推しの為に死ぬ話。   作:ざるそば

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ふと思いついて練習がてらに。
不定期更新になると思いますが、よろしくお願いします。


旅路の途中にあった話1

 

 

 

「キミが今回の護衛だね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 馬車に乗り込む貴族の男性――深くお辞儀をする。

 今回は依頼で受けた護衛任務だ。苦手と言われたら苦手だけど、マギラからも「いい経験になるし人脈も増えるだろうから受けておきなさい」と言われたのである。

 何も無ければほぼ歩いているだけでお金が入ってくると言われる護衛任務。しかし今回は危険地帯を抜ける為、襲撃は確実にある。

 そのため今回の護衛任務は受ける人が極めて少ない事から、いるのは僕ぐらいだった。後は、貴族の私兵ぐらいだろう。

 

「はは、若いな。随分と苦労しているようだ」

「……出来る限り頑張ります」

「信頼するとも。こう見えても人を見る目はあると思っているのだからね」

 

 ……何かいい意味で貴族らしくないなぁと思ってしまう。

 普通の貴族とは何ぞやと言われたら、それも分からないのだけれど。

 そんなこんなで馬車が動き出してから数分。

 ――見られている、と感じる。マギラとの手合わせで殺意と言うのを嫌な程叩き込まれたから体が覚えている。

 

「馬車を正面から見て右の方向、います!」

「っ! クソ、やっちまえっ!」

 

 盗賊が数人飛び出してくる。気づくのが早かったおかげで間合いは充分保てていた。

 剣を抜き、そのままの勢いで一人を斬る。続け様にもう一人。

 こちらも仕事だ。人を斬る事に躊躇いは無い。ましてや人を襲う盗賊なら猶更。

 これから先、この身が挑むのは文字通りの最強なのだから。半端な覚悟はただ無駄死にするだけだ。

 アイリスを、彼女を死の運命から救うために。あの人から受け継いだ決意を、無かった事になんてさせないために。

 

「っ、こいつつぇぇ……!」

「ぐぁっ」

 

 身を翻して斬り捨てる。振るわれる斧を回避し、すれ違うように斬る。

 体を如何に早く動かすか、を徹底的に教え込まれたおかげか。動きは澱みなく、流れるかのようにスムーズに動いた。

 

「……気配は、無いか」

 

 剣の血を払い、傷が無い事を確認して鞘に納める。

 幸い、貴族の私兵達にも負傷は無かった。良かった、もし彼らに怪我人でも出ていたら、報酬金が減らされるかもしれない。

 

「終わりました、行きましょう」

 

 顔を見合わせる私兵の人達。……正直な所、自分が今どのぐらいの腕を持っているのか分からないのだ。共に戦った人々は褒めてくれるけれど余り実感がない。

 こうして数時間の間に襲撃こそ数回あれど、無事怪我人が出る事無く目的地に到着した。

 

「ありがとう、キミのおかげで彼らにも怪我人が出なかった。助かったよ」

「いえ、こちらこそ。とても動きやすかったので助かりました」

「キミ、名前は?」

「ヴァンです。下の名前は……訳ありなんで明かせませんけど」

「ヴァンか、良い名だ。誰にだって事情はある。そう詮索はしないとも。――キミにもう一つ仕事を追加しても構わないかな」

「はい、俺でよければ」

「……っとそういえば自己紹介をしていなかったね。ルヴェルガーだ。ルヴェルガー・アルセントと言う。

 率直に言おう。キミには、我が娘の社交パーティーの護衛をして貰いたい」

「はい?」

 

 あっ、この人目の色が変わった。

 

「我が娘はそれはもう綺麗かつ美人で決して嫁には行かせまいと誓う程の美貌の持ち主なのだ。眼に入れても痛くない程にそれはそれは可愛くて可愛いのだぞ。そんな娘だが、そろそろ幼子から大人になりつつある年頃でな。親としてはそれは気にする部分もあるがやはり成長を支えていかなくてはなと思っていて」

「あの、話逸れてます……」

「むっ、これは失礼したね。娘は体が弱くてね。余り外に出ないのだよ。

王家主催のパーティーに呼ばれてしまっては断る事も行かなくてね。……ないとは思うが変な虫が寄り付かないか、護衛して欲しいのだ」

「なるほど……」

 

 王家主催のパーティー……。まぁ、この地域ならカーハインの事を知ってる連中もいないだろう。

 国じゃ今頃行方不明になってる頃だろうけれど捜索願は出てないだろうし、最悪フードで顔を隠しておけばいい。

 

