推しの為に死ぬ話。   作:ざるそば

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推しの為にただ足掻く。

 

 

 

 

 

「……とは言ったものの、どうするかなぁ」

 

 両親に頭を下げ、修行の旅に出させてほしいと頼んだ。

 士官学校入学までの間、自分をなるべく鍛えておきたいと伝えたのだがそこは承諾が通らず。勿論入学するつもり何て元から無い。あそこの鍛錬では、確実に届かない。

 けれど、そのまま立ち止まっている訳にも行かなかったので脱走してきた。生憎追っ手だの捜索だのは無いまま。どんだけ見放されてたんだよ俺。

 そんな最中、実家から持ち出してきたのは安物の槍を一つ。これなら素人でも、魔物ぐらいはやれるだろう。

 そんなこんなで立ち寄った農村。併設されているギルドで登録を済ませ、雑用をこなす。

 無論力仕事がメインだ。継続して行えば、金の足しにもなるし力もつく。

 とにかく元を鍛えなければ。ずっと修行したとしても多分あの幹部には勝てないだろう。

 

『おい、聞いたか。カーハインの悪童、追い出されたってよ』

『いい気味だわ、全く。なんで素晴らしいご夫婦からあんなのが生まれるのかしら』

『騎士の子は素晴らしき騎士になるとは限らんな』

 

 まずは街を離れ、手頃な村を回る。そしたら着いてくるわ着いてくるわ悪童だの非道だの噂話の数々。どんだけ嫌われてんだよ俺。

 頭を下げる。働かせてくれと下げて回り、唾を吐かれ、石を投げられ、侮蔑の言葉を吐かれても、只管耐え続けた。

 

『出ていけ、お前にやらせる事なんて無い』

『消えろ、触るな、黙って出ていけ』

『死ね』

 

 こんなの、道半ばで死んだアイリスに比べたら全然マシだろ。彼女が生きてくれる可能性があるってだけで全然耐えられる。

 

『消えろよ、クソガキ』

『親のすねかじり』

『何も出来ない癖に』

 

 彼らは俺の事情を知らないんだ。だから仕方ないだろ。恨むな責めるな。信じて貰えるわけがないんだから、そんな事に割ける時間なんて無いんだから。

 

『へぇ、死ぬまで働けよ。お前が言ったんだからな』

 

 そうして辿り着けた一つの仕事。炭鉱夫。

 鉄や鋼の元となる石を掘り続ける。無論、俺に与えられるお金なんてほとんどなく。一日をかろうじて生きていけるだけの食事があるだけ。

 体が不調を訴えても無視して、腕を、足を、体を動かし続ける。

 

「――ガキ、そろそろ死ぬぞ」

 

 そんな中で出会った一人の鍛冶師。後ろで一本に束ねられた白髪とまるで岩からそのまま削りだされたかのような体。

 村から遠く離れた森の中で、彼は武器や農具を独りで打っていた。

そんな彼の下へ石を何度も運ぶ最中で、俺は途中で倒れ看病されていたのだ。

 温かいスープを差し出され、断ろうとして。

 

「いいから飲め。俺の仕事場で死なれてたまるか。居心地が悪くなる」

 

 その言葉に断る事が出来ず、促されるままに飲み干す。温かさが体に染みた。

 後になってから知ったが、実は凄腕の鍛冶師であった。かつては王国の武器を全て一任されていたが権力争いが嫌になって姿を眩ませたのだと言う。以後、彼の打った武器に匹敵する出来の物は一度も出来ず。王国は行方を捜し続けていたとか。

 

「テメェ、何であんな連中にいいように扱われて黙ってやがる」

「それは……俺のやった事が理由で」

「あそこの連中にお前が何かしたなんて聞いた事ねェぞ。何も関係がねぇ。

 なのにどいつもこいつを、お前を奴隷のように使いやがる。いや、奴隷の方がまだマシだろうが」

「……」

「……見た以上は黙ってられねェよ。コッチで話つけといてやる。今日からここで仕事と生き方学んでけ」

 

 次の日から、俺の仕事は鍛冶見習いとなった。後は時々魔物退治も兼ねる戦士見習い。

 これがまた想像以上に大変で、素材を搔き集め、火に耐えながら鉄を打ち続ける。隙間時間が空けば、修行がてら周辺へ赴いて魔物と戦う。

 頼れる仲間もいないから戦うのは俺一人。けれど手にしたのは安物の槍などではなく、彼自らが作り上げた剣だった。

 確かに、他の武器とは全く仕上がりが違う。俺みたいな素人でも、業物だと分かってしまう。

 その剣があれば、俺みたいな子どもでも魔物を狩るぐらい何とかなる。

 

