ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「……してやられたわ」
ハタタカガチをボールに戻し、イクサに歩み寄るレモン。
その足取りは何処かおぼつかない。慌ててイクサは駆け寄り、その身体を支える。
フェーズ2の反動は尋常ではなく、トレーナーである彼女にも負荷がかかっていた。
「レモンさん、しっかり……!」
「そんな泣きそうな顔、しないの。それとも嬉し泣き?」
「僕……レモンさんに……勝って……」
「……そうね」
ぐしゃぐしゃの顔のイクサに──レモンは笑いかける。
「私は全部出し切ったわ。約束、果たしてくれてありがとう」
「……はいっ……!!」
会場から、歓声が上がる。
そして、ラズ、友人たちが次々に二人を称えるように取り囲む。
「れーもーんっ!! いくさぁぁぁ!! Goodfightデシターッ!!」
「会場が壊れるかと思ったぜ……ま、でも俺ァテメェならやってくれると思ってたけどな転校生ッ!!」
「ホンマやホンマ!! 流石俺の親友やで、イクサ!!」
「うち、泣きそう……」
「もう泣いとるやろ、テマリちゃん」
「うっさいスカタン!!」
「あだぁ!?」
そんな中──イクサとレモンの間に、飛び込む影。
「ふったりともーっ!! すごいバトルだったよーっ!!」
「デジー!?」
「……ほんっと元気で良いわね」
「ああああん、もう、ボク、ずうっとハラハラしてたんだからぁ、転校生が負けちゃうんじゃないかって……」
「私の応援はしてくれなかったのかしら?」
「そ、それは勿論、してたけどぉ……!」
「冗談よ」
笑ってデジーの頭を撫でまわすと、レモンは改めて生徒達の顔を見回す。
色々これまであったが、この瞬間の為に生きていたのかもしれない、と思わされた。
負けたのに──清々しいくらいだ。
「満足しちゃった。これだけの人が、私達のバトルを見に来てくれてた。でも──私が一番、心待ちにしてたのよ」
「いいや、一番は僕ですよ。ずっと、レモンさんとバトルしたかったから」
「ふふっ、張り合っても無意味……ね」
「ぱもぉ?」
体毛の色が戻って来たパーモットを撫でてやると、レモンは──風紀委員達に目配せした。
彼らは、宝箱の形をした小さなケースを持ってくる。
「パモ様。お疲れ──本当に、強くなったわね」
「ぱもぱもっ!!」
「これ、私からプレゼントよ」
「ぱもぉ?」
レモンはケースの鍵を開ける。
その中からは、真新しい赤い王冠が姿を見せるのだった。
それをパーモットに被せると、丁度嵌まり込む。
「レモンさん、それってピカチュウが付けてた……」
「勘違いしないで。ちゃあんと新しく作ったものに決まってるじゃない。いつか、こうして被せてあげる日が来ると思ってたけど……いざ被らせると」
彼女の脳裏には──王冠を被った自らの相棒が浮かんで消えた。
「……いいえ、何でもないわ」
「ぱも?」
「皆っ! 祝ってあげて! 彼が──イクサ君が、新たな学園の最強だから!」
再び盛大な歓声が上がる。
イクサはパーモットを抱きかかえ、皆に手を振る。
オシアスを救った英雄たちに。
そして──新たに生まれた学園最強のトレーナーと、その相棒たちに、惜しみない賛辞を贈るのだった。
※※※
「……素晴らしいバトルだった」
そんな中、人だかりから一歩離れた場所でシャイン・マスカットは仁王立ちで満足げに微笑んでいた──
「転校生……今回の所は私の敗けということにしておいてあげよう。だが、いずれは私が──」
「おい、バカ兄貴がまた脱いでるぞ!!」
「そこの変態ッ!! 動くなーッッッ!!」
──無論、全裸であったことは言うまでもない。
※※※
──その日の夜。
すっかり元気を取り戻したハタタカガチがパーモットとじゃれ合っているのを横目に、イクサとレモンは風紀委員長室で向かい合っていた。
「みーんなお祭りムーブだわ。勝手に盛り上がっちゃって、どんちゃん騒ぎよ」
「フラストレーションが溜まってたんでしょうか」
「普段なら懲罰モノよ、全く」
勝手にパーティを始めてしまった生徒達に辟易するレモン。
理由があれば騒ぎたかったのか、それとも本当に彼らを祝福していたかは定かではない。
しかし、騒々しさに耐えかねたレモンは、さっさとその場を他の面々に任せて抜け出してきてしまったのだった。
……勿論、イクサを連れて。
「それで? 私に勝ったんだし、言う事の一つでも聞いてあげないこともないけど?」
「何でも良いんですか?」
「勿論」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるレモン。
何処か挑発するように、揶揄うように──イクサを上目遣いで見つめる。
そんな彼女の手を取ってイクサは叫んだ。
「──あのっ!! 僕と……サイゴクに来てくれませんか!?」
「……!」
