薩摩の子 作:キチガイの人
この馬鹿共は普通に攻略しても逃げられるので、外堀内堀を埋めて、逃げられないように詰めて、堕とすのが正攻法です。
それは歴史が証明しています。島津は城攻めが苦手だし。何なら薩摩に城らしい城ってほとんどないし。
感想よろしくです。
伊集院兼定という男は、良くも悪くも薩摩武士らしい人物である。
この『薩摩武士らしい』という単語の意味は、何でもかんでもチェストで解決する頭イカレポンチじゃない。なんか県外の人間に勘違いされることが稀にある。鎌倉武士のイメージと混同しているのかもしれない。……鎌倉武士もこんなイカレてないと思うが。
確かに伊集院家は武闘派集団だ。
一方で、文武両道を掲げる一族であり、かつての薩摩藩の基礎を築いたとされる『
無論、この郷中教育の基礎である『いろは歌』は作った人間が人間なだけに、俺も脳みそに叩きこまれた句ではあるが、兼定もそれを学び、表向きは可能な限り忠実に守ってはいると聞いた。完全に守っていると口にできたら素晴らしいが、まぁ、俺たちも心ある人間なので。うん。
『──つまり? あいつまだ蛍のこと引きずってるのか? 何年前の話だよ』
『それだけ可愛い妹分の死が衝撃的だったってことでしょ』
『身内の死なんざ別に珍しくもないだろうに。数年も引きずってたら、俺なんか今頃自宅警備員だぞ』
そんな薩摩武士が、未だに死者に囚われていると知ったのは、体育大会時の未来の発言だった。咸の許嫁であった聡明な令嬢の死は、表向きは普通である兼定に暗い影を落とし続けているのだとか。
……あー、そういや蛍が死んだ後だったな。あいつが北斗の拳のサウザーみたく「愛などいらぬ」的な発言したの。ただ単純に色恋沙汰に興味がないのだと思っていたが、鍋島家の令嬢が原因だったと思えば納得はいく。妹分として可愛がってたのは聞いてたが、あいつの人生観まで変えてしまうとは。
『それに、なんかアイちゃんに似てるもんね、ほたちん。最近聞いた話だと、兼定ってまた縁談断ったらしいよ。兼定のおやっさんから『もう余所者でも何でもいいから兼定に相手を……!』って相談があった。僕に。あれ高度な煽りかな?』
『アイに似てる、かぁ。俺はそうは思わなかったけど……うーん、咸も言ってたし、そうなんだろうねぇ。咸といい兼定といい、そんでお前といい。ほんっと、難儀なもんだわ』
『……なんのことかな?』
『ダウト。……んで、その中心はアイ、か。輝きの強さも考えもんだな』
一番星の輝きは、同時に影を濃くするものだ。そのマイナス面が浮き彫りになってきたのだろう。未来もアイに会った時は少々おかしかったし、兼定や咸も想像以上の反応を示していた。
あれだな。この馬鹿共はアイが震源地であろうと、彼女のせいだと当たらないのは素晴らしいと思う。彼女は全然悪くないし、それで八つ当たりをするような連中じゃないのは俺が知ってるし。まぁ、手ぇ出したら正気に戻すだけだけど。手がかからないのはいい。
未来との会話を思い出したのは、兼定が寿さんのことを「知らない」と断言したときだった。俺でも記憶の片隅から思い出せたんだぞ……と口にしようとしたが、彼女と会った時は蛍の死去から数日レベルの話だ。49日すら経ってない。
その時の兼定は虚無虚無プリンだったはず。
覚えてないのも無理はないわな。
しかし、それで終わるのは少々惜しい。
惜しいっつうか、あまりにも寿さんが可哀想だ。せっかくの初恋を『相手側が全く覚えてなかった』だけで、失恋に変わるのは宗家の関係者として忍びない。
心のどこかで、
対する兼定は、一般的に見れば俺以上の連続殺人の常習犯である。アイはなんか知らんけど普通に受け入れているし、黒川さんは……咸が自分から引き離すために薩摩のお仕事を暴露して「それは私が咸君を忌避する理由になる?」って返しで撃沈してた。当初のルビーの反応が普通なんだよ。
話を戻そう。
まぁ、殺人鬼云々は別として。このままハイ終わり、東京にお帰りください……では納得いかないだろう。
「──ってなわけで、無理矢理連れてきました」
「「………」」
来いって言っても聞かねぇもんだから、最終手段の『アイのお願い♪』を使わせていただいた。
『中央駅下のスタバにいるから来てね?』
『だから知らねェって言』
『でもことほぎちゃん可愛いよ? タネサダ君も来てよ』
『興味ねェって、何度も言わせ』
『……だめ?』
『………』
『………』
『……クソッ』
我ながら外道な作戦だなぁと。
