ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

147 / 155
第141話:資格

 ※※※

 

 

 

(──何で”今”なのかしら)

 

 

 

 次の日。

 書類仕事を片付けながら、レモンはふと昨日のイクサとのやり取りを思い返していた。

 それは、バトルの正式な申し込み。

 「卒業までに自分を倒す」という約束を果たしにきたのだ。

 しかし──学園は授業が止まってしまっており何時復旧するかも分からない状態、オシアスそのものの混乱が収まらない今、軽く見積もって今の3年生が卒業するまで1年近く時間の猶予がある、とレモンは考える。

 そんな中でイクサは、今、このタイミングでバトルを取り付けた。

 彼ならばもっと時間をかけて、学園が落ち着きを取り戻し、自分が卒業する寸前にバトルを挑んで来るのではないか? と考えていたのである。

 

(変なイクサ君……ムードは大事に出来る子だと思ってたのだけど)

 

 とはいえレモンも気が進まないわけではない。

 手持ちは6匹、既に選りすぐった後だ。しばらく離れ離れになってはいたが、いつでも万全の状態で戦えるという自負があった。

 あったのだが、イクサの態度には何処か引っ掛かるものがある。

 

 

 

 ──勿論、受けて立つわよ。

 

 ──……ありがとうございます。じゃあ、僕は此処で。

 

 ──待って。話しなさい。どうしていきなり──

 

 ──……待ってますから。

 

「あの子絶対なんか隠してる」

「しゅるるるるる?」

「……あとハタタカガチ。尻尾を巻きつけるのはやめなさい。傍から見たら事件なのよ」

「しゅるるるるるる♪」

 

 尚、そんな深刻そうなレモンの顔とは裏腹に、ハタタカガチは舌をチロチロさせながら彼女に尻尾を巻きつけているのだった。

 そんな折、風紀委員長室の扉が音を立てて開く。

 

「Helloっ!! レーモーンッ!! ポテチ持ってきたんデスけど食べるデース!?」

「……」

「事件デース!? レモンがハタタカガチに食われるデース!?」

「だから言ったのよ……バカが勘違いする」

「デース!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「イクサに勝負を挑まれたァ!?」

「あんた声デカいのよ。……ところであんた、探偵でしょ。イクサ君の素性とか──」

「そう言えば、最近見かけたときは……ラズ先パイに稽古をつけて貰ってたデスよ」

「ラズ?」

「その前はシャイン先パイデス。やっぱり……アレはレモンと戦うのを想定してたんじゃないデスかね?」

「……」

 

 思い付きでの行動ではない事は確かだった。

 知らない間に、イクサは更にポケモン達に特訓を積ませていたようである。

 ずっと前から近いうちにレモンに勝負を挑むことを想定していたようだ。

  

「後、こないだ見かけたときは旅行本見てたデスね」

「旅行本? 何処の」

「サイゴク、デスかね」

「はぁ? 何でサイゴク……」

「前にイクサ、言ってたんデスよ。列島は、前の世界で自分が居た国に似てるって」

 

 さぁっ、とレモンの顔から血の気が引いていく。

 

「此処から導ける結論は唯一つデス!! ……イクサ、元の世界に帰りたいトカ……!!」

「そんな……ウソでしょう!?」

「それで別れ際に、レモンにバトルを挑みたいトカ!!」

 

 レモンは口を噤む。

 そして──思いっきり机に顔をぶつける勢いで突っ伏すのだった。

 

「レモン!?」

「……完ッッッ全に失念してたわ。私ってバカ。本当にバカ」

「……しゅるるるる」

 

 頭を掻きむしる。

 むしろ、彼をこっちの世界に引き留めてしまったのはこっちなのだ、とレモンは激しく後悔した。

 イクサの事は好きだ。今更手放すつもりなど毛頭なかった。

 だが、彼が帰りたいと望んでいるならば──その願いを後押しするのが、正しいのではないだろうか、とレモンは考える。

 

「……そうね。でも覚悟はできてた。覚悟は──」

「あっでも思い出したデス、その後イデア博士に”留学の枠ってまだ空いてますか?”って電話してたデ──」

 

 

 

          こ   げ

 

          つ   ん

 

 

 

 

 たんこぶがタイレーツみたいに並ぶバジル。

 そして、拳から煙を吐き出しながら目を吊り上げるレモン。

 どう考えても既に答えは出ているのだった。帰るだなんてとんでもない、イクサは最初から留学を検討していただけなのである。

 

