薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼの回です。
 100話超えまで、あと少しですね。終わりが見えないわコレ。
 感想ドシドシお待ちしてます。


079.謝礼金(結納金)

 夏期講習と言う名の午前授業。そのためだけに片道1時間弱の往復をしないといけないことを考えると、どうしてこの学校に進学したのか分からなくなる。そして、中央駅を適当に散策している間に、何を悩んでいたのか忘れるわけだ。

 頭の悪い永久機関の完成である。

 

 そんな俺たちは、夏休み期間かつ昼頃なので学生しか乗っていない電車の中で、周囲の邪魔にならないような小声で談笑をするのだった。

 いつもの1年生メンバーである。座席に座るのは女子面子と咸(位置固定)で、俺と他二人は吊革と戯れている。ここに双子が追加されると考えると、結構な大所帯になるなぁ。

 

 

「例の件であかねちゃんは、いくら稼げた? 懐がホクホクなんじゃないの?」

 

「……通帳見るのが怖い」

 

「そ、そんなに?」

 

 

 瞳のハイライトを消しながら鞄を胸に抱き寄せる黒川さんに、未来は引きつった笑いで返すしかなかった。今回の件で俺たち4人は労働に見合った……とは言い難いが、そこそこの臨時収入を得ている。むしろもらえなかった場合は内乱である。

 まぁ、所属勢力の身内のやらかしによる後処理なので、仕方ないとは割り切っている。

 しかし、黒川さんは血族外の部外者だ。島津的には『余所者』であり、今回はその『余所者』に助けられたという点が、大きな波紋を呼んでいる。いい意味で。

 

 地獄の5日間を経験した島津関係者からの、黒川あかねの株上昇はとどまることを知らないレベル。加えて、最近の彼女はウチのオカンを参考にしたのか、咸の2.3歩後ろを歩き、事あるごとに()を立てる言動を演じる。

 そのため、良くも悪くも古い夫婦像を持つ島津関係者からの評価も高い。

 これも咸含め二人で計算してやってるのが怖いよね。まぁ、俺たちに悪影響はないんだから、別にいいんだけど。

 

 そんな今回の『第二次アイちゃんショック』の功労者。

 別に謝礼金渡したからと言って、俺たちが彼女に対する恩を忘れることなんざしないが、それでも額が少なければ島津のプライドが許さない。

 

 

「今回の件で逝った重鎮は当主含め16名」

 

「多いな、オイ」

 

「働かざるもの食うべからず、原因が前世のアイのやらかしとはいえ、普通に考えて悪いのは気絶したオタ共なのは間違いない。本人たちもそれが分かってるから、月収を返還してきたんよ」

 

 

 こんだけ迷惑かけちゃあ、ねぇ?

 

 

「当主殿も自主的に返還して、当主殿の月収分の金が分配されて俺たちの臨時収入になってるわけ」

 

「それって結構大きな額なんじゃないの?」

 

「そりゃ大企業の倍以上の年収だしなぁ」

 

「わーお……」

 

 

 目を丸くするアイだが、話はそこで終わらない。

 終わらなかったから、別の意味で情緒不安定な黒川さんがいらっしゃるわけだ。

 

 

「で、他15名の月収分が浮いたわけだが、最初は貯蓄に当てようとしたんだけど、黒川さんに対するお礼の件を俺が持ち出したんよ。ほら、アルバイトでも財政担当やし」

 

「桜華が財布握ってるの地味に怖いけどね」

 

「種子島家への予算減らす。決めた。んで、彼女にいくら贈与するかって話になって……アイちゃんショックの疲れも取れてなくて、なんか計算するのが面倒になって」

 

「おや、雲行きの様子が」

 

「最終的に『礼金で金銭配分考えるのは女々しか。もう全部あげちゃいましょう』って話になって、当主も『迷惑かけちゃったし、全部渡しちゃおうか』ってことで、重鎮15人分の月収が黒川さんの手に渡ったのでした、と」

 

「「………」」

 

 

 彼女の活躍を聞いた重鎮勢も満場一致で可決。

 多いような気がしなくもないけど、文字通り『存続の危機』だったウチに多大な貢献をしてくれたのだ。文句言う奴は物理で黙らせた。

 その言葉に沈黙する兼定と未来。咸は知っているけど、それでも苦笑が止まらない。

 

 

「……ねぇ、桜華。上の面々の月収15人分だよね?」

 

「そそ」

 

「……全員、中小企業の社長以上には貰ってるよなァ」

 

