薩摩の子 作:キチガイの人
今回は女性陣が一切出ないです。しゃーない、起承転結の『転』だし。でも悲しい。
感想お待ちしております。
今日は楽しい二人でお茶会の日。
「──帰りてぇ」
「席座って注文した第一声がそれか、島津の小僧」
目の前にいる人間が、粗野な風貌の髭のオッサンじゃなければの話だが。
前に来たスターバックスコーヒーで、目前に座る男──立花宗虎を睨みながら、俺はあからさまに大きくため息をついた。
これが本州ならサイゼリヤとかで会合するんだろうなぁ。
でも鹿児島にサイゼリヤはないんだよなぁ。
昔は国土が貧弱で米の育たない台地で苦労し、現代ではサイゼリヤすら一店舗も存在しなくて苦労する。やっぱりド田舎ってクソだな。
サイゼリヤさん、鹿児島への出店お待ちしております。
お待ちしております。(懇願)
「そう睨みなさんな、テメェが欲しがってる情報をわざわざ手に入れてやったんだ。感謝されることはあれど、邪険にされる筋合いはねぇぜ?」
「……喉元に超ド級の爆弾抱えてりゃ、そりゃ警戒するのも無理はないだろう」
これまでの経歴を聞けば、俺の警戒も無理はないと思うが。
それほどに、この立花宗虎という男は危険なのだから。
毛利家の重鎮を自爆テロ紛いの方法で殺害、龍造寺家当主の唐揚げにレモンを勝手にかける、毛利家のご令嬢の拉致、龍造寺家当主の宅配ピザにパイナップルを乗せる、毛利家と長曾我部家に二虎競食を行いその抗争に介入する、龍造寺家当主の自転車のサドルをブロッコリーに変える、毛利家の有力者を暗殺、龍造寺家当主のSNSアカウントを炎上させる──
しかも、
これで武人として一流ってんだから、これを相手にしている毛利家の方々には同情を禁じ得ない。
あ、龍造寺家関連は本人がやったと明言しているので、とりあえず龍造寺家の当主さんは怒っていいと思う。
てか怒ってる。
「で? その情報ってのは?」
「おいおい、コミュニケーション初心者か? まずは『初めまして』な自己紹介を楽しもうぜ、小僧。まぁ、お互いに情報としては刻んでるんだろうがな」
「課題で忙しいからはよ」
「くくっ、あの首狩りが夏休みのお勉強に振り回されてるなんざ傑作だなぁ。あぁ?」
彼の言う通り、俺と宗虎は初対面である。
しかし、この短期間の交流で分かったことがある。俺はこの男が嫌いである。
あちら側も俺に好かれようなんて思ってないのは百も承知だが、撫子に武力を付与したような戦争屋を相手に、俺は辟易としていた。アイに黙って彼と会うことを決めた理由の一つでもある。
死なば諸共と言い放った少女なので、この『戦いを生み出す権化』と会わせるのは避けたかった。会わせただけで彼女の人生に悪影響を及ぼしかねないし、この男が物理的手段を取った場合、彼女を守りながら生還できる気がしない。
そんなのと一対一でスタバにいる状況が、マジで嫌なんだけど。
「じゃあ、せっかちな島津の小僧の為に、本題に入ろうかねぇ」
「最初からそう言えよ……」
「『カミキヒカル』って奴の件なんだがな」
あまりにも唐突な切り口だった。
世間話のように切り出す口調に、一瞬のことだが反応が遅れてしまった。
それが致命傷だったのだろう。この男は俺の反応を楽しむように、不愉快な顔面を歪めながらニヤニヤ嗤っていた。
「テメェの好きで好きでたまらねぇ恋人の、元カレの話だ」
「……何の話だ?」
「噓が下手過ぎって言われねぇか? こっちも
彼は思い出すように口元を吊り上げる。
瞳は爛々と怪しく輝いている。
「十何年前だったか? あの女のことは
彼はそう言って、俺を見据えた。
「そういう女は──壊し甲斐がある」
「手ぇ出してみろ。殺すぞ」
「ははっ、そう睨みなさんな。瞳孔開いてっぞ」
思わず立ち上がって、目の前にいる男を8割ぐらい本気で始末しようと思ったが、当の本人が飄々と受け止める。
残りの2割は理性である。邪魔だな、これ。
