薩摩の子   作:キチガイの人

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 ほのぼの回です。
 前の話との温度差よ。前回の話で独白がクソ重い等の感想をいただきましたが、たぶん彼がオリキャラ勢で一番マシな部類です。一番ヤバいのが咸と兼定ですし。
 感想お待ちしております。


083.レンジと卵

「夏休みだあああああああああああ!!」

 

「上機嫌だな、アイ」

 

「最っ高に楽しいよおおおおおおおお!!」

 

 

 俺が自称進学校に進学したのが悪いんかなぁと思いながら、完璧で究極なステップを踏みながら、楽しそうに踊る黒髪の少女。とてもじゃないが中央駅の改札口前で舞うようなレベルではなく、通る人々の視線を惹きつけるものがあった。

 まさか通行人も『夏季講習最終日のためハイテンションになってるだけ』だとは思うまい。

 既に授業も終わったので、後は楽しい楽しい高校生活初の夏休みが始まるのだ。

 

 既に馬鹿共+αとは別れている。

 兼定は中央駅地下のユニクロへと服を買いに行った。あの高偏差値カップル(咸と黒川さん)以外の薩摩メンバーは、服は着れればそれでいい派の人間なので、俺もアイも基本的にはユニクロで済ます。いや、ユニクロ便利じゃん。安いし。

 未来は中古ゲーム屋巡りに行っている。なんでも幻の友情破壊ゲームである『カービィのエアライド』のソフトを入手したらしい。なので肝心のゲームキューブを探しに行っているのだとか。もし見つからなかったら、当主殿(アイの伯父さん)から借りる予定。明日は俺の家でエアライドパーティーである。何気にアクアが参加に意欲的だったのを思い出す。前世的にはエアライド世代だもんね。

 

 そんで高偏差値カップルはというと……

 

 

『映画見に行ってくるね! 予約は既にしてあるよ!』

 

『え、私はちょっと用事があるんですが、あかね聞いてま──

 

 

 黒川さんが税所家の鈍感男を引きずって、中央駅隣接のアミュプラザ最上階の映画館へと向かった。十数分後に、税所家で咸以外で唯一交流のあるおじさんから『当主の居所知りません? 連絡がつかないんですが……』とLINEが来た。

 ひとまず『お姫様とランデブー』と伝えておいた。

 『ならば良し!』のスタンプが返って来た。

 

 

「今日は何の服を着ようかな? 競泳水着かな? バニーで攻めてみよっかな? 今時のアイドル衣装で愛し合おっか?」

 

「待ちたまえドスケベ性欲モンスター。まずは西口のビックカメラ行くぞ」

 

「何か買うものあったけ?」

 

 

 ダンスを止めて俺の元に戻ってくる。

 終わった瞬間に立ち止まって見ていた観客がまばらに拍手し、アイはそれに手を振って応える。東口広場近くで路上ライブしている人を見るが、それより観客が多かったのは皮肉な話だ。

 

 俺の言葉に元人気アイドルの少女は首を傾げる。可愛い。

 その様子に、忘れたのかと俺はため息をついた。

 

 

「お前の娘さんが我が家のレンジを昇天させただろうが」

 

「……あー」

 

 

 ジト目の俺の視線から逃れるように、明後日の方向を見ながら冷や汗をかく少女。

 

 昨晩の事だが、いつものようにソファーなりベッドなりで寛いでいた俺たちの耳に、4発の爆発音が部屋内に鳴り響いたのだ。キッチンからであり、俺はベッドから転げ落ちながら瞬時に体制を整え、ダッシュで音源へと向かう。

 

 

『ルビー!?』

 

 

 が、ロリコンでシスコンな先生には敵わなかった。ソファーで足を組みながらスマホを弄っていたアクアは、パパパパンと鳴った瞬間には、妹の名前を叫びながら厨房へと向かった。

 順番的にはアクア、俺、アイの順で着いただろうか。

 たどり着いたときには、冷蔵庫の上に置いてあったレンジが煙を上げ、床は卵の黄身と白身だらけであり、アクアが白と黄色の破片を付着させて涙目になった妹を抱きしめていた。

 

 後にルビーは供述する。『みんなの為にゆで卵を作りたかった』と。その心遣いは大変うれしかったが、今までの彼女の周りには『レンジに卵ぶち込んでチンすると爆発する』ということを教えてくれる人はいなかったらしい。

 本来なら親が教えるような知識なのだろう。と俺は思ったが、口には絶対に出さない。星野一家に『親』という単語は、地雷以外の何物でもないのだ。そこら辺の知識の伝授は母上に任せるとしよう。

 

 

『ルビー! 大丈夫!? 怪我はない!?』

 

 

 幸いにも怪我の類はなかったらしい。アイがルビーを抱きしめている間に、俺はレンジのコンセントを抜いて状況を確認する。

 黄色と白色で彩られたレンジの中だが、残念ながら再起不能だと俺は判断した。使えないわけではないだろうけど、かなりダメージが大きいようなので、使い続けることによる二次災害を危険視して、同棲時に購入したレンジを破棄することを決めた。

 

 

『……やっぱりダメか? 購入費用は俺が出す』

 

『え、えと……そ……その、パパ……ご、ごめん、な、さい……』

 

『……うん、ルビーちゃんに怪我がなくて良かったわ。これも古かったから、それも原因かもしれない。買い替え時だったから、アクアが気にすることはねぇぞ』

 

『『………』』

 

 

 享年3ヶ月だが、これはもう仕方ない。

 二人は俺のド下手な噓を疑っている様子だったが、それ以上のことは言わなかった。追及したところで、傷つくのが誰になるのかを理解していたからだろう。

 