「だね」

 

「実際のところいくらなの?」

 

「俺も詳細を見たわけじゃないけど、そもそも黒川さんの前で金額言うのもアレなので……2翠玉ぐらい?」

 

「「「ヒエッ……」」」

 

 

 税所家ではこれを『結納金』と呼んでいるとかなんとか。

 一般的な結納金は新郎側が、新婦側の親に渡すものなので、税所家の親みたいな島津家が、2エメラルドちゃん君分の額を新婦側に渡したわけである。黒川さんの両親が聞いたら卒倒しそうである。主に、半返し的な意味で。

 あ、お返しはいりませんからね。一般家庭でエメラルドちゃん君分のお返しは求めてない。用意するのも大変だろうし。

 

 この言葉に2人に加えて、アイの小さな悲鳴が上がる。

 後から冷静になって考えてみたが、渡し過ぎである。課税対象である。あ、黒川さんの税金分はウチで負担しときますね。ちょうど種子島家の予算が浮くので。

 

 

「やっぱり金だよね、一番ネックになってくるのは。それさえクリアしちまえば、あとは個人間の感情での判断にできるじゃん? いやー、彼女の将来も安泰って考えれば、俺の思考放棄も良かったんじゃないかって思う」

 

「何の話をしているんですか、桜華」

 

「あとは感情的外堀埋めるだけじゃん。難しいとは思うけど、頑張ってね」

 

「なぜ、あかねの方を見て、次に私の顔を見たんですか。他のメンバーもグッじゃないですよ。あのですね、あくまでも仕事上の恋愛関係であって、もちろん終了する可能性も──」

 

 

 往生際の悪い税所家の麒麟児の言い訳が続くが、俺より先に金銭面での障害を取り除かれたのだ。待っているのは人生の墓場であるということを、いい加減認めろ。

 ほら、見てみろよ。

 黒川さんも「……仕事上、だよね。うん。でも──本気にさせても、いいよね?」とか言ってんじゃん。俺知ってる。体験した。こうやって外堀内堀は工事されるんだって。

 

 

「話は変わるけど、この時間は腹が減るなぁ」

 

「あ、それなら中央駅地下のマック行く?」

 

「アイの案採用。他について来る面々おる?」

 

 

 最近改装工事でオシャレな客席に進化した、中央駅アミュプラザ地下のマクドナルドへ向かうことに、全員が賛成する。

 中央駅で停車した電車から降り、いつものように改札口を通過し、安心と信頼の中央駅へと足を運ぶ。最初は黒川さんが皆に還元したいと支払いを申し出たが、それは将来の生活設計に必要なお金だと俺たち(除:咸)は思っているので、結局はそれぞれで支払いを終わらせる。

 

 6人の大所帯ではあるが、それ以上にだだっ広い空間なので、隣の机を動かしたりなどして6人席を作る。各々が買った商品を持ち寄って、何の役にも立たない雑談を始めるのだった。

 そんな、俺たちの日常。

 

 

 

 

 

「おぉ、火山噴火したらしいぞ。そこそこの大きさ」

 

「Twitterも阿鼻叫喚だね。他の県の面々が」

 

「なァにが『この世の終わり』だ。これだから降灰2センチで慌てふためく下等民族がよォ」

 

「でも、我々は積雪3センチで都市機能がマヒする下等民族ですよ?」

 

「生まれ変わってから、雪ってあんまり見たことないなぁ。小さい時は、代わりに灰が降るって聞いて絶望したけど。……あ、風向きこっちだ」

 

「………」

 

「どうしたの、あかっち」

 

「洗濯物……干して、きちゃった……」

 

「あ、あかね……?」

 

「「「「あー……」」」」

 

 

 

 




カミキ「……ふむ、その『兼ちゃん』君が鹿児島に」

みなみ「それしか覚えとらんけどね」

カミキ「記憶にあるのは、そのあだ名と幼少期の容姿のみ。それだけの情報で探すとなると、些か難しい気がするな」

みなみ「しゃーなしってことや。あっちも覚えとらんと思うし、ウチも諦め──」

カミキ「探せばいいじゃないか」

みなみ「……え?」

カミキ「探せばいい。夏休みだろう?」

みなみ「で、でも、仕事が……」

カミキ「私に任せたまえ。君は、その少年を探してくるといい」

みなみ「………」

カミキ「諦めるのは、探してからでも遅くないだろう?」













謎の少女「私が代わりにグラビア撮影とか頭おかしいでしょ」

カラス「カァ」


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