ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第136話:絶望のギガオーライズ

「──か、はっ……!?」

 

 

 

 腕も、足にも、穴が開いていた。

 デジーは倒れ込み、イクサ達に覆い被さる。

 

「バカッ、何やってるのよ!?」

「デジー……!?」

「あ、い、たぁ……良かった、頭は……無事みたいだ……ボク、頭だけが取柄だからさ……」

「バカな事言いなさい!! 傷が……!!」

 

 弾丸で穿たれたような刺し傷が幾つも彼女の身体に空いており、そこから血が流れ出ている。

 

「……好きだよ」

「ッ……」

「転校生も、レモン先輩も、こんなどーしようもないボクを……好きでいてくれた。だから、好きなんだよ。うん、好き」

「君は大馬鹿野郎だ!! 前もそうだった、いっつも自分が犠牲になれば良いって思ってる……!!」

「仕方ないじゃん。体が……動いちゃったんだから」

「デジー……!!」

「好きなんだもん、ふたりとも……」

 

 ハタタカガチが倒れ込み、オシアス磁気が霧散する。

 猛毒と糸に貫かれたダメージで、ニドキングとソウブレイズも倒れ伏せる。

 彼らの眼前に佇む黒焦げになったオーラギアスは──野太い咆哮を上げ、再び立ち上がるのだった。

 とてもではないが、内臓が焼け焦げたポケモンの挙動ではなかった。

 既に”じこさいせい”により、回復は完了してしまっている。

 

「あれでまだ、響いてない……!!」

 

 膨大なオシアス磁気を放ちながら、オーラギアスの身体にオーラが突き刺さっていく。

 追い詰められたことで、体内に蓄積されていたオシアス磁気を身を守る為に解放したのだ。

 毒蜘蛛の身体には、装甲の如くオシアス磁気が収束していく。

 そして、更にその身体は肥大化していく。

 

「まさか、ギガオーライズ!?」

「退くわよ、イクサ君っ!!」

「はいっ!!」

 

 イクサはデジーをお姫様抱っこして、何とかその場を離れる事しか出来なかった。

 徐々にそれは、先程までの蜘蛛の如き姿からはかけ離れたものへと変化していく。

 いうなれば増加装甲。

 仲間を呼ぶのを邪魔されないために築き上げた、巨大な巣窟。

 致命傷寸前の傷を負わされたことで、オーラギアスがとったのは、更に防御を固める事。

 どうせ毒で対象は皆死滅する。

 そうでなくとも、仲間を呼び寄せる事さえ出来れば、それで良い。

 高さ12メートルの金字形の建造物が、そこには顕現していた。

 

 

 

「コヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲン」

 

【オーラギアス<ギガオーライズ・フェーズ2> タイプ:毒/虫】

 

 

 

 イクサも、レモンも、立ち尽くすしかなかった。

 プライシティを乗っ取るかのように顕現したそれは、イクサもよく知るあの建造物に酷似していた。

 古代エジプトに於いて王の墳墓として造られた、大規模なそれを知らぬ者は──彼の世界には居ない。

 

 

 

「ピラミッド……!!」

 

 

 

 その頂上からは相も変わらず高濃度のオシアス磁気が天に向かって放出され続けている。

 更に、その正体を示すかのように側面の隙間からは巨大な脚がはみ出している。

 そして、自重で沈み込んだ脚は、更に地中からオシアス磁気を吸い上げ続けており、ギガオーライズによる消耗さえも帳消しにしている。

 

(トレーナー無しで自力でギガオーライズした!! まさかレックウザ食ったから、こんな技身に着けたんじゃないだろうな!?)