まぁ、兼定を人生の墓場に送るためなので致し方なし。兼定のおやっさんも望んでいることだし、何なら生前の蛍も「かねちゃんのお嫁さんって誰になるのかなぁ? 私みたいに優しくて可愛くて……元気な人だったらいいなぁ」って言ってたのでヨシッ。
蛍、見とけよ。お前の兄貴分、墓場に沈めっから。
「「………」」
でも、この空気は重いなぁ。
スタバで4人用の席に座っていて、とりあえず後から来た兼定を寿さんの横に座らせてみたのだが、悲しいことに会話が一切発生しない。
兼定は頬杖をつきながら不機嫌そう。当り前か。
寿さんは緊張して喋る気配がない。もじもじしながら、チラチラと横目では見ているので、きっかけがあれば話ができるかもしれないが。
「最終確認なんだけど、寿さんが探してた初恋の相手はコレで間違いない?」
「オレはこの女を知らねェンだが?」
「……うちが知ってる兼ちゃんは、前会った時もこんな感じやったよ」
「……オレのことを、その名前で呼ぶンじゃねェ」
ぎろりと擬音が聞こえるくらいには、興味なさそうにしていた兼定は、今日初めて寿さんの方を見る。良い感情を抱いている様子ではなかったが。
本当に何も覚えてないのが彼女にも伝わったのだろう。やや悲し気に微笑む彼女だったが、それで諦めた雰囲気ではない。出会いがあれだったので、流されやすそうな子だなと思ったが、存外意志の強い子じゃないか。
我が強いのはいいことだと思うよ。
「………」
強すぎるのはどうかと思うけどね。
俺は薩摩出身の元人気アイドルの少女と、最近鹿児島に移住してきた元劇団のエースと、数日前に鹿児島に移住してきたアイドル志望の双子の妹を思い出した。
「でも、そう呼んでいいって、兼ちゃんが
「オレが?」
「俺も聞いた。言ってた気がする」(大嘘)
そうかと、渋々と納得する兼定。
俺の嘘は見抜かれているとは思うが、彼も当時の記憶はマジで曖昧だと思われるので、もしかしたら言ったかもしれないと、心のどこかで思ったので言及しなかったと思われる。
こいつとしては、蛍と同じ呼び方は、気分的にもよろしくないのだろう。
兼定は突然席を立ち、寿さんに顔を近づける。
あまりにもの至近距離に、乙女なグラビアアイドルは顔を真っ赤にした。
「──この際だから言っておく。オレはカタギの人間じゃねェ。テメェら芸能人が繋がっていると知られると外野がうるせェ、いわゆる『反社会的勢力』側の人間だ。人を殺ったこともある。初恋だか何だか知らねェが、関わる人間くらい選べよ馬鹿が。さっさと東京に帰れ」
それだけ言うと、兼定はスタバを立ち去った。
要約すると『芸能活動をしている寿さんと、薩摩武士している自分じゃ住む世界が違う。それは彼女にとって大きなデメリットになるだろうし、初恋は諦めろ』と言いたいんじゃないかと。
兼定の言ってることは確かに正しい。
やってることは反社のそれだし、ましてや兼定はキルレートが高い。心情的な意味でも、そして社会的立場な意味でも、普通に考えれば関わること自体止めた方がいいだろう。それが互いにとっての最良じゃないかと俺でも思う。
心配そうにしているアイに、俺は肩をすくめて笑う。
土台無理な話だったのだ。
こうして、寿さんの初恋は、ほろ苦く終わってしまうのだった。
「うち、知ってるもん。会ったときに、兼ちゃんが言ってたもん。──それでも、うちは兼ちゃんのことが、好きやねん」
彼女の感性がまともであればの話だが。
カミキ「ま、待ちたまえ。ゆら殿にも立場と言うものが……」
カミキ「し、しかし君のファンが黙って……」
カミキ「いや、デートというのは流石に……」
かな「あいつ珍しく狼狽えてるわね」
謎の少女「あいつの不幸で焼き鳥丼が美味い」
カタギリ「カァ」
かな「日本語でOK?」
カタギリ「──そっちの方がいいかい?」
かな・謎の少女「「!!!!!!???????」」
【カタギリ】
カラス科カラス属の鳥類。元謎の少女の眷属。現在では技術顧問兼秘書兼アイドル部門担当をしている。
いつもはカラスなので「カァ」としか話をしないが、必要であれば人語で話をする。非現実的かと思うが、カミキの存在の方が非現実的なので、プロダクション所属の人間からは頼りにされている。何ならカラスである点以外は鳥格者なので、他者からの鳥望も厚い。
ちなみに転生者。者? 前世は主人公に切り殺された宗虎の弟子。カラス内に主人公に殺られた他二人の転生者がおり、それぞれ「ハワード」と「ダリル」と呼ばれている。