「おう、こいつは大物だ。よく狩れたじゃねェか」

「師匠の剣のおかげですよ、俺一人じゃ死んでました」

「よく言うぜ、そこまでボロボロに使い込んで成果上げてきたって言うなら鍛治の本望ってヤツだ」

 

 魔物退治、鍛冶仕事。どちらも体を酷く扱うモノだから、何度か意識だって飛びかけたし死にかけた事も一度や二度じゃない。

 魔物退治は言うまでも無く。鍛冶だってまるで閉ざされた炎の中にいるようで。体も心も酷く苦しい。

 

「おう、打つ手が弱まってるぞ。心まで弱くなってどうする」

「……」

「波があるのは当然だが、先の先を決めるのはテメェ自身だ。ヤワな心でいいモンは出来ねェよ」

「すいません」

「謝ってる暇あるなら、今日はさっさと休め。雨が降る日がありゃ、晴れる日だってあるだろうさ」

 

 でもどこか楽しかった。剣が出来ていくのは楽しくて。評価されて自分の腕が認められているようで。俺はここにいていいんだ、と言って貰えた気がして。

 苦痛こそ確かにあるが、それでも。慣れてしまえばどうって事ない。

 何より出来上がった剣を見るのは楽しかったから。

 

「……いい剣だな、お前さんの齢で打ったなら傑作に違いねェ。どこに出しても胸張れる出来だ。よくやった」

 

 俺が打った剣を眺めながら師匠がそう言ってくれた時の事を、俺は生涯忘れないだろう。

 ――でも一つだけ困ったのは、どうやってここを出ていくかと言う事。

強くなる、彼女を救うのであれば俺はここに留まっている訳には行かなかった。だけど、あれだけの恩を受けておきながら黙って出ていくなんて納得出来る訳が無い。

 

「何、悩んでやがる」

 

 でもあの人はそんな事お見通しだったようで。

 

「いや、その……ちょっと色々事情があってですね。強くならないとダメなんです」

「……倒したいのはどいつだ」

「……魔王幹部のウェルナスです」

 

 隠す事が失礼だと思った俺は、聞かれた事に素直に答えた。無論、転生だとか前世とかそんな意味不明な内容は省いて。

 そんな俺の言葉に、成程と呟いた。

 

「そりゃ、ここにいても超えられないよな。で、何でだ」

「……」

「そいつは死にに行く事と同じだ。名刀になまくらで挑むようなもんだ。

 ヤツが表に出てから数百年の間一度も敗北した事は無い。人類は遊ばれてるも同然。人を滅ぼすならあの拳一つで事足りる。

 人類最強とされる王国騎士団の隊長格ですら勝負にならん」

「助けたい、人がいるんです」

「……」

 

 自然と言葉に出ていた。

 自分でも何を考えているのかよく覚えていなくて。まるで白紙の手紙のよう。

 一つだけ残っているのは、後悔と言う言葉。それだけが酷く、胸に残っていた。

 その夜、師匠は何も聞いてこなかった。

 

 

 

 

 それからまた数ヶ月。鍛冶仕事もすっかり板についた感じがあって、魔物退治も順調だった。

 一つ変わった事があると言えば、師匠から不思議な注文が追加された事。よく分からない金属を集めて来いとの事だった。あれは結局、何だったのだろうか。

 そうして食事の最中にふと師匠が呟いた。

 寡黙な人で、余り自分から喋ろうとはしなかったから内心驚いたのを覚えている。

 

「――変わらねェか、その気持ちは」

「……はい」

「お前さんの歳で、覚悟決めるには早すぎると思うがよ。ここに閉じ込めてる俺が言えたモンじゃねェが、世界中見てみてから決めてみても遅くはねェと思うぜ」

 

 彼がそういうのは珍しい事だった。

 何でも即決即断、後回しはやるかやらないのかはっきりしろと言う人だったから。

 

「いやあ、多分このまま生きてもロクな死に方しませんでしょうし俺。だったら、自分のやりたい事やるべきかなぁって思って」

「……」

 

