薩摩の子 作:キチガイの人
謎の少女に芸名つけなきゃ。
感想お待ちしております。
「なぁなぁ、芸能人の価値基準だと、俺と咸と兼定はイケメンに分類されるんだとよ」
『黄金の山に燃えるゴミが詰まった袋があれば目につくじゃん?』
「目に付くって点なら同意だが、それだと俺たちに『美』を感じるのは説明がつかんぞ」
『あれだよ。芸能人は全員、美的価値観が
「それは失礼過ぎないか?」
夜のゆったりとした時間の中、俺は未来との通話を楽しんでいた。今日あったことを説明しては、未来の腹筋を修復不可能まで追い込むのだった。
特に寿さんと兼定の下りなどは、電話相手が過呼吸になっていた。そりゃ、俺のも電話越しに同じことを言われたら、コイツと同じ結末を辿る自信がある。俺たちの中で一番恋愛と程遠い人物のトップを飾っていた男だからな。
誰が伊集院家の暴力装置が現役グラドルに追いかけ回されると思う? 一日前の俺が聞いたら鼻で笑ってたわ。
『ぶつけられた感情の大きさの物珍しさってのもあるんじゃない?』
「分かるように説明してくれ」
『やっぱりね、違うと思うよ。死を念頭に置いている奴と、そうじゃない奴の言葉の重みってのは。そして、思春期の女の子にとって、その重さは致命的すぎる』
かつて、噓つきな女の子の為に、自身の固定観念を捨てた男がいた。
かつて、頑張り屋な女の子の為に、無自覚に自身の全てをかけて救った男がいた。
かつて、迷子の女の子を、心に傷を抱えながら導いた男がいた。
どんな良薬であろうと、過剰に摂取すれば毒にもなりうる。その時、彼女らが馬鹿共から受け取った感情は、現代社会で普通に穏やかに生きてきた思春期の少女にとって、あまりにも大きすぎたのだろう。
それが、良くも悪くも影響を与えるとも知らずに。
『まぁ、深く考える必要はないんじゃないかな。一種のブームみたいなもんでしょ。飽きられたら、興味をなくすのは目に見えている……が』
「が?」
『……深淵を覗いているときって、深淵もまた、こっちを見てるんだよねぇ。アイちゃんや、あかねちゃんのように、沼ることもあると思うんだよ。寿ちゃんも、そうなったら笑う』
未来曰く、アイや黒川さんの時と違い、あまりにも理由が軽いと語る。この後、兼定と言う男を知っていき、なんか思ってたのと違う……ってな感じで破局も十分あるとの事だ。
芸能界でガッチガチの貞操観念持っている奴の方が珍しい。恋愛関係の破局なんてBGMみたいなもんだ。彼女の初恋も、そう遠くないうちに過去のものになるだろうと言うのが、未来の出した予想だった。
6年間想い続けたがゆえに。
現実の差異の失望も大きいだろうと。
『そもそもの話、性格的に兼定と寿ちゃんは絶対にあわないでしょ? 桜華と咸の嫁sが異常だったんだよ。なんか聞いた感じ普通そうだし、調べてみたけど経歴も普通じゃん。これは長続きしないと思うけどね』
「そうか、ねぇ……? 悪くはないと思ったけど」
『ところがどっこい、そう何度も奇跡は起きないと思うよ。何なら賭けてもいい。兼定のカップルは数か月で破局する。もし予想が外れたら、全員に焼肉奢るよ。桜華がアイちゃんと食いに行った、あのクソ高いやつ。全員にね』
確かに兼定側も、そんなにって感じだったしなぁ。兼定は興味がない、寿さんも近いうちに諦める。そう考えると、未来が自信満々に言い切ったのには、それ相応の理由があるのだと思った。
俺としては、兼定を墓場送りにしたかったんだが。
まぁ、とりあえずは彼女を手伝って、ダメそうなら諦めると心の内で結論を出した。
──後に、未来は「だってっ! だっておかしいよ!? 何あのメンタルお化け!? ごり押しを超えた何かで、兼定を精神的に屈服させるって、彼女本当にグラドル!? これ薩摩男児攻略ゲーじゃないんだよ!?」と、涙を流しながら焼肉を奢ることになる。
♦♦♦
夜になると我が家の男女比率は逆転する。
税所家の別荘は『今ガチ』共演者のパジャマパーティー会場へと様相が変わり、双子宅は陽東高校の女子組のお泊まり会が繰り広げられる。
