ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
走り回るピカチュウ、それを追いかけるパーモット。
あれだけの激戦が終わったと言うのに、ポケモン達の元気は底知れない。
イクサとレモンは、並びながらそれを眺めていた。
その間には、未だに姿が朧げなフーパが金の輪を掲げて浮かんでいる。
帰そうと思えば、いつでもピカチュウを元の世界に戻せるのだろう。
「そりゃあね、名残惜しいに決まってるでしょ。でもね……
「……レモンさん」
「ね、ピカチュウ」
「ぴぃ?」
駆け寄ってきたピカチュウを抱き上げ、レモンは言った。
「……あっちの私によろしくね」
「ぴかぴーか!」
「……」
王冠を被っているということは、学園最強大会の後。
ピカチュウは、その後の迷宮探索で亡くなった。
もうどのみち残されている時間は、多くないのである。
この手を離したら、ピカチュウは元の時代に戻る。
確定された死が待っている元の世界に戻る。
それを分かっているレモンは、口では元の世界に戻るべきだと言っていても、なかなか手が離せない。
頬には──涙が伝う。
「ぴか?」
「……」
「レモンさん……」
「バカね私……自分で言ったこと、何一つ守れてないじゃない」
「っ……ぴか」
「ピカチュウ!? ピカチュウーっ!! 何処行ったの!? ねえ!」
ふと、声が聞こえてきた。
フーパが広げた金の輪の奥からだ。
間違いなくレモンのそれだった。だが、今イクサの傍にいる彼女が発したものではない。
金の輪の奥。ピカチュウがやってきた時間のレモンの声だ。
「ったく、ほんっとにワンパクなんだから……明日は久々の迷宮探索なのよ?」
「……ッ」
「貴方が居れば、あの程度の迷宮楽勝なんだから。さっさと帰ってきなさいってば! 何処行ったの!?」
能天気にも明日の迷宮探索も上手くいくと思っている──あの時の愚かな自分。
バトルが好きでもなかったくせに、必要に迫られて強くなり、学園最強に立っておだて上げられ、致命的に誤った選択をしてしまった許せない自分。
その声を聞き、レモンはとても腹が立った。
それが、相棒を死なせることになるのも知りはしないのに。
「ぴーかぁ?」
「……ありがとうピカチュウ。一緒に戦ってくれて」
「ぴーか!」
「……ねえ。あっちの私の事をよろしくね」
「ぴぃ?」
「……帰るのよ、ピカチュウ」
そう言って、レモンは金の輪の奥を指差す。
顔を俯かせながら。
「ぴーかぴ?」
「行きなさいッ!!」
「ッぴ!?」
レモンは激しく声を荒げる。
そして息を吸い──毅然とした態度で言い放つ。
「……貴方の主人は……私じゃない。早く、帰りなさい」
「……ぴぃ」
「ねえピカチュウ!! 早く戻って来なさいったら!! 何処に行ったの!? オヤツの時間は終わりよ!!」
「……ぴーかぁ……」
ピカチュウは走っていく。自分を呼ぶ声がする金の輪の下へ。
それでも、何処か気を遣うようにレモンの方を見やる。
「……ピカチュウ。私は大丈夫だから」
レモンは最後まで、ピカチュウに目を合わせなかった。
ずっと、金の輪を指差していた。
そして彼は──金の輪をくぐり、その姿を消した。
輪は小さくなっていき、フーパの手元へ戻る。
「……これで、良かったのよ」
「レモンさん……頑張りましたね」
「当然のことをしただけ。正しい在り方に戻っただけ」
きっと、ピカチュウは──死ぬ。
どうやっても、死ぬのだ。避けられない運命だ。
だがその過去も自分の一部なのだ、とレモンは受け入れていた。
「私には、今となりを歩いてくれるポケモンと、仲間達が……そしてイクサ君がいる。もう、後ろは向かないから」
「……だったらよかったです」
「ぱもぱもっ」
「……ありがとフーパ。良い夢見せられたわ」
──キャキャキャ!!
「でもさフーパ。君はこれからどうするのさ」
──イヤー……元ノチカラ、トリモドスマデ、スッゴク時間、カカル……。
「良い薬よ。今の今まで好き勝手しすぎたんだから」
「もう十分反省したと思うけどね。何千年も地下に閉じ込められてたんだから」
──ソウ!! ソウ!! フーパ、反省!! ハンセイ!!
