薩摩の子   作:キチガイの人

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 ガチシリアス回です。兼定視点です。
 頑張って執筆しました。こいつも大概壊れてます。吐きそう。
 感想よろしくお願いします。



 ちなみに前話最後のセリフですが、兼定は完全に忘れてます。
 彼も当時9歳です。9歳の12月です。
 それを念頭に入れて、どうぞっ。


085.伊集院から見た君

 星野アイという女を初めて目にしたとき。

 オレはいったい、どんな顔をしていたのか。

 

 

『──へぇ、タネサダ君って言うんだ。よろしくねっ』

 

 

 やめろ。

 

 

『タネサダ君に聞きたいことがあるんだけどさー』

 

 

 その顔で。その瞳で。

 

 

『私、すっごく楽しいよっ』

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 イライラする。星野の嬉しそうな顔を見ていると、楽しそうな顔を見ていると、桜華のことを愛おしそうに想う顔を見ていると。

 (はらわた)が煮えくり返って、怒りで自分を見失いそうになり、とにかく最悪の形で──()()()()()()()()()()()()()()。生やさしい殺り方じゃねぇ。もっとも残酷で、最も最悪な形で、自分という生命の形を終わらせたくなる。

 

 伊集院家は島津随一の武闘派集団だ。

 故に、オレの兄弟姉妹は8人いた。……今はもう5人だが。

 

 人の死は日常茶飯事、兄弟の葬式も見慣れてきた。

 それがオレたちの普通であり、死を悼み、生を堪能し、笑いながら敵を殺す。オレは畳の上で死ねるほど善行は積んでないし、地獄に落ちるその時まで現世を謳歌する。いつかは兄弟姉妹と笑いながら酒を飲みかわし、オレらを置いていった兄弟の悪口を言い合うのだろう。

 

 それはオレたちが社会不適合者(死んでもいい奴)だからだ。

 だが──

 

 

『タネサダ君、聞いてる?』『かねちゃん、聞いてる?』

 

 

 鍋島蛍は、咸の許嫁であり、オレの友人だった。

 兄弟姉妹が多い伊集院家によく遊びに来ては、なぜか知らんが姦しい姉妹を差し置いて、オレの後をついてくるような女だった。その輝く一番星のような瞳を、オレに向けていた。

 

 

『オーカがねっ、私の作ったカレー食べてくれたんだ!』『咸君がプリン買ってきてくれたんだ!』

 

 

 所詮は家同士の婚姻関係。

 それでも、蛍は咸に懐いていたし、他家の令嬢なのでオレも必要最低限の付き合いをしていた。

 

 

『タネサダ君はいつも不機嫌だねー』『もっとかねちゃんは笑った方がいいよ』

 

 

 ……そうだ、オレは蛍のことを妹のように思ってた。

 無駄に明るくて、所々おっちょこちょいで、自分の病弱さを嘘で隠す奴だった。オレも咸も、そのことを知ってたが、深く追求することはなかった。

 当時のオレはガキだったし、深く考える脳がなかったんだろう。

 

 

『──ねぇ、タネサダ君』『──ねぇ、かねちゃん』

 

 

 今でも夢に見る。

 蛍が生きていたのなら──今の星野と、同じ歳だったんだろうと。

 

 

『『──私の()、彼に届くかな?』』

 

 

 あぁ、オレは嘘が嫌いだ。

 死ぬほど嫌いだ。

 

 嘘をつかれた側の気持ちを考えたことはあるか?

 どれだけ良い嘘だろうと、どれだけ悪い嘘だろうと、それが大切な人間からつかれた嘘なら、心のどこかで後ろめたさが残る。

 本当のこと言ってくれたら、どれだけ楽だったか。

 

 

『かね……ちゃん。私ね、咸君とけ……っこんして、ずっと、いっしょに……遊ぶんだぁ。み、な君はさ、好きって気持ち、が。分からないから……私が、たっく……さん、教えてあげる、の。早く元気になって、ぎゅーって……して』

 

『……あははっ、私、お……とおさんを……泣かせちゃったみたい。なんか……もう、治らない……ん……だってね。困っちゃうな……? これじゃあ……けっこんするとき……の……白い、ドレスが、着れないや……』

 