「何でそれを先に言わないの、この迷探偵」

「あだだだだ……」

「ったく、恥ずかしい所をイクサ君に見せる所だったわ」

「だってぇ、レモンで遊ぶと面白いんですモン……つい……」

「ほんっと良い性格してるわね、あんた!! そこが一番重要なんじゃない! ……よく考えたら、あのポケモンバカがそう簡単に”帰る”だなんて言いだすわけなかったわ」

「全くもー、レモンったらイクサの事になったらすーぐ取り乱すんデスから、ヒューヒュー!」

「ギガオーライズ、ハタタカガチ──オオワザ”ひかりのゆみや”」

「ぎゅらるるるるるるる」

「STOP、STOP!! 洒落にならないからやめるデース!!」

 

 こんなところでオオワザを撃てば、委員長室諸共吹き飛ぶところである。

 

「ま、いいわ。おかげでイクサ君が何を考えてるのかは大体分かった。私に内緒で留学を考えてただなんていい度胸だわ」

「うーわ、束縛の強いカノジョ、デース」

「ひとこと言ってくれれば私はオーケー出したわよ。……」

「イクサと離れ離れになるの、寂しいんデショ?」

「……寂しいわよ」

 

 ぽつり、とレモンは呟いた。

 逃亡中、何時も彼は隣にいた。

 自分が何も出来ない間、めきめきと強くなっていき、最後にはオシアスを包む呪いを解いた。

 レモンは無自覚にイクサに対して大きな依存心を抱いていた。いざ彼が居なくなると考えると大きく取り乱したのがその証拠だ。

 バジルが心配そうにレモンに近付く。

 

「大丈夫デス。私達も、離れ離れデモ平気だったデショ?」

「……あんたと一緒にして貰ったら困るわよ」

「酷いデス!!」

「私は心細かったのよ! ……あんたとゼラも、一緒に居てくれれば……って思った事、何度もあるわ」

「あー……そういうことデスか。私って思ったよりも、アテにされてたんデスね!」

 

 レモン・シトラスの本性は、何処までいってもごく普通の少女でしかない。

 友人と離れ離れになれば寂しくなる。心細くなる。そんな普通の少女なのだ。

 

「ほんっと文句の一つでも言ってやりたい気分だわ、イクサ君に……」

「離れてほしくないなら、素直にそう言えば良いのに」

「……素直に、ね。あんたにだけは言われたかないけど」

「デース!?」

「……あんた、ゼラとは最近どうなの?」

 

 そう問われると、バジルは一気に顔が真っ赤になった。耳まで熱くなっている。

 すっ、と目を逸らすともごもご言葉にならない何かを言い出し、そして──

 

「え、えーと、何でもないデスよ!?」

「ダウト。正式に交際を始めたんじゃないかしら」

「っ……ハイ」

 

 口下手なゼラだったが、肝心な「返事」は上手く決めてくれたらしい。

 見事にバジルを射落とすことに成功したようだった。

 

「……三流週刊誌みたいなムーブしてる癖に、こんな時だけ乙女なのね」

「レモンはいっつも一言多いのデス!!」

「で? 何処まで行ったの? まさか手ェ繋いだだけで終わりとかじゃないわよね?」

「……ゼラ先パイ、すっごくシャイなのデ……」

「説教してくるわアイツに」

 

 がたっ、と立ち上がったレモンの腰を掴み、バジルは彼女を引き留める。

 ハタタカガチも同行している上に、ギガオージュエルの準備までしている。

 

「き、聞いてくだサイ!! そも、ゼラ先パイ、私の事すっごく大事にしてくれるっていうか……逃亡中も何回も守ってくれたっていうか」

 

 危なっかしい所は何度もあったらしい。

 だが、その度にゼラは完璧にフォローを入れてくれたのだと言う。

 寡黙ではある。しかし、ゼラの行動は絶対だ。

 しかしそれはそれとして、恋に関しては奥手なのだった。

 

「それとこれとは別問題でしょ!! あのバカ、一発雷落としてやるわ」

「レモンが言うと、洒落にならないデス!! ハタタカガチ、ステイ!! ステイ!!」

「……もうあんたから、迫るしかないでしょうよ」

「迫るゥ!?」

「好きなんでしょ? ゼラが」

「……うう」

「やれやれ、あれだけ一緒に居たのだから恋愛に発展するのは何も不思議じゃないけどね? ちょっとは進展してくれないと、自然消滅するんじゃないかと心配で心配で」

 