 自然に出た言葉だった。

 多分、そうなのだ。もし生きる事を選んでしまったら前世の時のように。何も為せないまま死ぬ事になる気がした。

 長い日々をただ生きる――目的も未来も何もないまま。それは、俺にとって本当に望んでいた事なんだろうか。

 

「そりゃ勿論、死ぬのは怖いです、痛いのはもっと嫌です。でも、取り返しのつかない後悔を抱えて生きる事だけが何よりも恐ろしい。

 気ままに生きようとも考えました。自由にして戦いから離れて、どこかで穏やかに過ごしてみようとも。――でも、多分それは理由を見出せないまま終わる生涯になると思います」

「理由、か」

「はい、何の為の人生だったのか。どうして、生きていたのか。何故この世界に生まれたのか。理由を見出せず、どうしてここにいるのかと悩みながら生きている。それは痛みが無い代わりに、ただ苦しい、地獄のような日々です。

 でも今の俺はやるべき事が分かっています。だから、怖くはあっても後悔はないです」

「……そうかよ、ならまずはさっさと飯を食いな。また明日から鍛冶仕事だ」

「はい」

 

 そうして、次に俺が魔物退治から戻った時、師匠は一心不乱で剣を打っていた。

 いつになく真剣で、その雰囲気は尋常ではなく。文字通り、何もかもを費やしているかのように見えた。

 ――翌日、師匠はまだ打ち続けていた。滝のような汗とまるで死ぬ寸前のような呼吸を繰り返しながら。

 それを止めようとした。続けたら死んでしまうと、直感で分かったから。

 俺の言葉に師匠は、目線を僅かに配って。手を止めなかった。

 

「いらねぇ、コイツは俺が全て費やして打たなきゃならん」

「でも……!」

「テメェが覚悟決めたんだ。だったら師匠面してるオレも覚悟決めねェとよ」

 

 止める事なんて出来なかった。

 命を賭けて目の前の事をやり遂げようとする執念を初めて見たから。

 俺が見届ける中で、師匠は一本の剣を完成させた。

 それは今まで俺が見てきた武器の中で、心の底から綺麗だと感じて。俺にこの剣は決して打てないと分かってしまって。

 世界にこれ以上の武器が再び生まれてくるなどあり得ないと思ってしまう程に、その剣は完成されていた。

 

「……西へ行け。深い森があるが、この剣持っておけば通れる筈だ。そこに魔女がいる。ああ、いや魔女なんて言ったらぶん殴られるから、言葉には気を付けとけ。

 話は、つけてある」

 

 差し出された剣を手に取る。

 ずっしりと重いけど、それは何の違和感もなく手に馴染む。これ以上の武器を握る事は二度と在り得ない。そう感じるだけの一品だった。

 でも打った師の顔は――。

 

「……何、辛気臭い顔、してやがる」

「だって、師匠。死にそうで」

「死にそうじゃなくて、死ぬんだよ。命費やしたんだ、当たり前、だろうが」

 

 いいかよく聞け、と師匠は俺の頭を掴んだ。

 動きこそ乱暴ではあったが、どこか優しさがあった。

 

「決めたんだったら、迷うな。何か一つやり遂げると決めて生きるんだったら傷つくのも苦しむのも当たり前だ。全部飲み込んで前に進む――そう決めたんだろ」

「……はい」

「なら、こいつは俺からの手向けだ。お前の道に立ち塞がるモンは計り知れねェ。そういったモン、全部ぶった斬れるだけの剣になるように俺の全霊を込めた。

 後はお前が前に進むだけだ」

「……っ、はい」

「お前にその背中は見せてやった。だが、途中で引き返そうが恨みはしねェ。お前の人生だ、好きに生きりゃいいさ。

 ――悔いを残すなよ? 自分で決めた生き方なんだろ」

「……はいっ」

 

 その体に力は無い。床に倒れ天井を見つめるその瞳に、現実が映る事は無かった。

 

「これで、やっとアイツの、ところへ――」

 

 師匠は静かに目を閉じる。そしてその亡骸は灰となり消えていく。

 まるでその体自体を、焔へ投じたかのようだった。

 瞳から零れ落ちていくモノを抑えきれず、俺はこの世界で初めて泣いた。声も押し殺さず、子どものようにみっともなく、はしたなく。

 その喪失を、後悔を、決意を。何一つ忘れないために。

 

 

 

 

