徒花テンタクル:恋する触手怪人   作:WhatSoon

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6話:敗北

石動さんから連絡を受けて、現場に緊急で向かった僕が見たのは……触手を生やした『奴ら』だった。

 

それは異常な存在だった。

今まで戦ってきたバケモノにされた人達は、何かしらのモチーフを持っていた。

 

蜘蛛や蛇、カマキリ……蝙蝠。

地球上にいる生物をモチーフにしていた。

 

……しかし、目の前にいる奴は何だ?

蛸か、烏賊か、イソギンチャクか……しかし、それとも違う。

 

下半身は海洋生物のような触手。

……背中にも。

腕は辛うじて人に似ているけれど……黒っぽい皮膚で、爪先は赤く変色している。

 

身体は触手が巻きついた出来たような形状だ。

中心に人のような肉体が存在しているかも分からない。

頭は……八つの目が生えた、蛭のような……毛も、鱗もないブヨブヨとした見た目。

口のような部分は、縦に引き裂けていて……乱雑に並べられたナイフのような歯が見えた。

 

 

人間の内面の、悍ましい部分を刺激するような……生理的悪寒を感じる見た目だ。

根本的に、僕達とは……地球の生き物とは違う。

 

そう思ってしまった。

 

 

……そして今までと違う、というのは見た目だけじゃない。

 

 

『……喋、れるのか?』

 

 

言葉を解する、という事は知能があるという事だ。

人間と同等の知能だ。

 

……今まで、バケモノになってしまった人達は言葉を発する事も出来なかった。

故に、僕は戦えた。

もう救えないのだと……介錯するのが正しい事なのだと信じられたこそ、戦えた。

 

しかし、目の前の──

 

 

『君はっ──

 

 

突然、吹っ飛ばされた。

腹に鈍い痛み……Gメタル製のスーツが砕けている。

 

見えなかった。

腹に何か……一撃。

 

状況から見るに、触手で殴られたのだろう。

 

 

速い。

そして、予測できない。

 

 

地面に転がった僕に、触手のバケモノは視線を向けた。

 

 

『……戦うつもりはないわ。貴方が追わないのであれば、攻撃はしない。彼女も諦めるわ』

 

 

八つの暗闇で光る目が、腰を抜かしている女性を見た。

僕は震える膝を叩き、立ち上がり……女性の前に立つ。

 

 

『……君は……言葉が分かる、んだね?』

 

『それがどうかしたの?』

 

 

触手が身体を揺らした。

……また、いつ攻撃が来るか分からない。

 

一発、一発が致命傷になりうる。

 

今まで戦ってきた奴とは格が違う。

警戒を怠るな……そう、自分に言い聞かせる。

 

 

『君がまた、人間に戻れる方法を探そう……!僕も手伝う……傷付けたりもしない!だから──

 

 

今度は、見えた。

事前のリアクションが一つもなく、射出された触手が。

 

しかし、回避出来るかは別だ。

 

鞭のようにしなり、空中で弾ける音がした。

……空気の壁が破裂した音だ。

 

咄嗟に腕を盾にして──

 

 

()っ……!?』

 

 

ガイアが作り出した金色の甲殻に命中した。

Gメタル製のスーツ部分なら受けられなかったけれど、これなら……致命傷にはならない。

 

よろけた僕に、触手のバケモノは首を捻った。

 

 

『貴方、勘違いしてるわ』

 

『う、何……を……』

 

『私、元から人間じゃないの。一緒にしないでくれる?』

 

 

元から人間、じゃない?

だけど、僕が今まで戦ってきた物は……人が姿を変えた結果、の筈だ。

他の奴らとは違う……のか。

 

 

脳に湧き出た疑問は、直後消え失せた。

触手の先端が、獣の爪のように硬化していた。

 

アレは拙い。

考え事をしている場合ではないと、一瞬で脳が理解した。

 

しかし、片腕が……痺れて、動かない。

感覚がない。

……さっきの攻撃のダメージが響いている。

 

脳に、テレパシーが響く。

 

 

『……殺すつもりはないのだけれど。立てる限り、邪魔されそうね』

 

『……勿論。僕は僕に出来ることを──

 

『立てなくしてあげる』

 

 

直後、奴の背後から触手が……三本、飛び出した。

……同時に、攻撃を仕掛けてくるつもりだ。

 

一本でも、僕に大ダメージを与えられるっていうのに……三本も。

 

 

悩む時間はなかった。

僕は残っていた片腕で、胸の装甲を開く。

 

心臓部を露出して──

 

 

『くらえっ!』

 

 

光を放った。

 

『ガイア・スマッシャー』……なんて、名前を付けている技だけど、実際は僕の持つエネルギーを一気に放出しているだけだ。

 

逆に言うと、これで倒せなかったら僕はガス欠になって戦えなくなる。

だけど、出し惜しみなんて出来ない。

 

背後にいる女性を守るため。

周りで倒れている男性を守るため。

 

『光』を解き放った。

 

 

迫り来る触手を焼いて……触手のバケモノに直撃した。

 

 

『むっ──

 

 

瞬間、奴の身体が肥大化した。

 

……何のつもりだろう?