「分かりました、その話お受けします」

「本当かね! 良かった、キミほどの腕なら任せられる!」

 

 一見すると怖そうな表情だが、実は結構の子煩悩らしい。

 ……見た目は結構厳つい。人は見かけによらないものだなぁと思わされる。

 

「では、私の邸宅まで馬車で向かうとしよう」

 

 そうして数時間。幸い長旅には慣れているから、そこまで苦でも無かった。

 日が暮れる頃に、辿り着いたのは巨大な邸宅。

 うわ凄いや、警備の兵士が何人もいる。それにメイドさんって実在したんだ……。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

「あぁ、今帰った。フィーネはどこに?」

「お嬢様なら部屋で本を読まれております」

 

 働き手の人達に頭を下げる。招かれた立場とはいえ、年齢としては俺の方が下だ。そこを勘違いするつもりは無い。どうでもいいプライドならとっくに砕かれているのだし。

 離れる事無くルヴェルガーさんの後をついていく。

 富豪の家――マギラの館とは、ちょっと異なるけれども。それでも広い。でも思っていたより調度品のようなものは見かけない。……何と言うか最低限しか置いていないような印象を受ける。

 

「帰ったぞ、フィーネ!」

「お帰りなさい、お父様」

 

 部屋には一人の少女がいた。

 淡い銀色の髪を肩まで揃えた、柔らかな印象。緑色の明るい瞳と白い肌。美少女と呼んでも相違ない。まるで物語のお姫様のよう。

 

「フィーネ、紹介しよう。彼はヴァン。パーティーでお前の護衛を務めてくれる事になった」

「もう、お父様ったら。王家主催なんだから、危険なんて無いのに」

「いや、それでも万が一だ! 万が一お前に何かあれば、私は……!」

 

 何やらルヴェルガーさんが一人の世界に入り始めた。そっとしておこう。

 フィーネさんと目が合う。

 

「あ、どうも。紹介に有った通り、ヴァンって言います。護衛の間ですけど、よろしくお願いします」

「えぇ、しばらくの間だけどよろしくね」

 

 何だろうか、この違和感。

 フィーネさんは何と言うか、他の人とちょっと違う所を感じると言うか。

 何かを、悩んでいるように見えた。

 

 

 

 

 それから数日して、王家が開く社交パーティーの場に俺とフィーネさんは訪れた。

 一応俺は護衛と言う立場のため、ドレスコードは無いらしい。一応得物を隠すためマントの装着が義務付けられていると言う。

 フードは念のため被っているが、どうやら今の俺をカーハインだと気づくような人物はいないらしい。ある意味助かった。

 それにしても、人が多い。……どこを向いても貴族が沢山だ。

 

「うわぁ……」

「もしかして、王家のパーティーは初めて?」

「えっと、その、恥ずかしながら……」

「大丈夫、きっと立っているだけで終わるから」

「……?」

 

 実際、パーティーの最中フィーネさんに寄ってくる者は一人もいなかった。他の者達は交流をしていると言うのに。

 ……やはり、何か違和感がある。

 ルヴェルガーさんの邸宅は大きく、金銭も潤っているように見えた。ならばその娘であるフィーネさんとつながりを持ちたいと思うのは普通の事だろう。

 俺のそんな表情を知ったのか。フィーネさんは小さく笑って。

 

「少し、場所を移そうか」

 

 様々な人がいる場から、誰もいない静かな場へ移る。

 人の声や鳴らされる音楽が、遠い喧騒のように聞こえる場。

 

「……お父様、私の事は何も言ってなかったのね」

「えぇ、ルヴェルガーさんからは何も」

「そう。……私はね、生まれた時からある病を持っているの」

「病……」

「そう。ミッシングディスレクシア症候群……。この病にかかった人は、体が少しずつ魔力となって乖離していく。つまり、私のこの体はもう境目を失っているの。そして最後は――」

「……」

「いつ消えてしまってもおかしくない。……明日を迎えるのが怖くなる。貴方と今こうして話している時でさえ、私は突然消えてしまう事だってあり得る」

「……」

「それを知っているから、他の人は私と話したがらないの。つながりを作る必要が無いから。お父様もたくさんのお金を治療のために使ってくれているけれど、これは不治の病。……私にはどうする事も出来ないわ」

「……それは、余りに……」

 

 その言葉にフィーネさんは笑った。

 

「大丈夫、私は生きているだけで幸せだもの」

 

 それは――。その言葉は。

 

「……」

 

 無視できないと思ってしまった。彼女の言葉を。

 その言葉を言った人を、知っているから。

 