『……さいきん、ね……腕がね……あんまり、動かない、の。もう、私、ダメなのか……なぁ……? みらいくん、と、おぉかくん……とね、かねちゃんと……みなくん。みんな、で……もっと、もっと……遊びたかった……よ……?』

 

 

 嘘が嫌いだ。

 大嫌いだ。

 

 

『馬鹿言うんじゃねェ。お前が頑張ってンだから、治らないわけがねェだろうが。さっさと体治さねェと、来月の遠足に間に合わねぇ。咸だって待ってンだぞ』

 

『そ、っかぁ……じゃあ、がん……ばらないと……ね……』

 

 

 

 

 

 ──20××年12月18日 午後3時26分46秒──

 ──鍋島 蛍 逝去 享年9歳──

 

 

 

 

 

 蛍が死んで数か月、オレはどこか現実味のない日常を送っていた。

 いつものように人が死んで、いつものように人を悼んで。そう、蛍の時も、それは同じだったはずなのに。どうしてか、なんでか、何をしても満たされなかった。

 

 

『兼定、忘れるなっていうわけじゃねぇけど、そろそろ気持ちを切り替えろ。そんなんじゃ、蛍の後を追うだけだぞ』

 

『……分かってらァ。まさか島津の欠陥品から、ンなこと言われるなンてな。そういうお前は大丈夫なのかよ』

 

『大丈夫じゃない。せっかくの鍋島家の婚姻関係、あそこまで険悪になると、今後の外交に支障が出るかもしれねぇぞ。当主殿が上手くやってくれるといいが……』

 

 

 そういや、この頃の桜華も十分狂っていたな。

 いや、島津的には正常だったのか。あくまでも蛍に対して『名家の令嬢』としての対応であり、死んだときも顔色一つ変えなかった。

 

 だがオレは違った。

 当時の桜華のように、そう簡単に割り切れるもんじゃなかった。

 

 オレはあの時確かに、自分のために嘘をついてしまった。

 あの時どうして、本当のことを(寿命が近いと)言ってやれなかったのか。どうして、ありもしない希望を嘯いてしまったのか。どうして──苦痛に耐えていたあいつに、『もう頑張らなくていい』と言えなかったのか。

 生きてほしいと願ったばかりに、蛍の苦痛を長引かせてしまったんだ。最期は見れなかったが、あいつに笑顔を強要してしまった。1年の闘病生活、辛くて苦しくて寂しかったはずなのに、オレの根も葉もない希望で、あいつを頑張らせてしまった。

 

 

『やったっ、やったっ、オーカと同じ高校に受かったよ!』

 

 

 だからオレは星野が嫌いだ。

 あの時、蛍が死んでなかったら──と、ありもしない『もしも』を連想させてしまうから。

 オレが望んで望んで止まなかった『蛍がもし生きていて、オレたちと同じように生活できていたら』を、突きつけられているように覚えるから。オレの噓が、彼女に生きる希望を与えていたと錯覚してしまいかねないから。

 

 

『私たち、付き合うことになりましたっ』

 

 

 同時に、オレは星野を支え続ける。

 今度こそ星の輝きを持つ少女を、不幸にさせないために。

 蛍と同等かそれ以上に傷ついていたかもしれない星野()が、これ以上傷つかないように。

 

 これはオレの自己満足である。

 これはオレの贖罪である。

 

 許してくれなんて言うつもりはない。これで蛍が笑ってくれるわけじゃないのは分かってる。

 それでも──オレは大嫌いな(守りたい)星野を友人として接する。星の輝きを持つ少女が傷つき泣く姿を、オレが耐えられない。許せない。

 

 星野と、ついでに桜華が幸福であればいい。

 それ以外の感情なんざ必要ない。本当は今すぐにでも死にたいが、このまま自殺するには勿体ない。この人生、他人の幸せの為に使い潰せる上に、あっちで蛍に会える可能性だってあるのだ。これ以上ない上がりってやつじゃねぇか?

 

 

 

 

 

 もう、オレは、自分が幸せになろうなんざ思わない。

 

 

 




かな「あの気持ち悪い男の肩に居座っている鴉は何?」

大輝「知らないのか? 技術顧問兼秘書兼アイドル部門担当のカタギリさんだぞ」

かな「さん付け? 鴉相手に?」

大輝「役者と事務所の取り分、7:3にしたのはカタギリさんだぞ」

かな「舐めた口きいてすみませんでした」
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