薩摩の子 作:キチガイの人
あとは夏を満喫して次章へGOかなぁ。
感想お待ちしております。
追記・盆明けの仕事テポドンで死にました。明日休みます。
種子島 撫子は人格破綻者の戦術家である。
島津の特徴として、『少数で多数を打ち破る』という戦略としては間違っている方法で、幾度となく多勢に無勢の危機を乗り越えてきた。よく言えば少数精鋭、悪く言えば万年人材不足。それが島津の十八番であった。
釣り野伏的な島津的解決方法とは違えど、種子島 撫子は幾度となく非凡な頭脳を用いて、周辺勢力を陥れていた。時には人としてどうなの?と思うような手段で、時にはお前人間じゃねぇ!みたいな手段を弄して。
そう、種子島 撫子は非凡な戦術家なのだ。
その……はずなのだ。
「ごうなる゛はずじゃながったの゛よお゛お゛お゛お゛お゛!!」
「「………」」
「わだじだってがんばってる゛の゛よお゛お゛お゛お゛お゛!!」
「「………」」
もしかしたら違う可能性が浮上してきたな。
酔っぱらいの怒号が飛び交う居酒屋にて、ジョッキ片手に泣き上戸みたく、泣きながら机に顔を伏せて喚く軍師(笑)を、対面の席でその惨状を眺める俺と未来は横目で互いに見合わせる。
この居酒屋自体が咸の友人が経営している店なので、未成年者のみの俺たちが入店しても咎められることはなく、なんなら撫子のジョッキに入ってるのは強炭酸のサイダーだ。間違っても酒ではない……はず。この様子を見ていると、本当に酒じゃないのか心配になってきた。
コイツとの腐れ縁歴は長いが、まさか炭酸で酔える人間だとは思わなかった。実弟の未来はそれを知っていたからこそ、俺に「ちょっと来て。飯奢るから」って、用件の詳細を記さずLINEを送ってきたのだろう。
まさか贄を求めてたって思わないじゃん?
「うぅ……ズズッ……」
「……で、俺を呼んだお前は、コレをどうしろと?」
「笑えばいいと思うよ」
笑えねぇんだよ。
そう吐き捨てた俺は、少し前に運ばれて来た唐揚げを一つ頬張る。昼にカミキの財布で疑似食べ放題してきたので、実はそんなに腹が空いてない。
アイを連れて来なくてよかった。こんな友人の姿、アイも見たくないだろうし、撫子も見られたくないだろうから。
余談だが、晩飯も食いに行くと言ったところ「また……あいつ……と?」って、凶星を輝かせたアイを説明するのが大変だった。今日に関しては門限が設定されており、今はまだ時間があるが、早めに帰らないと愛しの彼女が泣く。
完全にアンチカミキになってしまった星野アイ。どうしたもんかと兼定に相談してみたところ、
『……アンチ徳川のテメェと何か違うかァ?』
さほど問題じゃないことが判明した。
家でくつろいでた時に、アイが「Wi-Fiの繋がりが悪いねっ。……あいつのせいかな?」とボソッと呟いてたのを見て、ことあるごとに脳死で徳川に押し付けていた自分を客観視している気分だった。
「……つかさ、撫子はカミキが立花のオッサンだって知ってたんだよなぁ」
「僕も5日前に知ってたけどね。姉貴に口止めされてたけど」
「関係ねぇよはよ言えやボケが。当主殿にも」
「……まぁ、ちょっと今回は、ねぇ。最善とは言い難いけど、姉貴なりの理由はあったんだよ」
今回は『悪手』にも程があるけどねーっと、未来は空笑いを浮かべた。
そして、カミキ騒動の裏側を語る。
撫子が衝撃の事実を知ったのは約1ヶ月前。それこそ、咸がなぜかカミキへの監視を最低限にして、他のことに注力した時期の少し後ぐらいだろうか。友人の安寧のために独自の手段でカミキを調べていた撫子は、神プロの代表取締役の転落事故以降、言動の変化があったのを知ることになる。
違和感を覚えた彼女は調べ、接触し、カミキが導春になってしまったことを知った。当時、撫子が生理で寝込んでいたと聞いていたが、本当はコレが原因だったらしい。
死んだと思っていた難敵が、姿を変えて生きていた。しかも、友人の前世を殺めた人間への転生だ。撫子は大いに頭を悩ませたが、同時に『何をしでかすか分からないサイコキラー』から『比較的ある程度行動が予測できるサイコキラー』に変わったことで、なおかつ本人からアイ本人に興味がない発言をしていたことから、友人を安心させるために、なんとかその事実を知らせようとした。
「でも一つだけ問題があったんだよねー」
「そのココロは?」
「誰が信じるのさ。変態が変態になったって」
「悪魔合体して、より厄介になった感あるよなぁ」
そうなると、本人たちにカミキ本人を見せるしかない。それ本人来るんじゃなくて動画で良くね?と思ったが、当のカミキが鹿児島に用事があるとかで、変態が襲来することになったのだ。
本当にこちらの迷惑を考えない男である。カミキ視点では、俺たち都合で動く道理はないのだが。
これを、最初は撫子も当主殿に報告しようとはしたのだ。
前回は個人間の話だが、今回は大友家の元重鎮が関わってくる話なので、そこら辺は事前に話を通しておくべきだろうと撫子も思ったらしい。
「で、報告する前に事件が起きちゃったわけね」
「なんかあったっけ?」
「星野家転生者祭りの乱」
「……あぁ、その時期と重なるんか。この話」
島津家の中枢がよく分からん理由でストップし、俺たちが地獄の5日間を体験した、あの第二次アイちゃんショックで、それどころじゃなかったらしい。
じゃあ、沈静化した後に報告すればいい。
『
『な、何かな?』(胃薬一気飲み)(エナドリ一気飲み)(手の震え、瞼の痙攣)
『………』
アイの狂信者たる当主殿に『推しに隠し子がいた』『しかも双方転生者』『しかも前世で結婚を誓い合った仲(ルビー証言)』を暴露しダウンさせた挙句、そこに『前世のアイの死亡事件に父親が関与』『その男が転落事故が原因で立花 導春が憑依転生』『つまり星野一家全員転生者』という核爆弾を投下しろと?
