推しの為に死ぬ話。   作:ざるそば

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お気に入り800件に、震える日々です……。本当にありがとうございます。後は誤字報告して下さる方々、ありがとうございます。お手数おかけします。


多分、これで本当にネタ切れです。次の更新は来年とかかなぁ。


ある男の話。

 

 

 ……。

 ……。

 ……あぁ。

 そうか、お前か。ようやく会えたな。

 

「えぇ、本当に久しぶり。そういう貴方は、顔のしわが増えたわ」

 

 爺になったからな、そりゃ年も取るってもんだ。反面、お前は変わらねぇな。ずっと俺の記憶の、面影のままだ。

 ……悪かった、お前を幸せにしてやれなくて。

 

「いいのよ、私は幸せだった。何もかもが乖離してしまっても、貴方との思い出は消えないもの。残るモノはあるのよ」

 

 そうだな、何もかも無くなったって消えてしまう訳じゃねぇ。そんな事に気付くのにどれだけの時間がかかったか。

 もうとっくに、灰になったと思っていたんだが。……こんな俺にも、残ってた仕事があった。

 

「彼の事よね、ずっと見てた。見守っていたわ、私も」

 

 そうかい……。じゃあ、退屈かもしれんが少し長い話をさせてくれ。

 とある運命に出会った事を。

 

 

 

 

 もう何十年も前になるか。

 お前を亡くした後、俺は国を出た。どこもかしこも権力塗れで、そういうのにうんざりしてたからだ。どいつもこいつも着飾ったヤツばかり。右を見ても左を見ても、似たような人間しかいねぇ。

 そういう連中に腕を褒められても何も出ない。ましてや日に日にそういうおべっかばっかりのヤツらばかり増えていく。剣を打ってくれだの槍を作ってくれだの、同じ事しか言いやがらねぇ。

 あぁ、勿論無視したさ。俺は俺が打ちたいと思ったヤツに剣を打つ。きっともう、国にそんな人間は一人もいなくなった。だから残る理由も無くなった。

 国を出た後、あちこちを彷徨った。――そんな時だ、あの魔女に出会ったのは。

 森の中で邪魔なモンがあったから、そいつをぶったぎったらドデカい館が一つ。勿論目的地にはそんなもんねぇ。知らん内に誘導されていたと言うのは、そこの館の女から聞いた。

 

「……人間如きが舐めた口をきいてくれるわね。まぁ、いいわ。今は貴方の腕に用があるの。

 鉄を打ってくれない? 実験をしてみたいのよ。あぁ、勿論暇潰しだけど」

 

 確か、魔道なんちゃらと言ったか。やり終えた仕事は忘れちまうタイプでな。そこまでは覚えてねぇ。

 あの女は見た目こそ繕ってはいたが、明らかにそいつは人間じゃなかった。いや、人間と言う存在を超越した何かだった。きっと騎士団だって軍だって、その女一人には勝てはしないと思ってしまう程に。

 けれど今の俺にはどうでもよかったのさ。今殺されようが、後で死のうがどっちにしろ変わらねぇ。そう思っていたからな。

 

「え、は? 断る? 何を言ってるの? ちょっと貴方。私が人間に願いを頼むなんて、滅多にない事なのよ?」

 

 そんなモン知らねぇよ、と告げて。俺はさっさと出ていった。後を追いかける気配は無かった。

 また放浪の旅に出た。そうして辿り着いたのはどこにでもあるようなそんなのどかな村の片隅。誰の目にもつかないようなところでひっそりと生き延びていた。

 村のヤツから鉱石を貰って、農具の鉄を打つ。何の意味も持たなかった末路にはお似合いだったかもしれねぇ。きっと、しょうもない死に方をするんだろうなと思っていた。あぁ、思っていたんだその時までは。

 そんな生活を続けていた時だ。運命と、出会ったのは。

 いつも持ってくるのとは違う人物がやってきた。そいつは痩せこけていて、今にも死にそうな顔をしていた。

 

「あの……これ、頼んだ分です」

 