「あ、ほら流れ星!」

「ホントだ……」

 

 夜空を往く綺麗な一筋の光。

 それはまるで人の命のようで。

 

「ありがとう、ヴァンさん。お父様を守ってくれて」

「……仕事柄だから、お礼を言われるような事じゃないです」

「ふふっ、頑固な人」

 

 

 

 

 マギラの館に戻って来た後、修行を終えた後彼女に思わず聞いてしまっていた。

 

「ミッシングディスレクシア症候群?」

「はい、聞いた事ありますか」

「……あぁ、魔力が自然に暴走するアレね。魔力を抑えきれずに肉体と同化してしまっているのよ。放っておけば乖離が進んで消滅する」

「治す方法は……無いんですかね」

「あるわよ、勿論。魔力なら私に出来ない事は無いもの」

「え……」

 

 俺の言葉に、彼女は当たり前のように答えた。

 

「治すと言うよりは魔力の受け流し先を作ってあげたらいいのよ。……まぁ、今の人の技術じゃまず無理でしょうけれど」

「その、方法は……!」

「闘剣祭って聞いたことある? 数年に一度開かれる大規模な武闘大会だけれど、そこの優勝者にはある宝石が贈呈されるわ。特別な製造技術で作られるそれは、偶然の産物だけど魔力のコントロールにはうってつけなのよ。

 それさえあれば、今の私なら作ってあげられる」

「……!」

「どうしたの、知り合いになった人がいる?」

「はい……。救ってあげたい人が」

「……そう。まぁ、やってみなさいな」

 

 そういってマギラは本を取り出し、読み始めた。……いつもの彼女の姿だ。

 確かにその言葉の通り、やるしか無い。

 俺が挑む先は世界最強の存在。人類における大災害。であるならば、その大会に優勝できなくては塵芥の如く瞬殺されるだけだろう。

 

 

 

 

 異国の催物である闘剣祭は、確かに大規模と呼ぶに相応しい。

 街中を歩くだけで屋台がそこら中にあるし、大会が始まりを告げる時期となって風船がそこら中に浮かんでいた。

 それと街を行く戦士達。誰もが一流だと、歩くだけで分かる。空気が闘気でひりついている。

 

「……」

 

 既に俺は受付を終えて控室にいた。

 予選は終えている。全て瞬殺した。

 

『さぁ、只今より闘剣祭本戦が始まりますー!!』

 

 実況の声に観客の熱が灯る。

 体を動かし、舞台へ上がった。

 

『さぁ、第一試合予選を全て勝ち抜いていたヴァン選手、期待の新星となるか! 相対するは、前回大会準優勝のビルケリス選手! 今回は優勝まで至るのか!』

 

 眼前の戦士は俺と同じく剣を使うらしい。

 鞘込めの剣を眼前に出し、ゆっくりと抜いた。

 

「剣士のガキか……。悪いが、俺も全力で行かせてもらうぜ。今回こそ勝ちたいんでよ」

「こっちも同じだ……!」

 

 剣が激突する。

 鍔迫り合い――成程確かに。相手は此処まで来るだけの技量はあるらしい。

 けれど、勝てる。

 こんなもの、マギラとの修行に比べれば全然――!

 

「何っ!?」

 

 相手の剣を弾き、その勢いのまま回るような斬撃。

 けれどすぐに相手も反応する。

 胸元の皮膚を浅く斬るだけに終わった。

 だが即座に追撃。すぐさま距離を詰める。

 

『早い! ヴァン選手、これは強いッ!』

 

 迎え撃つべく振るわれた剣を躱し、左手へ剣を持ち変える。

視線が剣へ逸れたと同時に、踏み込み拳で相手の顎を下から殴り上げた。

 師匠との鍛冶仕事でつけた筋肉だ。魔物すら昏倒させる程の威力。

 それをほぼゼロ距離で、急所にブチ当てたのだ。無論、力加減など一切していない。

 

「!!!!」

『決まったァー! これは文句なしの一撃! ビルケリス選手、立ち上がれません!

 これはヴァン選手の勝利です!!』

 

 このような戦いを数度経て。

 こうして待ち受けていたのは決勝戦。

 

『さぁ、いよいよ決勝戦! 白熱してきた会場は最高潮のテンション! まずは期待の星、初出場でありながら何と決勝にまで歩んできたヴァン選手!