 

 そして文字通り、身を守るために特化した形態なのだろう、とイクサは判断する。

 しかしこの状況ではハッキリ言って最悪であった。このままではオーラギアスの仲間が降ってくるのは時間の問題。その前に此方が毒で全滅する。

 だが、圧倒的とも言える質量を前にして、最早打つ手など無いのではないか、と思わされた。

 

「デカすぎるわ……只でさえ堅牢なオーラギアスが、更にこれだけの外殻を……!!」

「これ、僕達こいつを落とす前に死ぬんじゃ……って」

 

 更に外敵を排除するかのように、大量の糸がオーラギアスを起点にして広がっていく。

 イクサはすぐさまハルクジラを繰り出すと、その頭に乗っかる。

 レモンも、続くようにして後ろに乗り、そのまま地面を凍り付かせたハルクジラは滑走してその場を離脱するのだった。

 

「バジル!! ゼラ!! そっちは大丈夫!?」

『ゼラ先パイ、ケガしてるデース……!! 私も、毒が回って……!!』

 

 糸が建物を朽ち果てさせ、町は完全にオーラギアスのテリトリーと化す。

 ハルクジラの足も蜘蛛の糸に絡め取られ、毒が回っていく。

 氷を滑走する脚が、どんどん鈍くなっていくのがイクサにも感じられた。

 一度っきりのチャンスであるギガオーライズは完封され、ポケモンを出しても毒で自滅。

 加えて、オーラギアスは完全なる要塞と化した。

 最早、打つ手は無い──そう思われた。

 毒によって、もう頭が回らないのである。

 

「……レモンさん、ごめんなさい。今回ばっかりは、ダメかもしれません」

「ッ……イクサ君」

「もう僕も意識を保つのが精いっぱいで……」

 

 まどろみがイクサを襲う。

 死への誘いが、彼を飲みこもうとする。

 そんな彼を──レモンは後ろから抱き締めた。

 

「バカね……諦めないのが……貴方の良い所でしょう……!?」

「で、でも……」

「大丈夫。私が居る。ポケモンは、回復させれば、良い……!!」

「その前に、僕達が……」

 

 レモンも、もうほとんど目が見えなくなっていた。

 それでも、目の前の少年に抱き着くことで、その体温を──感じ取ろうとする。

 

「考えなきゃ……考え、なきゃ……どうするべきか、どうしなきゃ、いけないのか……!!」

「レモンさん……」

 

 そんな彼らの背後を襲うようにして、硬化した糸が迫る。

 彼らの脊髄を貫き、確実に仕留める為に迫る。

 だがもう、ハルクジラも速度が出ない──

 

「気張れハルクジラ……!! 今は、態勢を立て直すしか──ッ!!」

「ヴオオオオオ……」

 

 

 

「──しばらく見ないウチに、随分と弱気になったじゃねえかッ!!」

 

 

 

 その時だった。

 迫りくる糸が突如、熱線によって焼き払われる。

 そして、地面を覆っていた蜘蛛の巣も、纏めて焼かれていく。

 空からサイレンのような低い声が響き渡る。

 イクサは霞む目で空を見上げた。

 黄金のグライダーが、炎を噴き上げながら舞っている。その上に立つのは当然、炎の男・ラズだ。

 

「ッ……ラズ!?」

「ラズ先輩!?」

「へっ、助けに来てやったぜ、レモン。イクサ!!」

 

 アマツツバサはそのまま、ハルクジラの下にまで降下する。

 

「学園はどうしたのよ!?」

「洗脳されて腑抜けた連中なんぞに俺達が負けるかよ」

「で、でも、僕達、もう身体に毒が……」

「待ってろ。すぐにコイツをブチ込む!!」

 

 ラズが手にしているのは”なんでもなおし”の注射だった。

 それを幾つも取り出し、イクサ、そしてレモンの首筋に突き立てる。

 そして残った1つも、横たわるデジーの首に突き立てたのだった。

 

「でも、これは効かな──」

「黙ってろ!! 手がずれる!!」

 

 すぐさま薬効成分がイクサの身体を駆け巡る。

 気が付けば、今の今まで身体を襲っていた倦怠感も、苦しさも、そして──目の霞みも取れていた。

 

「……って、効いてる!?」

「ラズ、これって……!!」

「此処に来る前に、着陸してた飛行船に寄ったんだよ。イデア博士曰く”オーラギアスの毒に効く特効薬が出来た”ってな」

「もしかして、ミコさんが……!!」

「間に合わせてくれたのね、大変だったでしょうに!!」

「ああ。死ぬ気で毒を解析してた所為で、すっかりボロボロだが……”後は頼む”だってよ。後、薬を作ったのは博士だ。あっちにも感謝しとけ」

 

 俺ァ持ってきただけだからな、とラズは続けた。

 