 レモンの認識には一部誤解がある。

 ゼラがあまりにも奥手で、しかも鉄面皮だっただけで、ずっと前から彼はバジルの事が好きだったのである。傍から見ていたレモンからすれば、逃避行の間に関係が進み、正式に交際が開始したようにしか見えないのだ。

 

「ま、いいわ。今まで散々おちょくられた分、今度は私が引っ掻き回してあげる」

「やめるデス!! ゼラ先パイ、純情なんデスから!! 穢れたレモンとは比べ物にならないくらいピュアっピュアなんデスから!!」

「あんたは一々私をディスらないと会話が出来ないのかしら、この駄探偵」

「レモンなんてハーレム公認してるくせにワガママすぎなんデスよ!!」

「何か勘違いしてるみたいね。私からすればデジーも捕食対象だけど」

「最悪デス!!」

 

 両方いけるクチであった。

 

「ッ……まさか私の事もそういう目で!?」

「自惚れるんじゃないわよ、一回自分の行いを顧みてみなさい。あんたをそういう目で見る確率はゼロよ、あんたの推理的中率と同じね」

「イラッ!! さ、さっきから言わせておけば!! 一回白黒ハッキリ付けてやるデスよ!!」

「はっ、こっちも最初にコケにされた時からキレてたのよ、久々にどっちが格上か思い知らせてやるわ、格下」

「バトルを散々他人任せにしてた箱入りお嬢様に私が負けるわけないデショ!!」

「オーデータも居ないあんた如きがッ!! 私にッ!! 勝てるわけないでしょうがッ!!」

「表に出るデース!! 久々にキレちまったデスよ!!」

 

 親友であるが故に。誰がどう聞いてもライン超えの罵詈雑言が互いに飛び交う。

 二人は肩を並べ、そのままグラウンドへ向かう。殴り合いではバジルに勝ち目は無いので、当然ポケモンバトルで決着をつけるのだ。

 尚、二人は親友同士だが、互いに悪口のブレーキというものが存在しないので、喧嘩に発展したことはこれまで数えきれない。

 そして口論からポケモンバトルに発展するのは、珍しい事ではなかったのだ。ピカチュウが居なくなり、レモンの心が死んだも同然になるまでは。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「キングドラ、”りゅうせいぐん”ッ!!」

「交代!! サーナイト、受け止めて!!」

 

 

 

 タツノオトシゴのようなポケモン・キングドラが空から落とした隕石を障壁で受け止めてみせるサーナイト。

 だが、キングドラもまた、無から水を生み出し、更に降り注がせる。

 

「……四連装”ハイドロポンプ”」

「数が多いッ!?」

 

 上空からビームの如く水の塊が降り注いだ。

 地面を抉り取るほどの威力のそれをすんでのところで”かげぶんしん”で撹乱させて回避したサーナイト。

 そのまま流れるように”ムーンフォース”の態勢に移行し、キングドラに浴びせてみせるのだった。

 

「……敗けたか」

 

 3対3のシングルバトルの結果はイクサに軍配が上がった。

 倒れたキングドラをボールに戻したゼラは、満足そうに微笑んでみせる。

 

「流石だ。寮長達相手にも引けを取らんだろう」

「大分互角に戦えるようになったんですよ」

「色んな奴に頼んで稽古をつけて貰ってるらしいが……」

「レモンさんは色んな戦術を使いこなせるそうです。持ってるポケモンの数も多いし。だから──いろんな人から知見を貰いたいんです」

「平均的に鍛えるのは悪い事じゃないだろう」

 

 それでも、ハタタカガチとブリジュラスは確定で居るだろうが、とゼラは付け加える。

 

「サーナイトの砲台としての性能も上々、だ。教え甲斐があってよかった。実践編も文句なしだ」

「ありがとうございました、ゼラ先輩!」

「礼には及ばん。だが──何故今レモンに挑む?」

「……」

「あいつは強いぞ。……今でも学園最強だと俺は思う」

 

