ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第142話:貴方に勝ちたい

 ※※※

 

 

 

 ──次の日の朝。

 

「……にしーっ、おはよう♡ 転校生っ」

「……」

「いやー、可愛いボクがモーニングコールしにきてあげたんだよ、感謝してほしいよねっ!」

 

 久々の寮生活で、イクサはベッドで寝られる日々が帰って来た。

 問題は……そのベッドに、不届きものが入ってきていることである。

 相手は、すっけすけのネグリジェを身に纏っており、にやにや笑みを浮かべながらイクサに馬乗りになっている。

 だがすっかりそれにも慣れた。眠い目を擦り──イクサは逆に彼女を押し倒す。

 

「ちょっ、転校生ーっ!?」

「……僕今寝起きでイライラしてるからさ、困るんだよなそういうの」

 

 イクサは長らく彼女と付き合っていて、学んだ。

 彼女は攻めている時こそイケイケだが、自分が反撃されることを想定していない。

 反撃すると、非常に弱くなる。

 

「そんな薄着で寮をウロウロしてたんでしょ。そういうヘキなのかな」

「い、いや、その──転校生に喜んでほしくって」

「……で、鍵は?」

「ピッキングしました……」

「本当にデジーは……悪い子だな」

 

 明らかに不機嫌そうに言ってみせると、イクサはデジーをじろり、と睨む。

 その不穏な視線にすら胸がときめいてしまうのは、惚れた弱みというところか。

 

「目、目が怖いよ? 転校生?」

「……いただきます」

「転校生ーっ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──完敗、か」

 

 

 

 ──朝、呼び出されるなりバトルを受けたラズ。

 相手は何処か覚悟が決まった表情のレモンだった。

 待ちに待った彼女とのバトル。しかし、レモンはラズが想像していた以上に強くなっていた。

 おまけにギガオーライズは切っておらず、単純に戦術、そして出力だけで押されたに等しい。

 

「だぁぁぁぁーっクソ!! あれだけ待ってたのに、こんなにあっさり負けるヤツがあるかよ!!」

「……いーや、手心を加えずに塩試合するしかなかったのよ。貴方みたいな手合いにはね」

「どーも……褒め言葉と受け取っておくぜ」

 

 地面に大の字に倒れるラズ。

 口惜しい。悔しいが──これが、現実なのだ、と受け止める。 

 レモン・シトラスは何処までいってもやっぱり強かった。それだけだ。

 

「……なあレモンよ」

「何かしら?」

「……今まで、悪かったな」

「ピカチュウの事を隠してたあたしが悪いわ」

 

 しつこくバトルを挑み続け、絡んだこと。知らなかったとはいえ、レモンの心を更に傷つけたであろうことは想像に容易かった。

 

「それにね。嬉しかった。あんなになっても私を見てくれる人がまだいるってね」

「……ヘッ。結局テメェは俺の事を見てくれなかったがな」

「ごめんなさいね。しつこい男は好みじゃないの」

 

 それは、レモンがいつもラズとのバトルを断る時に用いた常套句だった。

 それでもラズは清々しい顔で自嘲するように言った。

 

「……そうかい。俺は只の前哨戦か」

「そんな事無い。今だって本気だった」

「……分かってるぜ。今のテメェが見てる奴。転校生だな」

「……ええ」

「あいつにこないだからずっと稽古を頼まれててな。すげぇ奴だ。あいつは直に俺らを追い越す。だが、テメェだけは分からねえ」

「勿論、負けてやるつもりは無い」

「なあ」

 

 立ち去ろうとするレモンに──ラズは声をかける。

 

「……俺ァ、どっちを応援すれば良いと思う?」

「好きな方を応援すれば良いんじゃない?」

「……困ったな。決められねえよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ッ……ま、全くもうっ!! 朝からブッ飛ばし過ぎなんだけど、転校生っ」

「ごめんて……でも、デジーが弱いからつい……」

「弱くないもんっ!!」

 

 制服に着替えた後、ぷりぷりと怒るデジーを宥めながら、イクサは遅い朝ごはんを取りに食堂へ向かう。

 スカッシュ・アカデミアは広い。朝食のバリエーションも多い。考えているだけで時間が過ぎる。

 

「てか、レモン先輩相手にも、()()なの……?」

「いや、あの人の方が……その、強いかな。捻じ伏せられるっていうか」

「うぐぐっ、もう頭きたっ! 昼はバトルだよ、バトル!! ポケモンバトル!!」

「悪いけど今日はポケモン達を休ませるつもりだからさ」

「むーっっっ!! それって……明日、レモン先輩とのバトルがあるからだよね?」

「……誰から聞いたのさ」

「バジル先輩っ!」

「別に黙ってたわけじゃないけどさ……そうだよ」

「ふぅーん。ボクとはしょっちゅうバトってるけどさぁ、それでもレモンさんとのバトルは特別?」

「特別だね」

 

