ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
不協和音がその場に響き渡る。
ミミロップ、そしてタギングルが纏っていたオシアス磁気は一瞬で分解され、元のオーカードへと戻ってしまう。
そして、放たれた強大な波動を前に、その場にいた全員は──吹き飛ばされてしまうのだった。
「オ、オーラジャミング……!?」
「いや、オーラジャミングではギガオーライズは解除出来ん……!!」
遠方から戦況を見守っていた二人も驚愕する。
ギガオーライズしていないハタタカガチはともかく、オーラの鎧を纏っていたタギングルとミミロップはより強力なダメージを受けたことで、その場に倒れ伏せてしまうのだった。
だが、影響を受けたのはポケモン達だけではない。
余波に巻き込まれたイクサ達は、辛うじて瓦礫の中から起き上がり、オーラギアスの姿を見上げる。
「こんなものを……隠してたのか!?」
「ッ……ギガオーライズも切札にならないってわけね……!!」
タギングルをボールに戻しながら、イクサは歯噛みする。
”ちょうはつ”の効果はもうじきに解除される。
そして、ギガオージュエルも赤熱化しており、しばらくは使えない。
そうでなくともギガオーライズの連続使用はイクサの身体に大きな負担が掛かり過ぎる。
「オーガギガガガガガガ!!」
【オーラギアスの じこさいせい!!】
そして、案の定オーラギアスは自らの内部組織を再生させに掛かる。
あっという間に破壊された外殻も修復され、元通りになってしまうのだった。
つぅ、と絶望と共に冷や汗がイクサの額を伝う。
ランクマッチで有効打が無い耐久ポケモン相手に、回復技を打たれた時と同じ、いやそれ以上の絶望だ。
(ダメだ、止められないのか……!?)
「OKメタモンっ!! 出番デース!!」
「オーガギガガガガガガガッ!!」
その時だった。
大蜘蛛の巨体を、大蜘蛛が突き飛ばす。
オーラギアスがいきなり二匹に増えると言う地獄のような光景を前にイクサ達は一瞬言葉を失うが、これがバジルのメタモンであることをすぐに察した。
更に、援護射撃と言わんばかりに電撃弾がしつこくオーラギアス(本物)を狙い撃つ。
「怯んでる場合じゃないッ!! 次は君だ、ソウブレイズ!!」
「ぼうっ!!」
「いっくよ、ニドキング!! ミミロップの仇を取るんだーっ!!」
「ハタタカガチ……ッ!! 援護よ!! ”10まんボルト”!!」
自らと同じ巨体と取っ組み合いになるオーラギアス。
横からはニドキング、そしてソウブレイズが同時に炎技で猛攻を仕掛け、更にハタタカガチが高圧電流を浴びせ続ける。
しかし、効果バツグンの攻撃を受けているにも関わらず、相も変わらず意にも介さぬ様子でオーラギアスは目の前の偽物を攻撃しに掛かる。
そして、いい加減鬱陶しくなったのか、周囲に居るポケモン達を追い払うべく──吼えた。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲーッッッ!!」
【ヌシ咆哮:ポケモン達の特性と能力の変化を打ち消した!!】
【ヌシ咆哮:ポケモン達は怯んで動けない!!】
──メタモンはびっくりしたことで変身が解除されてしまう。
そうなると、上に乗っかっていたバジルは当然、6メートル下の地面に向かって真っ逆さまで落ちる訳で──
「やっぱりこうなるのデースッ!?」
メタモンは怯んでしまい、動けない。
ボールに手を伸ばそうとしたが、態勢が整えられない。
重い頭が地面に向かっている。ぶつかれば頸が折れて死は免れない。
それどころか、オーラギアスがバジルを追撃するように脚を振り上げている。
「──掴まれッ!!」
しかし、間一髪。
まるで連れ攫うかのような手際で、バジルの身体は空中へと引っ張り上げられた。
見上げると、クワガノンにライドギアを装着したゼラが、彼女の手首を握り締めていた。
「心臓が幾つあっても足りんぞ……!!」
「う、うう、Sorry、ゼラ先パイ……!!」
メタモンに向かってリターンビームを当てて戻すと、バジルは未だ勢いが衰えない巨大蜘蛛を前にゾッとする。
幾ら”じこさいせい”を挟んだとは言え、幾ら弱点技をぶつけても堪える様子が見えない。
