薩摩の子 作:キチガイの人
もうちょっと鬱展開になる予定だったんですが、ウチの薩摩アイなら、こういう行動を取るんじゃないかって思います。
感想お待ちしております。
補足ですが、前話での撫子のやらかしは理由があります。
詳しくは言えませんが──アイに影響を受けたのは馬鹿共だけじゃないってことです。あとタイミング。
オーカが家を出て数時間が経過した。
私は自宅で一人、寂しく宿題をやっている。疲れた。辞めたい。
愛しの彼は、本人が言うに『楽しい楽しいお茶会』に行くと言っていた。私も行きたいと言ってみたが、物凄く嫌そうな顔をされて泣きそうになった。
もしかして──他の女の子と?
『……女の子、女の子ねぇ』
『じーっ』
『あれが巨乳美少女だったらどんなにマシだったか──前言撤回。やっぱり巨乳美少女だったとしても、あれとの茶会とか嫌だわ。うん。めっちゃ嫌だわ』
どうやら男の人とお茶をするらしい。
オーカ的には会いたくない人であり、「あれと会うくらいなら、全身黄色いタイツ姿のアクアと天文館で手を繋いで散歩する方が数千倍マシ」と言ってた。
愛しの息子だし、私もファッションには無頓着であることは自覚しているけど、流石にストレッチマンなアクアは見たくないなぁ。お兄ちゃんの痴態に、ルビーも泣いちゃうかもしれない。
そんな経緯もあって、私は日本史の教科書と睨めっこしている。
前世の私だったら、こんな昔のことを勉強して何の役に立つの?と投げてたかもしれない。今も同じ気持ちを少しは抱いているけど、最近は必要なのかもしれないと思い始めた。
だって、オーカたちとの会話に混ざるとき、どうしてか分かんないけど、必要以上に知識・教養が求められる時がある。前世では友達がそもそも少なかったし、おバカキャラに近いものを演じてきたので、他人との会話は他人の反応を見ながら嘘を吐くことに専念できた。難しいことは聞き流してた。
でも、オーカたちとの話は、今までの相手に合わせるだけでいい会話だけじゃ成り立たないし、もっともっと話をしたい。できれば会話に乗り遅れたくない。
私から見たら、みんな頭いいもん。特にあかっち。
進学を目的としない勉強をしていると、ふと私のスマホが音を鳴らす。誰かから電話が来ているみたいだけど、電話番号を確認すると見たことがない。
誰だろう? 私は手にとって、応答のボタンを押す。
「もしもし?」
『──久しぶりだね、アイ』
その声を聴いた瞬間、私は目を見開いた。
呼吸が荒くなる。
無意識に腹部を抑える。
魂がざわめく感じがする。
例え名前を忘れたとしても、会話したことを覚えてなかったとしても、私はこの電話の先の男を
手が震えて止まらない。
吐きそうになるのを必死に堪える。
「……誰」
『あぁ、忘れてしまったのか。それなら──
言葉の一つ一つに底知れぬ悪意を感じる。
「なんの、用?」
『久しぶりなんだから、もう少し愛想よく対応してほしいね。そうだ、直接会えないかな?
