薩摩の子   作:キチガイの人

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 明日は投稿できるかわかりません。
 祖母の49日です。
 余談ですが祖母の亡くなった数日後に、推しの子アニメ1話が放送されたんですよね。葬儀や火葬のシーンが脳裏に鮮明に浮かぶのもあって、彼女の死というものがリアルに想像できたのも、作者が心乱れる理由の一つだったのかもしれません。

 でも皆さんは心配しないでください。
 星野アイは薩摩でうまくやってます。


009.島津の限界

『一つだけ言わせてもらってもいい?』

 

「言うだけならな」

 

『自己都合で女の子の告白を、半年先延ばしにするのは女々(めめ)?』

 

「………」

 

 

 夜の自宅マンションのベランダで、俺は未来の電話を受けていた。そして言われた内容がコレである。

 俺は不愉快さを隠さず眉をひそめた。

 

 この手の苦言は腐るほど聞いた。

 咸からはヘタレ桜華と馬鹿にされ、兼定からはチキン野郎と罵られた。星野の御両親からは「決断が遅い」と初手注意され、アイがこの状況を受け入れているのならと許されはした。

 実家からは俺のみ出禁をくらった。母上曰く「俺とアイが一発ヤるまで、俺だけ敷居は跨がせない」とお達しが来た。彼女の心変わりの可能性を訴えたが、「地表で手にしたリンゴを離したら、上に落ちるのか?」と言われた。母親は微塵も疑ってないらしい。

 親父殿は渋々ながらに頷き、当主様から「あんまり女の子を待たせちゃ駄目だよ?」とお言葉を頂いた。

 

 

『……アイちゃんが納得してるなら、これ以上僕から言うのもアレだね。馬に蹴られて死にたくはないし』

 

「そうしてくれると助かる。つーか、よくよく考えてみれば、恋愛感情とか全然関係なく、俺もうアイと添い遂げる将来しかないんだけど。そう言う線路しか整備されてないんだけど。外堀埋められて山になってるんだけど。どうしてこうなったんだ……?」

 

『………』

 

「何か言えや。無言が一番怖いんじゃ」

 

 

 もしかして、この状況になった要因の一つかコイツ。

 その後も無駄な話やら、重要な共有情報の話を行い、再度話の内容が彼女のことになる。

 

 

『そー言えばアイちゃんって子供居たよね』

 

「………(過呼吸)」

 

『今じゃなくて、前の話だよ』

 

 

 やっべ。身に覚えがなかったから、もしかして俺寝ている間にヤられたのかと思った。彼女はそんなことはしないと全面的な信頼があるけど、心臓に悪いの何の。

 ただ俺は彼女が転生者と明言しておらず、彼等も気づいてないのを装っているだけで、実際そうなんじゃないかと確信を得ているようである。加えて、俺が話せないのを分かった上で、わざわざそれ以上は聞いてこない。

 

 

「俺からはノーコメントで」

 

『あーはいはい。それでいいよ。そんでさ、アクアマリン君とルビーちゃんだっけ? アイちゃんはその二人に会いたいとか話してないの? まぁ、桜華のことだから、その話をしていないってことはないだろうけど』

 

「………」

 

 

 俺は未来の言葉に、思わず顔を歪める。

 その話はアイとの間、それどころか咸と兼定とも話をしたほどだ。それを踏まえての現状から、自ずと答えは見えてくるだろう。

 

 

「結論から言うと、正直難しい。まずは私的な理由から言うぞ?」

 

『ほいほい』

 

「まず根本的な話だが、アイがまだ心の準備ができていない」

 

 

 死の間際に愛することを伝えたとはいえ、肝心の『愛されること』を知らないまま転生後幼少期にメンタルを一度ボロボロに崩された少女である。そんな彼女には、子からの愛を受け入れる用意がまだ全然できていないのだ。

 そんな状態で会って本当にいいのか。俺は絶対ないとは思うが、もし双子に拒絶でもされたら……。そんな葛藤が、まだ心の底にあるのだろう。

 やはりアイには時間が必要だ。

 