あのヨイノマガンでさえ、弱点技をぶつければ崩れはしたし、怯んでいたのだ。
オーラギアスは、どれ程の攻撃を受けても尚、全く動じる様子は見せない。
ある程度ダメージを受ければ”じこさいせい”を使いこそするが、本当に体力が半分も削れているかどうかも怪しい。
野生のポケモンが、トレーナーの付いたポケモンのように、合理的に技が使えるかどうかと言われれば答えは否だからである。
故に、実際のオーラギアスの体力はもっと底知れないのではないか、と考える。
事実。
今も大量の技を受けても怯んだ様子一つ見せず、ソウブレイズとニドキングを振り払い、そして毒の糸で絡め取っているのがその証拠だ。
「しまっ!! 焼き切るんだソウブレイズ!!」
「ぼうっ……!!」
「また”どくどく”が来る──!!」
「攻撃しても相手の攻撃がキャンセルできない……あいつ、痛覚とかあるのかしら!?」
ハタタカガチの足元にも糸が広がる。
オーラギアスが動かずとも、周囲に居る敵に向かって糸を飛ばすのは容易い。
地面は既に大量の糸が幾何学模様を描いており、プライシティはオーラギアスの巣と化していた。
「今度はYouの出番デス、ゾロアーク!! ”ちょうはつ”!!」
「クワガノン、こっちも射撃を止めるな!!」
厄介な”どくどく”を使わせないようにするため、ゾロアークも降り立ち、オーラギアスの気を引いて”ちょうはつ”する。
更に、怯んだところに電撃弾が撃ち込まれ、その間にソウブレイズとニドキング、そしてハタタカガチの3匹は糸から脱するのだった。
しかし、二度も同じ手を喰らわないとばかりに、オーラギアスは更に怒りの咆哮を放つ。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲーッッッ!!」
【ヌシ咆哮:オーラギアスは自分にかかった悪い効果を打ち消した!!】
【ヌシ咆哮:ポケモン達は怯んで動けない!!】
ポケモン達の動きが一瞬、止まった。
胸の奥から、否腹の奥から寒からしめる命の危機さえも感じさせる咆哮。
イクサ達も耳を塞がなければ鼓膜が張り裂ける程の大音声。
ゼラでさえもレールガンを取り落とし、耳を塞ぐ。
だが、これが当然、大きな隙になることは言うまでも無いわけで。
【オーラギアスの どくどく!!】
オーラギアスの脚、口から大量の糸が張り巡らされていく。
空中を飛んでいたクワガノンも、地上に居たポケモン達も、そしてトレーナー達も皆絡め取っていく。
「しまッ……!!」
言葉を失うイクサ。
腕にはもう糸が何重にも巻かれていた。
すぐさま毒が染み出し、全員の身体を蝕み始める。
皮膚から直接それは流し込まれ、血液の中に混じる。
有機生命体が受ければ、直ちに意識の混濁が始まり、呼吸が困難になってくる。
そして無機物でもあっても、腐食は免れない。
ビルは朽ち果てて溶け落ち、全員は倒れ伏せていく。
更に、その場にいたゾロアークを前に、オーラギアスは硬化させた糸を吐き出す。
糸は四肢をすっと貫通し、ゾロアークは立つ事が出来なくなり、斃れるのだった。
「そんなっ……ゾロアーク、戻ってくだサイ!!」
バジルは空からリターンビームを当て、ゾロアークを戻す。戦闘不能どころではない。四肢を貫かれたことで、かなり大きな傷を負っていた。
「こ、これは、想像以上にヤバいわね……!!」
「頭が痛い……!!」
「ぐぅっ……!!」
ゼラも毒を受けたバジルを優先し、近場のビルの屋上に降り立った。
だが、彼自身も、そしてクワガノンも毒を受けてしまっている。
始末に悪いのは、本来毒を受けないはずのソウブレイズとハタタカガチの身体も、表面から朽ち始めていることだった。
「しっかり、ハタタカガチ……!!」
「あいつの咆哮……自分に掛かった状態異常も消せるのかよ……!!」
「あれ? じゃあ、転校生が必死にかけた”もうどく”の状態異常って……」
「……気合で完治された可能性があるわね」
「はぁぁぁーっ!? さ、最悪……」
「レイドバトルではよくある事だよ……レイドバトルではね……」
(最悪だけどね……実際にやられてみると!! 今までの苦労は何だったんだよ!!)