 対するはァ! ダークホース、まさかの魔術にてここまで来たのは初! ファルテュイザ選手!』

 

 相手を見る。

 ……魔術で勝ったと言う割には、マギラから感じるのとは雲泥の差だ。

 

『さぁ、試合開始!』

 

 その宣言と共にこちらへ放たれた魔術の光線。

 顔を逸らすようにして避ける。

 マギラに比べたら遅いし細い。

 けれど、何だこの違和感。

 あるべき予備動作が、まるで無いように感じられる。これだけの魔術を打とうとすれば、魔力の発生が感じられる筈だ。例えば巨大な水流を生み出すには、充分な水が必要になる。巨大な火が起こるとなれば、相応の薪が必要になる。

 けれどそれが無い。あるのはただの結果だけ。

 

「……いや、戦闘に集中だ」

 

 まるで幾層にも張り巡らされた蜘蛛の巣のように迫る魔力を、回避する。

 多分、マギラとの修練が無かったら今頃俺は瞬殺されていた筈だ。それ程までに、差がある。

 過酷な鍛錬ではあるけれど、こういう時こそ本気でやって貰えて良かったなといつも思う。

 

『おぉっとヴァン選手! 巧みな動きで躱していきます! これは凄い! まるで空を飛び、地を踊るかのような身軽さ!』

 

 鞘を全力で投げつける。

 それは寸前違う事無く、相手の側頭部を捉えた。

 動きが止まる。それに伴い、魔力の動きも止まる。

 全速力で駆け抜け――すれ違うように一閃。

 急所を避け、けれど肉体を深く斬りつけた一撃は、再起不能に陥るには充分だろう。

 

『決まったァー! これは確実! 何と何と、初出場で優勝と言う快挙を成し遂げたか!?』

 

 実況の声と共に鞘を回収し、剣を納める。

 

「……!」

 

 まだ終わっていない。

 違う、これは、これは――魔力を他から供給されている?

 

「っ!」

 

 体を伏せて、迫る魔力の包囲網を回避した。

 そこから後ろへ飛び退いて、さらに迫る追撃から逃れる。

 

『何と、ファルテュイザ選手、まだ動くゥ! ……むっ、異議申し立ての表示が下されています! 両者共に、戦闘を中止してくださいー!』

 

 だが、相手の手は止まらない。

 まるであやとりのように、変幻自在の魔力の網が脅威となって迫る。

 

「……暴走しているのか?」

 

 そういえばマギラが言っていたような気がする。

 魔力を全力でフル稼働させ続けると肉体の暴走が始まる。そうなっては、止める術は本人を気絶させる他ないと。

 

「まぁ、終わらせるに限る!」

 

 反撃開始だ。

 剣を地面に差し、地盤ごと砕いて相手の方向へ飛ばす。

 ――砕けた地盤が、身を守る盾となってその場に一瞬だけ浮遊する。

 その隙を駆け抜けるように走り抜けて、相手に肉薄した。

 鳩尾を、勢いのまま剣の柄で突く。

 肉を打つような音の後、相手は声も無く崩れ落ちて、気を失った。

 

「……よし、これで師匠やマギラの面目は保てたかな」

 

 結局あの後、相手は魔力を他者と共有すると言う反則行為を行っていたようで、仔細を運営の人から聞いた。

 けれどあのまま暴走し続けていれば観客席に被害が及んでいた可能性があり、もしそんな事態が起こってしまえば前代未聞の末路となっていたらしい。

 まぁ、でも。優勝賞品の宝石も貰えたし、観客にも怪我人も出なかったから良しとしよう。

 

 

 

 

「あの、今いいですか」

「いいわよ、どうかしたの……ってあら、本当に出場してきたのね」

「えぇ、まぁ。助けるって決めたんで」

「……ホント、正直な子ね。いいわ、その宝石を調整するから貸しなさい。大丈夫、すぐ終わるから」

「よろしくお願いします」

 

 これをルヴェルガーさんの荷物として送って……後は治療法として記した手紙でも添えておけば大丈夫だろう。

 ……何度も考えたけれどやはり、会わない方がいい気がする。

 多分会ってしまったら、俺の目的を知って、全力で引き留めに来ると思うから。

 名前だけ残しておけばいいだろう。

 

「ほら、出来たわ」

「早っ!?」

「言ったでしょ、すぐに終わるって。これを身に付けておけば普通の人と何ら変わりない身体に戻る筈よ」

「マギラさん、やっぱりすごい人なんですね……」

「ふふっ、魔女って呼んでたらぶん殴る所だったわ」

「ヒエッ」

 

 マギラ、やっぱりすごいなぁ……。

 修行ももうちょっと手加減……いや、手加減してそれで負けたら笑えないから今のままでいいか。

 紙とペンを机に置いて、拙いながらも文面を考えた。

 