 

「そんで俺の心の準備もできていない」

 

『桜華の準備いる?』

 

「まだ可能性の段階だから断定はできないが、万が一、何らかの奇跡によって俺とアイが付き合い始めたとしよう」

 

『確定事項じゃん』

 

「俺はその瞬間から同年代の2児の父親になる。こんな馬鹿げた話があるか? 俺じゃなくても気が狂いそうだわ」

 

 

 小説やドラマでも再婚相手の〜みたいな展開は聞いたことあるが、流石に自分と同じ年齢の娘息子ができるなんぞ、世界広しと言えども俺だけになるぞ? しかも過程がアレなだけに、俺よりも双子が可哀想になるわ。

 転生した母親の想い人が薩摩藩の島津家の人間。しかも自分と同じ年齢──字面的にヤバいだろう。

 

 

「ったく、自分の将来のことでも精一杯なのに、何で追加で二人の進路先も考えにゃならん。アイも含めたら三人やぞ? 俺の貯金なんて、親父殿を手伝った時の端金しかないからな。アイの方は星野家の両親に土下座して進学費用を出してもらうとしても、二人の高校費用、しかも大学出すんなら、俺だけじゃどーにもならん。親父殿に土下座して立替えて貰うしかないだろう? 二人とも頭良いとかアイが言ってたけど、今もそうなんかなぁ? 塾とか通わせなくても大丈夫かなぁ? 部活とか入ってるなら、その維持費も捻出しなきゃ。あー、コレもうダメだわ。今のうちに母上に二人のことゲロって相談すっかなぁ……」

 

『もう桜華、アイちゃんと結婚しなさい。正直言って、桜華以上の適任が居ないよ』

 

 

 いやいや、俺以上の適任なら腐るほど居るだろ。

 ……なんか知らんけど、急にアイの元旦那に対して腹立ってきた。これ絶対双子の養育費とか払ってないよな。こっちは金で四苦八苦する将来が見えてるってのに。

 ちゃんと孕ませた責任取れや。

 これだからアイが苦労すんだよ。

 

 

「話が逸れたな。今のが私的な理由だ」

 

『将来設計は大事だもんね』

 

「そんで島津的な理由なんだが……双子って今、東京在住らしいんよ」

 

『……あー』

 

 

 俺の言葉に未来は納得する。

 そして全てを理解したようだ。

 

 なぜ俺が双子の様子を見に行かないのか。

 なぜ咸がアイの元旦那を調べた時点で始末しなかったのか。

 なぜ東京在住に問題があるのか。

 

 答えは簡単だ。

 島津家の限界でもある。

 

 

 

 

『東京って……徳川家の管轄だよね?』

 

「東京だけだと思うな。関東一帯が徳川のシマだぞ。手ぇ出せるわけねーだろ」

 

 

 

 

 薩摩に島津が居るように。

 東京──江戸にも徳川が居るのだ。

 

 もしアイが徳川の血縁に転生したのならば、双子と感動の再会を容易に果たし、クソみたいな元旦那を秘密裏に処理することも叶ったのだろう。

 教科書でも語られる、あの有名な戊辰戦争で江戸時代程の影響力を失ったとはいえ、親藩・譜代集合体でもある現徳川家は関東一帯に影響力を持つ一族だ。島津と違い、芸能界にも幅広く手を伸ばしているだろう。もしかしたら彼女がアイドルに返り咲くことさえ可能だったのかもしれない。

 

 俺が傍観者(かみさま)を毛嫌いする理由の一つでもある。

 何が悲しくて、こんなド田舎に転生させやがったんだ。2度目くらいイージーモードだって罰は当たらんだろうが。

 

 そして、これが一番の理由であるが、

 

 

「……チッ、やっぱ邪魔だな。戊辰戦争のとき根絶やしにしとけばよかった」

 

『今からでも処しちゃおうよ』

 

 