「ありがとうございます、ラズ先輩……!! 助かりました!!」

「でも状況は良くない。オーラギアスのヤツ、あんな姿になって防御を固めてるわ」

「ありゃ一体どうなってやがる」

「宇宙から仲間を呼んでるんです。このままだと、あいつの仲間がこの星に降ってきます」

「その前に隕石が降ってオシアスがドカンよ」

「……洒落にならねえな」

 

 まあ良いぜテメェらは幸運だ、とラズは自信満々の笑みで付け加えた。

 

「この俺が来たんだ。もう……弱音なんざ吐いてられねぇよな」

「ッ……はい!!」

「本当、味方に回ると何処までも頼もしい奴だわ」

「借りは返すって決めてたんでな」

 

 わしゃわしゃ、とイクサの頭を撫でると、ラズはオーラギアスを指差す。

 

「俺がテメェらを空から運ぶ!! 後はもう、攻めて攻めて、攻め落とすだけだぜっ!!」

「デジーはどうしますか? 毒は良いんですけど、ケガが酷くて」

「セキタンザンが、安全なところまで運んでくれる。飛行船までの道は覚えてるだろーからな」

「シュポポポ」

「良かった……」

「懸念は無くなったわね」

「ああ。”なんでもなおし”の在庫も十分だ」

 

 一度どん底にまで突き落とされ、相手もまだ健在。それどころかパワーアップを遂げている。

 しかし、此処からが──反撃のチャンスだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はぁ……はぁ……ゼラ、先パイ……もう、何も聞こえないデス……?」

「……」

 

 毒の所為で、もう何も喋れないゼラを背負い、運びながら──バジルは呟いた。

 体を貫かれている所為か、更に毒が流し込まれたのだろう。

 目は固く閉ざされており、どんどん冷たくなっている。

 オーラギアスの姿が変わった。

 これまでとは比べ物にならない程のオシアス磁気を放っている。

 此方の戦力は悉く潰され、自身も毒で余命幾ばくもない。

 そのまま力が抜けてしまい、バジルは建物の壁に寄りかかり、そこにゼラを寝かせた。

 

「……好き」

 

 もっと早くに言ってたら良かったかなあ、とバジルは続ける。

 好きなのは分かっていた。

 だが、口下手なゼラだからこそ、彼の方から言ってほしくて、敢えてスルーしてしまっていた。

 

「私の事、いの一番に守ってくれるところ、気遣ってくれるところ、全部分かってたけど……恥ずかしくって、知らないフリしてたデス」

 

 私って本当に悪い子デスね、とバジルは続けた。

 冷え切ったゼラの額を撫でながら、彼女は──雫を流す。

 

「私、ずっとこのキャラでやってきたから……らしくないかなーって思われたら、イヤだったんデス。先パイに、甘えてたんデスよ」

「……」

「でも楽しかったデスよ。寮対抗戦も、オーデータロワイヤルも、メロディーレインへの旅行も……先パイと一緒で良かった」

「……」

「だから……せめて、最期は一緒が良いデス」

「……」

「私も、眠くなっちゃったから……」

 

 

 

「あのー、浸ってるところ悪いんだけど──」

 

 

 

「……」

 

 死神でも出たのか、とバジルは思った。

 目の前には冷気を放つ水晶髑髏。成程、確かに死神っぽくはある。

 しかし、オマケで半裸の男が付いて来ていた。

 死神は──半裸では出て来ない。

 

「ハァイ、バジル君。”なんでもなおし”……要る?」

「……」

「勿論、オーラギアスの毒にも効くんだけどね?」

「……」

 

 数分後。

 ゼラの呼吸は穏やかになり、体温を取り戻しつつあった。

 バジルは顔を真っ赤にしたまま──突如現れた半裸の男に詰め寄る。

 

「……何処から聞いてたデス?」

「ははは」

 

 無論、半裸でイテツムクロに乗ってやってくるイカれた男は、世界広しと言えどシャイン・マスカットをおいて他に居ない。他に該当して堪るか。

 

「ハハハ、じゃないデスッ!! 吐くデス!! どっから聞いてたデス!? What!?」

「強いて言うなら、”先パイ、もう何も聞こえないデス?”の辺りだろうか。君達の事は上空から捕捉していたからね」

「あああああ……!!」

 