 イクサは断言する。

 圧倒的に格上と分かり切っているし、卒業までの約束だと決めていたからだ。

 

「……悔しいっ。転校生の一番は、レモン先輩かァ……」

「拗ねないでよ。レモンさんは一番、強いからさ」

「拗ねてないっ!! あ、いや、拗ねてるっ!! 今日は一日中デートしてくれなきゃ許さないっ!!」

「一日中って……」

 

 ぐいぐい、と腕を抱き寄せるデジー。

 どの道今日はポケモン達を休ませるつもりだったので、彼女の提案に異論はないのだが──

 

「いや、やっぱ色々考えたいんだよ。レモンさん相手にはどれだけ作戦練っても足りないからさ」

「じゃあボクも協力するっ」

「……良いの?」

「転校生は遠慮しなくていーんだよっ。その代わり、ボクも遠慮なんかしないけどっ」

 

 にしっ、と笑みを浮かべる。

 こんな時の彼女は何処までも頼りがいがある。

 自分と同じレベルの戦術眼を持つ彼女の視点からしか分からないものがあるからだ。

 

「でもさ、何で今なの? 転校生っ」

「……ちょっとね」

「何かボクに隠してない?」

「……僕も考えがまとまらないんだよね」

 

 留学の件。

 そして、それに何処か後ろめたさを感じていることをイクサは話す。

 

「イデア博士から誘われたのはあるよ。あの人、自分が死にそうなときにも……僕にサイゴクに来てほしいって言ってたからさ」

「結局博士死ななかったけどね」

「ほんと人騒がせな人だよ」

 

 因みに、事が終わった後、サイゴクからはるばる駆け付けてきた嫁さんに頬をひっぱたかれるイデア博士の姿が目撃されたという。

 

「まだ見てないポケモンがサイゴクには居るし……」

 

(ゲームには無い地方だしね)

 

 イクサは、未知のサイゴクに期待を膨らませていた。

 5匹のヌシポケモンとキャプテンが治める地。

 そして、地方を貫く山脈と霊脈、それにまつわる伝説の数々。

 何よりまだ見ぬポケモンが彼を待っている。

 

「でもそれ以上に……列島は、僕の故郷にそっくりだからさ。一度行ってみたかったんだ」

「……そっか。列島とオシアスって大分違うもんね」

「うん。どの道帰るアテも今の所ないから……せめて、ね」

「でも悩んでるの? 何で? ボク達は反対しないよ!」

「皆を置いていくことになっちゃうから、かな」

 

 ただ一つ、懸念があるとすればそこだった。

 

「なんだか悪い気がしちゃって。みんな忙しいし……」

「ねー転校生」

「……?」

「それってさー、転校生の方が……本当はレモン先輩と一緒に行きたいんでしょ」

「……やっぱ、そうなのかな」

「そうなのかな、じゃないよ!! 何で今更遠慮するの!?」

「そーだね……何でだろ。僕のワガママに皆、大分付き合わせちゃったし……」

「ワガママなんて今更でしょ!? そういうの、レモン先輩にちゃんと言わなきゃだよ!」

「忙しそうだし……」

「ダーメっ! 言うの! あの人、すぐ仕事にのめり込むから……無理矢理にでもオシアスから離さなきゃ、やめないよ」

 

 ただでさえ、今一番心労を抱えているのはあの人だよ、とデジーは続けた。

 大人たちが本来抱えるべき問題すらレモンは抱え込もうとしている。長い間、トップの地位に立っており、社長令嬢であるという立場でもある以上、それが当たり前になってしまっているのだろう。

 

「レモン先輩を、責任だとか重圧だとか、重っ苦しいものから引っ張り上げられるのは、キミだけだよっ」

「……そうだね」

 

 イクサは目を閉じる。

 学園に立ち続ける「最強」にして、「秩序」。

 自分の心を殺し、文字通りの「完全」として君臨するレモンという少女。

 彼女をそこから引きずり下ろす事が出来るのは──今、自分しかいない。

 

「ぶつけてみるよ。僕の気持ちを」

「うんっ。あ、ところでこれはボクの気持ちなんだけど」

 

 お返し、と言わんばかりに──デジーはイクサの唇を不意に奪う。

 