そんなわけで、パーティーから抜け出した税所家の麒麟児と、シスコンロリコン先生は、フリースペースである俺ん家に転がり込んできたわけだ。それを想定して、アクアは早めに仕事を終わらせたと言っても過言ではない。
安定と信頼のリビングのソファーで寛ぐ、男三人と美少女一人。
同棲前に
「アクア君、一つだけお聞きしたいことが」
「……なんだ、五代」
「税所です。あれ偽名です。聞きたいことと言うのは──前世の推しで今世の母親が、同世代の男とラブラブイチャイチャしてるって、どんな気持ちなんでしょうか?」
「超気まずい……以外の感想が出てくると思うか?」
やっぱりそうなんですか、と咸は満足そうに頷く。
胡坐をかいて、その上に座るアイを後ろから包み込むように後ろから抱きしめ、左側から彼女の肩越しに顔を出して、スマホの画面を見ていた俺は、何事かと首を傾げた。俺に抱きしめられながらも、自身の顔の側面を、俺の顔の側面にくっつけるアイも、釣られるように首を傾げていた。
アクアは俺とアイを見て微妙な表情をし、ふと顔を逸らした。
そして、彼女の息子らしく嘘で誤魔化そうとする。
「……いや、進路をどうしようかって話だ」
「ん? アクアは役者さん目指すんじゃないの?」
「俺は外科医志望って聞いたんだけど」
「それはおかしいですね。アクア君は私と一緒に『株式会社ロリコン』を起業して、徳川家美幼女化計画を推進するはずですが」
「待て待て待て待て待て、特に最後のは待て」
役者、外科医、恥さらし。
彼はどの道を進むのだろう。
「子役してた時のアクアは良かったと思うけどなぁ。五反田カントクも、アクアの演技を褒めてたし。そっちの道を進むって思ってたんだけど」
「俺にその才能はないよ。……俺は、アイのような『特別な何か』がない。不相応な夢は持つべきじゃないと思う」
「大丈夫、大丈夫。才能ない俺でも薩摩兵子できたんだから、アクアも役者できるっしょ。文字通り死ぬ気で頑張れば」
「島津と一緒にしないでくれ」
俺もアクアの演技ってのを見たことはないが、
アイのような『特別な何か』に関しては……まぁ、なくても良くない? どの分野でも、上を見たらキリがないぞ。甲子園出場者が全員プロの道に進むわけでも無かろうに、アクアはあまりにも『アイ』という完璧で究極な唯一無二の存在を絶対視し過ぎているきらいがある。
問題はできる出来ないじゃなく、したいかしたくないかじゃね?
……うーん、なんか、こう。何て言えばいいんだろう? 彼にとって、演技と言うものは『楽しくてやる』ってわけでもないのだろうか。……あー、演じることは復讐とか言ってたっけコイツ。
「んじゃ外科医? 鹿児島大学の医学部?」
「おぉ、今のアクアもセンセになるってわけだね! 確かに、白衣姿も似合うかも」
「……前に伊集院から、俺の性格だと島津で外科医目指すのは止めといたほうがいいって聞いたが」
そりゃ治した直後に負傷するし。
何ならポンポン死ぬし。
外科医として応援する所存だったが、そこは目からうろこだった。盲点だった。
アクアの性格からして、治した次の瞬間に死体になりかねない現場は、精神的に辛いかもしれない。別に島津専属じゃなくても全然OKなんだけどね? そこまで固執しないからね?
しかし、そうなると……。
「……ロリコンに就職するん?」
「それはルビーが泣いちゃうよ?」
「Welcome」
「それだけは絶対ない。確実にない。俺をそっちに引き込むな」
選択肢がそれしかないんだけど。
嫌だなぁ。履歴書にその会社に勤めた履歴残したくねぇ。徳川家を全員幼女にもしたくねぇ。
学生特有の馬鹿みたいな話──株式会社ロリコンの経営理念や業務内容、アクアのポスト、就職したことによる弊害を、後付けモリモリで妄想を膨らませながら4人で盛り上がるのだった。
咸が黒川さんみたく話の内容をメモしてたのは見なかったことにしよう。
咸「ちなみに走るカミキヒカルBB作ったのは私です」
アクア「( ゚Д゚)」