「……本当かしら」
──オーラギアス、モウイナイ! フーパノチカラ、回収シテイク!! ソシタラ、モウ迷宮、デキナイ!!
「そう言えば迷宮がオシアスにあるのもあんたの所為じゃないのよ」
「レモンさん抑えて! どうせ暴力は通用しませんから!!」
──ト、トニカクッ! フーパ、コレデ自由! ジユウ~!!
ふわふわ、とフーパは空に向かって飛ぶ。
いずれオシアスに迷宮は出現しなくなる。フーパも遠い未来、元の力を取り戻す。
その時、また彼が災厄を呼ぶかどうかは分からない。
「もう変なモン呼び出すんじゃないわよ!!」
──キャキャキャ……。大丈夫! フーパ、オシアス、守ル! 約束約束~!
「そうだね、約束だよフーパ」
──キャ? ワカッテル! ”叶エテモライタイ夢ナンテナイ”デショ!
「ああ、覚えてたのかソレ……」
フーパは顔を押さえて笑った。
──最初ハ、チカラヲトリモドシタイダケダッタ!! デモ、イクサ!! オマエヲヨンデ、ヨカッタ!!
「……フーパ……」
──フーパ、オーラギアス、ヤッツケタカッタ!! イロンナセカイカラ、イロンナモノヲヨビヨセタ!! デモ、ナカナカネラッタ場所ニチカラ、トバセナカッタ!!
結局。
壺に封じられた力無くして、フーパは金の輪を狙った場所に飛ばすことは出来ないようだった。
オシアスの地下に霧散している状態でも”力”を行使できるのが幻のポケモンたらしめるところなのであるが。
そんな中、イクサ──即ち自分の半身が封じられた存在を見つけたのは偶然だったらしい。
気が遠くなるような試行回数の先の──偶然であった。
「僕も君に感謝してるんだよね。君のおかげで、レモンさん達に会えたから。でも、これまでも、此処から先も──僕の道は僕で決める」
──ヤッパリ人間、面白イ!! 面白イ!! フーパ、人間ノコト、モット知リタイ!! ダカラ──チョットダケ、オトナシクナル!!
そう言ってフーパは天高くへと消えていった。
レモンは溜息を吐きながら飛んで行く諸悪の根源を見つめていく。
「あれ良かったのかしら、野放しにして」
「後500年先、か……気が遠くなりますね」
「ちょっとは懲りてくれると助かるのだけど」
手を振って走ってくるバジル、ゼラ。そして、ラズの姿を見て──レモンは微笑んだ。
「ま、今はそんな事どうだっていいわね」
「皆ーっ!! 捕まえました、オーラギアスーっ!!」
※※※
──そっか。転校生達、全部終わらせたんだ。
──みーみみ……。
──何を神妙な顔をしておるオマエら。
──うわぁ、ミコっち!? いきなり部屋に入ってこないでよ!?
──そも、オマエが妾を直していなければ今頃全滅だからな?
──それは、そうだけどさぁ。ボク、途中退場だったし……。
──オマエはやるべき事をしっかりやったぞ。
──ん。そうだね。先ずは……喜ばなきゃ、だもんねっ!
──みぃ!
※※※
──あ、全身氷漬けで発見されたシャイン君だが、救助された後も”やっぱり私は美しい……”と連呼していて、頭に何か障害が残ったものかと。
──何なら頑なに服を着ようとしないんです、残念ですがやっぱり頭が……。
──兄貴はそれが平常運転だぞ。
──なにそれこわい。
※※※
──テマリちゃん。
──なぁに、ハッちゃん……うちもうしんどい……疲れたぁ……。
──イクサ達、やりおったみたいやで。
──ほんまに? イクサ君、オーラギアス? っての捕まえたん!?
──大したヤツや、ホンマ……やっぱ俺の親友は世界一やな!! いやー、敵わへんわ!! あいつが帰ってきたら祝勝会でも上げるか! 勿論主役はアイツや!!
──……すかたん。
──何でェ!?
(ハッちゃんも……カッコよかったのに……)
※※※
──ふーむ、何か知らんが俺達の知らん間に全部終わったらしい!! 話が飛んでいる!!
──アジュガさん、どうやら私達ずっとクラウングループに捕まっていたみたいです。
──何と言う事だ!! ではこうして同じ病室の隣のベッドで寝ているのはどういう了見だ!!