 ゼラは口にこそ出さなかったが──”ピカチュウが居なくとも尚、最強はレモン・シトラスである”と言いたげだった。

 故に、聊かイクサの行動が性急過ぎないか、と考えているのだ。

 しばらくゼラの問に対し口を噤んでいたイクサだったが、何処か決心したのかぽつり、と話し始めた。

 

「僕、留学しようと思ってるんです」

「ッ! ……また唐突だな」

「イデア博士から誘われてたってのもあるんですけど……まだ見ていないポケモンを見てみたいんです」

「……」

「でも、レモンさんは忙しいし、デジーも作業に夢中だし……行くなら僕だけになりますよね。だから、しばらくレモンさんにバトルは挑めなくなるんです」

「……」

「その前に──今まで積み上げてきた僕達の力を、レモンさんにぶつけてみたいんです」

 

 もし留学となれば、その間またレモンとの決着は”お預け”になってしまう。

 それをイクサは良しとしなかった。

 誰よりも彼女との決着を待ちわびていたのはイクサなのだ。

 

「でも本当は迷ってて。オシアスが大変な時に、僕が離れても良いのかなって」

「お前はもう、十二分に出来る事をやった。お前一人で全部やろうとしなくて良い」

「……そうでしょうか?」

「負い目があるなら、レモンに聞いてみれば良いだろう」

「そりゃあレモンさんは良いって言ってくれるでしょうけど……」

「迷いがある状態ではレモンには絶対勝てない」

 

 ゼラは目を伏せた。

 

「留学の事はちゃんとレモンに話せ。言わなければ分からない事もある。お前が教えてくれたことだ」

「……そうですね。ちょっとカッコつけすぎちゃったかな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、やるじゃないバジル」

「へっへっへ、これでお互いの攻撃は通らないデス……!!」

 

 互いに残り一匹。

 暴れ狂うハタタカガチ、そしてそれに絡みつくのもハタタカガチ。

 無論、メタモンが変身したニセモノであることは言うまでもないが。

 

「10まんボルト!!」

「10まんボルト、デース!!」

 

 稲光がぶつかり合う。

 火力は互角──と思いきや、何故か本物の方が押し負けている。

 

「”こだわりメガネ”ね!!」

「Yes!! レモンは、最後の最後にハタタカガチを取っておくはずデスからね!!」

「はっ、悪いけどそれこそが浅い考えよ。私がまだ、ギガオーライズを取っているのを忘れてないかしら」

「あッ……ちょっと!! それはズル、デショ!?」

「問答無用。分からせてやるわ」

 

 

 

【ハタタカガチ<ギガオーライズ> タイプ:電気/毒】

 

 

 

 メタモンは、じりじり、と後ずさった。

 そこに降臨したのは、稲光の矢を幾つも携えた電球蛇。

 目からは紫電が迸っており、レモンも同様だ。

 

「見せてもらおうかしら。借り物のオーデータでどれだけ戦えるかを」

 

 自らの身体を光の弓矢に変え、ニセモノに突き刺すハタタカガチ。

 更に追いつくようにして無数の弓がメタモンを狙う。

 

 

 

 

「天罰を受けなさい。オオワザ──”ひかりのゆみや”」

 

【ハタタカガチの ひかりのゆみや!!】

 

 

 

 極雷がメタモンを貫き、雷が落ちたかのような衝撃が辺りを襲った。

 バジルは勿論吹き飛ばされ、レモンもその余波を受ける。

 メタモンの変身が解けたのを見ると、すぐさま彼女はギガオーライズを解除。

 どっ、と疲労が襲い掛かるのだった。

 

「……ったく、まだまだね。詰めが甘いわ」

「デェース……またレモンに負けたデース……悔しい!! 悔しいデース!!」

「もっと強くなって出直してきなさいな」

「うっぐぐぐぐ」

 

 ぐるぐると目を回すバジルの肩を背負う。

 ”ひかりのゆみや”の精度、威力、共にオーラギアスとの戦いのときよりも遥かに上がっている。

 ハタタカガチの成長性には底というものが全く見えない。

 メタモンでコピーをしたにも関わらず、結局ギガオーライズでひっくり返されてしまった。

 

「……本当に、イクサが不憫でならないデスよ」

「あらどうして?」

「後2日後デシタっけ? こんなのを相手にするんデスから……」

「あら、うちのナイト君をナメてもらったら困るわ」

「……あの子、強くなり過ぎなんデスよ……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。