 最の悪であった。

 最初から最後まで、全部聞かれてしまっている。

 よりによって、この半裸男に。

 

「まあでも天下の名探偵にも乙女らしいところがあったということで此処は一つ……ふふっ

「FU〇K!!」

「おっと」

 

 脛に向かって放たれた蹴りを、シャインは華麗に躱す。

 名探偵、一生の不覚であった。

 

「おいおい、それでは折角特製なんでもなおしを作ってくれたイデア博士に申し訳が立たないじゃないか。此処は私の美しさに免じて──」

「何を免じるんデスか、このすっとこどっこい!!」

「だが、ナイスタイミングだっただろう?」

 

 最悪のタイミングであった。

 死を覚悟して、恥ずかしいことを全部ぶちまけたまさにその瞬間に、よりによってこの男に全部聞かれるとは思っていなかったのである。

 

「う、ぐぐぐぐ、うぐぐぐ……ほんっとに、最悪デス……!! 助かったのに!! 助かったのに!! これだったら、綺麗に退場してた方がまだ良かったデス!!」

「だが、状況は悪くない。特効薬は開発され、そしてこの私が駆け付けた」

「私の尊厳が踏み躙られてるデス!! WTF!?」

「ふーむ……まあ、こういう事もあるだろう!」

「ハ?」

「私のように心の扉を常に全開にしてれば、恥ずかしいことなど何も無い。想い人がいるなら、素直に想いを伝えれば良い、それだけだ」

「Youが全開なのは心じゃなくて社会の扉デショ!!」

「ははは、痛い所を突かれたね。だが、私はまだ本気を出していない。全て脱いでいないからね」

「今此処で脱いだら、捩じ切るデス」

「おお怖い怖い、流石あのレモンのナンバーツーというだけはあるね」

「いや、Youが最悪なだけデショ、女の敵デス」

 

 しかし、それでも尚バジルには心の余裕があった。

 何故ならば此処までの恥ずかしい独白を聞かれたのはあくまでもシャインだ。肝心のゼラ本人ではない。それでも致命傷には変わりないのであるが。

 

(……まあでも、問題Nothing! そこの露出狂に聞かれたのは良いデス、ゼラ先パイに聞かれてなければOK! 私はいつも通り、可愛い名探偵バジルちゃんのままで貫けばヨシ!!)

 

 そも、相手はあの朴念仁で唐変木のゼラ。

 こんなタイミングで聞かれているはずもない、とバジルは合点する。

 

「……バジル」

「あっ、先パイ!! 起きたのデス!?」

「……」

 

 起き上がったゼラは──バジルの顔を見るなり──そっぽを向いてしまった。

 

「……先パイ? どうしたデス? 何処かまだ痛むデス? いや、痛んで当然デスか、身体に穴空いてるシ」

「……何でもない」

「?」

「シャイン、お前が”なんでもなおし”を持ってきたんだな。感謝する」

「なぁに、私は当然のことをしたまでさ。それよりも、あのデカブツはどう攻め落とす?」

「ああなると、もうメタモンでもコピーできないデスよ。となると、考えられるのは……表面を凍らせて、内部にダメージを与える、デス!!」

「良いアイディアだ。それならば私のイテツムクロも力を貸せるだろう」

「お前が居ると言う事はラズも居るんだな」

「そうなるね」

「……それならば、もっと話が早いかもしれんな」

 

 立ち上がったゼラ。

 彼にとって、身体に穴が開いた程度の傷はどうということはない。

 猛毒を克服した今、彼は再び最強のスナイパーとして戦場に帰る事が出来る。

 

「おいバジル」

「ハイッ、先パイ、何デショ!!」

「……()()()()()()は、これが終わった後の方が良いか?」

「……」

 

 バジルは黙りこくってしまった。

 

「きっと今の俺はまともじゃない。だが──絶対に生きて帰る決意は出来た」

「……」

「勝つぞ」

「……」

 

 ざっ、ざっ、といつもの鉄面皮のまま先陣を切るゼラ。

 バジルは、蹲り一言。

 

 

 

「こ、殺してくだサイ……」

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