そう思った瞬間、膨らんだ表面が硬化した。

黒く焼けた陶器のような見た目になった。

 

何か、拙い気がした。

 

しかし、『光』の照射は止められない。

……そして、エネルギーが空になった僕は胸の装甲を戻した。

 

 

『はぁ……はぁ……』

 

 

息を切らしながら、視線を戻した。

真っ黒な陶器のような皮膚が……砕けた。

 

それはまるで脱皮だった。

砕けた黒い皮膚の下から、傷一つないバケモノが姿を現した。

 

 

『う、あ……』

 

『拍子抜けね』

 

 

そう嘲笑いながら、硬化した皮膚を脱いだ。

『ガイア・スマッシャー』が効かない。

 

アレは僕の一番、強力な技だ。

それが効かないのならば……何をしようとも、傷付けられない事になる。

 

 

『く、そっ……!』

 

 

力の入らない身体で、女性を守るように立ち上がり──

 

 

『もう、いいから……眠って』

 

 

顔に触手が命中した。

 

身体を触手で弾かれた。

 

足を触手に折られた。

 

 

『ぐ、ぁっ……!』

 

 

僕は地面に……転がった。

 

ダメだ。

ここで眠ったら……守れない。

守れなく、なる。

 

手を地面についた。

瞬間、肩に衝撃が来た。

 

 

『い、()……!』

 

『……頑丈なのね。思ったよりも』

 

 

バチン、バチンと音がなる。

触手に連続で殴られている。

 

意識が何度も飛びそうになる。

 

それでも歯を食いしばって──

 

 

『これはどう?』

 

 

足に、触手が絡まった。

 

 

『ぁ……』

 

 

そのまま、逆さまに持ち上げられ──

 

 

『おやすみ』

 

 

地面に叩きつけられた。

 

Gメタル製のスーツが砕けて、僕は……意識を失った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

足元で、ボロ雑巾のようになって眠る……守護者(ガイア)を見た。

 

弱い。

弱過ぎる。

 

出力は2000年前の半分以下 。

そして、判断力は比べるまでもなく低い。

 

力を使い熟せていない。

戦士として判断が鈍く、甘い。

 

己より強い敵に、誰かを守りながら勝とうなんて……自惚れ過ぎだ。

 

 

総合的に見て、30%程の強さって所か。

 

 

……ここで、殺すか?

 

私は触手の先を硬化させて──

 

 

『…………』

 

 

思い悩んだ。

石動は私と守護者(ガイア)が接触しないように気を付けていた。

 

つまり、殺させないようにしていた……という事だろう。

そもそも、『私達』と遭遇させないつもりだった筈だ。

 

何かしらの理由がある。

そして、石動は私の生活を保証している出資者だ。

 

……これ以上はやめておこう。

 

いつだって殺せるのだから、今でなくても良い。

 

私は守護者(ガイア)から視線を逸らして、女性を見た。

 

 

「あ、あっ……」

 

 

……今更、『種』を植えても良いものか?

石動は守護者(ガイア)と接触する前に、『種』を植えろと言っていた気がする。

 

 

何をするにも、情報不足。

私には判断出来ない。

 

……ここは、引くべき。

 

 

私は背中の触手を集めて、羽を形作る。

遺伝子情報を操作して、身体を軽量化……そのまま触手で地面を叩き、高く飛び上がる。

 

怯えた顔で私を見上げる女を一瞥し……滑空する。

今日はここまでだ。

 

 

得るものはあった。

他者に献身する真実の愛は、存在するのだと知れた。

だから、私も手に入れる術を学ぼう。

 

手始めに、恋愛小説の続きを読もう。

あんな恋がしたいと、そう想われて書かれた小説ならば、参考になるだろう。

 

……暗闇を滑空しながら、私は素晴らしい未来に頬を緩めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

都内。

国立病院。

 

僕はベッドで……横たわっていた。

窓の外は明るい。

 

……昨夜、触手のバケモノと戦った僕は……敗北し、気を失った。

 

被害者の女性が通報してくれたお陰で、現場に急行してきた北条さんによって病院まで連れられた。

守護者(ガイア)の姿のまま意識を失っていたけれど、運ばれている途中に装甲は溶けて無くなったらしい。

 

兎に角、七課の息が掛かった病院で治療を受け……今はこうして病室で寝ていた。

 

 

「骨折26本、脊椎損傷、打撲」

 

 

ベッドの側で、北条さんが僕の怪我について口にした。

 

 

「……すごい重傷ですね」

 

「まぁ、そうだな。……しかし、今はもう殆ど治っている。骨はヒビ程度だ」

 

 

僕は頷く。

守護者(ガイア)の力は、自然治癒能力も強化してくれるらしい。

 

まだ本調子ではないけれど、明日には元通りだろうと言われた。

 