 繰り出される拳は縦横無尽でありながら閃光の如く瞬時に煌き、迫ってくる。全てを防ぐ事など俺の技量では到底敵わない。

 故に致命傷となり得るモノだけを捌く。後は全て度外視でいい。今すぐ死ぬわけじゃないなら何とかなる。

 体には数発打ち込まれているも、どれも芯は外している。何よりあの人との鍛冶仕事で鍛えあげているから、根競べに関しては自信があった。

 ただ攻防の過程で明らかになった事がある。それは未だヤツは本気の状態では無く、準備運動に過ぎないという事。そしてもし僅かでも防御を間違えれば俺は間違いなく即死すると言う事。今この瞬間、何か一つ間違えれば俺は死ぬ。文字通りの綱渡りだ。

 

「ほう、生死を見極める眼はあったか」

「余裕、だなっ」

 

 ヤツの打ち出す一撃は、この剣でなければ受け切る事など不可能。例え名剣宝剣の類だろうと、たったの一発で破壊される。それはここでヤツと戦った人々が証明している。

 骨まで重く響く程の衝撃を受け止めて、その刀身は尚も健在。毀れずの絶剣、俺には過ぎたる刃である。

 

「っ……!」

 

 無論、剣だけで勝てる相手ではない。

 故に尽くせるだけの事は全て尽くした。可能な事は限界までやった。

 ある存在によって誘われた、時間すら意味を成さない境界の狭間。そこで積み上げた幾千幾万の戦闘経験。奇蹟に等しい導きの末に出会った師匠達。彼らから学び譲り受けた知識。

 それが俺と言う凡才を、ウェルナスと言う強者にまで渡り合える糧となっている。もちろんそれも辛うじての状況だが。

 

「なるほど確かに。そこらの騎士よりはやる。であれば、試してみるのも一興か」

 

 その拳に稲妻が宿る。迸る雷光は見ただけで目まで焼けてしまうのでは思わせる程に眩い。そしてそれに触れたが最後肉片の一つに至るまで焼き尽くされるだろう。

 

「この拳、受け切れるか」

 

 絶・雷迅拳

 

 ウェルナスの奥義の一つ。ゲーム中の威力としては敵一人への特大ダメージ。体力が五割超なら最大体力、五割以下なら現体力の八割を削っていく。加えて、掛かっていたバフの効果も全て解除されてからの攻撃判定となる為作中では防ぐ手段がない。

 けれど、そんな事今の俺にはどうでもよかった。

 回避するなんて選択は無い。この男相手にそんな愚策を取れば、二の矢で仕留められる。つまり今の俺に出来る事はたった一つ。 

 その絶大な破壊力を、正面から受け止める事であった。我ながら馬鹿正直な選択だと思うが、それにしか生命線は残されていない。

 

「っっっ!!!」

 

 剣の腹で拳を止めた途端、壁にまで打ち付けられたかのような衝撃が全身に走った。それに思わず息が止まろうとする。

 酸素が足りない脳と体。けれどそれでも意志は曲げない。

 鈍い体を無理やり動かす。剣に魔力を纏わせて、真っ向からその拳を斬り払った。すぐに距離を取る。

 肩で息をしながら、目の前の状況を視線で追いかけた。

 

「……ほう」

「斬られてて血が流れないとか、どうなってやがるんだお前」

「さて、最後に流血へ至る傷を負ったのはいつだったか……。忘れたな、そんな事は」

 

 剣を握る力は緩めない。今の俺に手元にある剣が名剣とはいえ、それが手元を離れてしまえば死ぬしかない。

 ヤツの傷は浅い。それに対して師匠の剣に非は無い。あるとすれば俺の技量と魔力操作だけだ。それしかありえない。

 まだまだ足りない、何よりも決定打が無い。だが、今この場でそれを打ったとしても、ヤツは簡単に凌ぎ切るだろう。もっと消耗させなければ。

 単純な火力だけで倒せる相手だと言うのなら、人類はここまで苦労していない。ヤツは災厄に例えられていない。

 

「では、このまま本気で打ち込みを続けるとしよう。そう簡単に死んでくれるなよ」

 

 絶影・崩襲脚

 

 振るわれる蹴り――地盤ごと砕く一撃など、例えこの肉体でも掠るだけで即死だ。

 寸前で回避するも技の風圧で体が吹き飛びそうになる。そのまま地面を転がって、次の技に備える。

 

 散花・遠雷穿

 