タチが悪いのは、オオミカボシの”クロックワーク・リバース”とは違い、これがコンスタントに何度も使われる事である。
オーラギアスの回復行動には一切の後隙が存在せず、そして咆哮も前兆無く飛んでくる。
「無駄なんかに、させない、デェェェース!!」
メタモンが再び、背後からオーラギアスを抑え込む。
そして、あの毒の糸をオーラギアスに巻きつけるのだった。
巨体の足には糸が絡みつき、更に頭部にも糸が巻き付く。
これで、動きだけではなく咆哮も封じる事が出来た。
加えて、そこに毒が思いっきり流し込まれ、オーラギアスは再び悶え始める。
【オーラギアスは もうどくを浴びた!!】
「ッ……バジル先輩!!」
「しっかりシテ、イクサ!! 何度打ち破られてもッ!! 何度でも、立ち上がる!! それが、私達デショ!!」
「オーガギギギギギギギ……ッ!!」
ずしん、と自重で沈み込むオーラギアス。
しかし、沈み込んだ脚からはオシアス磁気が漏れ出している。
「地下からエネルギーを吸い続けているのか……!?」
「オーガギギギギギ……!!」
「いっ、ウソデショ!?」
バジルは驚愕する。
全く同じ体重、全く同じステータスをコピーしているはずなのに、オーラギアスの方が馬力が強い事に。
偽物の巨体はごろん、と押し返され、バジルもまた、地面に落ちる。
そして、偽物に組みかかったオーラギアスは、大量のオシアス磁気を込めた前脚をメタモンに突き立てるのだった。
めきめきめき、と音が鳴り響き、メタモンの身体が元に戻っていく。
「直接体にオシアス磁気を流し込んで、メタモンを斃した……!!」
「オーガギギギギガ……!!」
「こっちだ!!」
今度はオーラギアスの気を引くべく、ゼラとクワガノンが電撃弾を何度も放つ。
しかし、それを受けても平然としているオーラギアスは、邪魔な羽虫を落とすべく、大量の硬化させた糸をクワガノン、そしてゼラに放つのだった。
「がッ……!?」
それを避け切ることが出来ず、ゼラの腕と脚、そして──クワガノンの身体も糸に貫かれる。
空中で姿勢を保つ事が不可能になったクワガノンは、そのままふわふわと落ちていく。
地上でその様を見ていたバジルは──ゼラの名を呼ぼうとしたが、毒が回って来たからか、もう彼の名を呼ぶことも出来ないのだった。
「先、パイ……!!」
だが、それでもバジルはゼラの墜落地点まで走っていく。この状況、ゼラならば確実に「俺を助けに行くな、3人を援護しろ」と咎める場面だ。
しかし、バジルには彼を見捨てることが出来なかった。
「メタモンが、やられた……!! ゼラまで……!!」
「オーガギギギ……!!」
オーラギアスは、未だに健在なイクサ達の方に目を向ける。地下から更にオシアス磁気を供給しているからか、オーラギアスが弱まる気配は一向に見えない。
とにもかくにも時間が無い。隕石がどうこうではなく、イクサ達の身体を蝕む毒が問題であった。
短期決戦以外にイクサ達に勝ち目は元より無いのである。
「……やむを得ないわね。あんまり使いたくなかったのだけど……ッ!!」
「レモン先輩……!?」
「3つ目のギガオージュエルよ。カラントが持ってたヤツだわ」
レモンは腕に嵌めたそれをイクサ達に見せる。
正直、暴走のリスクと天秤にかけた時、レモンはそれを使う事を躊躇していた。
特にハタタカガチの電撃はあまりにも強く、下手にギガオーライズさせればイクサ達にも被害が出る事が考えられる。
「……この状況、火力が足らない私達は圧倒的に不利。でも──ひっくり返せるわ、ギガオーライズなら」
「……チャンスは一回だけ、ですか」