「しっかし、その目。女の尻を追っかけて、腑抜けちまったとおもってたが……それが愛した女を守る男の目ってか? 鬼島津くらいしか目ぼしいモンはねぇと思ってたが、こっちも戦争のし甲斐がありそうだなオイ」
「………」
「心配なさんな。俺はテメェのモンに手を出すつもりはねぇよ。大将からも口酸っぱく言われた。命拾い、したなぁ?」
最後は馬鹿にしたように煽ってくるが、俺は大人しく席に着く。
戦争屋のコイツを殴って、その口実を作ろうとは思わない。本人が手を出さないだけで、間接的に手を出してくる可能性があるので、警戒は引き続き必要だろう。
……それにしても『大将』ってのは誰の事だろう? 大友家の当主の事かと思ったが……なんかニュアンスが違うような気がする。もっと、こう、なんか──
「そのカミキヒカルって男だが。今、鹿児島に来てるぞ」
「……は?」
俺は今日、何回この男にアホ面を晒せば気が済むんだろう。
そのくらい、彼の情報は衝撃的だった。
「大友にも注意喚起が来たらしい男、だったよなぁ。いやぁ、何しに来たんだろうな? 俺には皆目見当もつかないぜ? なぁ、島津の小僧?」
「テメェの差金か? 戦争屋」
「俺が徳川勢力圏にある芸能事務所の代表取締役と、何かしらの関係があると思うかぁ?」
この様子から見て、何となくだがカミキヒカルと宗虎に繋がりがある気がした。気がしただけだ。のらりくらりとはぐらかし、噓をつかず曖昧に『本当のこと』しか言ってない。
なので、この男が嘘を言っているかどうか、俺には分からない。
俺対策なんだろうな、これは。良く調べていらっしゃるようで。
何とか尻尾を掴もうと口を開いたその時、俺のスマホが振動する。
相手に断りを入れて、俺は電話に出る。相手はアクアだった。
「──もしもし、今取り込み中」
『桜華っ、アイがどこに行ったか知らないか!? スマホの電源も切って、連絡もつかないんだ! さっき未来の姉から、俺たちの親父のところに向かったって……!』
「は?」
あまりにもの急展開に、俺は思考が固まった。
それは宗虎と──アクア情報を与えた撫子への不信だった。
なぜ撫子がアクアに教えたんだ?
なぜ撫子がカミキヒカルの情報を、先に俺に持ってこない?
なぜ撫子は、そのままアイを向かわせた?
何がどうなってやがる?
この薩摩の地で、何が起きてやがる!?
「おい、島津の小僧! ○○の××に、その女とカミキヒカルは居ると思うぜ!?」
混乱する俺をよそに、宗虎はわざとらしく周囲に聞こえない程度に大声を出した。その狙いは明らかに、俺の電話先相手に向いており、彼の言葉を聞いたアクアは、俺の静止を聞く前に電話を切った。
どう考えても、そこに向かったとしか思えない。
アクアの現在地は分からないが、相手が相手だから先にアクアに着かれるのは非常にまずい。
俺はスマホを握りしめる力を強め、ありったけの殺気を彼に向ける。
結果は火を見るより明らかだった。
「ほらほら、どうした? 早く助けに行けよ、白馬の王子サマよぉ」
「……テメェ、いつか絶対に殺す」
「楽しみにしてるぜ」
俺は捨て台詞のみ吐いて、相手の答えを聞く前にスタバを後にした。
スマホで位置を検索し、タクシーを呼びながら頼りない頭脳を必死に回し、馬鹿共を含めた多方面への応援を依頼しながら目的地に向かうのだった。
未来「……桜華に本当のこと話さなくてよかったの?」
撫子「言ったところで、私の口からの言葉を信用しないでしょ? なら見せた方が早いのよ」
未来「でもさ、
撫子「最低限の保険はつけてるわ。アイさんを死なせるわけないでしょ」
未来「まぁ、いずれ知らないといけないことは分かるんだけど……」
撫子「愚弟は何が不満なの?」
未来「これ、事後報告で島津家当主のところに行くよね? 当主殿が真実を聞いて、また倒れたりしない?」
撫子「……………………あっ( ゚Д゚)」
未来「……また、お仕事増えるのかなぁ(´;ω;`)」