「私に用なんてない。もう、私に関わらないで」
私は彼の言葉を突き放す。
今の自分には大切な想い人がいる、大切な息子と娘がいる、大切な友人たちがいる。
彼に関わらせるのは危険だと、本能が私に訴えかけた。
私の抵抗は意味をなさなかったらしいけど。
『……そうか、関わってほしくない、か』
「うん」
『じゃあ、もう関わらないようにしよう。この着信も、会話後に着信拒否にするといいさ』
「……そうさせてもら
『島津、桜華って名前かな?』
彼の口から出てきた名前に、私は息をのんだ。
声が思わず震える。
「な……にを……?」
『君は何か勘違いしているのかもしれないけど、いくら彼が強靭な肉体と精神を宿そうとも、ただの人間であることに変わらないんだよ? そう、人間というものは、簡単に──』
そこまで区切って、楽しそうに呟いた。
『──殺せるものなのさ』
「やだ……オーカに、てを……ださないで」
『もう一度聞こう。直接会えないかな?』
「分かった。会うから……オーカを、ころさないで」
彼は肯定も否定もせず、場所を指定して電話を切られた。
スマホで軽く調べたけど、家からそれなりに近かった。
お茶会に行ったオーカの気持ちが分かった。
行きたくない。足早にオーカの普段使うベッドに倒れ込み、彼愛用の枕を胸に抱きしめる。この前身の震えが治まるのを願いながら、ここにいない彼の勇気を貰えるような気がして。
あのオーカが死んじゃうなんてありえない。絶対にない。だって──私と一緒に生きてくれるって約束してくれたから。
でも──本当に殺されちゃったら。
オーカが、前世の私のように死んでしまったら。
私は無意識に首元のネックレスを握りしめた。
……これは、私の問題だ。でも、私だけだったら、きっと殺されてしまう。
私はまだオーカと一緒に居たい。生きていたい。
なら何をすればいい?
星野アイは、生き残るために少ない知識をフル活用するのだった。
♦♦♦
私は彼が指定した待ち合わせ場所に来た。
そこは人通りがほとんどない工事現場のような場所で、立ち入り禁止の先に足を踏み入れた。工事をしている様子はないけど、本当なら来てはいけない場所なのは私でも分かる。
胸元のネックレスを握りしめながら、奥へと進むと、そこに
私の記憶より、大人びた印象の男。
どことなくアクアに似た雰囲気の男。
黒い星の輝きを宿す、私が愛そうとした男。
彼は私に背を向けていたが、足を前に進めると、まるで私が来たことが分かったかのように振り向く。穏やかで優しく、しかし逆に不安をあおるような笑みを浮かべながら。
「やっと会えたね、アイ──」
彼は私の方を視認した瞬間に、その笑みが固まった。
そして、だらだらと汗を流す。
「──ほぅ、テメェさんが、おれの孫を怖がらせているガキか?」
殺されるかもしれないので、とりあえず駐車場で日向ぼっこしていた
前にオーカが言ってた。
もしものときは、おじいちゃんを頼るようにって。
『おじいちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……』
『どうした、アイの嬢ちゃん』
『その……ね? 今から前世で私を殺すように言ったかもしれない男と会わなくちゃいけないんだ。でも、今日はオーカが傍にいなくて……その……』
『あんのエセ島津が。ったく、嬢ちゃんを不安にさせやがって。おれの孫をご丁寧にも殺しやがった奴の面、一度は拝んでおきたかったんだ。行こうぜ。よっこいせっと』
杖を片手に立ち上がったおじいちゃんと一緒にここまで来たのだ。
おじいちゃんは私の背後に立ち、彼を見据える。
「せ、先代島津? な、なぜ公がここに……?」
「おれのことは知ってるのか」
「あ、アイ君!? これは君と私との邂逅的なサムシングではないのかね!? いや、私を危険視するのは分かるけれども! 過剰防衛がひどすぎないか!?」
彼は私に訴えかけるように前に一歩踏み出し──
「あぁ、アイの嬢ちゃんが怯えるじゃねぇか。──そっから動くんじゃねぇぞ?」
おじいちゃんは杖を軽く振り、その瞬間、遠くに離れているはずの彼の近くに会った鉄骨の束が、かまぼこのように綺麗に切断された。
鈍い音が鳴り響き、地面を抉りながらの荒業だった。
おじいちゃん、すごいっ。
風圧だけで鉄骨って切れるんだねっ。
「………」(過呼吸)
「話したいことがあるのなら、そこから喋って」
「私の目的が『どうやって生き延びるのか?』に変化したんだが」
彼の発言に、おじいちゃんが「……んぁ?」と首を傾げたとき、
「──ママ?」
「……ルビー?」
私の娘が背後から声をかけてきたのだった。
カミキ「カミキヒカル青年の演技、なかなかだろう?」
カミキ「これでカミキヒカル青年のことを思い出すといいが……。なんか忘れていると聞いたし」
カミキ「さぁ、感動の再会といこうか──」
カミキ「