薩摩の子 作:キチガイの人
次章で当主と星野一家がはっちゃける──みたいな話をしたような気がしますが、正確には次々章ですね。次章で元天才子役を本編に出さねば。
感想お待ちしております。
「昨日の今日で食事に誘うとか、アンタの心臓はオリハルコン製か何かか? こちとら当主殿が瀕死だってのに」
「それを言うなら、あれだけ言われたアイ君が、少年と共に来るとは思わなかったが。あと、そちらは瀕死で良かったじゃないか。大友と龍造寺は、当主が泡吹いて昏睡状態だぞ。主に私のせいだが」
「………」
前に食いに行った所とは別の高級焼肉屋で、個室スペースに奇妙な三人が場所をとっていた。和気藹々とはあまりにほど遠く、ギスギスとした中で肉を焼いては食していた。
呆れたように半眼で睨む俺。俺の隣で対面の男の存在をガン無視しながら、黙々と肉を焼いては無言で食っているアイ。少年少女の対面に座り、困り果てた表情で微笑むカミキ。
アイは肉を焼いては食い、時々俺の皿にも配膳してくるので、俺はそれを白米と共に食すのみ。無論、カミキの取皿には見向きもしない。事情を知らない者から見れば、アイがカミキに嫌がらせをしているように見える。事情を知っていれば、何でコイツらは一緒に飯食ってんの?と首を傾げるだろう。
経緯としては、カミキと死闘を繰り広げた次の日に、なんか知らんけど俺宛に食事の招待が来たのだ。対象が俺だけだったので、後から家に来られても面倒だと思い、赴くことになった。
が、それがアイにバレてしまい、涙目で行くのを止められた。無視した際のデメリットを説くと、自分も一緒に行くと言って聞かず、今に至る。
カミキにアイ同伴だと告げると、別に構わないと回答をもらった。
「今回に関しては、本当ならば君と矛を交えるつもりはなかった。先に物理的な排除を選択したのは島津少年であり、私のは正当防衛に過ぎん。故に、今回の衝突は不可抗力だと──」
「すみませーん。この黒毛和牛のカルビを二人前お願いしますっ」
「……遠慮なく頼むね、アイ君は」
焼くものがなくなったアイは、今回の支払い待ちの変態に断りも入れず、嘘の仮面を貼り付けて笑顔で店員に注文する。
笑顔を向けられた男性店員の顔を赤面させながら去った後、三人だけになった瞬間に、無表情で黒い星を怨敵に向けるのだ。ちなみに、俺から見て右側にアイが座っているのだが、肉を焼くのも箸を使って食うのも右手のみで行い、左手は俺の右手を握って離さない。
つまり俺の右手は封じられているわけだ。まぁ、俺は左手でも箸使えるから別にいいけど。
「これはあくまでも私と島津少年との会合だ。アイ君の同伴を許可したのは私だが、少しは私の財布事情にも配慮するべきでは」
「十数年前に刺された所が痛いなぁ」
「……好きなだけ頼むといい」
凄いな、人間ってここまで無機質に言葉を返せるものなのか。
こてんと首を傾げなら、俺の恋人は深淵よりも深い黒い星の瞳を向け、抑揚のない声色でかつての想い人へと強請る。内側は変わり果てた変態だけど。
本当に今さらなんだが、どうしてアイはカミキヒカルに対して、そこまでの悪感情を抱いているのだろうか。いや、抱かない理由が見つからないのは分かるけれども、少し前まで名前すらロクに思い出せなかった相手でもある。
やっぱり、昨日俺が来るまでに何かあったのだろう。
俺はそのことをカミキに聞いてみた。
「アイ君がこうなっている理由? 心当たりがなくもない。しかし、その内容を島津少年に教える必要はないと思うが? これは
「んだと?」
「君とて、前世のアイ君のことを全て知っているわけではないだろう? アイ君が過去の君を知らないのと同じように」
知らない……と言うよりも、彼女が口にしたくないであろう過去を掘り起こしていなかっただけでもある。しかし、今回のアイの不機嫌さは、俺の知らない話──それこそ、前世の因縁とも呼ぶべき二人の間でしか分からないことだと、カミキは冷水を飲みながら語る。
「端的に言えば、アイ君にはアイ君なりの言い分があるように、私にはカミキ青年の過去を知った上での言い分と言うものが存在する。ただ、それだけの話だ」
「女を自分の手を汚さずに間接的に殺すような奴の言い分、とても興味があるな。是非ともご教授願いたいもんだ」
「そのような大層なものでもないさ。そして話し合いの結果、私の言葉がアイ君の逆鱗に触れてしまっただけ。アイ君が私を憎む理由は分からないでもないし、許してもらおうとも思ってない。私もアイ君への投げかけが間違っているとは思ってないからな」
前世のアイをカミキは物理的に殺し、今世のアイを
言葉で人は傷つくし、場合によっては死ぬんだからな?