「随分と急だね……」

「……勝たないと許さないぞっ、転校生!」

 

 

 

 ※※※

 

 

「……おいおい、これは何かの冗談かい?」

 

 

 

 勝負の結果、勝利したのは──レモンだった。

 シングルバトルでは自分の方が強い、とシャインは自負していた。していたつもりだった。

 だが、キュウコンでセグレイブをサポートして全て貫き、それでも勝てないならばイテツムクロで全て終わらせる──というシャインの戦術はあっさりと破られることになる。

 

「調整は完璧、ね」

「……参ったな。6対6シングルなら君に勝てる自信があったんだがね」

「いつまでも過去の私と一緒にしないで頂戴」

「それで次は転校生か。恐れ入ったよ、彼が不憫でならない」

「どうかしらね」

 

 明日の試合の結果は見えている、と言わんばかりのシャインに──レモンは言葉を投げかける。

 

「彼は不可能を可能にして来た。今回だって、そんな気がするわ」

「まさか。君が負けるとでも? 嫌だな、君が僕以外の奴に負ける所を見るのは」

「あまり買い被らないで。一応アトムにも負けてるの」

「……アトムか」

 

 その名前を聞いて、シャインの顔が少し曇った。

 

「彼は──もう居ないのか」

「残念だけどね」

「……嫌な奴だったけど、死ぬほどの奴じゃなかったよ」

「……そうね。だからもう、こんな事は起こさないように、私が頑張らなきゃ」

「君が? どうして」

「だって私が一番強いから」

 

 傲慢とも言える物言いに──シャインは苦笑する。

 

「やっぱりそうなんだな……そうやって全部抱え込む。悪い癖だ」

「よく言われるわ」

「でも、世の中で君がやらないといけない事なんて、そんなにないと思うんだけどな」

「……なにが言いたいの?」

「君一人で生きているわけじゃないからさ。今回の件で君も重々思い知ったんじゃないか?」

「……そうね。でも、私には責任があるから。学園の秩序を守る責任が」

 

 レモンは──ブリーフ一丁のシャインを指差して言った。

 彼女の傍には既に、風紀委員達がスタンバイしている。

 

「──連れていきなさい」

「フッ……流石だね。今回の所は私の敗けということにしておいてあげよう。だが、次はどうかな?」

「オラッ!! キリキリ歩けッ!!」

 

 手錠をかけられ、連行されていくシャイン。何処までも彼はブレないのだった。

 

「……私だってイヤに決まってるでしょ、こんな役回り」

 

 きっと誰もが同意する。

 どうして好き好んで変態の相手をしなければならないのか。

 

(でも、シャインの言う事も一理ある。私一人じゃ……結局何にも出来ない。手持ちが戻ってきたからって少し気張りすぎてたかしら)

 

 ブリーフ一丁、背中で語るシャインを見送り──レモンは首を横に振る。

 あれはきっと何も考えていない。フィーリングだけで生きている只の変態だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

 

(ゴメン、やっぱり今のやり取り全部無かったことに出来ないかしら)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その日の夜。

 対レモンの戦術を練り続け、日頃の疲労もあってかデジーは先にイクサのベッドで寝てしまうのだった。

 寝床を占拠されたイクサだったが、どの道心が昂って眠れはしなかったので、夜風に当たりにやってきたのである。 

 学園のあちこちを当てもなく巡れば、今までの思い出がよみがえってくる。

 寮の近くに落ち、風紀委員達に捕まり──レモンの前に突き出され、なし崩し的にラズとバトルをすることになったのが全ての始まり。

 そこから、迷宮探索にイワツノヅチの襲来、デジーとのバトル、そしてオーデータロワイヤル。

 苦しい事の連続だった。

 だが、それ以上に出会いの連続だった。

 全てが今のイクサの力になっている。

 その全てをレモンに明日、ぶつけるのだ。

 

「……勝てるかな」

「ぱもぉ?」

「パモ様も分かってるだろ? レモンさんが相手だからさ」

 

 隣を歩くパーモットは、オーラギアスが相手だった時よりも気が張り詰めているようだった。

 

「勝ちたいよ。勝ちたい。だけど──」

 

 

 

「随分と弱気だなぁ、イクサよ」

 

 

 

 何処からともなく、声がした。

 そして、音もたてずに声の主はイクサの前に飛び降りてくる。

 月の光に褐色肌が照らされる。そして、傍らには鋼の翼を持つ美しきオーデータが佇む。

 

「ミコさん!? 今までどうしてたのさ!? いきなり居なくなっちゃって……!」

「ぱもぱもっ!!」

 

