薩摩の子 作:キチガイの人
あれ今作だとグリブー(鹿児島のマスコット。緑の豚)になるんですかね?
そんな感情で書いた回です。
俺たちの通う××高等学校は、かつて地方の進学校とまで呼ばれ、数々の有名大学への合格者を輩出した、地元では名の知れた名門校である。
しかし、それも昔の話。数年前の鹿児島学区への併合の関係により、地方の天才秀才が鹿児島市内の有力な学校を選択し、そこそこの学力を有する者が××高等学校へと進学する現象が発生する。ざっくり言うと、頭いい奴が市内の進学校へ行き、あぶれた半端者が××高校に集まったのだ。
それでも『近いから』という理由だけで、一握りの天才秀才もここに進学するので、××高校に通う生徒からは『自称進学校』とまで呼ばれる始末だ。
ではなぜ俺と3馬鹿が地方の自称進学校を受験したのか。
校風が気に入ったからである(大嘘)。
本当のところは、そんな複雑な事情がある訳ではなく、鹿児島市内在住の俺たちにとって、我らがエデンの中央駅を経由しないと学校に行けない関係で、帰りに中央駅への寄り道ができるからである。本当にしょうもねぇな。
これがバレたときはババァからの拷問フルコースにご招待されたが、途中「帰りに中央駅でデート……アリね」と執行猶予付きで釈放されたのだった。
許された気がしないのは気のせいだろうか?
そんなピッカピカの高校一年生な俺たちなのだが、気になるのは配属クラスだろう。
全員クラスがバラバラである。ものの見事にバラバラである。誰一人被ることなく別れることになった。一組から順番に兼定、俺、アイ、未来、咸でクラスが分けられたのだった。
万が一教材忘れても、借りに行けるから便利だなと俺は笑った。アイはそうだねと笑った。俺は目を細めた。
そんな一年二組な俺だが、島津の人間として交友関係を広げるのは重要なことと心得ている。
特に初動は大事だ。俺の拙いコミュニケーションを十全に生かし、高校生活──いや、もしかしたら竹馬の友となるべき者との出会いを果たすのだ──
「オーカ! 一緒にご飯食べよー!」
「………」
ザワザワッ。
『うっわ、誰あの美人!』
『知らねぇの? あの『32人斬りの星野アイ』さんだよ。入学当時話題になった子』
『ほらほら、星野様のお通りだ! 島津ん所に椅子渡せ!』
『……俺、告白してみようかな』
『応援してるぜ、33人目』
「………」
俺は窓の外に視線を移した。
本日も晴天なり。俺の心は曇天なり。
星野アイ──××高校普通科一年三組に在籍し、入学初日から新入生並びに在学生の注目を浴びた、現代に舞い降りた天使と揶揄される美少女である。
彼女の人となりを知らないながらも、その美貌に心奪われた生徒は数多く、野球部のエースやバスケ部のキャプテン、三年学年主席から某企業の御曹司と、多岐にわたる男子から、愛の言葉と共に告白を受けたのは、過去現在でも彼女だけのはずだ。愛に餓えた少女には最高の環境だろう。
その数32名。少女漫画でもなかなか見られない展開ながら、××高校のカースト上位からの告白を一身に受け、
『──ごめんね、私、好きな人がいるから』
その数32名を廃人にした魔性の女である。
誰一人として彼女のお眼鏡に叶わなかったらしい。
俺はアイのことが心配になった。芸能界を渡り歩いて来た彼女だからこそ、その目が肥えてしまったんじゃなかろうかと。
これ以上の上玉って鹿児島県内でも探すのは難しいと思うんだけどなぁ。
俺の机の前に椅子を持ってきて、向かい合うように座る彼女を見て、ホントこの娘どうしようかと密かにため息をついた。彼女は幸せになるべき人間だからな。その幸せを願うのは島津として当然のことだろう。
……そういえば彼女には好きな人がいるらしい。その人に頑張ってもらおうか。
「つかアイの好きな人って誰なんだ……?」
「んー? んー?」
彼女は俺の顔を覗き込むように笑う。
いたずらに、愛おしそうに、俺の顔を見て笑う。
……いやホントマジで現実から目を逸らすのが厳しくなってきたな。鈍感系やら馬鹿にされてきた俺だって、流石にその対象が誰に向いているのかは理解できる。
ただ、結果が理解できても過程が理解できん。何がトリガーになった? 彼女の好意が見え隠れするようになった時期から推測すると……アレか? いやいや、それはないだろう。俺の彼女へ与えられる愛なんぞ、言っちゃ悪いが彼女の望むものとしては微々たるもんだぞ? それこそ玉砕していった
彼女は言ってたではないか。愛し愛される関係が欲しいと。
俺自身が恋心系統の愛情というものが理解できないのだ。
彼女の望むものを十全には与えられない。
加えて、俺自身の価値は俺が一番よく分かっている。寝ても覚めても同族で殺しあうことしかしてこなかった蛮族の末裔であり、ド田舎でしかイキれない一族の一部品に過ぎない。能力もルックスも平凡であり、とてもじゃないが彼女に釣り合うとは思えないぞ。
理解できない。
分からない。
だから聞いてみよう。
アイ、何で俺なんだ?