 ふらついた体で重たい石を持とうとしたもんだから、その体を支えてやった。

 口元や胸元には泥の跡が付いていた。……文字通り、泥水を啜って生きていたんだと分かった。

 解れた服。その隙間からは傷口が膿んでいた。きっと誰かに石でも投げられて、怪我をしたんだろう。そんな跡が体中にあった。

 目は酷い隈で、もう何日も眠れていないのだと見ただけで分かった。

 余りにも見ていられなかった。

 

「え、いや面倒を見るって……その、俺がやりたくてやってる事だから」

 

 馬鹿か、と目を覚ますかのように頭を叩いてやった。勿論力は込めちゃいねぇ。そこまで外道じゃねぇよ俺は。

 気づけば俺は村の連中に殴り込んでいて、アイツの面倒をこっちで見ると村長に怒鳴り上げていたらしい。そりゃそうだろうな。ガキを食い物にするのは好かねぇ。ましてや、そいつが疑う事をしていないのだから猶更だ。

 それからだ。アイツとの妙な生活が始まったのは。

 

「……あの、何か手伝わせてくれませんか。ただ居させてもらうのも気が引けて……」

 

 あん時俺は何を考えていたんだろうなぁ。本当に唯の気まぐれだったんだろう。

 槌を握らせてよ、鉄の打ち方を教えていたんだ。

 最初はヒョロヒョロでよ、俺の支えが無けりゃまともに振り下ろす事すら出来やしねぇ。振り下ろす先も真っ直ぐじゃねぇ。

 そんな日がよ、何日も続いて。

 それが気付きゃ、教えた事を一人でに出来るようになっていた。

 飲み込みがいい、と言うよりただ単純に馬鹿なんだろうな。俺の言う事を一字一句信じやがる。まるで生まれたての雛鳥みてぇによ。

 きっと年下のガキだってもう少し人を疑うに決まってる。

 

「師匠、どうですか! 今の!」

 

 俺でさえ顔を顰める程に燃える鉄火場の中で、それでもアイツは楽しそうに笑っていた。何一つ新しい事が出来る度に、子どものように喜んでいた。

 ……あぁ、悪かねぇ。暗い顔されるぐらいなら笑ってくれる方が気楽でいい。

 だからかねぇ、最初はモヤシみてぇだったのが嘘みたいに一端の体へ育ちやがった。村の連中がビビり上がってしまうぐらいにはよ。ありゃいい気味だった。

 それに俺も、師匠って呼ばれる事に少しは誇らしさを感じていたのさ。……笑うんじゃねぇ、別にいいだろうが。俺がどう思おうと。

 悪くなかった、アイツとの生活は。

 一人で鍛冶師として食えるだけの腕に、それで魔物との戦いまで覚え始めて。しかも普通に一日かけて倒してきやがる。普通仕留めきれなかったら諦めて帰ってくるのが村の奴らだ。だが、アイツは一度狙った獲物は絶対に逃がさなかった。使えるモン、全部使ってやがる。

 ……ありゃ、根性比べなら最強だろうな。

 ただ、どこか焦っているなと言うのは勘で分かった。その瞳が迷っている事はお見通しだった。

 だから、ある日の食事の時に聞いたのさ。俺も器用なタイプじゃねぇから直球で聞くしか無かった。

 そしたら何食わねぇ顔でよ。当たり前のように言うんだ。

 

「魔王幹部のウェルナスです」

 

 言葉を失うってのはああいうことを言うんだな、って思ったぜ。

 村で死にかけてたガキが、人類の災厄を倒すなんて絵空事を言ったんだ。まるで村のガキが勇者を名乗って魔王を倒す、みたいな事を。

 それの意味を分かってねぇのかと思って、俺は色々と語ってしまった。いらねぇお世話だったかもしれねぇ。

 けれどアイツはそれでも迷う事無く答えたんだ。

 

「取り返しのつかない後悔を抱えて生きるのが恐ろしい」

 

 それはかつて俺が抱いた感情だった。

 あぁ、そうだ。お前の傍に少しでもいてやれていたら。お前が消える瞬間を見届けてやれていたら。

 俺がずっと抱えていた気持ちも、何か変わっていたんじゃねぇかって。

 だからアイツが魔物退治で数日空ける間、俺も腹を括る事にした。

 