 オオヒメミコは、オーラギアスとの戦いの後、しばらく姿を消していた。

 結局追跡することは叶わず、皆「また迷宮を探索しているのでは?」と噂していたのである。

 

「なぁに、少し今のオシアスを改めて見て回っていただけだ。結局、オマエ達の傍に居るのが一番落ち着くから、こうして戻ってきたがな」

「……気ままな人だなあ。いや、ポケモンだった」

「それよりなんだ、そのシケた顔は。オーラギアスを鎮めた者と同一人物とは思えんぞ。何ならアイツとの戦いの前夜の方が生き生きしとったぞオマエは」

「オーラギアスを捕まえられたのは、皆が居たからですよ。明日の戦いは僕だけですから」

「何か勘違いしとりゃせんか? オマエ一人で戦うわけではないだろう」

「いや、そりゃあポケモンは一緒ですけど……」

「……妾はしかと見たぞ? ロータスの思いを引き継ぎ、オーラギアスに立ち向かったオマエの姿を」

「!」

 

 こつん、とミコはイクサの胸に手を当てる。

 

「オマエは確かに強くなった。迷宮でボロ雑巾になってたあのころとは比べ物にならん。だが、それはオマエ一人で培った力か?」

「……違います」

「そうだろう。オマエは明日、レモン……あの小娘に挑むんだろうが……今までオマエと共に戦い、あるいは相対してきたもの、全ての思いを抱えてぶつかるのだ」

「……全ての思い」

「そこに少しだけ、妾も居させてくれ」

 

 ミコはイクサの肩を叩くと、そのまま何処かへと行こうとする。

 

「ミコさんっ──」

「何を恐れる必要がある。オーラギアス以上に怖いものなど、そうそう在りはせんだろうが」

「……はいっ」

 

 手を振り、去っていくミコに、イクサは頷いた。

 戦いのときは──間近に迫っている。

 泣いても笑っても、明日、イクサは──レモンと決着をつけるのだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──凄い事になってるな……」

 

 

 

 学園の屋上は、大盛況だった。

 辺りには、人が沢山集まっている。

 誰がこんなに呼んだんだろう、と不思議がってると──

 

「おっ、来たかイクサ!! 主役がやっと到着やな!!」

「ほんまほんま! 寝坊しとったらどうしようかと思ってはったんよ!!」

 

 ビラを持つ見慣れたふたりがイクサの下に駆け寄ってくる。ハッカとテマリだ。

 

「どうしたの? もしかしてこの人数って君達が集めた?」

「せや。オシアス救った英雄、そんでもって学園最強のレモン先輩。その二人が勝負やからな!」

「うちらで盛り上げよーって決めたんよ!」

「ビラ撒いて、たっぷり宣伝してやったで!! ギャラリーは完璧や!!」

「……君らなりのエールなのかな、これは」

「せや!! 暴れて来い!! イクサ!!」

「ありがとう。勝ってくるよ」

 

 只の野良バトルが、まるで大会の決勝戦のような様相を呈している。

 晴れ舞台には相応しいのかもしれない。

 プレッシャーは感じるが、イクサは歓声鳴り響く中、フィールドに立つ。

 観客の中には、バジルやゼラ、デジーといった推薦組は勿論、特記戦力たちに、そして寮長の姿もあった。

 

『レディースエーン、ジェントルメーン!! 会場お集まりの皆さん、お待たせにゃーっ!! 遂に主役が揃いましたのにゃーっ!! 勝負は6対6フルバトル、特大ボリュームでお届けにゃーっ!!』

 

 盛り上がる歓声の中、喧しい実況の声が突き抜けて響く。

 そんな中、カツン、カツン、と硬い靴の音が鳴り響いた。

 誰もが彼女の姿を見た時、思わず声を詰まらせる。

 

 

 

「来たみたいね」

 

 

 

 涼しそうに彼女は言った。

 モンスターボールを放っては握り、そしてイクサの前に突きつける。

 

「……レモンさん」

「言いたい事は色々あるわ。でもね、敢えて1つだけ選ぶなら──”勝つのは私だから”」

「それはこっちのセリフです」

 

 イクサもまた、ボールを掲げ──宣言する。

 

 

 

「──今日、この場で貴女に勝ちますッ!!」

「出来るものならやってみなさいなッ!!」

 

 

 

 ボールが投げられたのは同時だった。

 今此処に、アカデミア最高峰の戦いが幕を開ける──

 

 

 

【アカデミアチャンピオンのレモンが勝負を仕掛けてきた!!】

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