 なので現在の我が家にレンジがない。

 死活問題である。

 

 

「レンジ、レンジ……っと、どれがいいんだろ」

 

「できれば安いのがってのは、流石にダメだよね。長く使いたいし」

 

 

 家電製品は俺たちにとって大きな買い物の部類であり、アイのように可能であれば安いのがいいと思うのは当然だ。けれども、安物買ったところで、銭を失っては意味がない。

 俺は全体的な値段を見て、中間あたりの値段かつ良さそうなものを選ぶことが多い。こういうの、結構性格が出る。咸は平均使用年数のサイクルで最高品質の家電を買うし、未来が同じようなサイクルで型落ちの安い商品を買う。兼定は一番高いのを買ってギリギリまで使い潰す。

 

 

「あと掃除がしやすいやつ」

 

「それなぁ」

 

 

 アイのボソッと呟いた一言に、俺は激しく頷く。

 手入れのしやすさって、もしかしたら一番大事かもしれない。

 

 そんな感じで彼女とワイワイ相談しながら、手ごろな価格かつシンプルなデザインのオーブンレンジを購入することになった。前のが普通のレンジだったのに対し、これはオーブンやグリルが使えるので、料理の幅がかなり広がる。

 これには凝った料理をする俺はにっこり。

 冷凍ピザを調理したかったアイもにっこり。

 

 大荷物を現金払いで購入した俺は、ブツを抱えながら改札口前経由で東口に行く。

 後方をついて来る一番星。

 

 途中、普段見かけないような光景を改札前の広場で目にした。

 視界に映るのは3名の男女。比率は2:1だ。

 男共は地元民であり、明らかにチャラい外見のにーちゃんたちだった。年齢は10代後半かな? もうちょっといくか? どちらにせよ、あまり関わりたくないタイプの人種ではあった。

 そして彼らに絡まれる少女。俺たちと同じ年齢だろうか? 深くキャップを被り、黒いサングラスで隠してはいるが、その骨格からしてかなりの美少女であることは明白であった。そしてスタイルが良い。おっぱいがめっっっっっっちゃデカい。レンジ持ってなければ拝んでたかもしれない。

 

 男共は馴れ馴れしく少女の肩を組んだり、桃色の髪を遠慮なく触っている。

 少女はしどろもどろになりながら、服の裾を強く握りしめ、よく見たら若干震えているのが見える。どこをどう見ても、嫌がっているのは明白だ。

 

 

「……行くぞ、アイ」

 

「……うん」

 

 

 こういうのは関わらないに限る。

 大荷物持ってるので早く帰りたいし、どう考えても厄介ごと案件だ。一般人な俺とアイが介入しても良いことなど何一つない。

 というか、赤の他人だし。別に助ける義理もなければ、俺が守護するべき身内でもない。わざわざチャラいにーちゃんの邪魔をする必要もないだろう。いざとなったら、彼女も助けを呼ぶだろうし、駅員さんも近くにいるから、何の問題もない。

 

 俺は歩みを進め──

 

 

 

 

 

「──待たせてすまん。目的のレンジ買ってきたわ。じゃあ、行こうぜ」

 

「……えっ」

 

「「は?」」

 

 

 

 

 

 レンジ片手に少女に声をかけた。桃髪の少女は困惑し、男共は顔を歪めて俺を睨む。

 ヘイトがこちらに向いたことを確認した俺は、レンジの入った段ボールを下ろしながら笑顔でお兄さんたちに声をかける。

 

 

「すみません、俺の友達なんです。怖がってるので──その手、放していただけませんか?」

 

「はぁ? 出しゃばってくんなガキ」

 

「うぜぇんだよ、どっか行けクソが」

 

 

 肩を組んでいた男は嫌がる少女を抱き寄せて、もう一方は後方で様子をうかがっていたアイを視界に収めたらしく、俺の彼女を舐め回すように見

 

 

「──あ゛?」

 

 

 俺は殺気混じりの声色と共に、双方を穴が開くくらい見つめる。

 いくらお兄さんたちに身長的優位があるとはいえ、最凶最悪の戦闘殺戮集団たる島津家の、欠陥品ながらも末席を汚す(殺人鬼)の殺意に屈したのだろう。男たちは表情を引きつらせながら尻尾を巻いて逃げ出すのだった。もちろん、周囲の人間に漏れるような睨み方はしない。

 ……親父殿やご隠居なら、最低でも失神させるくらいは殺意を込められただろうに。やっぱり俺もまだまだだな。精進しよう。

 

 俺は静かにため息をついて、少女に向き直る。

 少女は何度も頭を下げて感謝の意を示した。胸部装甲が激しく揺れてる。あと脇腹が痛いっす、アイさん。

 

 

「大丈夫なら良かった。次からは早めに大人の人呼んだほうがいいぜ。んじゃ」

 

「──あ、あのっ」

 

「……まだ何か?」

 

 

 彼女はサングラスを外し、髪と同じの鮮やかな桃色の瞳を、俺に向けた。

 

 

「──人を、探してるんよ」

 

 

 ──これが、伊集院兼定の終わりの始まりである。

 

 

 

 




カミキ「カラス君たち、ご飯だぞ」

カラスs「「「「「カァ」」」」」

カミキ「……よしよし、良い子たちだ。では任務、頼んだぞ」

カラスs「「「「「カァ(`・ω・´)ゞ」」」」」




謎の少女「………」

謎の少女「あの、私の鴉なんだけど」
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