 島津と徳川はめっちゃ仲が悪い。

 咸が『島津側の人間が東京という徳川側のテリトリーで人を殺す』ことを止めた理由でもある。これが発覚した日には島津VS徳川の第二次関ヶ原の戦いが始まるのだ。今度は戦力揃えて包囲殲滅でブっ殺してやる。

 彼女の子供たちを何とかしたい気持ちはある。だが、それと同時に俺は島津の人間だ。彼女一人のために日本の内乱を起こすつもりは毛頭ない。それも彼女は望まないだろう。

 

 だから俺のできることは、この薩摩の地で彼女の安全を保障することだ。いくら徳川だろうが、この薩摩の地で好き勝手できることは絶対にない。まぁ、物理的に距離あるし、征夷大将軍の一族の末裔がわざわざ来ることはないだろうけど。

 

 俺は大きくため息をついて夜空を見上げた。

 アイの望むことすら叶えられない人間が、果たして彼女の傍に立つことが許されるのだろうか? 星野アイは元人気アイドルだ。そして転生後()でも魅力的な女の子でもある。どれだけ綺麗な種だろうが、荒廃した水気のない土地では育たないのだ。

 俺以上の適任は腐るほど居る──俺の本心でもある。皆が俺とアイとの仲を推すが、俺自身はいまだに納得していない。どいつもこいつも見る目がまるでない。腐ってんのか。彼女には──もっと相応しい男が居るはずなのに。

 

 適当に未来との話を切り上げて部屋内に戻る。

 部屋内はカレー臭が満ちていた。

 

 

「ちょうど晩御飯出来たから食べよ? カレーのルーを使ったやつだけど……」

 

「手作り飯あざーっす」

 

 

 すでに飯を食う用意をしていたらしい。

 向かい合うように座り、手を合わせていただきます。俺はカレーライスを一口。ピリッとした辛さが心地よく、思わず頬が緩んだ。

 そして、その俺の様子をニコニコ観察するアイ。

 

 

「随分と上機嫌だな」

 

「私の手料理って初めてでしょ? いつもオーカが作ってくれてるし」

 

「……そういや、そうだな」

 

 

 彼女は目を細めて笑う。

 心底嬉しそうに。心底楽しそうに。

 

 

 

 

 

「好きな人に食べてもらうって、すっごく嬉しいなーって。今度から料理、私も時々作っていい?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 一瞬呆けてしまったが、徐々に笑いがこみ上げてくる。

 そして大きな声で笑った。驚く様子のアイを気にせず、思いっきり大きな声で。

 

 彼女に相応しい男はきっと居るはず。

 この気持ちは今でも変わらない。

 ただ──

 

 

「何なら毎日作っても食うぞ」

 

「それは嫌だ。オーカの方がおいしいもん」

 

「俺よりおいしいの作ってくれよ」

 

 

 ──彼女の選択も信じてみたい。

 そう思った。

 

 

 

 




裏設定登場人物紹介

伊集院(いじゅういん) 兼定(かねさだ)
 島津の家臣団が一つ、伊集院家の次期当主。今作において伊集院家は島津勢力の武を司り、示現流から薬師示現流、タイ捨から組手甲冑術など、多岐にわたり家中の者が修めている。桜華曰く『伊集院家の人間は、基本的に全員が鎌倉武士してる』と称する程である。当の本人は口は悪いが面倒見がよく、実はアイの相談先として選ばれることが多い。熟女・人妻好きの特殊性癖だが、異性として星野アイは興味なし。友達の人妻は奪わない、そうだろランスロット? 余談だが、のちに伊集院家当主(兼定の父親)が星野ルビーの熱狂的ファンになる悲しき(?)業を背負っている。


※徳川家から見た島津家
「なんだよもおおおおっっ!! またかよおおおおっっ!! 双子に会いたい? 勝手に会えよ邪魔しないからさぁっっ! クソ男を殺したい? こっちでやるから大人しくしてくれよおおおおおっっ!!??」
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