撫子は差し障りのない会話で終わり、結局は告げられなかったらしい。
少し時間をおいて報告しようと。
なのでカミキには鹿児島に来るのは少し延期してもらおうと。
『おとめ座の私は我慢弱い』
撫子も心のどこかで思ってはいたらしい。
この男が自分の思い通りに動く奴じゃないってことに。
「そっから姉貴がおかしくなったよね」
「アイ関連になると急激にIQ下がるのは何なんだろうか?」
「個人的解釈なんだけど、うちの姉貴は脳みそを悪いことに使用するのは問題なく行えるし、異常事態が発生しても難なく対処できるんだと思う。でも、良かれと思って使用すると、いざ計画が破綻すると、どう動けば
「難儀な脳内構造してんなコイツ」
策を弄する際、種子島 撫子は才を発揮する。コイツ自身が臨機応変の人なので、策を複数用意することは無論の事、いざ破綻しても
だが、友人のための策となると、彼女の中では話が変わってくる。求めるのは常に最善。策が決定的に破綻すると、どうしても友人のためにと最善を模索するあまり、こうして今回のようにポンコツ化してしまうのだと。善意に耐性のない結果、それを大切にし過ぎてアホになる、と。
なんだこの厄介な生物。
そして目をグルグル回しながら、ありもしない最善を求め続け、それでもカミキは止まるはずもなく、当主殿に報告できぬまま例の日を迎えてしまったと。
そんで友人含め多方面に迷惑をかけた結果、こんな痴態を俺に晒しているわけだ。
「姉貴も少しは他人を頼ることを覚えればいいのに、どうしても『敵をだますにはまず味方から』の精神が、良かれと思って策を考える際にも邪魔しちゃうんじゃないかなー」
「一人で何でも抱え込みすぎ、か。……あれだな、今回は撫子が悪くないとは言えないが、その撫子を個人的感情で突き放してた俺にも責任があるぞコレ。しくじったなぁ」
「今回の暴露で当主殿がまた召されることを想定して、今回の桜華とカミキの動画を撮影して、当日中に大友家と龍造寺家に晒して、道連れにするあたり、やっぱり姉貴の脳みそは悪知恵専用なんだって思ったよ」
大友家当主が「アイツ生きてた上に、あの警戒対象のカミキヒカルに転生した挙句、同盟相手に断りもなく迷惑かけとるやんけ」と泡を吹き、龍造寺家当主が「コロッと死んだはずの男が、スピリチュアルな現象を経て生き返ったんだけど」と白目で倒れたと。
転生話に耐性がない二家のトップを巻き込んで、こちら側がトップ不在の時を狙われないように手を回したのは牽制としてベターじゃないだろうか。
今度から、この元許嫁に少し優しくしようと思いました。
なんだかんだでアイの無茶ぶりで迷惑かけてるし。
「あ、そうだ。俺とカミキの動画撮ってたんだよな?」
「そだね。姉貴の指示でカメラ設置してたし」
「俺が来る前の動画って撮ってる? 残っているのであれば、アイとカミキが何を話してたのか知りたいんだけど」
あの変態がアイに何を吹き込んだのか気になる。
なので情報開示を求めたが、予想外の方面経由で否を突きつけられた。
「あーっとね……その部分は見ずに消しちゃった」
「は?」
「というより、消すように頼まれたから、かな?」
「誰からよ」
「
一瞬だけ呼吸が止まった。
どうしてここで親父殿が絡んでくる?
「僕も詳しいことは分からないよ。断る理由がなかったし。……でも、なんか『死んでも難儀な性格をしている。本当に不器用な奴だ』とか言ってたような気がする」
「どういう意味だ?」
「さぁ?」
唯一の証拠も消えてしまった。
あとは星野一家かご隠居に聞かない限り、真相は闇の中になるだろう。直感的に、誰も口を割らない気がしたので、俺は真実を知ることはないだろうとなんとなく思った。
「あ、それとカミキ情報なんだけど、上にカミキ来訪の話が通してあったって噂を聞いたんだが」
「それは姉貴から聞いたなぁ。でも、とりあえず自分の方からも話は通さないといけないよねって、結局叶わなかったわけだけど」
俺はカミキと昼会った際に話した内容を未来に話すと、おもむろにスマホで何かを調べ始めた。
「漫画の舞台化でしょ。……あった、これだこれだ。タイトルは……『
調べた未来は検索結果を俺に表示する。
俺は作者の名前を見て──理解した。当主殿が知らない理由も。俺たちが知らない理由も。今回の騒動は起こるべくして起きてしまったことを。その隠蔽に悪意が含まれていることも。
「──これ、俺のせいになるんかなぁ?」
俺は肩をすくめて、唐揚げを一つ頬張るのだった。
【IF 『推しの子』アニメ2話を見た島津組の反応】
咸「お気持ちは分かりますが、ルビーさんのアイドル化阻止にしては、やり方に問題あったのでは?」
未来「おまいう」
兼定「五反田カントクの母親に妙な既視感を感じるンだが?」
桜華「で、最後の子は銃創を舐める子役か……」
未来「よりにもよって銃創を……カタギじゃないよね?」
咸「ですね」
かな「理不尽な誤解が生まれた気がする」
カタギリ「カァ」