薩摩の子   作:キチガイの人

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 ガチシリアス回です。
 初の未来視点の話となります。
 コイツん家の異常さが垣間見えますね。
 感想お待ちしております。


082.種子島から見た君

『星野アイです。よろしくねっ』

 

『お、自己紹介? 初めまして。僕は種子島未来って言うんだ。よろー』

 

『よろー』

 

 

 星野アイという少女に初めて会った時、僕が最初に抱いた感情は憎悪だった。

 あぁ、お前がクソ姉貴の婚約者を奪ったのかと。お前のせいで、一縷(いちる)の望みだった、姉貴の婚約は破棄され、その重圧を僕がすべて背負うことになったのかと。そのような暗い感情を表に出さず、僕は笑顔で彼女に接するのだった。

 彼女さえ出しゃばってこなければ、姉貴は桜華とくっつくことになり、島津家と種子島家の関係は強固なものになる。加えて、姉貴が子供さえ生んでくれれば、長男である僕がつくであろう種子島家の次期当主の座なんて、喜んで譲ろうと思っていた。

 

 僕に次期当主の器はない。

 そんなこと、僕が一番よく理解しているのだ。

 

 しかし、島津側から婚約は破棄された。

 所詮、名家の婚約関係なんて、『とりあえずツバつけとけ』程度の効力しかないのは分かっていたし、宗家からの通達であれば、種子島家としては従う他なかった。……正直、クソ姉貴(アレ)が今まで婚約破棄されてなかったことが奇跡だったけど。

 

 

『もしかして、アイちゃんって、桜華の()()?』

 

『ん~、内緒っ』

 

『内緒かぁ、それは仕方ないねぇ』

 

 

 聞くところによると、あんまり聞いたことのない分家の養子が、桜華の許嫁になるんだとか。それが、目の前にいる少女──星野アイという女だとか。

 なるほどね。お前のせいか。僕は内心穏やかではなかった。

 

 姉貴の婚約者探しは絶望的であり、当の本人も相手を探す気配は全くなし。姉貴の婚姻関係を諦めた父親は、僕に狙いを定めてきたのだ。

 種子島家当主はとても優秀であった男ではあったが、優秀な父親ではなかった。それはそうだ、世論に評価される人間というものは、何かしらを犠牲にして成り立っている。僕たちの父親にとって、僕は()()()()()()()()()()()でしかなかったのだ。

 僕だって父親にまともな感性は期待してない。……いや、種子島家にとって、それが当たり前なのだ。だからこそ、家族との縁を捨ててまでも血筋の存続、優秀な人材の育成を最優先としてきたからこそ、島津家の右腕を名乗れる立場を維持している。

 

 

『ねぇねぇ、ミク君。聞きたいことがあるんだけどね?』

 

『未来だよ。なになに?』

 

『私ね、人を愛したいって思ったの初めてなんだ。でも、どうやって愛せばわからなくて。あと、私自身が嘘つきだからさ──』

 

 

 ほら、アクア君とルビーちゃんの近親婚の話、やけに詳しかったじゃん? あれね、知識の出所が僕なんだよね。みんなからドン引きされたけど。

 そりゃそうだ。──僕に浮いた話がなかったと知った父親が、姉貴と子を成すよう画策したのだから。あのときは流石にブチ切れて物理的に黙らせた。いくら異母姉弟だからって、ジョークとしても笑えなかった。

 確かに公にされてないとはいえ、一昔前のド田舎だと近親相姦とか普通にあったらしい。探せば、もしかしたら現代にも残っているかもしれない。

 だからと言って、姉貴が相手とか死んでもごめんだが。

 

 星野アイ、本当に余計なことをしてくれたものだ。

 お前さえいなければ、お前が現れなければ、種子島家の将来は安泰だったものを。

 

 だからこそ、僕は島津桜華と星野アイの関係を、

 

 

 

 

 

『──そんな、私の()。オーカに、届くかな?』

 

 

 

 

 

 この邪魔者を。この女を。この──星野アイという少女を。

 

 

 

 

 

『──届くかな?じゃなくてさ、届かせてみなよ、君の想いを』

 

 

 

 

 

 彼女の恋を、僕は心の底から()()()()()()()()()

 できるかなぁ、と頬を赤らめながら呟く少女は、桜華から事前に聞いていた『前世が元人気アイドルの転生者』という情報が、頭からすっぽ抜けるくらい、僕の目の前にいたのは完全に恋する女の子だった。

 

 え、矛盾してないかって?

