憑依転生げとーさん、パン屋を開く 作:どこはかとなくやばい人
「や、傑くん。久しぶりやな」
「……直哉? こっちに来るのは珍しいね」
「任務で久しぶりに東京来たからな。傑くんの復帰祝いや」
「正確に言えば、完全復帰はしてないんだけどね」
学生の指導なり、任務の付き添いなり。術式込みで教師適性があまりに高すぎるため度々駆り出されてはいるが、それでも自発的に任務を受けることはほとんどない。
精々悟が間に合わなさそうな時に、手持ち補充がてらふらっと特級案件に赴くぐらいだ。
「まぁそこの定義はどうでもええねん。傑くんがこっちに戻ってきたってことだけが重要やからな」
「直哉は、確か次期当主に内定したんだったかな」
「せやで。恵くんが甚爾くんに守られとるからな、禪院に連れ戻すのは不可能やって思ったんやろ」
現状、禪院家が総力を上げても甚爾に勝利することはほぼほぼ不可能。強いて直哉がいればワンチャンあるかどうかぐらいだろうが、この男は仮にその二勢力で戦争になった場合、ノータイムで禪院の敵に回る。
直毘人は賢い。それこそ家の運営に関しては悟や加茂の当主を大きく上回る、老練な術師。
それ故にリスクを回避し、相伝且つ実力も備わる直哉を当主に据えるという判断を早期に行ったことは、決して間違いとは言い切れない。
「内部から反対はでなかったのかい? 丁髷侍とか、そこら辺から」
「扇のおっさん始末した辺りから誰も文句言わんようになったな」
現状、禪院で直哉に対し確実な叛逆を行うであろう勢力の頂点に立つのは禪院扇。
直哉と彼とでは天と地ほどの実力差があるにも関わらず、彼は自身の方が優れていると信じてやまない。間違いなく、何らかのアクションを起こしてくる。
であるのなら、真っ先に始末しておくのは正解だろう。
どうせ、彼に付き従うのは烏合の衆。頭が討ち取られれば、瓦解して赦しを乞うのは目に見えている。
「あ、そうや。まだあんぱん余っとる?」
「あるよ。120円だけど、大丈夫かい?」
「大丈夫に決まっとるやろ、これでも特級案件捌いてんねんぞ」
"六人目の例外"になるかもしれない男に対し、流石に無礼だったか、と。
声に出さずとも内心詫びつつ、あんぱんを一つ取り、戻る。
「んー、やっぱこれよな。変に着飾らん上品な甘さ。最近のよーわからんパン屋、カフェは解っとらん。何でもかんでもアホみたいに盛ればええ訳やないねん」
「まぁ、気持ちはわかるよ」
「何がインスタ映えやねんクソが。味犠牲にして写真映え狙うとか、食べ物として本質見失っとるやんけ。頼むだけ頼んで食わんと帰る連中もゴミカスや、地獄に堕ちたらええ」
むしろ直哉のような人間は、その手のインスタ映えに対し一定の理解を示すものだと思っていた。
まぁ、食べ物を扱う人間として、元より味よりも見た目が優先されたソレにモヤモヤを覚えないのか、と言われれば、答えは否となるのだが。
「……はー、くっそ、ムカつく。話題変えるか。そういや傑くん、領域使えるやんな」
「一応ね」
「洗練のさせ方とか、コツあれば教えてくれん? 今んとこ領域の押し合いで悟くんとか傑くんに勝てるビジョン見えへんのよなぁ」
「結局のところ黒閃を打つか、死にかけるかだよ。呪力の本質を掴むのに手っ取り早いのはこの二つだからね」
悟にでも頼めば死ぬ寸前までボコボコにしてくれるんじゃなかろうか。本当に死んでしまう可能性が一割ぐらい存在しているのがリスクではあるが。
……まぁ、流石にこれは冗談として。二、三度目でも、黒閃を決めた時の、所謂"ハイになっている"状態であれば、呪力の本質を掴み領域の質を上げることも容易にはなるのだろう。
結局、そのレベルの相手と繰り返し戦闘をするリスクを抱えなければ洗練されないのが難しいところではあるのだが。
「まぁそうなるよなぁ。傑くんから悟くんに話付けといてくれん?」
「まぁ、別に構わないけど……。直哉の頼みなら、悟も断ることはないだろうし」
最強たる自身に喰らい付かんと努力する存在を、悟は許容する。
原作とは似ても似つかぬ直哉との関係性が変化するのもまた、必然といったところだろう。
「まあ待っときや、傑くん。そのうち俺もそっち側にいくさかい」
まあ。実際、直哉であれば、直に特級に上がってくるのだろう。禪院の当主であることから、上に妨害されることもあり得ない。
ただ、まぁ。
「期待しないで待ってるよ」
これでも私は"最強"の一角だ。簡単に負けてやるつもりなど、毛頭ない。
短いのはゆるして