薩摩の子 作:キチガイの人
穏やかな時間ですね。次回の為に、今のうちにほのぼのしてください。
感想お待ちしております。
鹿児島中央駅の東口階段の真下にはスタバがある。
そう、アイがカミキヒカルよりも大好きな『スターバックスコーヒー』である。ちなみにスタバへの来店頻度を確認したところ、半年に一回程度と解答された。そういうことである。
桃髪の少女を伴って来店した俺は、ひとまず壁際の人目があまりつかないところへと避難する。俺の彼女から事前に『あの顔の隠し方は、たぶん芸能人じゃないかな?』と聞いていたからだ。
鹿児島は皆様方がご存知の通り、ぺんぺん草しか生えてないレベルのド田舎だ。テレビで見るような有名人も目的を持たなきゃ来ることはほとんどないと断言できる。つまり、スタバの壁際にいとけば、有名人であろうが「でも鹿児島にいるわけないよなぁ」と、誤魔化せる……はず。
鹿児島に芸能人はほとんど来ないのだ。
な、黒川さん。
な、アイ。
注文されたものを待ちながら、俺たちは互いに自己紹介を行った。
俺が注文したのは抹茶ラテ何とかである。俺、抹茶、大好き。
「──へぇ、
「目の前でググるのは非人道的やない?」
「み、見て見てっ。『ミドジャン』の表紙に出てる!」
「うわぁ、物凄くえっちだぁ」
「目の前で雑誌の表紙を出すの非人道的やない?」
アイがご本人の目の前で、即席でウェブで買った雑誌の表紙を俺の前に出す。スマホに映っていた彼女のグラビア写真は、全国の健全な青少年の熱いハートを元気づける何かがあった。
俺も人生15年は生きてきたが、ここまでスタイルの良い女性には初めて会った気がする。撫子がスタイルの良い美少女に分類されるかもしれないが、俺の図鑑には『人格破綻者』に分類されている。良かったな、立花兄弟と一緒やぞ。
そして目立つのは、その胸。
もうね、俺が最低最悪なことを言ってるのは自覚してる。でもね、目の前にいると迫力が違うんよ。
「……じ、Gカップだと?」
「………」
「は、恥ずかしいから、あまり言わんといて……」
こんなん違法建築だろ。建築基準法98条1項1号が適用されない?
俺の最愛の彼女なんか、サイズ聞いた瞬間に『FXで有り金全部溶かす人の顔』になったぞ。元人気アイドルの面影は一切ない。
恥ずかしそうに猫背でもじもじしているから、余計に胸部装甲が強調される。
良かもん見せて頂きました。
「閑話休題。俺の名前は島津。下の名前は……別にいいだろ」
「星野アイでーす。一般人です」
「ほし、の……? もしかして、ルビーの家族なん?」
おや、ルビーのこと知ってるのか。
詳細を聞いてみたところ、ルビーが東京で通っていた高校の同級生だったのが、この寿さんらしい。世間は広いようで狭いものである。
アイはルビーの家族だ。本当の関係を口にすると、寿さんもFXで金をジャブジャブしそうである。
「ルビーのことを知ってるんだ? アイはルビーとアクアの親族でさ。あまりにも仲がいい上に、小さい頃はアイが双子の世話とかもしてたもんだから、ルビーはアイのことを『ママ』って呼ぶくらい懐いてるんだぜ?」
「そうなんや、ルビーは甘えんぼさんやもんな。アイちゃん、これからもよろしゅーしてくれる?」
「ルビーの友達なら、ことほぎちゃんも友達だよ! よろしくねっ」
嘘はついてない。俺は噓が苦手なので、要点をぼかしながらそれっぽく改変する。この前だってアクアが大変お世話になった五反田監督を宇宙猫にしてしまったのだ。アイの即友達になったとはいえ、あんまり星野一家の超絶複雑な相関図を公開する必要はない。
この暴露欲求の権化がどこまで耐えられるのかは知らんが。
さて、本題に入ろう。
俺は咳払いをして空気を整える。
「そんで、寿さんは人を探してるって言ってたよね? こんな火山灰降り積もる自然災害の地に来るってことは、のっぴきならない理由があると見た」
「……そう、やね。うん。うちが探してるのは──初恋の人なんよ」
……ほぉ。頬どころか耳まで赤くし、両手で顔を隠す桃髪の少女の初心なことよ。その人は彼女にとってとても大切な人であり、彼女の初恋はまだ終わってないことの証明でもあった。
相手さんが羨ましすぎる。俺、恋人ができるまでの過程で、こんな状況にはならなかったぞ。いや、もしかしたら探せばあるのかもしれないが、どちらかと言うとエロ漫画してエメラルドしてカミーユした記憶が強すぎる。
「それを地元民である俺たちに聞きたいってことだね。俺に聞いて来たってことは、もしかして
「ううん、分らんのよ」
「……何が?」
「うちが小さい時の記憶やから、その、名前が『かねちゃん』ってところと、とってもかっこよくて優しい男の子ってことしか、覚えとらんの」
噓だろおい。そんなの情報だけで特定できるか。
砂丘からコンタクトレンズ探すくらい難しいんだが?