 ()()()

 

 僕が彼女に対する憎悪の感情は、完全に僕のエゴでしかない。自己中心的な怒りでしかない。醜い八つ当たりでしかない。

 僕が真にマイナス感情を向けるべきは、同族である種子島家当主とクソ姉貴だけである。彼女はただ、ただただ純粋に桜華に恋しており、どう愛を囁くべきかを四苦八苦する、僕の個人的感情とは無縁の女の子なのだ。

 そんな彼女に憎悪を向ける? 憎悪(これ)は自己完結で終わらせる感情であり、決して目の前の彼女にぶつけるべきじゃない。

 

 怒りの矛先を、己の都合で女子に向けるほど、僕は人の心を失っちゃいない。前世の生い立ちを小耳にはさんだ僕からしてみれば、彼女は今度こそ幸せになるべき人だ。

 僕の心の奥底に沈む憎悪も、彼女の恋への応援も、双方が自分の本当の感情である。ただ向けるべき方向を心得ているだけ。

 

 それに──

 

 

『そっかぁ。オーカ、喜んでくれるといいなぁ』

 

 

 彼女はとても美しかった。

 

 外見は言わずもがな、人を惹きつける瞳も然り。

 しかし、僕が美しいと思ったのは、彼女が桜華を想うときの表情──僕や他多数に向けての作られた仮面ではなく、自身の弱点を露出させ、ひたすらに一人の男の為を想う表情が。

 僕には眩しかった。

 

 人と言うものは、ここまで他者の為に想うことができるのか。

 打算や理屈じゃなく、心の底から、人を愛そうと頑張ることができるのか。

 

 種子島家の人間上、ひたすらに冷徹で残酷であり、味方のことを『人的資源』としか見れず、将来のお嫁さんを『子孫を残すための道具』としか認識できない僕にとって、それは衝撃以上の何物でもなかった。

 どこまでも書面上の数字に忠実で無関心な僕には、彼女の桜華に対する想いが輝いて見えた。

 

 同時に気づいてしまう。

 理解してしまう。

 

 僕は──圧倒的に、恋愛には向いていないのだと。

 異性を愛してはいけない人種なのだと。

 

 少なくとも打算的で利己的な関係じゃないと、相手を不幸にしてしまうのだと分かってしまったのだ。愛し愛される関係を望んじゃいけないのだと、彼女を見て思ってしまう。

 

 

『……為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』

 

『何語?』

 

『日本語だよ? 米沢藩の上杉鷹山の言葉ね。どんな物事でも、やろうと思って努力すれば、必ず実現できる。逆に無理だと諦めて努力しなければ、実現は絶対にできない……って意味』

 

『薩摩じゃないんだね……』

 

『名言に国境はないのさ』

 

 

 努力すれば必ず実現できる云々はちょっと怪しいけど、僕がアイちゃんに伝えたい言葉は後半の部分だ。頑張って実現できるとは限らないけど、頑張らなければ絶対に実現できない。

 僕としては、これからも桜華の為に頑張ってほしいなと発破をかけた。

 

 ()()桜華をあれだけ変えた女の子なのだ。

 やればできるはずだ。

 

 僕はもう誰かを愛することも、誰かに愛される資格すらないけれど。

 それでも、僕の友を照らし続ける一番星になってほしいと、切に願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂糖をバラ撒けとは言ってないけどね。

 

 

 

 




ゆき「あかね……元気にしてるかな」

カミキ「呼ばれた気がした」

ゆき「呼んでないよ?」

カミキ「何やらお困りの様子。吐き出してみたまえ、楽になるかもしれないぞ?」




カミキ「宗虎。私の(部下)の送迎を頼まれてはくれないか? あぁ、例の件もついでに頼む」

カミキ「………」

カミキ「さて──再会の時は近い、か」

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