 

 

 

 神様から肉体を移し替えて貰った後、様々な人達へ会いに行った。

 そんな中ふと、気になってフィーネさんの所へ向かう。彼女から話を聞いたのは王家が開いたパーティ。

 丁度、それが開催されている時期であった。もうそんな頃合いになるのか。

 

「ある意味良かったのかもなぁ」

 

 ……何の立場も無い俺が会場に入ってしまっては、不審者として捕まってしまう。今回、俺は誰の護衛でもないし、招待状がある訳でもない。

 故に潜入する。

 パーティが開かれている建物。その屋上へ忍び込んだ。

 この体だからこそ容易にできる事だ。建物から建物へ飛び移るなんて簡単な事だった。

 天井から、下の光景を覗き込む。沢山の人だかりだ。……何だか以前よりも多いような気がする。

 

「……フィーネさん?」

 

 丁度会場の真ん中、人だかりの中心に見覚えのある宝石を纏った少女がいた。

 左手の薬指にはめた指輪と、首からぶら下げているネックレス。それぞれに宝石を付けている。

 あれは紛れも無く、マギラが調整した宝石だ。

 少女はそれ以外の装飾品をつけていないと言うのに、ただ美しかった。

 男性が次から次にその少女へ声を掛けている。

 かつて俺が知っている頃の閑散とした雰囲気は、どこにもない。

 

「あの……フィーネ様。もし良ければ私と……」

「失礼ですが、この身を捧げるお相手は、ただ一人と決めているのです。お引き取り頂けますか」

 

 聞き覚えのある声。……既に余命を宣告されていた月日からは、大分過ぎ去っている。

 あぁ、良かったと。

 確かにあの少女は救われたのだと、思った。

 ……これで一つ心残りが減った。おかげでアイツとの、ウェルナスとの戦いに気持ちを向けられる。

 

 

 

 

 ヴァン・カーハインの葬儀――人類の大災害とも呼べる存在をたった一人で倒してのけた彼は、国を挙げての葬儀となった。

 その言葉は世界の隅々まで響き渡り、彼と所縁のある人物が次から次にそこを訪れている。彼の旅路を追うように。

 勿論、二人とて例外では無かった。

 

「……お父様」

「……あぁ、うむ。ヴァンと聞いた時、やはりと思ったが……キミであったか。手紙には、あの災厄に挑むのだと、書いてあったからね。

 本当にやり遂げてしまったのだな、キミは」

 

 左手の薬指の指輪とネックレスに宝石をぶら下げた少女と一人の紳士。

 二人は、机の上に置かれた花々に目を向ける。

 男性は、ルヴェルガーは頭に乗せた帽子を外し胸に翳した。

 

「……ヴァン。キミとは短い間だったと言うのに、出会った事は昨日の事のように覚えているよ。

 どうせキミだろう? 我が娘を救う術を見つけて、わざわざ道具まで揃えて来てくれたのは。……困ったなぁ、今となってキミに返せるモノは無い。だと言うのに貰ったのは余りにも……。

 ……あぁ、いや。今言いたい事はそうではなかったな。……娘を救ってくれてありがとう」

 

 少女は、フィーネは手に持った花をそっと乗せた。

 瞳から涙が、少しずつ零れ落ちていく。

 

「ヴァンさん……私、魔術の才能があるみたいで。今治療術を学んでいるの。……知ってる? 貴方が私を救ってくれた。貴方が私を、死の運命から引っ張り上げてくれた。

 ……貴方のように、私も誰かを救える人になりたいと思ったの。もう目覚めを恐れる必要もない。明日を怖がる必要もない……。

 今の私があるのは全部……全部貴方のおかげなの! 私を、私を、救ってくれてありがとう……!」

 

 ルヴェルガー・アルセント。

 彼は、資産を用いて難病に苦しむ人々の保護と治療に回った。娘と共に診療所を訪れ、地の底にいた人々が再び、元の生活に戻れるよう援助するなど、その行動は人々の希望であると共に貴族の見本であるとされた。尚、娘への縁談は全て彼が断わっていたと言う噂もある。

 フィーネ・アルセント。

 彼女はその後の未来で、治療に秀でた魔術師として国に重宝される存在となる。能力だけでは無く見た目も相まって様々な縁談の話が挙がったが、彼女はそれを全て断った。子は養子として迎え入れて大事に育て上げたと言う。まるで誰かを想うかのように、生涯未婚を貫いた。

 

 

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