「僕、留学しようと思ってて……サイゴクに、列島に行ってみたかったんです。まだ見ないポケモンが沢山いるから……オシアスの外を見てみたいんです」
「……なぁんで、それを最初に言ってくれないのかしら?」
「レモンさんを置いていくことになっちゃうから……悪いかなって思って。でもっ!! レモンさんも一緒に留学すれば──」
「それはムリ。こっちも仕事があるのよ」
レモンはぴしゃり、と言ってのける。
イクサは──「ごめんなさい」と一言。
「……そんな濡れたガーディみたいな顔しないの」
「1つ、ウソ吐きました」
「……?」
「本当は、僕が……皆と一緒に行きたかったんです。皆と一緒がもう、当たり前になっちゃったから」
「……素直でよろしい」
「でも、仕事だって言ってレモンさんが全部抱え込もうとしないでください。レモンさんだって、まだ学生で……」
「悪いけど、これが私に与えられた役目なのよ」
「……そうですか」
ふっ、と彼は目を伏せる。パーモットも、ハタタカガチも心配そうに彼の顔を見た。
しかし次の瞬間には、彼はいつも通り笑みを浮かべて言った。
「分かりました。オシアスもまだまだ大変だし、留学は……」
「ところで1つ勘違いしてないかしら」
「え?」
「確かに私、仕事があって留学には行けないと言ったわ」
「……?」
何を言ってるのか分からない、と言う顔のイクサの手を──レモンは握り締める。
「その内容は、サイゴクへの視察。そして各おやしろのキャプテンへの挨拶回り、かしら?」
「え? それって……」
「後は、可愛い後輩たちの引率ってところかしら」
「レ、レモンさんッッッ!!」
「怒らないの。仕返しよ。留学なんて大事な事、私に黙って進めていたんだから」
「だとしても──んぐっ!?」
顔を真っ赤にするイクサの唇を、レモンは奪ってみせる。
ハタタカガチは目を逸らし、パーモットは思わず両手で顔を覆うのだった。
しばらくして、イクサの顔がすっかり熟れ上がったところで、レモンは口を離し、微笑んだ。
「……まだまだね。ナイト様」
「何だか、勝ったのに負けた気分です……」
「たった1回勝ったくらいで調子に乗らないの」
「えーと、じゃあ、サイゴクには……」
「勿論、行くに決まってるじゃない。あ、でもゼラとバジルはパスだって。流石にオシアスでまだやることがいっぱいあるみたいだから」
むしろ、留守番を名乗り出たのはバジルの方であった。ゼラが復旧作業を手伝っていて手が離せないのもあるらしい。
くっついたもの同士、まだまだ一緒に居たいのだという。
「でも、叔父さんは……何か言ってましたか?」
「大変な事があったし出来れば療養してほしいんだって。自分が殺されかけて一番大変な目に遭ってるのにね」
ま、退院したから良かったけど、とレモンは付け加えた。
シトラスグループは再び独立した企業へと戻り、経営も正常化したらしい。
「クラウングループの残党の中には私を狙ってる奴もいるかもしれないって言ってたわ。だったら仕事の名目でサイゴクにしばらくいてくれた方が良いって」
「はぁ……結局全部掌の上か」
「そんな事無いわよ。私最初はオシアスに居るつもりだったし。でも、可愛いナイト君が留学に行くなら……守って貰わなきゃ」
「どの口が言うんですか……」
「いつまでもむくれないの」
イクサの手を取り──レモンは微笑んだ。
「これからも……末永くよろしく頼むわね? イクサ君」
「はいっ」
「ぱもぱもっ!」
※※※
──それから一週間ほど後。
「あ、イクサ達からメールデース」
「どうした」
「ヨイノマガンに追っかけられてる写真デース!!」
「今度は何をしたんだ……」
学園内、講堂の一角。
作業で疲れてローテンション(当社比)のゼラに、バジルが写真を見せる。
そこには、巨大なヨイノマガンを背に走るイクサとデジー、レモンの姿があった。
右下には※撮影者・イデア博士と書いてあった。
「どうやら、おやしろで腕試しがてら試練を受けてるみたいデスねー!!」
「この後どうなったんだ……気になるな」
「それは分からないデスけど。ま、楽しくやってるなら良いんじゃないデスか!」
「そうか……そうだな」
「あっ、ゼラ先パイ笑ったデス!! 珍しい!!」
※※※
「ところで、オーラギアスはどうなったんだろうね?」
「どうやらシトラスグループの地下に厳重に保管されてるらしいよ。二度とモンスターボールから出て来れないようにね」
「それが一番だろ……しかし、可哀想だな」
模擬試合を終えた後、ラズは──空を仰ぎ見ながら、あの蜘蛛の怪物を思い出す。
「人間に振り回された……ポケモン、か」
「ラズ。私達は危うく、そいつに滅ぼされかけたんだけどね?」
「……そう言われるとゾッとしねえけど……何だかなぁ」
「ラズさーんっ♪」
そんな中、ステップで近寄る人の影。
そこには大きなバスケットを持ったコナツの姿があった。