「……私がさ、
「なんとなく」
「そのあとアイドルになって、嘘でも愛してるって言い続けて、それが本物になったのかはわからないけど。あ、少なくともアクアとルビーのことは本当に愛してるよ。本当に」
「そうやろな」
「でもね、本当は私を愛してほしいって気持ちもあって、でも生まれ変わっても誰も愛してくれなくて、愛することもできなくて、『愛』が分からなくなって、頭の中がぐちゃぐちゃになって、心もぐちゃぐちゃで、何もわからなくなって」
「………」
周囲の声が騒がしいが、俺には彼女の独白がしっかりと耳に入る。
彼女も周囲に聞かせたくないのか、最低限俺に聞こえる声で話をする。
「──あの時、死にそうになって、苦しくて、悲しくて、怖くて、寂しくて」
「………」
「オーカがね、
「……それは」
「うん、分かってる。オーカにとっては、島津として当たり前のことなんだよね?」
でもね、と彼女は微笑む。
「私、愛が分からない欠陥品なんだ。愛されたことのない欠陥品なんだ。そんなポンコツにね、オーカの愛は──眩しかったんだよ。刺激が強すぎたの。オーカの
「──もう、オーカの愛じゃないと、満たされない身体になっちゃったんだ」
「星野アイは欲張りなんだ。確かに学校の男子の告白は嬉しかったよ? 嬉しかったんだけどね、ただそれだけなんだ。どれだけ愛しているって言われても、『愛』が分からない私の心には、オーカぐらいの愛じゃないと響かないんだよ」
机の上に投げ出していた俺の右手を、向き合う彼女は左手で指を絡めるように握る。
「おかしいよね、あれだけ欲しかった言葉を聞いても満足できないんだ。君の声じゃないと、君の耳じゃないと、君じゃないと、全然満たされないんだ。どうしてだろ? どうしてだろ?」
「さぁ? 俺には分かんねーよ」
「あははっ、私にもわからなーい。でもね、ミク君が言ってくれた言葉がね、今のところしっくり来てるんだ。それで一応納得してる」
未来のことである。
「あのバカはなんて言ってた?」
「『愛はね、理屈じゃないんだよ』って」
「……なんだそりゃ?」
もしやアイツも分かってないのでは?
島津は訝しんだ。
「私にも詳しくは分からないよ。だからさ──」
──探そう? 私と一緒に。
分からない者同士で、愛を見つけようよ。
そう締めくくった。
晴天の青空すら霞む、その満面の笑みで。
「……見つかるもんかねぇ」
「手始めにマウストゥーマウスでキスしてみたら分かるんじゃないかって愚考します!」
「ホントに愚考なんだよっ!」
俺のツッコミがクラス内に響き渡る。
ここで俺は、この恥ずかしい議論が教室で行われていることに気づく。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ……』
『ようこそ、33人目』
『ダメだ、勝てねぇ。お前がナンバーワンだ』
『聞いた? ──探そう? 私と一緒に。分からない者同士で、愛を見つけようよ。──って!』
『私、こんなロマンティックな告白初めて聞いたわ……』
阿鼻叫喚の一年二組。
俺は半眼になってアイを睨む。
「どーすんだ、これ」
「笑えばいいと思うよ?」
「笑えないんだよ」
星野アイの異名に『33人斬りの星野アイ』『島津アイ』が追加され、俺は『アイの旦那さん』と囁かれるようになった。
もう駄目だよ、コレ。
裏設定登場人物紹介
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今作のメインヒロインにして、原作で非業の死を遂げた元人気アイドル。転生時間軸にズレがあるが、そもそも転生そのもののシステムがファンタジーで不可解なので、皆が深く考えないようにしている。主人公の親愛が『命を賭して守り通す』の域なので、生半可な愛では満足できなくなってしまった。かなり主人公に依存しており、主人公が近くにいないと情緒不安定になることがある。くっそどうでもいい話であるが、生前のストーカー殺人事件で死亡した際に、島津家当主や重鎮複数が鬱で一月程寝込んだことがあり、そのせいで島津家存続の危機に瀕したことがある。島津家の資料には『西南戦争以降、最も島津家にダメージを与えた人物』として彼女の名前が記されている。