薩摩の子   作:キチガイの人

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 別のハーメルン作者さんの作品見て凄いと思う今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
 アイを生前で救おうとすると、黒幕からの再刺客を処理するのは大変ですし、いざ恋愛しようとするとアイドルという立場から複雑化しますし。それのバランスを考えるのが大変だと思いました。
 いっそのこと転生させて薩摩で防衛戦(釣り野伏)して、自由恋愛した方が幸せだと個人的には思うんですよね。しかも楽でいい。双子に会わせてやれないのが心残りですが。


008.年貢の納め時

 俺はリビングのソファーの上で正座していた。

 気持ちはギロチン台で死刑執行を待つ死刑囚の心境だ。俺は項垂れた頭を若干上げ、死刑執行人の様子を伺う。

 

 死刑執行人──星野アイは微笑んでいた。

 対岸のソファーに優雅に腰をかけ、足を組みながら死刑囚を見下ろすのだ。いや、身長的に俺の方が上なのだが、なぜか俺は見下ろされている気分だった。

 

 彼女は確かに微笑んでいた。

 一見そうにしか見えないだろう。

 内心めっちゃ怒っているようだけど。

 

 

「オーカの気持ちは分かるよ。オーカも男の子だもんね。仕方ないと言えば仕方ないよね」

 

「……そう仰って頂けると幸いです」

 

「まだ健全だって、頭の中では理解してるんだ。私もほら、生まれ変わる前の今の歳ではヤッてたし。だから子供産んだわけだし」

 

 

 俺とアイの間には机一つ。

 その机の上には5冊の本が並べられていた。

 聖典(エロ漫画)である。

 

 

「でもさ。でもさぁ──これはあんまりじゃないかなって、私は思うわけですよ。こんな可愛い女の子を放置してさ、無駄打ちするのって良くないんじゃないかなぁ」

 

「本番の方が良くないと思うのですが……」

 

「『制服美●女』に『ミルク●ーレム』ねぇ。あとこれは『少女●春』と。……『カノジョとの●ミツ』かぁ。へーほーふーん? 『おさななじみ●っち』ってのもあるんだねぇ」

 

「いやホントすみません名前挙げるのは勘弁してください」

 

 

 しかも中身まで確認してるし。

 何が悲しくて女の子にエロ本読まれるんだよ。あれか、俺実は前世の業でも背負って転生したクチか? 

 俺だって彼女に不快なものは見せたくない。その一心で、兼定のアドバイスからベッド下のダイヤル式金庫の中にある、南京錠の鍵のかかった箱の中にある、カードキーで開く箱の中に厳重に隠していたはずなのに。どうしてバレてしまったのだろうか?

 無音の中、ペラペラと紙をめくる音が聞こえる。この地獄の光景が何分続いたのだろうか。パンっと本が閉じた音が響き、アイは嘘の笑顔で俺を見据えた。

 

 

 

 

 

「──おっぱい、しかも大きいのが好きなんだ」

 

 

 

 

 

 腹切って詫びていいですか?(震え)

 口にするとアイがマジで辛そうな顔をするから、切腹を口外することは無くなったが、それでも今は介錯を頼みたいレベルだ。そうじゃないと俺の人格が崩壊する。

 後ろでLINEで馬鹿に助けを求めているが、いまだに未来の『草』の返答しか来ない。

 

 さて、彼女への質問の答えか。

 俺はヤケクソで暴露した。性癖には素直になれって当主も言ってた。

 

 

「──大好きです」

 

「ふーん……揉みたいんだ」

 

「男の憧れです」

 

「ほーん……吸いたいんだ」

 

「素晴らしい文化だと思います」

 

「そっか……ところで私にも、この漫画程じゃないけど、美乳があります」

 

「堪忍してつかぁさい……っ!」

 

 

 アカン、長男でも耐えられねぇ。

 俺はソファーの上で器用に土下座した。

 ただ彼女も最初言ってた通り、男としてエロ本規制だけは何としても回避しないといけない。俺の理性が続く限り彼女の貞操だけは死んでも守るが、それでも何があるのかわからないのが人生だ。

 男とは色々溜まるものである。アイに手ぇ出してみろ。親父殿と当主に顔向けできねぇ。

 

 自分の安寧のため、彼女の安全のため、この暴走しやすい同棲生活の環境、不穏要素を極力排除するために、知識を総動員させて、エロ本の重要性を説いた。

 俺は何やってんだ。

 

 

「……私のため、か。そうだよね、お義母さんも、男は適度に発散しないとダメな生き物だって言ってたし。オーカに無理させちゃうのも、私が嫌だし。溜め込まないのが一番だよね」

 

「分かって頂けたようで何よりです」

 

 

 アイは俺の聖典を全部束ねて机の上に置く。

 そして、その山の横にトランプサイズの箱を置いた。

 

 

 

 

 

「……アイさん、そのコンドームの箱は?(震え)」

 

「私とオーカが一緒に発散できる素敵なアイテム」

 

「………(過呼吸)」

 

 

 

 

 

 俺の童貞、もうダメかもしんない。

 しかもサイズまで把握されてるし。外堀内堀、城まで埋められ、大坂夏の陣を迎えた豊臣秀頼の気分なんだが。真田さん徳川側に見えるんだけど。

 

 トランプサイズの箱を次々と山積みに置いていく元人気アイドルを横目に、俺は酸素のあまり回ってない脳ミソを酷使して打開策を図る。

 勘違いしないでほしいが、エロ漫画から分かる通り俺も()()()()()()には人並みに興味あるし、島津家の血筋としての務めというものを果たす日が来るだろう。だからと言って──このままなし崩しに行うのは、違うだろう?