「私からアイ君に関わるのも今回限りだろう。アイ君はどうやら私のことが嫌いなようだし、私もアイ君に興味はないからな。私はカミキ青年とは違って、血の繋がった者を殺す真似はしない。星野一家が私を物理的に排除したいと言うのであれば、いつでも挑んでくれても構わんぞ?」
「だったら今すぐ死んで。あ、やっぱり今のナシ。これの会計終わってから死んで」
「これは手厳しい。私はいいとして、カミキ青年は仮にも肉体関係を持った仲だと言うのに」
「その話をオーカの前でしないで。今の私はオーカのもので、私の子供たちの父親は彼だから。──あなたには、関係ないから」
愛情の対義語が無関心であるのは自明の理だが、これを見ていると本当にそうなのか疑わしくなる。本当は対義語は『憎悪』なんじゃないだろうか。そう思わせるくらい、元人気アイドルの少女の言葉には嫌悪感がにじみ出ていた。
そして、彼女は俺に身体を寄せる。
握りしめていた手を小さく震わせながら、それでも決して離さないようにと力を強めて。
それ以降の会話は俺が引き継ぐことにした。
俺の恋人は変態ともう話をしたくないようだ。
「んで、俺を呼んだ話ってのは何よ」
「……あぁ、忘れるところだった。もちろん仕事の件だ」
「俺がお前の仕事を受けるとでも?」
「島津少年に対してじゃない。私とて、なにもアイ君と舌戦をするためだけに鹿児島まで来たわけではない。アイ君との再会はもう少し後になると思っていたんだが、急遽、鹿児島に赴かねばならぬ仕事が舞い込んで来たのでね」
アイ君と島津少年との件は、そのついでだと変態は肩をすくめる。
ついでにしては、ここまで事態をかき乱す存在も珍しいだろう。
「とある漫画が原作の舞台をすることになって、その件での軽い打ち合わせで鹿児島に足を運んだのだ。その漫画の原作者が鹿児島在住かつ、どうしても
「ふーん」
「そのついでに、神木プロダクションの鹿児島支部でも立ち上げようかと」
「勝手にテメェの拠点を作られると困るんだが?」
ただでさえ別プロダクションの件で、某元社長がその命を文字通り燃やして話を進めているのだ。ましてや、神木プロダクションの支部とかいうゲテモノ、星野一家が安心して暮らせる環境に不要である。
本音としては、これ以上芸能界がらみの厄介ごとを持ち込まないで欲しい。
お願い、もう手一杯なの。
「……まさか、当主がぶっ倒れるのもテメェの計算の内か? この話を進めるために」
「私もそれは想定外だったんだがね」
カミキは小さくため息をついた。
アイは無言で焼け焦げた
「支部創設の件、島津の宗家には話を通していたはずだが?」
「は?」
【島津 桜華】
主人公。カミキの発言が正しければ『カミキが危険人物だと分かったうえで』『神プロ鹿児島支部を作ることに賛同し』『カミキが導春だと知っている(知らないと支部設立にそもそも賛同しない)』ことを把握していた上で隠している者が、宗家にいることになる。つまり、どういうことだってばよ。
【星野 アイ】
ヒロイン。転生者。本人的にはカミキヒカルよりも、中身の導春が嫌い。
【カミキヒカル】
原作の黒幕(推定)。中身は導春。ちなみに彼の言い分は『カミキヒカルの記憶の星野アイ』から来るものであり、今の彼女を考慮してない。内なるカミキも、アイが鹿児島で育ってここまで変わるとは思ってなかった様子。