「コ、コナツ、学園にまで……」
「キャプテンですからぁ、許可はすぐ取れましたよぅ。それよりも、お腹空いてますよねっ!」
「おや、わざわざ作ってきてくれたのか。これはありがたい」
「テメェの分じゃねえよッ!!」
「もう、喧嘩したらメッですよぅ。ちゃんとシャインさんの分もありますからぁ」
にこやかな彼女に、ラズもすっかり毒気を抜かれてしまったのか、肩を落とす。
「……ま、あいつが暴れてたら今頃こうなってねえもんな」
「どうしました?」
「何でもねぇ。ただただ感謝してんだよ。平穏って奴に」
そう言えば──とラズはふと思う。
その平穏を齎したオシアスの英雄たちは今、何処で何をしているのか──と。
※※※
「全く……サイゴクの自然ってとんでもないね……しかもムシ暑いし……」
「真夏はこんなもんじゃないよ」
「地獄みたいだわ……オシアスはカラッとしてるから」
道なき林道を進む3人。
勿論、イクサ、デジー、レモンだ。
留学ということで彼らに課された課題は、各地のおやしろ巡り。
レモンはその引率である。
しかし、サイゴクは交通網があまり発達していないので、徒歩やライドポケモン頼りになる場面も多く、想像以上に困難を極めていた。
特にオシアス出身の二人には、サイゴクの湿気がたまらなく不快らしい。
「コレ絶対私達試されてるわね……あったま来たわ」
「ところでさ。デジーはこっちに来てよかったの?」
「え? 転校生、ボクに来てほしくなかったの!? ひどーい!!」
「そういうわけじゃないけど」
「だってぇ、二人が行くなら当然ボクも一緒でしょ!! 抜け駆けなんてさせないよっ!!」
「
ぎらり、レモンの目が輝いた気がして、デジーは身じろぎした。
「あ、あはは、お手柔らかにお願いします……」
「てか技術科にはなんて言って来たのさ」
「重機の設計図だけ作って、後は全部丸投げしちゃった♪」
「あんた後で技術科に謝りなさいよ」
「まあまあ良いではないか。その小娘のおかげで妾は動けているのだからな。少しくらい大目に見てやれ」
樹木の上から声が響き、地面に飛び降りる。
「ミコさんまで付いてくるし……」
「ウチの社員って事にしてあげたけど、その恰好はどうにかならないの? 浮いてるのよ」
結局──サイゴクにやってきたのは、ミコも含めた四人組(彼女をポケモンに含めて良いかは怪しいが)。
オシアスの外に強く興味を持った彼女は、同行を申し出たのである。
「細かい事は気にするな。それよりもイクサよ。文句が多い小娘どもと一緒も疲れるだろう?」
「はぁ」
「次は妾と共に町巡りと行こうではないか! オトナの妾がエスコートしてやらんこともないぞ?」
むにゅ、と人間のそれと遜色ない柔らかさと、この中で一番大きな胸がイクサの腕に押し付けられる。
当然穏やかではないのはデジーだった。
「ちょっと、抜け駆け禁止!! 転校生もデレデレしない!」
「してないよ! ってか腕引っ張らないで!」
「また増やすつもり? ま、私は構わないけど?」
涼しい顔でレモンは言った。
「イクサ君の一番は私だし」
「マウント取るなーっっっ!!」
「なんだ、余裕のない小娘共だこと……」
「勝手に入って来ないでよっ!」
「あははは……皆仲良くね……」
自分そっちのけで争いだした3人娘に、イクサは苦笑い。こうなるともう、彼には止められないのだった。
「全く、我が強すぎるんだよな……」
「ぱもぉ」
「パモ様、そんなじっとりした顔で僕を見ないで」
「ぱも」
イクサはふと、立ち止まる。
これから先何が起こっても──これまで出会い、絆を紡いできた者達が一緒ならば乗り越えられる気がした。
「やっぱり良かったな、この世界に来て」
「……ぱもっ!!」
「えへへ、パモ様とも会えたしね」
空を見上げると、ひと筋の飛行機雲が見える。
天を駆け上るようにして走っていくそれは──音も無く消えていった。
「……ねーえ、転校生っ!! どーしたの、早く早くーっ!!」
「置いていくぞ! 時間が押しておる!」
「イクサ君っ」
皆の声に、イクサは振り向き──走り出した。
果てなき空の先にはきっと、まだ見ぬ景色があると信じて。
「うんっ、今行くよ!!」
「ぱもっ!!」
──「ポケモン廃人、知らん学園に入学した。」(完)
此処まで読んでいただき、本当にありがとうございました!! これにて「ポケモン廃人、知らん学園に入学した。」完結です!!
前作と比べても、非常に癖が強い作風だったと思いますし、実際作者も何度も壁にぶち当たりました。それでも読んでくださった読者の皆様には感謝してもしきれません!本当に本当にありがとうございました……。
今作は、前作のようなDLCっぽい後日談はありません。ありませんが──今日の18時くらいには、サプライズな発表が出来ると思うのでお楽しみに。
それでは、近いうちにまた次回の冒険で会いましょう!! ではでは。