて下世話な話を寝転がりながらアクアと語る。

 彼の返答はいたって冷静だった。

 

 

「よくもまぁ、今日までアイに子供ができなかったな。もしデキてたらルビーが更に荒れてたかもしれない。……今はどうか知らんが」

 

「細心の注意は払ってたしなぁ。デキたら育児費用3000万って思いながら頑張った」

 

「金額が生々しい……」

 

 

 母上辺りは逆に狂喜乱舞しそうだが、それと同時に未成年の妊娠リスクも心配していた。それに対し、『前も大丈夫だったから、今度も大丈夫!』ってグッドサインをする元人気アイドル。だから危険だって言ってるだろうが。

 余談ではあるが、俺とアイの間で使われる生活費の管理はアイが行っている。彼女、こんな破天荒な性格をしているが、節制を心がけるのが何気に得意なのだ。生前の低月収時代の賜物だと、元人気アイドルは笑っていた。世知辛い。

 逆に俺は普段馬鹿みたいな金額を動かしている関係なのか、若干の浪費癖があるらしい。

 アイに窘められたときは本気でへこんだし、その俺の様子を見てアイは拗ねた。

 

 お金って大切。

 前に『お金があって幸福になるかは分からないけど、お金がないと確実に不幸になる』と聞いたことがある。至言だなぁ。

 

 

「あ、そうだ。アクアってさ、()()()()()()()()?」

 

「……将来、か。考えたこともなかったな」

 

「………………………………」

 

 

 いや、ね? 分かってたよ?

 アクアは知らんのが当たり前だから、分かってはいたよ?

 ……こ~むい↑~ん、って聞きたかった。

 

 

「雨宮吾郎の時は、本当は外科医になりたかった」

 

「俺も散々お世話になったなぁ」

 

「外科医だぞ?」

 

 

 少し前は生傷どころか生死さまよう職場だったので、と言葉をかなり濁しながら伝えると、何となく察したのかそれ以上は聞いてこなかった。

 オペしてくれるお医者さん、島津だーい好き。

 この夢を親父殿に伝えようものなら、全力で背中を押してくれるだろう。

 

 

「でも、アイは俺が役者になることを願ってた」

 

「アクア的には役者はどうなんよ?」

 

「……俺に、アイのような才能はない。それに、俺にとって演じることは復讐だったから」

 

「ふーん」

 

 

 アイのような才能、ねぇ。比較対象が大きすぎて、自分を正常な物差しで測れてない気がするな。いつどこに行っても『島津』としての先入観でしか見てもらえなかった俺と同じように。

 親が偉大だと、子が苦労する。世の常ってやつだ。

 

 それと復讐、か。

 俺は前に咸がアクアに対して下した評価を思い出す。

 

 

「でもアクアって()()()()()()()()()()()()()()って聞いたぞ。そうなると、復讐に意識が直結しちゃう役者は、お前には向いてないのかもしれんなぁ」

 

「向いてなかった、のか?」

 

「元が優しい人間に、復讐ってメンタル的にはきついだろ。俺みたいに性格が捻くれた人格破綻者ぐらいじゃねぇと、ただただ辛いだけだぞ」

 

 

 もちろん復讐対象は徳川である。

 アイツらマジで絶対に許さんからな。クソみたいに何も育たない土地に、馬鹿みたいな石高設定して重税課したの、今でも忘れねぇよ? あと参勤交代とかいうクソオブクソ制度は害悪。鹿児島から東京までどんだけ離れてるって思ってんだぶっ殺すぞぶっ殺すわ。

 戊辰戦争で終わったと思うなよ。

 

 徳川への片思いを熱弁すると、アクアはポツリと口にした。

 

 

「……普通に考えて、島津って頭おかしいな」

 

「そう、それ」

 

「………」

 

「復讐なんざ頭のおかしい馬鹿の考えることであり、それが()()()()って思えない奴には向いてないんよ。これが短期的なものなら別に構わんが、アクアみたいに十数年長期となると顕著になる」

 

 

 俺の主観ではあるが、アクアは復讐というものを、何らかの理由をつけてやめたかった……アイと再会して以降、やめる理由を探しているように見えた。

 前にも言ったが、人生ってのはやりたくないことやるだけの余裕はないのだ。そのやりたくないことを人生の目標として掲げ、ただひたすらに復讐計画を胸の内に秘めていたのだ。その苦痛は、俺なんぞに想像できるレベルじゃないだろう。

 

 その様子はアイも気づいていた。

 だからこそ、アイは彼に父親の名前を伏せたのだ。

 

 

「復讐って難しいよなぁ。やればスカっとするけど、持ち続けてると重荷になる」

 

「そう……だな……」

 

「……ん? でもアクアって生前のアイがいた時から子役やってたって聞いたぞ。あの時は楽しくなかったのか? アイ的には、あの時の印象が残ってるから、役者志望って思い込んでるんだと──アクア?」

 

 

 呼びかけても、帰って来たのは寝息だった。

 規則的に呼吸音が聞こえるから、すぐに深い眠りについたのではないかと想像する。

 

 俺も彼の安眠を妨げてまで聞くことでもないし、自分も早々に眠りの世界へと旅立とうと思う。

 自責の念で悪夢を見続けた転生者は、その重荷を下ろした時、どんな夢を見るのだろうか。せめて、彼女の死がフラッシュバックすることがない夢を楽しんでほしいものだ。

 

 俺も瞼が閉じきる前に、最後にLINEの通知を確認する。

 咸から個人LINEが届いていた。

 

 

『たすてけ』

 

『くわれる』

 

 

 1時間前の通知であり、それ以降の生存が確認されなかった。誤字してるから、相当切羽詰まってったのだろう。

 俺は少し考えて、返信してスマホを閉じて眠りにつくのだった。

 

 

『お幸せに』

 

 

 

 




【就寝前会話】

アイ「ルビー、覚えておいてね? ──泣こかい 跳ぼかい 泣こよっか ひっ跳べ!」

ルビー「……ママ、それ日本語?」

アイ「困難に出会った時は、あれこれ考えないで、とにかく行動って意味だね。恋は戦なんだよ! 使える手は何でも使わないと、相手に失礼なんだから! ってお義母さんが言ってた」

ルビー「とりあえずパパが仕留められた理由は分かった」
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