北条さんは眉を顰めて、疑問を口にする。

 

 

「……昨日、何があったんだ?何にやられた?」

 

「それは──

 

 

直後、ドアが開いた。

そこには……慌てた様子の石動さんが居た。

彼が病室に入ってくると、少し遅れて後ろからスーツを着た秘書のような人が入って来た。

 

 

「大丈夫かい!?傷は……!?」

 

「え、えっと……大丈夫、です。傷も、もう殆ど治っているので」

 

 

そう言うと、石動さんは胸を撫で下ろした。

北条さんは彼に見えないよう、小さくため息を吐いていた。

 

 

「いや、心配したんだよ?結城くん。それで、何があったんだい?」

 

「えーっと、それは──

 

 

僕は、昨晩の出来事を話した。

人の言葉を理解する……元から人間ですらない、触手のバケモノ。

そして、圧倒的な力に手も足も出なかった事。

 

北条さんは眉を顰めて、悩むような仕草をした。

今回は偶々、見逃されたけれど……次、敗北したら僕の命は無いかも知れない。

そう考えているのだろう。

 

石動さんは……何か、困ったような怒ったような……兎に角、焦るような表情をしていた。

ブツブツと、何かを小声で呟き……いつもの笑顔を浮かべた。

 

 

「成程、ソイツは多分、『来訪者』と呼ばれる存在だ」

 

「『来訪者』?」

 

「あぁ、古文書にも書いてある……ようやく分かったよ、君が戦っている存在の正体が」

 

 

石動さんの言葉に、北条さんが眉を顰めた。

 

 

「それは本当か?」

 

「あぁ、彼等は……2000年以上前、地球に飛来した地球外生命体だ」

 

「……宇宙人だと?」

 

「いいや、人じゃない。宇宙生命体だ」

 

 

石動さんが目配せをすると、秘書がタブレットを僕達に見せた。

……古い、遺跡の壁に書かれた絵だ。

 

 

「彼等は生物の遺伝子を取り込み、強くなる。地球の外から来たから『来訪者』という訳だ」

 

 

壁画には不定形のバケモノが、人や牛、生き物に噛み付いている様子が描かれている。

 

 

「地球を侵略しに来たバケモノ……そして、それに対抗するために生まれた存在が──

 

「『守護者(ガイア)』……?」

 

「そう、その通りだ」

 

 

壁画の中で、胸に『二つ』の光を放つ『守護者(ガイア)』が描かれていた。

 

僕は手を顎に当てて、考え込む。

 

 

「石動さん、それなら……僕が今まで戦ってきたのは?」

 

「『来訪者』によって『種』が植えられた存在だね。彼等は仲間を増やすために、他の生物を宿主にして発芽するんだ」

 

 

……口の中が乾く。

 

 

「……だから……それなら、人をバケモノに変えていたのは──

 

「『来訪者』の所為、だろうね」

 

 

……許せなかった。

何の罪もない人を殺害し、作り替えるなんて……そんなの、酷い話だ。

 

僕が拳を握っているのを見て、石動さんはネクタイを締め直した。

 

 

「君はこのままでは奴らに勝てないだろう」

 

「……そう、ですね」

 

「幾つか、武器を見繕おう。色々用意しておいたんだ」

 

 

石動さんの言葉に、北条さんが眉を顰めた。

 

 

「武器だと……?」

 

「安心し給え、民間に流すような事はしない。彼をサポートする為だ」

 

「…………」

 

 

北条さんは納得していないように見えた。

『イスルギ・コーポレーション』は七課への協力として、特例的に幾つかの法を無視している。

 

法的には拙いが、それでも……戦う為には必要なのだと理解しているからこそ、葛藤しているのだろう。

 

……本当に二人は仲が悪いな。

痛みの残る脇腹を摩りながら、僕はそう思った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ねぇ、紗夜ちゃん。少し、配達お願いして良いかしら?」

 

 

バイト先である花屋『Amigo(アミーゴ)』にて、店長である藤子が提案して来た。

……私は車椅子に乗っているというのに、配達か。

 

 

「そう、その方がきっと彼も喜ぶから」

 

「……彼?」

 

「結城くんよ。結城 祐二、会った事あるでしょ?」

 

「……えぇ」

 

 

私は顎に指を当てる。

 

祐二か。

妙に挙動不審の変な奴だが、悪い奴ではなかった。

記憶に残ってる。

 

 

「彼、交通事故で入院しちゃったのよ。だから私からのお見舞い」

 

「……そうなの」

 

「近所の都内の病院だから……10分ぐらいで着くと思うわ。お願い出来る?」

 

「ええ、勿論」

 

 

……藤子は私の雇い主だろう?

下の人間を使うのに、何故、お伺いを立てる必要があるのだろうか。

 

少し疑問に思いながら……藤子に預けられた花を手に、私は『Amigo(アミーゴ)』を出た。

彼女の妙にニコニコした笑顔に首を傾げながら、私は車椅子の車輪を回し始めた。

 

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