──それはきっと洗脳ガスの影響がまだ抜けていないからだと思われます。
──では俺の声が心なしか出にくい気がするのは──
──十分デカいです、読書の邪魔なので黙ってくれますか?
──すまない!!
──……。
──それよりコナツ君は!? しばらく見てないが……。
──ああ、隣の病室ですね。彼女、たった1人で頑張ってたみたいで。
──何と言う事だ!! 俺が不甲斐ないばかりに!! 後で労ってやらねば!!
──その必要はないですよ。
──!?
──足しげく誰かが病室に通ってるみたいですから。
※※※
──クラウングループもブッ潰れて、モーモーファクトリーも安泰……か。
──ええ。本当に、良かったですぅ♪ でも、ラズさんはケガの調子が……。
──なーに、こんなのギプスで止めてりゃアッと言う間だぜ。
──しかし、良いのですかぁ? 後処理で忙しいのに、私のお見舞いだなんて……。
──るっせぇ、仕事なんざ俺にかかりゃささっと終わるんだよ。
──……ふふっ。
──ンだよ。何がおかしい。
──いいえ、出会った時とは見違えたなぁ、と。
──お前とイクサには襟元正されたからな。感謝してるぜ。その……あんがとな。
──お礼には及びませんよぉ。
──いーや、借りっぱなしはシャクだ。俺の流儀に反する。テメェも……何かあったら俺に頼れ。全力で助ける。
──そうだぁ、今度はとびっきり美味しいお菓子を一緒に作りませんかぁ?
──かっ、菓子だと!? 何故そうなる!?
──あらぁ、お気に召しませんでしたかぁ? イクサさん達へのお礼に特大ケーキを作りたいんです。色々手伝ってほしいのですけど……生憎まだ材料が手に入りにくくって。
──……へっ。ラズ様は何だって出来るんだよ! 任せろ!
──ふふっ。決まりですねぇ。退院が……楽しみですねぇ。
※※※
戦いから、何週間か経ったある日の昼下がり。
すっかりイクサ達は、あの戦いで負った傷が癒えていた。
騒乱が嘘のように平穏で──しかし異常な日々が続いていた。
クラウングループは散り散りになり、実質的に潰滅。
オシアス地方も混乱が続き、スカッシュアカデミアの運営すらままならない状態となった。
シトラス、マスカット、クランベリの三社は、”後始末”としてスカッシュアカデミアの運営役を買って出たが、それ以上に──オシアスに残る混乱の片付けに追われていた。
治安組織のトップ、腐敗していた上層部が航空機諸共爆散した所為で、各機関は混迷を極めていた。
それらの仲裁を、三社は行い、オシアスからクラウングループの汚染を排除することを第一に活動を始めた。
学園もクラウングループの汚染を受けていた以上、授業は一度停止。
当面の間、生徒達は自習期間──と言う名の長期休暇を過ごすことになったのである。
とはいえ、行くところが何処にも無いイクサは、当然寮に残ることになったし、レモンも引き続き騒がしい学園の秩序を守っていた。デジーはデジーで、技術科に籠っている。
こうして学園に居れば、三人とも離れる事は無いためである。
「就職先の企業がブッ潰れたり、プライシティ自体が猛毒の汚染が続いているのもあって、オシアスを一時的に離れる生徒も増えてる」
「こんな状態じゃあ、授業が始まるのはいつになるやら、ですね」
「私達はもうしばらくの間は学生のままみたいよ。後期の授業、殆ど受けてないし」
「ああ……ずっと逃げてたんでしたっけ僕ら」
「ほんと良い迷惑だよねー……平穏は何処へやら」
「でも、クラウングループが崩壊したから、間違いなくオシアスは良い方向に向かってるわ」
この間、生徒達に勧められていたのは”留学”であった。
他地方の学園がスカッシュアカデミアが休止している間の学びの場として名乗り出たのである。
その意図には、あわよくば優秀な生徒を自分の地方に引き込みたいと言う思惑があったのも確かではあったが、同時にオシアス地方の騒動に巻き込まれた学生たちを不憫に思ったからでもあった。
「ま、私は留学なんかしないけどね。学園も会社も心配だし」
「休めって言われてませんでしたっけ? 会社の仕事は大人達がやるでしょう。レモンさんだって大変だったんですから……」