 

 俺は覚悟を決めた。

 今もなおジェンガ並みに箱を積んでいる彼女を呼び止める。

 

 

「アイ」

 

「今日何箱使う?」

 

「すまないが、今俺はそれを君とするつもりはない」

 

 

 彼女はピタッと動きを止めた。

 心なしか肩も震えている。

 

 

「……あははっ、やっぱり私じゃダメだよね。ほら、オーカっておっぱい大きな子が好きだし、私ってそんな大きくないし。あ、確かオーカと同じクラスに巨乳の子が居たよね? あれは同じ女の子でも嫉妬しちゃうくらい大きいよね、びっくりしちゃった。オーカのこと気になるって言ってたし、せっかくの初めてなら……あんな……子……が、良い……と……」

 

「何の話をしているのかさっぱりだが、壮絶な誤解をしていそうだから訂正させてほしい」

 

 

 嘘の仮面で笑うアイの目を見据えて、俺は言葉を選びながら話をする。

 元々俺の管理不足で始まった騒動だ。彼女のためにも、俺は腹をくくるしかないんだろう。武士共よ、死するは今ぞ。

 

 

「今は、と言ったはずだ。……本当にごめん、俺の心の準備がまだできてないんだ。アイには辛い思いをさせるけど、俺が覚悟決めるまで、もう少し待ってくれないか?」

 

「……私で、いいの?」

 

「俺の台詞だよ。待ってる間に愛想尽かされなきゃいいけどな」

 

 

 不安そうに怯える彼女に俺は笑いかけた。

 内心、恋人同士になる前にヤって倫理観的に問題ないのかとか、そもそも俺自身が彼女を心の底から愛しているのかとか、星野家両親にどう詫びようかとか、親父殿と当主にどう申し開きしようか、様々な感情が渦巻いている。

 だが所詮は俺の問題だ。彼女を不安にさせてまで優先させるべきことではない。

 

 俺は正座しながら頭を下げる。

 

 

「──その時は、俺からお願いすると約束する。もちろんその時に断ってくれても全然かまわない」

 

「……その言い方はズルいよ。期待して待つしかないじゃん」

 

「………」

 

「条件、つけていい?」

 

「何なりと」

 

 

 彼女からの提案は可能な限り受け入れるつもりだ。

 ……こんな男を好きになってしまったアイには、本当に申し訳ないが。

 

 

「じゃあ、じゃあっ! その時は、私と付き合ってほしいな。もちろん、男女の関係で」

 

「あぁ、分かった」

 

 

 不安そうな笑みから一転して、いつもの魅力的な笑顔の彼女に変わり、俺はほっと胸をなでおろす。彼女ほどの素晴らしい女性に我慢を強いる俺自身に嫌悪感を抱くが、俺自身の気持ちがハッキリしないまま関係を持つ方が双方によくないと思う。

 

 さて、待ってくれとは言ったが時間は有限である。

 タイムリミット的には高校卒業後が無難か? いや、今後の人生設計の見通しがある程度立つ大学卒業が安定か。もちろん彼女に合わせるべきだろうから、そこらへん話

 

 

 

 

 

「次の私の誕生日、楽しみにしてるね」

 

 

 

 

 

 俺はスマホで時間を確認した。

 半年もないんだが。

 もう一度言う。半 年 も な い ん だ が。

 

 

「この漫画借りていい? いろいろと参考にしたいから」

 

「………」

 

「次の誕生日、楽しみだなぁ。えへへっ、オーカと恋人、かぁ……えへへっ」

 

 

 彼女は俺の聖典(エロ漫画)を抱えて、スキップしながら自分の部屋に消えて行った。

 残ったのはソファーで正座した俺と、4.5ダースのコンドームの箱のみ。

 

 

「………」

 

 

 俺は両手で顔を覆いながら、ソファーに寝転がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと半年でオーカと恋人になれるんだぁ。協力してくれてありがとね、タネサダ君」

 

『兼定な』

 

 

 

 




裏設定登場人物紹介

税所(さいしょ) (みな)
 島津の家臣団が一つ、税所家の現当主。今作では主に諜報活動に秀でた一族であり、主に島津家の命で他家の情報収集を行うことを主に行っている。現当主たる咸の情報収集能力は薩摩一と揶揄され、『税所家の麒麟児』の異名を持つ。本来なら精巧に隠蔽されている生前の星野アイの情報の入手に成功し、双子の情報から、アイの旦那の素性まで暴く始末である。かなり胡散臭い見た目・雰囲気をしており、主人公の言っていた噓つきの知人はコイツである。しかし、身内への情は強い。余談だが、原作黒幕の情報を入手したとき、浮浪者に金を握らせて間接的に始末しようと考えたくらい、彼女の殺害に関しては非常に遺憾の意を持っている。
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