「……二人とも、私に合わせてくれるわね」
「うんっ……!!」
レモンはオージュエルに、ハタタカガチのカードを翳す。
暴走の危険性はハナから承知だった。回復されれば、この賭けも徒労に終わる。
そして、ギガオーラジャミングでハタタカガチが倒されてしまうことも容易に想像がついた。
「──奴の硬い装甲も、超電圧を流し込めば柔らかくなるはずよ。そこに、ソウブレイズとニドキングの攻撃を今度こそ叩き込む」
「は、はい……ッ!!」
「これで倒れてくれないと、ヤバいんだけど……!!」
ハタタカガチの身体が光り輝く。
レモンの黒いオージュエルに呼応するようにして、大量のオーラが突き刺さった。
電球蛇の全身は黒く染まっていき、目からは黄金の紫電が迸る。
「ぎゅらるるるるるるるるる!!」
【ハタタカガチ<ギガオーライズ> タイプ:電気/毒】
心なしか。
傍に立つレモンの髪も、ふわりと持ち上がっている。
静かに彼女は「下がってなさい」と一言。
あまりの電圧に、イクサもデジーも近付くことを憚られる程だった。
これまで見てきたハタタカガチの電流の中では、最も畏怖を感じさせるものであった。
オーラギアスも、これまで見てきた脅威を前にして大量の糸を吐き出すが、
「”10まんボルト”」
放った電圧が、全ての糸を焼き払う。
近付く者は全て消し飛ばす電圧を前に、今度こそオーラギアスは危機感を覚え、”ギガオーラジャミング”の態勢に入るが──
「オオワザ──”ひかりのゆみや”ッ!!」
【ハタタカガチの ひかりのゆみや!!】
一瞬で姿を消したハタタカガチは、自らの身体を稲光の矢に変え、オーラギアスに噛みついた。
流れ出た大量の電圧に苦しみの絶叫を上げる大蜘蛛だったが、その直後に更に大量の電気の弓矢が宙に浮かび上がり、突き刺さっていく。
そして──引き付けられた万雷が空から一挙に降り注ぐ。
「ゴガガガガガガガ!?」
さしものオーラギアスも、反撃どころではないようだった。
全身に電気が流れるのみならず、甲殻にも穴が開き、内部から焼かれていく。
「ソウブレイズ、”むねんのつるぎ”!!」
「ニドキング、”かえんほうしゃ”!!」
黒焦げになったオーラギアスに、二匹が飛び掛かり、炎の剣が、そして追い打ちをかけるようにしてニドキングが炎を浴びせる。
オーラギアスの身体は爆発、そして炎上し──遂に地面に崩れ落ちたのだった。
だが、超威力の技を撃った反動か、猛毒の進行故か、ハタタカガチもまた、煙を口から噴き出し──倒れてしまう。
それを撃たせたレモンも、目から紫電こそ迸らせてはいたが、疲弊しきっているようだった。
それでも、敵は既に虫の息。イクサに捕獲を促すべく目配せする。
「……奴はこれで、内部から丸焦げ。死にはしないでしょうけど、瀕死の重傷は避けられない」
「ボールを投げます!! 今ならきっと──」
しゅるるるるるるるるッ
イクサ達は、それを避ける事が出来るはずも無かった。
彼はボールを構え、完全に捕獲の姿勢に入っており、レモンはギガオーライズの反動で疲弊していた。
二人の目は毒の影響で霞んでおり、まともな視界など確保できるはずもなかった。
辛うじて、目に毒が回っていないデジーだけが、それに対応することが出来た。
きらり、と倒れたオーラギアスの近くで光るものが見えたのである。
「──危ないッ!!」
彼女は、イクサ、そしてレモンを突き飛ばす。
先に悲鳴を上げたのは、前に居たポケモン達。
その身体をあっさりと、硬化した糸が貫いていた。
「ッ……デジー……!?」
そして。
デジーの小さな体を、硬化した糸が何本も、何本も貫いていた。