「は? 嘘、結界を貼っていたはずよ? え、斬って来た? 何言ってるの貴方? 軍隊すら入れないぐらいの強度だったのだけれど? え、ホントに斬られてる怖……」

 

 あの魔女の所へもう一度乗り込んだ。殺されるのも承知の上だ。その上で、俺はそいつに会った。

 弟子が、アイツが腹を括ってるんだ。だったら俺も、同じモン張ってやらねぇと示しがつかねぇだろ。

 

「え、魔道装甲の作成に何が必要かって? それは前言った集合体の金属だけど……。ちょっと、待って。命令が来たわ。

 貴方に、ある御方が会いたいそうよ」

 

 そいつの後を追うと、知らねぇ場所に着いた。

 そこで出会ったもう一人の人物――いや、ありゃ人じゃねぇ。女と同じ、俺達とは違う次元にいる存在だ。

 人類が手を出してはいけないモノ、なんだろうよ。

 その男は、喜々とした表情で俺を見た。何もかもを見据えられていると把握した。

 

「目だ、貴様の目が気に入った。何やら望みがあるのだろう? 余が聞き届けてやろう。無論、代価は貰っていくが」

 

 剣だ。

 絶対に折れず、決して曲がらず、欠ける事の無い剣を俺は打つ。

 

「ほう?」

 

 それと引き換えに俺は俺の全てをくべてやる。

 俺の何もかもを燃やし尽くして、たった一振りの剣を作る。

 

「――成程、その決意聞き入れた。余が保証しよう。貴様が死力を尽くす限り、その剣は貴様の望み通りになるとな。では全力を出すがいい」

 

 それがまるで神託のようだった。不思議なもんだ、今まで生きてきて神頼みなんてした事無かったのによ。

 言葉を告げられた瞬間、俺の随所から力が溢れて来た。

 ――すぐさま帰り、俺は剣の作成に取り掛かった。

 あぁ、あの時だ。

 あの剣を打っている間の時だけが、余りにも短い一時が、紛れも無い俺の全盛期だ。人生は不思議なもんだな、爺になってからやりてぇ事が見つかるって言うのは。

 一つ打つ事に祈りを込めた。

 一つ打つ事に願いを込めた。

 きっとこれからアイツの先に立ち塞がるモノは計り知れない。俺なんかじゃ想像もつかないぐらいの困難がアイツを待つだろう。

 そんな過酷な中でも、決して折れる事が無いように。曲がる事の無いように。

 まるで背中を押すような感覚で、ずっと剣を打ち続けた。

 

「……師匠」

 

 剣を打ち終わった後、最後の仕上げまでやって。

 気づくと俺は倒れ込んでいた。

 あぁ、これが文字通り血反吐を吐くまでやったって事か。悔いはねぇ。

 ただ俺を見るその視線が、まるで子犬のように不安に震えていたから。

 もう力の入らない腕を動かして。俺に言える精一杯の言葉をくれてやった。本当ならもっと言葉を送ってやりたかったが、きっと必要ない。アイツはアイツの道に、答えに辿り着くだろう。

 ――ここまでだ、俺の物語は。

 お前と別れてから、出会うまで余りにも長かった。けれどアイツと出会ってからは悪くねぇ日々だった。

 何より、剣を打ってやりたいと心の底から思える相手に剣を打てたんだ。鍛冶師の人生としちゃ悔いはねぇ。

 なぁ、そうだろ。

 

 

 

 

 あぁ、あの馬鹿何を弱気になってやがる。

 悪い、ちょっと焼きを入れてくる。アイツが弱音吐いてるからよ。

 あともう少しだって言うのに、隙を見せやがって。

 

「でも、貴方笑ってるわよ」

 

 そりゃそうだろ。

 アイツは俺の、最高の弟子なんだからな。

 文字通り最後まで見守ってやるさ。

 

「ふふ、なら私も一緒に見届けようかしら」

 

 そいつぁいい。

 もう独りになんか、させねぇからよ。

 こんな人間で悪いなぁ。

 

「いいえ、私と出会ってくれてありがとう貴方」

 

 あぁ、本当に。悔いはねぇ。

 

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