それは寿さんも理解していたのだろう。苦笑いしながら、そして寂しそうに、やっぱそうやねと弱弱しい声色で俺の発言に同調した。
探してやりたい気持ちは山々だが、こんなことで島津家としての権限を使うわけにはいかないし、俺たちだけだと圧倒的に情報量が少なく探しようがない。考えられる手段としては、咸に聞くのも一つだったが、あいつは今は元女優の美少女と映画館デートを満喫しているのだろう。邪魔したら『島津あかね』にエアチェストされる。
つまり俺が死ぬ。
「なんかこう、もうちょっと情報ない? えっと、ほら! どこであったとか」
「……えと、神社かお寺?だった気がする。うちが迷子になって寂しくて泣いてたのをね、かねちゃんが探してくれてな、うちを負ぶって連れ戻してくれたんよ」
ただの惚気である。この抹茶ラテがクソ甘い。
しかし、何も収穫がなかったか?と聞かれれば、それは否である。
「迷子になるレベルの神社仏閣だとすりゃ、少しは限られてくるか。その場所ってさ、自然豊かだったりする? それとも近代的建築物多め?」
「自然が多かった気ぃするなぁ」
「となると……これ? それともここ? この神社とか見覚えある?」
俺が知る限りの鹿児島県内にある比較的大きめの神社仏閣をグーグルビューや神社の公式サイトの写真を使って、彼女の記憶を呼び起こさせる。
あれでもないこれでもないと何回か撃沈し、そろそろ俺の知る迷子になるくらいの規模の神社仏閣が少なくなってきたなぁと不安になっていると、ふと彼女の顔色が変わったのを見逃さなかった。
その神社の名前は──霧島神宮。
鹿児島と宮崎の県境に位置する、地元でも有名な神社である。島津家的にも重要な文化財であり、両手で数えられるくらいには足を運んだことがある。
「ねぇねぇ、ことほぎちゃん。その人と会ったのって何歳の時? 何月ごろ?」
「寿やで。えっとね、9歳ごろやと思う。12月の寒い日やったなぁ」
マジかぁ。季節が12月になると正月の確率が高い。これがそれ以外の季節なら、霧島方面在住の『かね』がつく人間を探せばいいのだが、正月だと県内外から人が多く集まる。それだと特定が物凄く難しい。これ以降は咸と黒川さんの管轄になってしまう。
正月なら俺も赴いた可能性があるけどさぁ。
これは探すのは保留に──
『──ちゃん。──ちゃん!』
『──せェな──だろうが──』
『あり──また、か──大好──』
『もう──ない。じゃ──よ』
ふと脳裏に浮かんだ光景。
確か、どっかの伊集院家の暴力装置が、霧島神宮の下の鳥居前で……え、もしかして。もしかするのか。というか、もしかしたら大変なことになるんじゃなかろうか。
俺はスマホの写真を開き、目当てのものを彼女に差し出す。
グラビアアイドルの少女はそれを覗き込んだ。
「ぶっちゃけ信じたくはないけどさ。うん、はい。この写真の人物って、なんか既視感ある?」
「……かね、ちゃん? かねちゃん? かねちゃんっ」
その写真を涙目で愛おしそうに見つめた少女は、俺のスマホであるにもかかわらず、その豊満な胸元に寄せて、包み込むように抱きしめた。
俺はスマホになりたい。
「し、島津君。この人の名前、知ってたら教えて欲しいんやけど……」
「あぁ、コイツの名前はね──」
俺は彼女に名前を告げた。
「──伊集院、兼定。俺の友達だよ」
「──兼定くん。兼定くん、かぁ」
ウェーブがかった髪を揺らしながら、その想い人の名前を噛み締めるように微笑む。
兼定の終焉は近いなって思った。
「──でさ、9歳ん時に霧島神宮いた女の子覚えてる? 神宮前の鳥居下で、お前が背負って歩いた子。名前が寿みなみさんって言うんだけど」
『──はァ? 誰だ、それ』
謎の少女「返してっ、私の鴉たちを返してっ」
カミキ「……だ、そうだ。どうする、カタギリ?」
カタギリ「カァ」
謎の少女「勝手に名前つけられてるんだけど!?」
カタギリ「カァ」
カミキ「見事な手際だ。立花隊(カラスs)に作戦をB-2に移行するよう指示してくれ」
カタギリ「カァ」
謎の少女「なんか編隊組まれてるんだけど!?」