 拳に魔力が纏われる。遠目から見ても、容易に分かる程にそれは濃い。

 腰を落とし、地面を這うように打ち出されたそれは、扇状に広がる衝撃波となって一面を薙ぎ倒していく。

 

「っっっ!!!」

 

 迫る魔力は直接剣の腹で受け止める。これに関しては回避の使用が無い。衝撃に関してはその勢いに身を任せて、体を翻して勢いを殺す。

 そのまま着地し――すぐ様の追撃が眼前に迫っていた。迫る拳は当たれば必殺の、無慈悲な一撃。

 

「ほう?」

 

 だがそんなのは既に読めている。隙があればコイツが見逃す筈など無いのだ。

 そのままもう一度地面を転がって、一気に距離を取るように跳躍する。先ほどまで俺が立っていた場所が大きく陥没する。受け止めれば剣ごと潰されて死んでいた。

 ヤツは動かない。ならばこれで一先ずは仕切り直し。幸い、まだ俺は生きているし四肢も充分に動く。

 再び構えを取る。視線だけを配らせて辺りを見渡した。

 学園の中庭――普段なら学生達が食事を取ったり鍛錬したりしている筈の広場は、悲惨としか言いようがない有様だった。

 地面は大きく抉れていて、校舎の壁はいくつもの大きな亀裂。窓ガラスは全て割れている。木々は例外なく薙ぎ倒され、美しい花々はその痕すら残していない。

 その事実だけでも恐ろしいが、何より衝撃的なのは全てヤツの攻撃の余波に過ぎないという事。それだけで地形その物を半壊させる程の力に、冷や汗と悪寒が走る。

 

「ふむ、いくつか評価を改めなければならぬようだ」

「……」

「ただの小僧と思っていたが、騎士団よりは遥かにやる。久々だ、ここまでの相手は五百年ぶりか」

「出来れば、ただの小僧で終わって欲しかったがよ」

「抜かせ」

 

 再び展開される剣と拳の応酬。激突する度に、体が強く悲鳴を上げた。

 受け流そうとすれば、次の拳が飛来する。押し込もうとすれば、こちらが受け流される。

 ――奥の手を使うか僅かに思案して、その思考すら目の前の攻防に使うべきだと判断した。

 

「っっっ!」

 

 剣の刀身を掴まれる。このままだと地面へ叩きつけられ、引きずり回されるだろう。ヤツの力で磨り潰されれば、俺は肉の塊に成り果てるに違いない。

 

「舐めんなっ!」

 

 空いた手で、相手の肘を殴りつけた。刀身を掴む力が僅かに弱まった隙に、剣を抜いて距離を取る。

 今のは冗談抜きで危なかった。あのままだったら、今頃この体はもう――。

 

「……判断も良い。かなりの場数を踏んできたと見た」

「魔物なら昏倒するレベルで殴ったのに何で平然としてやがる」

 

 改めて規格外にも程があると痛感する。元より挑むと決めたのは俺だが。

 後、気が付いたことがもう一つ。ヤツにはいくつかの傷は入れた。例え血が出ない程の浅いものであったとしても。

 ――今は、それらが一切無い。

 

「お前、回復持ちかよ……」

「儂とて、不本意ではあるがそういう体質なのでな。元来、生まれ持った魔力の量に加えて今尚も増え続けている」

 

 回復の絡繰りをあっさり白状する。つまり、ヤツにとってそれは然したる問題ではないという事だ。

 それらが無くとも、自身は最強であり続けると言う自負と力がある。実際その通りだ。

 

「まずはそっちを何とかしねぇとって事か」

「やってみよ、魔術だろうと剣であろうと。儂に当てられればの話だが」

 

 ムカつく。ムカつくが、全くの正論だ。ヤツの言う事に一切の過ちは無い。

 並みの技量と魔術では、その体に届く事は決してない。それは人類の歴史が証明している。

 何よりこの士官学校の教師は、魔術も一級品揃いなのだ。それが束となって戦っても、手も足も出ないまま終わっている。

 だけど、それがどうした。

 そんな事とっくに分かっている。俺自身がどうしようもない程に弱いなんて事実は、とうに受け入れている。だから今まで足掻いてきた。我武者羅に突き進んできた。多くの人達に導かれるようにして。

 そうして、この身はここまで辿り着けたのだ。

 故に何一つとして、彼女の未来を諦める理由にはならない。

 

「さあ、どこまでやれる? 小僧」

「やってやるよ、行くぜクソ野郎」

 

 

 

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