薩摩の子 作:キチガイの人
初の未来視点の話となります。
コイツん家の異常さが垣間見えますね。
感想お待ちしております。
『星野アイです。よろしくねっ』
『お、自己紹介? 初めまして。僕は種子島未来って言うんだ。よろー』
『よろー』
星野アイという少女に初めて会った時、僕が最初に抱いた感情は憎悪だった。
あぁ、お前がクソ姉貴の婚約者を奪ったのかと。お前のせいで、
彼女さえ出しゃばってこなければ、姉貴は桜華とくっつくことになり、島津家と種子島家の関係は強固なものになる。加えて、姉貴が子供さえ生んでくれれば、長男である僕がつくであろう種子島家の次期当主の座なんて、喜んで譲ろうと思っていた。
僕に次期当主の器はない。
そんなこと、僕が一番よく理解しているのだ。
しかし、島津側から婚約は破棄された。
所詮、名家の婚約関係なんて、『とりあえずツバつけとけ』程度の効力しかないのは分かっていたし、宗家からの通達であれば、種子島家としては従う他なかった。……正直、
『もしかして、アイちゃんって、桜華の
『ん~、内緒っ』
『内緒かぁ、それは仕方ないねぇ』
聞くところによると、あんまり聞いたことのない分家の養子が、桜華の許嫁になるんだとか。それが、目の前にいる少女──星野アイという女だとか。
なるほどね。お前のせいか。僕は内心穏やかではなかった。
姉貴の婚約者探しは絶望的であり、当の本人も相手を探す気配は全くなし。姉貴の婚姻関係を諦めた父親は、僕に狙いを定めてきたのだ。
種子島家当主はとても優秀であった男ではあったが、優秀な父親ではなかった。それはそうだ、世論に評価される人間というものは、何かしらを犠牲にして成り立っている。僕たちの父親にとって、僕は
僕だって父親にまともな感性は期待してない。……いや、種子島家にとって、それが当たり前なのだ。だからこそ、家族との縁を捨ててまでも血筋の存続、優秀な人材の育成を最優先としてきたからこそ、島津家の右腕を名乗れる立場を維持している。
『ねぇねぇ、ミク君。聞きたいことがあるんだけどね?』
『未来だよ。なになに?』
『私ね、人を愛したいって思ったの初めてなんだ。でも、どうやって愛せばわからなくて。あと、私自身が嘘つきだからさ──』
ほら、アクア君とルビーちゃんの近親婚の話、やけに詳しかったじゃん? あれね、知識の出所が僕なんだよね。みんなからドン引きされたけど。
そりゃそうだ。──僕に浮いた話がなかったと知った父親が、姉貴と子を成すよう画策したのだから。あのときは流石にブチ切れて物理的に黙らせた。いくら異母姉弟だからって、ジョークとしても笑えなかった。
確かに公にされてないとはいえ、一昔前のド田舎だと近親相姦とか普通にあったらしい。探せば、もしかしたら現代にも残っているかもしれない。
だからと言って、姉貴が相手とか死んでもごめんだが。
星野アイ、本当に余計なことをしてくれたものだ。
お前さえいなければ、お前が現れなければ、種子島家の将来は安泰だったものを。
だからこそ、僕は島津桜華と星野アイの関係を、
『──そんな、私の
この邪魔者を。この女を。この──星野アイという少女を。
『──届くかな?じゃなくてさ、届かせてみなよ、君の想いを』
彼女の恋を、僕は心の底から
できるかなぁ、と頬を赤らめながら呟く少女は、桜華から事前に聞いていた『前世が元人気アイドルの転生者』という情報が、頭からすっぽ抜けるくらい、僕の目の前にいたのは完全に恋する女の子だった。
え、矛盾してないかって?
僕が彼女に対する憎悪の感情は、完全に僕のエゴでしかない。自己中心的な怒りでしかない。醜い八つ当たりでしかない。
僕が真にマイナス感情を向けるべきは、同族である種子島家当主とクソ姉貴だけである。彼女はただ、ただただ純粋に桜華に恋しており、どう愛を囁くべきかを四苦八苦する、僕の個人的感情とは無縁の女の子なのだ。
そんな彼女に憎悪を向ける?
怒りの矛先を、己の都合で女子に向けるほど、僕は人の心を失っちゃいない。前世の生い立ちを小耳にはさんだ僕からしてみれば、彼女は今度こそ幸せになるべき人だ。
僕の心の奥底に沈む憎悪も、彼女の恋への応援も、双方が自分の本当の感情である。ただ向けるべき方向を心得ているだけ。
それに──
『そっかぁ。オーカ、喜んでくれるといいなぁ』
彼女はとても美しかった。
外見は言わずもがな、人を惹きつける瞳も然り。
しかし、僕が美しいと思ったのは、彼女が桜華を想うときの表情──僕や他多数に向けての作られた仮面ではなく、自身の弱点を露出させ、ひたすらに一人の男の為を想う表情が。
僕には眩しかった。
人と言うものは、ここまで他者の為に想うことができるのか。
打算や理屈じゃなく、心の底から、人を愛そうと頑張ることができるのか。
種子島家の人間上、ひたすらに冷徹で残酷であり、味方のことを『人的資源』としか見れず、将来のお嫁さんを『子孫を残すための道具』としか認識できない僕にとって、それは衝撃以上の何物でもなかった。
どこまでも書面上の数字に忠実で無関心な僕には、彼女の桜華に対する想いが輝いて見えた。
同時に気づいてしまう。
理解してしまう。
僕は──圧倒的に、恋愛には向いていないのだと。
異性を愛してはいけない人種なのだと。
少なくとも打算的で利己的な関係じゃないと、相手を不幸にしてしまうのだと分かってしまったのだ。愛し愛される関係を望んじゃいけないのだと、彼女を見て思ってしまう。
『……為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』
『何語?』
『日本語だよ? 米沢藩の上杉鷹山の言葉ね。どんな物事でも、やろうと思って努力すれば、必ず実現できる。逆に無理だと諦めて努力しなければ、実現は絶対にできない……って意味』
『薩摩じゃないんだね……』
『名言に国境はないのさ』
努力すれば必ず実現できる云々はちょっと怪しいけど、僕がアイちゃんに伝えたい言葉は後半の部分だ。頑張って実現できるとは限らないけど、頑張らなければ絶対に実現できない。
僕としては、これからも桜華の為に頑張ってほしいなと発破をかけた。
やればできるはずだ。
僕はもう誰かを愛することも、誰かに愛される資格すらないけれど。
それでも、僕の友を照らし続ける一番星になってほしいと、切に願うのだった。
砂糖をバラ撒けとは言ってないけどね。
ゆき「あかね……元気にしてるかな」
カミキ「呼ばれた気がした」
ゆき「呼んでないよ?」
カミキ「何やらお困りの様子。吐き出してみたまえ、楽になるかもしれないぞ?」
カミキ「宗虎。私の
カミキ「………」
カミキ「さて──再会の時は近い、か」