「この地方から……ううん、学園からもクラウングループの残党を排除しなきゃいけない。もう同じ事は繰り返させない。勉強もしなきゃだし、鍛錬も怠らない。日々精進ね」
「じゃあ、レモン先輩の代わりにボクが転校生を可愛がるからねっ」
「ちょっとデジー!?」
ぐにぐに、と柔らかいものを押し付けながらデジーがイクサの腕を掴む。
「日中、転校生はボクのものっ!」
「あんまり調子に乗らない方が良いんじゃないかしら?」
「ちょっと、こんな所でバチバチしないでよ……仲良くしようよ……」
「そーだ、転校生っ! ボクと一緒に留学しよーよっ!」
「ハァ?」
「だってレモン先輩忙しいんでしょ? だから、ボクが代わりに──」
デジーが右手を上げたその時だった。
「あっ!! 見つけたぞ、デジーだ!!」
後ろから技術科の生徒達が大挙して現れる。
「こんな所に居たのか!!」
「新型重機の設計図、まだ書き終わってないんだから、来て貰うぞ!!」
「都市部の復旧に使うんだから、早く完成させないとだからね!!」
「……貴女、抜け出してきたのね?」
「ご、ごめんなさーい……だって皆してボクを酷使するんだもーん!!」
とは言うが、元はと言えば彼女本人が志願したことであった。つまるところ自業自得である。
やはりクラウングループに協力していた負い目があるからか、今度は自分の技術力をオシアス復興の為に生かそうとしているようだった。
それはそれとして、持ち前の技術力の高さ故に引っ張りだこらしく、こうして度々サボりにやってくるのだが。
「ねー、転校生ッ!! 転校生だって、ボクと一緒が良いよねーっ!?」
「デジーが頑張ってるところ見るの、僕は好きかな」
「んぐっ……って、騙されないよ転校生っ!! ボクはそんなに単純じゃないんだからねーっ!!」
「うーんダメだったか……」
やっぱりキャラじゃないんだよな、とイクサは己の童顔を呪うのだった。
しかし、レモンが肘で彼の脇腹を突く。
「よく見なさいイクサ君、あの子……顔がにやけてるわ」
「ちょっ、言わないでよ、レモン先輩ーっ!! くそーっ、覚えてろーっ!!」
引きずられていくデジーを見ながら──二人は笑い合う。
今日は彼女の好きなスイーツでも買ってやろう、と考えるのだった。
どうせ夜には、夢中になって機械いじりして、寮に戻るのも忘れているはずである。
問題は、こんなスケジュールなので、彼女も留学どころではないといったところであった。
(ま、生意気だけど……ほんっと可愛い子だわ)
「ところでレモンさん」
「何かしら?」
「今日はこの後予定は?」
「特に無いわ。強いて言うなら今日は久々にポケモン達を遊ばせてあげようかと思ってたのだけど」
「……夜、学園の屋上に来てくれませんか?」
イクサは、いつになく神妙な顔をしていた。
レモンは──「何かしら? 校内でイケナイことは御法度だけど?」と悪戯っ子のような顔で返す。
しかし、彼はそれでも動じずに真剣な眼差しでレモンを見つめていた。
「……分かったわよ。真剣な話、なのね?」
「助かります。いっつも茶化そうとするんですから……」
「悪かったわよ」
※※※
(それにしても折り入ってだなんて……私と貴方の仲なのに)
屋上への階段をのぼりながら、レモンはイクサからの用件を考え続ける。
胸の中にもやもやは募るばかり。
わざわざデジーや他の推薦組を呼ばなかった理由も不明瞭だ。
本当の意味で一対一で話をしたいのだろう。誰の邪魔も入らずに。
「……来たわよ、イクサ君」
学園の屋上は広く、観客席付のバトルコートほどのサイズだ。
当然、此処で公式試合が行われることがあるほどに見晴らしも良い。
月の光が差す中。イクサは、唯一人佇んでいた。
「……今更話って何かしら」
「すみません、いきなり呼びつけるようなことをして」
「構わないわ。私だって好きにしてきたもの。でも、君らしくは無いわね」
「……参ったなあ。二人っきりだと、ついつい長話したくなっちゃう。僕の悪い癖です」
イクサは目を伏せる。何かを押し隠しているかのようだった。
「だから、単刀直入に用件だけ──
「……ッ」
改まった様子で彼は言った。そして、自らの言葉を噛み締めるように、口を開く。
「──貴方にバトルを申し込みたい。場所は3日後のこの場所です」